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倉崎の帰路

 高校からの帰り道、倉崎は囲まれていた。

 金髪のロン毛、茶髪のモヒカン、黒髪のオールバック…

 夏服の半袖Yシャツをだらしなく着崩し、耳にピアスを空けている三人は、老若男女誰にとっても「不良」と認識しやすい男達だった。

 短絡的で無気力で、そのくせ自己の力を誇示することには労力を惜しまない。

 そんな現代不良の典型が、廃ビル付近の人通りの少ない路地で倉崎を囲んでいた。

「倉崎ぃ! てめえ、舐めてんじゃねえぞコラ!」

 左斜め後ろでポケットに両手を突っ込んでいる金髪ロン毛に恫喝される云われは、倉崎にはない。彼にしてみれば不良とは見くびるものではなく、ただただ関わり合いになりたくないものだからだ。

 故に、この不良達に囲まれたときも、「家に帰るから通してくれ。話があるなら歩きながら聞いてやるからよ」と‘いつもどおり’にあしらっていたのだが……

 彼はその言動が、世間一般に言う「舐めている」行為だということに気づいていない。

「おいおいおい倉崎クンよお、この状況がどういうことか、わかってんのかアン!?」

 右斜め後ろで鉄パイプを引きずってる茶髪モヒカンが言う「この状況」というものが、倉崎の認識とは大分離れているものだということはなんとなく理解できた。

 だが、認識の違いを理解できたとしても、茶髪モヒカンが意味する「この状況」というものまではわからない。

 倉崎にとっては、「また不良がケンカを売ってきた」程度の認識しかないのだから。

(ったく、また邪魔な奴らに道を塞がれた……)

「悪いが、さっぱりわからねえ。そこをどいてくれ」

 倉崎はため息交じりにそう呟くと、三人の不良は口々に彼を罵倒した。

 彼はそんな口汚い言葉にいちいち顔をしかめることはないが、この騒音はやはり不愉快だった。

 彼はパーマのかかった頭を右手で掻きながら、今度は深くため息をついた。

「倉崎オイコラ、てめえ「破壊神」とか呼ばれて調子こいてんじゃねえぞ。てめえは今日ここで、俺らにみじめにボコされるんだからよお」

 倉崎の正面で金属バットを肩に提げている黒髪オールバックが、両目を大きく開いて倉崎を睨みつけた。その顔には、他の二人同様に余裕溢れる笑みが浮かんでいる。この人数なら倉崎は負けるに違いないと、タカをくくっているようだ。

 しかし倉崎は動じない。この状況においてポーカーフェイスでいられることは、むしろ不良達より余裕があるという証拠に他ならない。

 もっとも、彼にとっては余裕どころか、目の前にある小石がほんのちょっと邪魔だから蹴り飛ばそう、くらいにしか考えていないのだが。

「ボコせるんならどうぞボコしてくれ。じゃあよ、俺は通るから」

 彼はそう言って、目の前の黒髪オールバックを押しのけようとしたのだが……

「ザケンじゃねえぞクソが!」

 黒髪オールバックが、倉崎に向け金属バットを振り下ろした。容赦なく、狙いは頭。当たれば出血は間違いない一撃が、倉崎の頭を……

 襲わなかった。

 倉崎が、おもいっきり振り下ろされた金属バットの中腹を、右掌みぎてのひらで掴み取っていたのだから。

「なっ……」

 三人組は一瞬言葉を失ったが、

「殺す!」

「クソ野郎がぁ!」

「ざけんじゃねえぞ!」

 すぐに襲撃を再開した。金髪ロンゲはポケットから伸縮式警棒を取り出して殴り掛かり、茶髪モヒカンは鉄パイプで、黒髪オールバックはバットを持っていない方の手で殴り掛かった。

 ……まあそれも

 全て無駄だったのだが。

「ったく、仕方ねえ……」

 倉崎は肩にかけていた通学鞄から手を放すと、三人組の猛攻を木の葉が舞うようにヒラヒラと躱し、同時にそれぞれの顔面に拳をお見舞いしていた。

 正確無比に鼻っ柱を捉え、容赦なくへし折る。拳のあまりの速さに、三人組は何が起きたかを理解するまもなく鼻血を噴出した。

 倉崎は動きを止めることなく、今度は三人組の顎めがけて拳を浴びせる。顎が砕ける鈍い音とともに、三人組は残らず意識を失いその場に崩れ落ちた。

 正当防衛とはいえここまで人を傷つけておきながら、彼は落ち着き払っていた。通行に邪魔だった小石を退けただけ。罪悪感も達成感も得られるはずがない。彼はアスファルトの上で脳震盪を起こし気絶している三人組には目もくれず、再び帰路につくのだった。

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