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茜色を見上げながら

 結局倉崎は、尋常じゃない速さで歩きで去っていった。元々、三人で一緒に帰ろうなどと決めていたわけではないので、沙理奈と華憐も積極的に呼び止めはしなかった。

「で、沙理奈ちゃん、その紙には何て書いてあるの?」

 二人で並木道を歩きながら、華憐が沙理奈の手元を覗き込む。

「えっと、今見てみるわ……」

 沙理奈は、倉崎が怪我を負ってまで取ってくれた青色の小さな紙を、華憐にも見えるように開いてみせた。

 そして、二人とも、きょとんとした。

「……何なのかしら、これ」

「う~ん、まあ、言葉通りに受け取っとこうよ! これ飛ばした人、なかなか面白いことするじゃない」

「そうね。……お兄ちゃんに報告するわ。不幸の手紙なんかじゃなかったって」

 沙理奈は晴れやかな顔で、華憐もそれを見て微笑んで、二人は歩いてゆく。



 並木道を抜け、二人は住宅街の路地を歩いていた。段々と日も落ち、夕焼けが辺りを染めている。

 沙理奈は、隣で自転車を押しながら歩いている華憐の横顔を、ちらりと見てみた。

 美しいブロンドのロングヘアーに、透き通るような碧い目。スラリと伸びた長い脚に、零れ落ちそうなほどの大きな胸。おまけに磯菱グループの社長令嬢ときた。

 こんな完璧な女性と、何で自分は一緒に歩いているのだろうか。沙理奈は改めて不思議に感じた。

「あの……」

「な~に、沙理奈ちゃん?」

 話し掛けると、思わず見取れてしまいそうなほどの眩しい笑顔で、応じてくれた。

 気さくで明るくて、馴れ馴れしいけど社交的で。そんな華憐だったから沙理奈は、初対面だったにも関わらず、聞かれるままに色々と事情を話してしまったのだ。

「今、探偵さんが捜してくれてる、『お兄ちゃんの友達』が見つかったら、それからどうする予定なんですか?」

「とりあえず拷問……じゃなかった尋問! ほら、倉崎クンにそいつの目の前で林檎握り潰してもらったりとかして脅せば、たいていのことは素直に喋ってくれるんじゃないかな? チキンな人だったら、倉崎クンに睨み付けられただけでベラベラ喋っちゃいそうだし」

 爽やかな顔でサラっと恐ろしいことを言った華憐。沙理奈は、鞄を引ったくられたときの、鬼の形相でヒステリーを起こしていた彼女を思い出した。どうやら、怒らせると怖いらしい。

「で、もしそいつが翔を殺した犯人だったりしたら……、コンクリにして海に沈め……じゃなかった、警察に突き出すわ! 私刑リンチでフルボッコにした後にね」

 ……怒らせると、怖いらしい。

 『コンクリ』の辺りで、憎悪が見え隠れした冷酷な表情になっていた。

 もっとも、自分の兄を想ってくれてのことなので、沙理奈はその顔を見てむしろ嬉しく思った。

「私は、土下座してお兄ちゃんに謝らせたら……、後は警察で良いと思うわ」

「へー、意外ね。倉崎クンに襲い掛かるくらいだから、コンクリ賛成派だと思ったのに」

「別に……。お兄ちゃんは、私にも華憐さんにも、そんなことはして欲しくないんじゃないかって、そう思ったんです」

 理由はもう一つだけあったのだが、沙理奈はそれを認めなかった。

「確かに……。翔は優しい男だからね」

 華憐は懐かしむような顔で、遠くの空を見上げた。まるで、茜色の向こう側にある星を見ようとするかのようだ。次第にその顔も、悲哀に満ちてゆく。

「ありがとう……ございます」

「え? どうしたの急に」

「お兄ちゃんのこと、想ってくれて。お兄ちゃんのために、色々してくれて」

「なーんだ、そんなことか」

 華憐はクスッと笑い、

「アタシがしたいだけだからしてるだけだよ。翔はアタシの後輩だったからさ。こっちこそ、初対面の馴れ馴れしい女に色々話してくれて、ありがとね」

「いえ……、どういたしまして」

 沙理奈も、小さく微笑んだ。興味本位で兄の事件に首を突っ込んでいるのではないかという心配は、完全に払拭された。

 と、その時、

「よーう姉ちゃん」

 後ろから能天気な男の声がして、二人は振り返った。

 見ると背後には、チャラついた若い男が三人ほどいた。髪型、服装、雰囲気、その全てがチャラい。

「誰キミたち。何かよう?」

 華憐は、あからさまに不機嫌そうな声で応じる。

「何かよう? とか野暮なこと聞くもんじゃないぜ。」

「お茶しようよお茶」

「俺達と一緒に、パーッと楽しもうぜ。奢ってやるからよ」

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