表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/23

童顔探偵

「というわけで、これがアタシの執事です」

「違います!」

 華憐の紹介をはっきりと否定したのは、10分ほど前に彼女が電話で話していた男性だった。倉崎たちが座っているテーブルの横で、姿勢正しく直立している。

「この街で、三崎探偵事務所を経営させて頂いてます、三崎みさきたけるという者です。お二方とも、どうぞよろしくお願いします!」

 爽やかな笑顔と、明朗快活な声で、倉崎と沙理奈に向けて深いお辞儀をした、黒のスーツ姿の彼は、まだあどけなさの残る――有り体に言えば童顔の、若い男だった。

 倉崎が抱いた第一印象は、『スーツ似合わねえな、こいつ』。

 身長はさほど低くないのだが、まがり間違っても成人はしてはいないだろうと、倉崎も沙理奈も即座にそう思った。容姿は非常に恵まれているものの、中学生だと言われれば納得してしまうだろう。

「アハッ、ガキっぽいって思ったでしょ二人とも。ちなみに猛はアタシと同年代。属性はこき使われるのが大好きなマゾ、職業は執事よ」

「さっき探偵って名乗ったじゃないですか! あとマゾではありません!」

 華憐と同年代ということは、倉崎の一つ年上ということになるが、むしろ倉崎のほうが猛より年上に見えた。

「まあ細かい話は置いといて、ささっ、座って座って」

「分かりましたよもう……、倉崎さんすみません、失礼します」

 華憐の勝手な紹介に不機嫌そうな顔を浮かべたが、すぐに打ち消すと、再び爽やかな笑顔を浮かべて倉崎の隣に座った。

「……お前、俺のこと知ってんのか?」

 まだ倉崎と沙理奈のことは紹介していないはずだが、猛は倉崎の名前を口にした。しかも、倉崎のことを怖がることなく隣に座ったということは、倉崎は噂通りの凶悪な不良ではない、ということも知っているのではないだろうか。

「はい! 倉崎さんは有名人ですから」

 ニコニコと、誰にでも受けが良さそうな万能スマイルを向けて、彼はさりげなく答えた。

(……ったく、どいつもこいつも、何が有名人だ。俺の首に賞金でもかかってんのか?)

 WANTEDと書かれたビラに自分の顔写真が映っているのを想像して、倉崎は顔をしかめた。あまりいい気分はしない。




「なるほど。つまり、沙理奈さんに翔さんの遺書を渡してきたという、翔さんの友人を名乗る男の居場所を捜し出す、というのが御依頼の概要ですね」

 猛は大方の事情を聞き終え、メモを取っていた手帳を一旦テーブルの上に置いた。その顔は真剣そのもので、普段からその顔だったら中学生には間違われないだろう。

「そうよ。今日中にお願いね」

「無茶言わないで下さいよ! せめて二日は下さい」

 二日で出来るのかよ、と倉崎は思った。

(つか、この歳で『探偵』ねえ……)

 胡散臭いことこの上ないが、腕は確かなのだろうか。

「それでは沙理奈さん、その人の特徴を教えてもらえますか? 絵に起こしてみますので」

 そう言って猛は、サラリーマンが使っているような黒のビジネスバッグから、筆箱とA4サイズのスケッチブックを取り出した。



「すごい……まるで、実物を見ながら描いたようだわ……」

 沙理奈が、目を見開いて感嘆した。倉崎も、実物は見たことがないから似ているかどうかの判別はつかないが、猛が描いた人物画の秀逸さには素直に感心した。それほどまでに、猛の描いた絵は上手く、写実的で、写真と見まがうほどの精密さだった。

「こんな感じで、よろしいでしょうか?」

「はい。……顔も体型も服装も、そっくりです」

「相変わらずキミって器用よね~。執事辞めて画家にでもなったら?」

「だから僕は執事じゃありません! 探偵です!」


 猛が描いたのは、背がすらりと伸びたスレンダーな男性だった。ワックスでさりげなく癖付けされた、ミディアムショートの髪。職業はモデルや俳優です、と言われれば納得してしまいそうな、甘いマスクの整った顔。グレイのYシャツと黒のデニムもセンスが良く、長身痩躯な彼の体型にマッチしていた。

「へ~、かなりの良い男じゃない。猛がティーンズ誌の読者モデルなら、こいつは男性ファッション誌のモデルってとこね」

「……それ、僕が子供っぽいって言ってるんですか? 見るからに中学生って言ってるんですか?」

「沙理奈ちゃん、こいつのこと、他に何か知らない?」

「質問に答えて下さい!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ