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第7話。悪役令嬢を死の運命から救うべく「俺はお前の婚約者だ!」と叫ぶ

「この地が突破されたら、この国は終わるわ。民たちの安寧は、このグレイヴァン辺境伯領の防衛戦にかかっているのよ!」


 ヴァレリアが俺に喰ってかかる。

 悪役令嬢にしては、言っていることがまとも過ぎた。

 俺を騙そうとして、綺麗事を口にしている様子でもない。


 ゲームでの印象とのあまりの違いに、俺は戸惑いを隠せなかった。


「さあ、早く私を最前線に案内なさい!」

「……いや、申し訳無いが、それは絶対にできない」

「なんですって……?」


 ヴァレリアの眉が、不快そうにひそめられる。


「ヴァレリアを最前線に連れて行ったら、死ぬ。そんな身体で、まともな戦力になれると思っているのか?」


 俺は拳を握りしめて決然と告げた。口から飛び出してきたのは、慣れない敬語ではなく、素の口調だった。

 

 ヴァレリアの意図がどうであれ、破滅の運命を覆すためには、彼女を救って味方にしなければならない。


 なにより、ヴァレリアと半年前に亡くなった姉が重なって見えた。


 あの時、無理やりにでも姉が戦場に行くのを止めていれば、姉は死なずに済んだんじゃないのか?

 そんな後悔が、ずっとあった。


「無礼な男ね。この私が役立たずのまま死ぬというの?」


 氷のように冷ややかな声を浴びせられるが、俺は怯まずに続けた。


「そうだ。単なる犬死にだ。どうか1日待ってくれないか? そしたら、その死にかけの身体を俺が治してやる」


 原作ゲームでは、おそらくこの俺──ゼノンはヴァレリアの気迫に押し切られて、彼女を戦場に案内してしまったのだろう。


 父上の命令に従って、ヴァレリアの機嫌を取るなら、それが正解だ。


 しかし、その結果は破滅だ。ヴァレリアは殺され、この地は帝国軍に踏みにじられる。

 それじゃ駄目だ。

 

 MPの回復を待ってヒールを使い、ヴァレリアの生命力を回復させる。それが、未来を変える一手になる筈だ。


「意味がわからないわ。私の身体は1日、休んだ程度ではどうにもならない。敵がいつ攻めてくるかわからない以上、今すぐ私のアンデッド部隊で守りを固めるべきだわ!」

「……本気で言っているのか?」


 やはり目の前の少女は、ゲームの悪役令嬢とは、まるで別人のように思えた。

 この娘は、本心から自分を犠牲にしても、この国を守ろうとしているように見えた。


「当然よ。私は決して折れぬ王国の剣アスフォデル公爵家の娘よ。皆の遺志を継いで、帝国軍を撃退しなければならないわ!」

「……皆の遺志?」


 俺は引っかかりを覚え、気になっていたことを思い切って尋ねた。


「まさかとは思うが、護衛のシュヴァルツ・リッターはどうしたんだ?」

「……ッ!」


 ヴァレリアは険しい顔をして唇を噛んだ。


「死んだわ」

「はっ?」

「彼らは、全員、反逆者である聖女アリシアの手にかかって毒殺された。私は彼らの無念を晴らすためにも、帝国軍に勝利し、その手柄をもって、アリシアの罪を国王陛下に直訴するつもりよ!」


 瞳に怒りの炎を宿して、ヴァレリアは叫んだ。

 俺の知っているゲームシナリオとは、あまりにかけ離れた事柄だった。衝撃に、しばし呆然としてしまう。


「……あのかわいくて天使のようなアリシアが、そんなことを?」

「天使のようなですって?」


 怒りに身を震わせて、ヴァレリアが俺を睨む。


「あの娘は、この国をわざと帝国に蹂躙させようとしているのよ。【癒しの奇跡】を使って救世主となり、反対派を抑えて王妃となるために!」

「なに……?」


 悪役令嬢ヴァレリアと聖女アリシアは、王太子を巡って対立していた。

 だから、アリシアのことを悪く言うのは当然だった。


 ……しかし、反逆者とまでは言い過ぎだし、ヴァレリアの言っていることに、多少思い当たるフシもあった。


 なぜって、聖女アリシアは、ゲームでは帝国軍の侵略から王国を救った救世主と崇められるからだ。そして、王太子と結婚して王妃となり、ハッピーエンドを迎える。


 もし……もしもだ。最初からそうなるように、明確な意図を持って、アリシアが行動していたとしたら?


「もしかして、父上が王都に何度か援軍要請をしても、梨の礫だったのは……」

「そうよ。アリシアが南で発生した魔物の大群にこそ兵を割くべきだと、この地への援軍を妨害していたのよ。あの娘は、国王陛下の病を治して、陛下に対して強い発言力を持っているから」


 それはゲームでも多少、触れられていたことだった。

 無敵を誇った剣聖バルドの力を国王は過信し、辺境の情勢について楽観視しているのでは? と、俺たちは考えていたが。


 アリシアが手を回して援軍を出すのを妨害していたとしたら、辻褄が合う気がする……

 あのアリシアが、そんなことをするとは、にわかには信じがたいが……


「アリシアの思惑通りになんて絶対にさせない! これは私だけじゃなくて、自らの意志でアンデッドになることを望んだシュヴァルツ・リッター全員の総意よ!」

「なんだって?」


 ヴァレリアの背後に、無数の人の形をした黒いもやのようなモノが立ち昇った。このゾッとするような感じは死霊の群れだ。

 それらが、一斉に頷く。


 俺は言葉を失った。


「……ヴァレリアが衰弱しきっているのは、アリシアに毒殺された護衛たちをアンデッド化させたからか?」

「ええっ、そうよ。不甲斐ないことに、アリシアとその手の者たちに、私たちは襲撃されて敗れたの」


 そうか、馬車がズタボロで召使いが誰もいないのはそのためか。

 襲撃者によってみんな殺され、ヴァレリアは身を守るために、【死霊使い】(ネクロマンサー)のスキル魔法を使いまくったんだな……


 俺を騙すために、ここまで手の込んだことをするとは思えない。


 なにしろ代償として、死霊に生命力を喰われたヴァレリアは、立つのもやっとのくらいフラフラなのだから。


 聖女アリシアは俺の推しヒロインだ。


 ……だけど、ゲームシナリオはあくまで聖女アリシアの視点でしか描かれていない。


 歴史は勝者によって紡がれるという。

 なら、ゲームでは描かれていなかった真実があるのかも知れない。


 もし、今のグレイヴァン辺境伯領の窮地に、聖女アリシアが関与しているなら。本当にアリシアが王妃となるべく、わざと帝国軍に王国を侵略させようとしているなら……


 聖女アリシアこそ警戒すべき敵だ。真実を知るヴァレリアをなおさら死なせる訳にはいかない。

 俺は思い切って告げた。


「俺が聖女アリシアと同じ【癒しの奇跡】を使えると言ったら?」

「はぁ……?」


 ヴァレリアは目を瞬いた。


「俺の授かった【超回復】(オーバーヒール)は、聖女と同じことができるスキルなんだ。一日休んでМPが戻れば、俺はヴァレリアの身体を癒すことができる」

「ふんっ、何を言い出すかと思えば……あなたは外れスキルを授かったのよね? 神殿で血を吐いて倒れたと聞いたわ」


 ヴァレリアは不機嫌そうに鼻を鳴らして俺から離れた。


「私の命令に従えないというなら結構よ。他の者に案内させるわ。ガウェイン、行くわよ」


 足元がおぼつかないヴァレリアを、馬車の御者が無言で支えた。


「行かせない」


 俺は彼女らの行く手を遮った。


「そんな身体で、これ以上【死霊使い】(ネクロマンサー)のスキル魔法を使うなんて、自殺行為だろ」

「ゼノン・グレイヴァン、あなた、さっきから何様のつもりかしら?」


 何様のつもりって……高飛車な奴だな。

 しかし、身分はヴァレリアの方が圧倒的に上だし、何と言って反論すべきか、俺は一瞬言葉に詰まった。


 だが、ここで尻込みしたら、破滅の運命を覆すことはできない。

 

 生き延びるために、多少、恥ずかしくても言い切るしかない。


「俺はお前の婚約者だ!」

「なっ……」


 ヴァレリアは面食らった様子だった。


「それは……お父様が、この地で私が一軍を率いるために、便宜を図ってくださっただけ。単なる建前の関係でしょう?」


 それは確かにその通りだ。

 だけど、ここまで来たら、あとには退けない。


 俺は恋愛経験は皆無だが、乙女ゲームをやり込んだ身。こんな時、乙女ゲームのヒーローなら、なんと言ってヒロインを説得するか、知っていた。

 うまくいくかは賭けだが、ここは伸るか反るかの大勝負だ。

 

「俺はヴァレリアに死んで欲しくない。なぜなら、お前の夫となる男なんだからな!」

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