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第69話。ヴァレリアとの結婚式

1ヶ月後──


 祝福を告げる鐘の音が、青空に響き渡る。本城のバルコニーから、色とりどりの紙吹雪が舞い散っていた。


 今日は、俺とヴァレリアの結婚式だ。

 詰めかけた大勢の人々の歓声が、俺の歩く廊下にまで響いている。


 花嫁の控えの間に入ると、ウェディングドレス姿のヴァレリアが佇んでいた。

 思わず息が止まりそうになる。


 普段から眩いばかりの美少女だが、今日、この日のヴァレリアは、この世のものとは思えないほど、可憐で美しかった。


 彼女の頬はバラ色に上気し、内に秘めた喜びを雄弁に物語っている。


「おおっ、これはゼノン殿。どうか娘をよろしく頼む」


 彼女の側に立つ父親、アスフォデル公爵エルンストが、俺に軽く会釈をしてきた。


「もちろんです。アスフォデル公爵様」


 俺は胸に手を当てたお辞儀を返す。

 昨日、お会いした際に、正式なあいさつは済ませてあった。


 その際に、俺を王にするための策略について、あれこれ言われて、ちょっと戸惑ったが……

 なんでも、この結婚式もその一環なのだとか。


「ふうっ、お父様ったら、まさかバルザーク帝国の皇帝陛下すら、この結婚式に招いてしまうなんて……」

「これもゼノン君をやがて、王位に就かせるための布石だよ」


 アスフォデル公爵は、俺を王とするべく奔走していた。


 俺としてはまだ戸惑いがあるが、ハロルド王太子ではこの国の行く先が心配なので、ぜひにと頼まれてしまっていた。

 

 俺も噂で聞いたが、ハロルド王太子は聖女アリシアに騙されていたことが、よほどショックだったようだ。自暴自棄になって周囲に当たり散らしているらしい。


 聖女アリシアは王都の地下牢獄に囚われ、【癒しの奇跡】で訪れる人々たちを癒す、強制労働の刑に処されている。

 俺が領主権限で裁いて、そうさせた。


 救いを求める人々が山のように押し寄せ、アリシアは休む暇無く働かされている。


 そんな聖女を愛したことをハロルド王太子は、一生の汚点だと言い、聖女を死刑にしろと喚き散らしていた。その今までの溺愛ぶりとのあまりのギャップに、周囲から冷ややかな目を向けられているようだ。


 ハロルド王太子の意図としては、それで聖女アリシアに騙されて王国を危うくした失点を取り戻そうというのがあるのかも知れないが、完全に逆効果だな。


「……ゼノン殿は、本当にお若い頃のお父様にそっくりですね」


 ヴァレリアの母である公爵夫人リディア様が、たおやかな笑みを浮かべて俺を見つめた。

 父上の初恋の人にして、父上が王国を守るという誓いを立てた元王女様だ。


「ヴァレリアが、夢中になってしまうのもわかるわ」

「もうお母様ったら……!」


 ヴァレリアが照れたように顔を赤らめる。


「リ、リディア様、ご機嫌うるわしゅう!」


 そこにカチンコチンに緊張した父上が入室してきた。

 

「まあ、バルド殿、あなたには、なんとお礼を申し上げれば良いか! 我が娘ヴァレリアを受け入れ、守ってくださり、本当にありがとうございました。お陰様で、今日のよき日を迎えられましたわ」


 リディア夫人が、深く頭を下げた。


「い、いや、ワシなど。帝国軍に勝てたのは、ゼノンのおかげ。おかげでリディア様との誓いも果たせました」

「……誓い。あなたを選ばなかった私に、あなたはそれでも剣を捧げてくださいました。剣聖バルドこそ、真の武人にして我が王国の誇りです」

「リディア様!」


 リディア夫人の賞賛に、父上は瞳を震わせた。


「……バルドよ。これからは、共に我らの息子ゼノンを盛り立てて行こうではないか?」


 アスフォデル公爵が、にこやかに告げた。


「無論だ、エルンストよ。だが、ゼノンがいずれ王位に就くというのは、まだ少々実感がわかぬが……いや、ゼノンがそれだけの器であるとは思っておるのだがな」

「ふっ、本日の来賓の顔触れを見れば、嫌でも実感がわくだろうさ。国王陛下夫妻にバルザーク帝国の皇帝陛下をはじめとして、国内外の有力貴族、大商人たちが集まっているのだからな」


「ゼノンの武力だけでななく、回復薬がそれだけ注目されているということですね」


 ヴァレリアが微笑む。

 回復薬については、強化の効果を消す改造に成功した。


 このおかげで、他国に安心して売り出すことができるようになり、世界中の商人、王侯貴族たちの注目の的になっている。


「ヴァレリアの協力のおかけだな」


 これによって得られる利益は莫大だ。

 俺が王座を得るための大きな力になるだろう。

 俺は考えた末に、王を目指す決心をした。

 

 王国での布教は禁止されたが、世界を牛耳ろうとする聖教会は未だに健在だ。


 帝国とは同盟を結ぶことに成功したが、この平和がいつまで続くかはわからない。

 王国が衰えたとなれば、あの野心家の皇帝のことだ、同盟など簡単に反故にされるだろう。


「こんな危険な世界で、ヴァレリアを守っていくためには力が必要だ。それには王になるのが、一番だと思う」 

「ゼノン、うれしい……!」


 ヴァレリアが俺の手を取り、瞳を潤ませた。

 愛しい気持ちがこみ上げてきて、思わず抱き締めてしまう。

 

 破滅の運命は覆り、これからはゲームシナリオとはまったく異なる幸せな未来が待っているのだ。

 その幸せを、俺はこれからいつまでも守っていきたいと思う。


「じゃあ、行こうかヴァレリア」

「ええっ」


 俺は彼女の手を引いて、神殿の礼拝堂へと向かった。


※※※※


 神殿には、VIPクラスの大勢の来賓がやってきていた。


 チラリと見れば、急造された貴賓席には、バルザーク帝国の皇帝と、我が国の国王夫妻が並んで座っている。

 この結婚式は、両国の親善の場でもあった。


 たった一ヶ月足らずで両国の同盟を成し遂げ、この場をセッティングしてしまったアスフォデル公爵の外交手腕には、舌を巻くな。


 その中のバージンロードを、ヴァレリアの手を引いて歩く。


 この場所で【超回復】(オーバーヒール)のスキルを授かり、血を吐いて倒れたのも今となっては良い思い出だ。


 あの時とは真逆で、誰もが拍手と祝福を投げかけてくれていた。


「ゼノン、おめでとう!」


 アルフィン姉が天井近くを飛びながら、祝福の黒薔薇の花びらを投げて舞い散らす。黒薔薇はアスフォデル公爵家の家紋であり、『不滅の愛』という花言葉があった。

 

 俺の大好きなアルフィン姉が、俺たちを祝ってくれているなんて、まさに幸せに絶頂だ。


「ゼノン坊ちゃま、フェリクスはうれしゅうございます!」


 執事のフェリクスも、ハンカチで目頭を押さえて、大泣きしている。


 結婚式を取り仕切る神官が、聖書に手を置きながら尋ねた。


「神の代理人として問います。汝、ゼノン・グレイヴァンはヴァレリア・アスフォデルを妻とし、いついかなる時も、愛し敬い慈しむことを誓いますか?」

「はい、誓います」

「汝、ヴァレリア・アスフォデルはゼノン・グレイヴァンを夫とし、いついかなる時も、愛し敬い慈しむことを誓いますか?」

「はい、誓います」

「よろしい、それでは誓いのキスを」


 式のクライマックスだ。

 俺は胸を高鳴らせながら、ヴァレリアの顔のベールを持ち上げた。

 

 俺のキスを待つ、ヴァレリアは最高に可愛らしくて愛しかった。

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