第67話。魔獣ディアボロスを倒し、帝国軍に勝利する
「くっ……離れなさい!」
俺が魔獣ディアボロスを【三重過剰回復剣】で両断しようと力を込めると、奴は慌てて俺を振りほどいた。
「ヒールよ!」
魔獣ディアボロスの腐食と崩壊が始まるが、奴はヒールを使うことにより、身体が崩れるのを防ぐ。
「ふふっ、【癒しの奇跡】は、やはり神なる力ね。素晴らしいわ!」
このままじゃ、キリが無いな。
【三重付与】の魔法剣でも倒せないのであれば、手は一つだ。
ヴァレリアの魔力供給を受けることで威力を極限まで高めた全力全開の【過剰回復】で、勝負を決めるしかない。
「ヴァレリア、アレを使うぞ!」
「わかったわ!」
多くを語らずとも、ヴァレリアは俺の意図を理解してくれた。
やはり、彼女は最高の相棒だ。
「ふーん? では、私も奥の手を使うとしましょう。万が一にも遠征が失敗で終わりましたでは、皇帝陛下が納得なさらないのでね」
魔獣ディアボロスが、左手を天高く掲げる。
「【終焉剣】!」
「アークデーモンの特殊能力か!?」
俺は目を見張った。
魔獣ディアボロスの左手に、燃え盛る黒い炎で形作られた剣が握られていたのだ。
「へぇ、御名答。あなたは魔物についても詳しいのね。少々、驚いたわ」
ディアボロスが【終焉剣】を振るうと、地面に底が見えないような亀裂が走った。
「しかも、この【終焉剣】は、ドラゴンや吸血鬼の特殊能力で強化して、さらにさらに強力になっているわ。こんな風にね」
「剣を振るう余波だけで、大地を割ってしまうなんて……!」
ヴァレリアが声を震わせる。
アークデーモンはゲームクリア後の隠しダンジョンに登場するSSランクの強敵だ。その必殺技が、さらに何倍も凶悪になっていた。
「あなたたちの切り札【過剰回復】については、私の超巨大ゴーレムを撃破した際に、分析させてもらったわ。威力は強いけれど、相手に触れなければ効果を発揮しないとなれば……【終焉剣】の敵じゃないわね」
「くっ……」
俺たちの手を見抜かれて、ヴァレリアが呻きを漏らす。
レティシア皇女の言う通りだ。
射程が短いことが、【過剰回復】の最大の欠点だった。
【終焉剣】を掻い潜って、ディアボロスに触れなければ勝てない。
だが、【終焉剣】に掠っただけで、俺とヴァレリアは消滅してしまうだろう。
何か方法を考えねば……
「ゼノン、お待たせ!」
その時、ズタボロのアルフィン姉が、駆け付けてきた。
激戦で、剣を失ってしまったようで、その手には、自分の折れた角──ドラゴン・ホーンを武器代わりに握っていた。
「それだ! アルフィン姉そのドラゴン・ホーンを貸してもらえないか!?」
「お、およ……? いいけど?」
アルフィン姉は、戸惑いながらもその短い角を手渡してくれた。
「ゼノン、どうするの?」
幽体化して憑依状態のヴァレリアが尋ねてくる。
「このドラゴン・ホーンに、全力全開の【過剰回復】を【付与】《エンチャント》して、奴に投げつける!」
「えっ!?」
「ヴァレリア、デミリッチたちを召喚して、俺にありったけの筋力増強バフをかけてくれ!」
そうだ。俺とヴァレリアだけでなく、アルフィン姉やシュヴァルツ・リッターたち、みんなの力を結集した最強最大の攻撃を仕掛けるんだ。
「わ、わかったわ!」
ヴァレリアは実体化すると、すぐにデミリッチたちを40体を召喚してくれた。
彼女のスキル【死霊使い】も進化したようで、以前は時間がかかった上級アンデッドの大量召喚が、一瞬で終わる。
俺はヴァレリアの実体化と同時にヒールを彼女に浴びせて、代償として失った生命力を回復させた。
お互いの弱みを補え合えるのが、俺とヴァレリアの強みだ。
「そんなこと、させるものですか!」
「おっと、あなたの相手はこの私がするわ!」
魔獣ディアボロスが襲いかかってこようとするが、アルフィン姉が炎の魔法を連射して止める。
「くっ、アルフィン!? 私のところにいた時より、強くなっているなんて!」
レティシア皇女は、姉の魔力に舌を巻いた。
「ホントは剣で勝負したいけど、私の愛剣はぶっ壊れちゃったから、魔法で決めさせてもらうわ!」
「やっぱり、あなたは私の傑作だったわ! でも邪魔よ!」
アルフィン姉が、魔獣ディアボロスを引きつけてくれている今が最大のチャンスだ。
「【付与】、全力全開の【過剰回復】!」
「【筋力増強】【速度強化】【投擲強化】!」
俺はヴァレリアから注ぎ込まれました膨大な魔力を使っての【過剰回復】を、ドラゴン・ホーンに【付与】する。
さらに、40体のデミリッチたちが、バフ魔法で俺の身体能力を最大限強化してくれた。
「さあ、喰らえレティシア! 【過剰回復・竜角】!」
俺が投げたドラゴン・ホーンが、唸りを上げてディアボロスに向かって行く。
「そんなもの!」
魔獣ディアボロスは【終焉剣】で【過剰回復・竜角】を叩き落とそうとした。
やっぱり、そうだ。
レティシア皇女は、稀代の錬金術師ではあるが、【癒しの奇跡】については、まだ良く理解してはいなかったらしい。
なんといっても、本来、この世に一つしかない魔法属性だからな。
「レティシア、回復系の力はすべて光属性。それは悪魔系モンスターの得意とする闇属性とは対極に位置するもの。闇属性は、光属性に弱いことを知らなかったか?」
「なっ……?」
【終焉剣】を【過剰回復・竜角】がブチ貫ら抜いた。
「魔法についての理解が浅かったことが、お前の最大の敗因だ」
「はぁ? こ、この私、【偽の神】のレティシアが、魔法について疎いですって!?」
レティシア皇女は、そんなことを言われたのは、生まれて初めてだったのかも知れない。
魔獣ディアボロスが、困惑しきった声を出す。
【過剰回復・竜角】に貫かれたその身が、崩壊していく。
「まだよ、ヒール!」
魔獣ディアボロスは、ヒールを連発する。
だが、ヒールの力でも、ヴァレリアのありったけの魔力を込めた【過剰回復・竜角】による肉体崩壊は止められなかった。
「残念だが、ヒールは初級の回復魔法だぞ。お前は、【癒しの奇跡】を手に入れたつもりだったんだろうが、それは初歩も初歩の力。そんなモノじゃ、【過剰回復・竜角】には対抗できない!」
「これ以上の回復魔法があると!? ど、どこで、そんな知識を!? あなたは一体!?」
それが滅びゆく魔獣ディアボロスの最期の言葉となった。
歴代聖女は、ヒール以上の回復魔法を使えなかった者が大半だったので、レティシア皇女は勘違いしてしまったようだ。
「当然だ。俺はこのゲームを極めた『君恋』マスターだぞ」
俺にゲーム知識で勝とうとしたら、このゲームを最低でも5周はしてもらわないとな。
なにより新しい魔法を覚えたら、しっかり検証し、対人戦でどう活かすか考えるのがゲーマーというものだ。
レティシア皇女は【癒しの奇跡】を神の力だと思って有頂天になり、その性質を見極めることを怠った。
魔法の性質を知り抜いてこそ、魔法を実戦で使いこなせるようになるというのにな。
「や、やったわゼノン!」
ヴァレリアが、俺の首に手を回して喜びを爆発させた。
「こ、こんな、バカな!」
「最強のキメラが……敗れ去った!?」
帝国軍から嘆きの声が溢れる。
「そうだ! この戦いは、俺たちの勝ちだ! グレイヴァン辺境伯軍、勝ち鬨を上げろ!」
「おっ、おおおおおッ!」
「我らが軍神、ゼノン様、万歳!」
「またしても、我らの大勝利だ!」
グレイヴァン辺境伯軍から、勝利の雄叫びが響き渡った。
「だ、だが、皇女殿下が討たれた訳ではない! 殿下はあの魔獣を別の場所から操作しておられたのだ!」
「そうだ! 帝国軍、一時退却! レティシア皇女殿下と合流を……!」
「皇女殿下さえおられれば、まだ戦える! 最終的な勝利は我らのものだ!」
帝国軍の指揮官たちが、意気消沈する兵たちを叱咤しつつ、退却を開始する。
俺はそんな彼らの士気を挫くべく、現実を突き付けてやった。
「残念だが、お前たちに次は無い。お前たちの総大将は、もう終わりだ!」
「えっ、な……?」
帝国軍から動揺の声が上がる。
奴らは慌てて反論してきた。
「はっ、ハッタリだ!」
「何を根拠にそんなことを!?」
どうやら、帝国軍はまったく気付いていないらしい。
そのレティシア皇女の元には、剣聖バルドが──父上が向かっているということを!
やがて、遠く離れた森の中から狼煙が上がった。
「ゼノン、あれを……!」
ヴァレリアが大喜びして、その狼煙を指差す。
そこは、聖女アリシアから聞き出したレティシア皇女の居場所に間違い無かった。
「父上からの作戦成功の合図だ!」
「ということは、お父様がレティシア皇女を倒したのね!」
アルフィン姉が、飛び跳ねて小躍りする。
「な、なにぃいいい!?」
その一言に帝国軍の将兵たちは、腰を抜かしていた。
「おおっ、まさか。お館様が、レティシアめを打ち倒した!?」
「あり得ない! 剣聖バルドは毒に倒れていた筈! なのにどうして!?」
「そうか! ゼノン様は、レティシアの策を見破って、事前に手を打っておられたのか!?」
「武力でも策でも、ゼノン様の完全勝利だ!」
敵味方が、大騒ぎとなった。
「その通りだ! バルザーク帝国軍、総大将レティシア皇女は、俺たちの前に敗れ去ったぞ!」
俺は剣を天高く掲げた。
味方から、大地を震わせる大歓声が轟く。逆に帝国軍は絶望して、立ち尽くした。
帝国軍との戦いは、俺たちの完全勝利で終わったのだ。
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