第66話。魔獣ディアボロスに大逆転する
魔獣ディアボロスの左腕の爪が、俺の両足を切断した。
「ぐぉッ!?」
「取ったわ! これで、あなたは私のもの!」
うれしそうなレティシア皇女の美声が響く。
機動力を失った俺の頭を潰そうと、ディアボロスの右の触手が振り上げられた。
「全軍、アルフィンを押さえていなさい! 今、決着をつけるわ!」
最大戦力のアルフィン姉は、キメラと魔法使い、ゴーレム兵の集中砲火にさらされている。とても俺を援護できる状況にはない。
俺は右手で地面を叩いて、反動で高く跳躍した。
俺の右手は、何度も破壊と再生を繰り返し、超強化されていた。足が動かなければ、手を使って攻撃を回避する。
両足が再生する時間を稼ぐんだ。
劣勢に追い込まれた時は、とにかく回避と回復に徹して立て直しをはかる。これが、あらゆるゲームに共通する必勝法だ。
「おおっ! ゼノン様はまだあきらめておらぬぞ!」
「なんという精神力だ! まさに武人の鑑!」
味方の将兵たちが、俺にエールを送ってくれる。
窮地でこそ真価が試されるのは、武人もゲームプレイヤーも同じらしい。
これが対人対戦ゲームだと考えれば、レティシア皇女はチートキャラを使っている初心者だな。
優勢に驕って攻撃が雑になり、攻撃を読みやすくなっていた。
「なぜ、当たらないの!?」
レティシア皇女は両手での攻撃に加え、炎、雷、氷といった多彩な魔法攻撃も混じえてくる。
しかし、それは実は悪手だ。
いろいろな攻撃手段を持っていると、どんな攻撃をしようかという選択に思考を取られる。結果、攻撃の精度が落ちる。
逆に俺は両手を使っての回避しか選択肢が無いので、それのみに集中できるという強みがあった。
「悪足掻きを……!」
ディアボロスの攻撃を、俺は間一髪で避け続ける。
「諦めるか! 俺はヴァレリアとハッピーエンドを目指すんだ!」
思わず叫んだ。
再生と強化をもたらす【超回復】は長期戦向きのスキル。どんなにみっともなくても、足掻いて足掻きまくって、長期戦での勝利を見出す。
心が折れなければ勝機は必ず訪れる。
それが、ゲーマーとして学んだ。俺のゲーマー魂だ。
「違うわ。あなたはこれからずっと、私と一緒にいるのよ。究極の錬金術の材料として、死後も永遠にね!」
魔獣ディアボロスが、闇属性魔法の【冥火連弾】を放った。
【魂喰い】も使用した、命中するまで敵を追いかける魔法だ。無数の黒い炎弾が、俺に迫って来る。
「そんな未来は全力で、ごめんこうむる!」
こんな魔法まで使えるとは……!
俺は巨大ゴーレムの残骸に隠れて、とっさに身を守った。
【冥火連弾】は、ゴーレムを穴だらけにして消滅する。
「あはっ! なるほど、この魔法を使えば良い訳ね!」
窮地はしのげたが、追尾性を持ったこの攻撃が有効であることを、レティシア皇女は確信してしまった。
奴は、【冥火連弾】を逃げ場が無いほど連発してくる。
まだ、両足は再生途中だ。
クソッ、ゴーレムどもの残骸を盾にして、どこまで凌げるか!?
「ゼノン……!」
その時、ヴァレリアの声が聞こえた。
見れば、透明な姿の彼女が空を舞って俺に向かって来ていた。
「ヴァレリア!? その姿は!?」
「説明は後よ!」
幽体であるヴァレリアが、俺の身体に重なる。これは幽霊系アンデッドモンスターの特殊能力【憑依】だ。
人間の身体に取り憑いて、生命力を奪ったり、精神を支配したりする能力。ソールイーターが、ヴァレリアに対して密かに行っていたものだ。
「私の【冥火連弾】が!?」
レティシア皇女の驚きの声が響く。
俺に命中した【冥火連弾】は、俺に何の痛痒ももたらさずに掻き消えた。
アンデッドモンスターは、闇属性魔法に耐性がある。
ヴァレリアが俺の身体に憑依したことにより、俺にこの闇属性耐性が付与され、【冥火連弾】の防御に成功できのだ。
それは、ヴァレリアが幽霊系アンデッドモンスターと化してしまったことを意味していた。
「まさか、死んだりなんてことは……!」
思わず声が震えた。それは俺が一番恐れていたことだ。
「死んでいないわ! これは【死霊使い】の新しいスキル魔法【幽体化】よ! それで一時的に幽霊系アンデッドモンスター化したの!」
なに……?
ゲーム未登場の初めて聞く魔法だった。
【死霊使い】のスキル所有者は、ギデオンなど他にもいたが、こんな魔法を使う者はいなかった。
もしや、【幽体化】は、かなり危険な代償を支払う必要があるんじゃないか?
もともと【死霊使い】は、強力なスキル魔法が使える代わりに、死と隣り合わせの危険なスキルだ。
だから、他の【死霊使い】は、【幽体化】を使っていなかったのでは?
「さあ、ゼノン。私の魔力を受け取って!」
俺に憑依したヴァレリアから、熱い魔力が注がれてくる。憑依状態でも、魔力の譲渡ができるのか。
これで俺は再び魔法が使えるようになったが、ヒールを俺自身にかければ、幽霊系アンデッド化したヴァレリアが大ダメージを受けてしまう。
「大丈夫!」
その瞬間、ヴァレリアが実体化して、俺の目の前に出現した。
どうやら、俺の思考を読んだようだ。
「ヒール!」
俺はヴァレリアを抱きとめつつ、すぐさま回復魔法で両足を再生する。さらに、ヴァレリアにもヒールを浴びせた。
やはり【幽体化】は、代償に大量の生命力を消費するらしく、彼女の顔色が極端に悪くなっていたのだ。
「ヴァレリア、助かった! ここは、もういいから、安全なところへ行け!」
「駄目よ!」
ヴァレリアが決然とした声で拒否する。
「ここにいたら危ないだろ!?」
「あなたにだけ命は賭けさせられないわ!」
彼女に真っ直ぐな目を向けられて、俺はたじろいでしまった。
「まさか、魔力供給を受けた!? ふふっ、なら何度でも【MPドレイン】で、魔力を奪ってあげるわ」
鼻で笑うレティシア皇女の声と共に、魔獣ディアボロスから再度、閃光が放たれる。
これは真祖などの上位吸血鬼の持つ回避不能な特殊能力だ。
だが……
「【幽体化】!」
ヴァレリアが、再度、幽体化して俺に憑依した。
すると、俺に向かってきた【MPドレイン】の閃光が弾き返される。
「……魔力を吸収できないですって!?」
レティシア皇女は、唖然とした様子だった。
「当然よ。アンデッド系モンスターには、ドレイン系の攻撃は一切通用しないわ!」
そうか。だから、ヴァレリアは俺の側を離れようとしなかったのか。
俺を身を挺して守るために。
「そうよ。なにより、私には、あなたが必要。あなたが殺されるかも知れないのに、指をくわえて見てはいられないわ!」
「ヴァレリア……!」
ヴァレリアが俺に憑依したことで、俺たちの精神が繋がり、彼女の強い想いが伝わってきた。
「そ、それに勝って結婚するんでしょ。こんな戦場のど真ん中で、ハッピーエンドうんぬんなんて言うなんて、恥ずかしいわ。TPOをわきまえてちょうだい」
「いや、それはつい口から出たというか……」
ヴァレリアが恥ずかしそうにするので、俺もドギマギしてしまった。
なにより、俺のことが好きで好きでたまらないという、ヴァレリアの心の声が、さっきからダダ漏れで聞こえてくるんだが……
憑依初心者であるヴァレリアは、もしかして、心の声を隠す方法を心得ていないのかもしれない。
とはいえ、これで俺の弱点は無くなった。
ヴァレリアさえいてくれれば、俺はいくらでも【超回復】のスキル魔法を放つことができる。
さらに魔獣ディアボロスの一部の魔法と特殊能力を無効化できるのは、大きな強みだった。
「……ゼノンの肉体の一部でも回収できれば良いわ。ドラゴン・ブレスを受けなさい!」
魔獣ディアボロスが、ドラゴン・ブレスを放とうと大口を開けた。
しかも、俺たちの背後にはダラム城があった。
ドラゴン・ブレスが発射されたら、ダラム城は大きな被害を受けることになる。
「おおおおおおッ!」
俺は【三重付与】の【過剰回復剣】を生み出して、ディアボロスの顎を下から突き刺す。顎を強引に閉じさせ、ブレスの発射を阻止した。
「さっきより、速いですって!?」
レティシア皇女は衝撃を受けていた。
「【超回復】で、両足がより強化されたんだ!」
「やったわ! ゼノン、このまま押し切りましょう!」
俺と一体化したヴァレリアの心の声が響いた。
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