第65話。ヴァレリア、愛するゼノンの救うために命がけの新魔法を使う
【ヴァレリア視点】
私──ヴァレリアは眼下で繰り広げられる異常な光景に目を奪われた。
ゼノンに斬られたレティシア皇女の身体が膨張し、大型のキメラに変化したのよ。
しかも、そのキメラの背から伸びるのはドラゴンの翼。捻じくれた角と剛毛に覆われた胴体は、アークデーモンのソレ、右腕の代わりの触手はおそらくクラーケンの物と、SSランクの最強種モンスターを掛け合わせた存在のようだった。
「……あのレティシア皇女は、偽物とは思っていたけど、あんな化け物だったなんて!?」
その大型キメラの威容に、敵味方、すべての者が圧倒されていた。私も膝が震える。
まさに根源的な恐怖を呼び起こす存在だわ。
「化け物とは失礼ね。この子は、究極の魔獣ディアボロス。アルフィンちゃんを超える私の最高傑作よ」
大型キメラが、レティシア皇女の軽やかな声で笑った。
かなり距離が離れているというのに、奴は聴覚にも優れているようだった。
「本来、異なる生物同士を融合させようとすると拒絶反応で、自壊しちゃうんだけど。聖女の右腕が手に入ったことで、その問題はクリアできたわ。ふふふっ、【癒しの奇跡】を使えば細胞の自壊を防げる。不死身にして最強の生命を誕生させられるのよ!」
「聖女の右腕……? まさか、アリシアの右腕を魔獣と融合させることで、【癒やしの奇跡】を使う化け物を誕生させてしまったというの!?」
そのことに思い至って、私は戦慄した。
それならば、大量のキメラを生み出せたことも納得できる。
「ご名答、察しが良いわね。錬金術の成功率を上げる私のスキル【偽の神】を使えば、神の領域を犯すことができる。禁忌に足を踏み入れるこの快感と背徳感、癖になるわ!」
さらに、別系統の魔獣を掛け合わせているとなると、おそらく系統別の弱点も消えており、まさに完全無欠の存在と言えた。
私が絶望に打ちのめされた瞬間だった。
「【三重付与】!」
「なっ!?」
ゼノンが、【過剰回復】3つ重ねて付与して魔法剣で魔獣ディアボロスを叩き斬った。
信じられないレベルの付与魔法の腕前だった。
私と別れている僅かな間に、ゼノンの魔法能力が格段に進歩していた。
ディアボロスの巨体は、一瞬、崩れかけたけど、癒やしの光に包まれて、すぐに元通りになる。
「驚いたけど、無駄よ。どんなダメージも【癒しの奇跡】で瞬時に回復できるわ!」
「うおッ!?」
ゼノンは大きく距離を取って、ディアボロスの触手の反撃を躱した。
さらに、ディアボロスの吐いた火炎が大地を舐め尽くす。ゼノンは、間一髪、空高くジャンプして難を逃れた。
「あ、あれはまさかドラゴン・ブレス!?」
それは大地が融解しマグマと化すほどの熱だった。こんな芸当は、地上最強種ドラゴンの炎でしか成し得ない。
「そうよ。さらに言えば、本家より数倍、高威力になっているわ」
ディアボロスが、レティシア皇女の美声で愉快げに応える。
「なにより、通信魔法を応用し、この魔獣ディアボロスを遠隔操作する技術! これで私は安全な場所から、実戦データを収集できるわ!」
やはり、レティシア皇女は別の場所から、指揮を取っているようだった。
「お次は、ゼノン・グレイヴァン。あなたを殺して、その身体をディアボロスの一部にしてあげるわ。【超回復】を組み込めれば、この子は神にも匹敵する存在となる!」
「なんですって!?」
ゼノンをキメラの材料にする!?
それだけは絶対に阻止せねばならなかった。
もはやダラム城の防衛どころではないわ。ゼノンと協力して、この魔獣ディアボロスを全力で倒さねば……!
なにより、ゼノンはすでにかなりの魔法を連発しており、このままではすぐにMPが尽きる。私がゼノンにMPの供給をしなくてはならないわ。
「フェリクス! ゼノンを助けに行くわよ!」
「はっ、もちろんでございます。ヴァレリアお嬢様! 失礼……!」
フェリクスが私を抱きかえて、城壁から飛び降りようとした時だった。
「【不落の光壁】」
ディアボロスが、魔法を発動させた。
ダラム城を取り囲む光の壁が出現し、私とフェリクスはその壁にぶつかって押し返される。
「きゃ!? な、なに……これは!?」
私は度肝を抜かれた。
かなり大掛かりな戦略級の魔法だった。こんな魔法を使うためには、念入りな事前準備が必要な筈よ。
「ふふっ、それはダラム城に元々、用意していた城塞防衛用の魔法よ」
ディアボロスを操るレティシア皇女が、嘲笑う。
「私かリュシアンの唱える呪文で発動するようになっていたわ。あなたは、【魔法罠】は警戒して入念に潰したようだけど……隠蔽された防御魔法の探知まではできなかったようね。いかに才能があろうとも、しょせん魔法使いとしては、まだ未熟ということ」
「くぅ……!」
私は唇を噛んだ。
ゼノンはダラム城に帝国軍の置き土産があることを警戒していたのに、私はこれを見破ることができなかった。
それが故に、愛するゼノンを助けに行けなくなるなんて……!
これだけ大規模な魔法を維持するのは難しいから、おそらく30分もすれば効果切れとなるでしょうけど。
この30分が、命取りとなる。
「さて、あなたの弱点はもうわかっているわゼノン。【MPドレイン】!」
ディアボロスから閃光が放たれ、ゼノンに命中した。
「あ、あれはまさか、上位吸血鬼の持つ魔力を奪う特殊能力!?」
「あのキメラは、吸血鬼さえも融合して取り込んでいるのですか!?」
私とフェリクスは、ディアボロスの底知れなさに慄然とした。
なにより、ゼノンの弱点も見抜かれていた。
【超回復】は魔法系スキルであるため、魔力が底をつけば、再生能力以外は使えなくなる。
ゼノンのMPは、おそらく今ので枯渇してしまった筈……!
「【過剰回復剣】が!?」
光を失った己の剣を、ゼノンが驚きの目で見つめる。
彼の【過剰回復剣】は、魔力を奪われたことによって、効果が維持できなくなってしまっていた。
再び、【過剰回復剣】を使うことは、ゼノン単独では、もはやできない。
「なんなの、この数は!?」
頼みの綱のアルフィンお姉様は、新たに出現した大量のキメラに包囲攻撃され、身動きができなくなってしまっていた。
辺境伯軍本隊も、数で勝る帝国軍の相手で手一杯の様子だ。
「これで、あなたはチェクメイトだわ!」
「クソッ!」
魔力を失ったゼノンは、魔獣ディアボロスの攻撃に翻弄される。
ゼノンは高い身体能力で、なんとか攻撃をかわしているけど……
もしダメージを受ければ、再生に時間がかかって、一気に形勢が傾く。
おそらくディアボロスを倒すには、私かアルフィンお姉様が魔力を供給した状態で、最大出力の【過剰回復】を撃ち込むしかない。
それ以外の攻撃では、おそらく【癒しの奇跡】で、瞬時に回復されてしまうわ。
「ガウェイン! みんな! なんとしても、【不落の光壁】を突破するのよ!」
『はっ!』
私はシュヴァルツ・リッター全員を、目前に召喚する。彼らに光壁の一点への集中攻撃を命じた。
ボルド将軍が城壁を崩したのと同じやり方だったけれど、【不落の光壁】はビクともしなかった。
「早く助けに行かないとゼノンが……!」
私の心は焦りでいっぱいになった。
ゼノンの作ってくれた回復薬を飲んで生命力を回復しつつ、再度、ガウェインらに一点突破を命じる。
「ヴァレリアお嬢様、私めも!」
フェリクスも攻撃に加わってくれたけど、【不落の光壁】は城塞防衛用の魔法だけあって、まるで破れる気配が無い。
「ゼノン……!」
生命力を消耗し過ぎて、足元が覚束なくなった時だった。
『おめでとうございます。
スキル【死霊使い】がレベル2にランクアップしました!
新たな魔法【幽体化】が使えるようになりました。
死の直前まで生命力を消費することで、自身を幽霊系アンデッドモンスターに一時的に変化させられる魔法です。幽霊系アンデッドモンスターは、壁や地面を透過して移動することが可能となります』
「これは【死霊使い】の新しいスキル魔法!?」
私は歓喜した。
【死霊使い】のスキル魔法を使い続けてきた甲斐があった。
幽霊系アンデッドモンスターと化して、地面を通り抜ければ、ゼノンを助けに行けるわ。
【不落の光壁】は通り抜けられないでしょうけど、地下深くまでその効果範囲は及んでいない筈!
『いけません姫様!』
しかし、ガウェインが私を制止してきた。
『死の直前まで生命力を消費するなど、その魔法は危険すぎます!』
それは他のシュヴァルツ・リッターも同じだった。
私に行ってはならないと、口々に告げてきた。
『ゼノン様は確かに我らが主君! しかし、姫様のお命には代えられません!』
『自らを幽霊系アンデッドと化しては、回復薬を飲むことも、【癒やしの奇跡】を受けることもできなくなるではありませんか!?』
『しかも、ドラゴンや悪魔は幽体にも攻撃ができるのです! 殺されてしまいます!』
『どうか、お考え直しを……!』
「み、みんなの忠誠、ありがたく思うわ。でも……」
私はき然と告げた。
「ゼノンは私の夫よ! 私は彼を救うと誓った。だから、行かせてちょうだい!」
ゼノンを見殺しにして、自分だけ生き延びるなんて選択肢は、私には無い。
彼は私の命より大切な人なのだから。
「【幽体化】……!」
ガウェインたちの忠告を振り切って、私は新魔法を使った。
私がゼノンに魔力を供給できれば、きっと逆転できるわ。
「私とあなたが、力を合わせれば、どんな強敵にも勝てる。そうでしょう、ゼノン!」
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