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第62話。聖女アリシア、罪を自白させられて破滅する

【聖女アリシア視点】


「アリシア!? もう一度、聞くぞ! なぜ関所を攻撃したんだ!? 帝国軍と本当に手を組んだのか!?」


 ハロルド王太子が、この世の終わりのような顔をして、私に詰め寄ってきた。


 事態は最悪だった。

 私は拘束され、聖教会の工作員は蹴散らされ、カマエルも破れた。私の戦力は、もはや残っていない。


 ……と、とにかく、いつも通り、天真爛漫な聖女の演技をしなくては。

 このバカなハロルドさえ抱き込めれば、この場をしのぐことができる筈!


「そ、それは……義勇軍が勝手に、勝手に暴走をしちゃったんです! 私は義勇軍の副官に、関所を攻撃しろって脅されて!」


 同情を引くべく、わっと泣き出して見せる。


「私は悪くないんです。信じてくださいハロルド様ぁ!」

「あ、アリシア……!」


 ハロルド王太子は、息を飲んで私を見つめた。


「アリシア、お前の戯れ言に付き合っている暇は無い!」


 するとゼノンが、険しい表情で駆け込んで来た。


「ゼノン様!」


 私を拘束した兵らが、敬礼でゼノンを出迎える。


 間近で見たゼノンは、研ぎすさませた剣を思わせる精悍な少年だった。

 なるほど、あのヴァレリアが夢中になるものわかるわ。彼には、ふつうの男には無い凄味があった。


「帝国軍の作戦について、知っていることを吐いてもらおうか?」

「な、なんのこと!? アリシア、わかんない!?」


 私は瞳をうるうるさせて、ゼノンを見つめた。男を手玉に取るべく訓練してきた、かわい子ぶりっ子作戦だ。


「アリシア、ぼ、僕は……未だに信じられない。君が僕を殺そうとし、その罪をヴァレリアに擦りつけたなんて。僕が提供した孤児院への寄付金も、この国を帝国軍に蹂躙させようとする聖教会の活動資金になっていたんだなんて、嘘だろ!?」


 ハロルドは頭を抱えて、嘆き悲しんでいた。

 それで、ピンときた。


 この男は、未だに私に気があって、私の無実を信じたいと思っていることを。なら、やれる。騙せる。つけ込める。


「ハロルド様! これは私を逆恨みして陥れようとするヴァレリアの策略です! 乗せられちゃ駄目です! アリシアのこの目を見てください。これが嘘を付いてる目に見えますか?」

「王太子殿下、国境に帝国軍が押し寄せてきています。手短に拷問を済ませます」

「ゼノン、いや、それは……」


 ハロルドは、ゼノンの後ろから現れた鞭や焼きごてなどの拷問機具を持った男に、言葉を失った。

 私もゾッとした。


「彼は【拷問官】スキルを持つアスフォデル公爵家の拷問官です。聖女アリシアは、帝国軍と内通し、陽動としてここで暴れた疑いがあります。俺は一切、容赦するつもりはありません」

「あらやだ。聖女様ったら、もうそんなに怯えちゃっているの? いいわぁ! これから私がこのぶっ太いのを、バッコーン! とぶち込んであげるから、即行でゲロゲロしてね?」


 拷問官は、2メートル近い髭面の大男で、身体を気持ち悪くクネクネさせていた。

 彼は真っ赤に光る焼きごてを、うれしそうに掲げている。


「ま、まままさか、ソレで私を……!?」

「そうよ。できる限り早く白状させろって、ゼノン様のご命令だから、最初から、全力で飛ばして行くわよぉおおおッ!」

「い、いやぁああッ、ハロルド様!」


 私は慌ててハロルドの慈悲にすがろうとした。


「……ゼノン、わ、わかった。【拷問官】スキルによって引き出された自白は、すべて本人の記憶に基づくものだと聞いている。真実を明らかにするためにも、致し方ないだろう」


 ハロルドはやつれきった顔で頷いた。


「えっ、ちょ、ちょっと待ってハロルド様! ソイツは私を拷問しようと……!」

「うーん、大丈夫よ聖女様。【癒しの奇跡】があるなら、どんな激しいプレイをしてもOKよね? とりあえず、バックから思い切りイッてみようかしら!? ふつうの人間なら一生トイレに不自由することになるけど、聖女様なら余裕よね?」


 拷問官の大男がウインクしてくる。


「さぁ、ブスッといっちゃいましょう! たぎるわぁあああッ! 私、大興奮よぉおおおッ!」

「はぁあああッ!? ふざけるな、この私を誰だと思ってんだ、コラ! 王国の、いや世界の至宝、聖女アリシア様だぞ! 国王の病気を治してやったのは、この私なんだぞぉおおッ!?」


 私は思い切り暴れて、兵士の拘束を逃れようとした。


「……その国王陛下のご病気も、聖教会の工作員による自作自演だろう? アスフォデル公爵様から連絡があって、判明したぞ。陛下に密かに毒を飲ませていたってな」


 ゼノンが私に鋭い目を向けた。


「はぁ? えっ……?」


 もう、そんなことまで、バレてしまっているの?


「それに、回復薬を作れるゼノン様のお力の方が、聖女様よりも何倍、いや何千倍も多くの人を救えるものね。もうこの世界に聖女は必要無いのよ。あなたはお役御免というわけ」


 そう告げた拷問官は、炎の魔法で焼きごてをウットリした様子で加熱する。


「……そ、そんなバカなことがある訳がねぇだろ!? この私こそ、聖女こそ神に選ばれし救世主なんだぞ、離せぇコラァァァ!」


 私は絶叫して暴れまくる。


「うふ! いいわ! さぁ聖女様、愛しい王子様の前で、汚い罪をドンドン、ゲロしちゃって頂戴! とりあえず、レティシアと何を約束したのか? 帝国軍の作戦を知っている限り、全部吐くまで責め続けてやるぞコラァアアアッ!」


 拷問官が、焼きごてを振り上げる。

 そんな痛い思いをするのは、絶対にごめんだった。


「わかった! 言う、言うわ! レティシアと手を組んで、関所に攻撃を仕掛けたわ! 陽動作戦よ! 私が攻撃を仕掛けた直後に、レティシアがダラム城を襲う。これが、私の知っている帝国軍の作戦のすべてよ!」

「あ、アリシア……」


 ハロルドは膝から崩れ落ちた。

 私の正体を知って、絶望したみたいだった。

 本当にバカな男だ。


「はん! 全部吐いたんだから、聖女である私には丁重な扱いをしなさいよね!? まずは、ゆっくり休める部屋と食事を用意しなさい! ハーブを浮かべたお風呂にも入りたいわ!」

「駄目だな」

「へっ……?」


 しかし、ゼノンは私の一成一代の罪の告白をにべもなく切り捨てた。


「帝国軍に他に何か、提供したものがあるだろう? あのレティシアがそれだけで手を組むことを承諾するものか。それと、帝国に亡命する気なら、レティシアの現在位置、奴からの通信魔法の発信元くらい、割り出している筈だ。全部、吐いてもらうぞ。拷問官、もう時間が無い、ヤッてくれ」

「もちろんよぉおおおおおッ!」


 拷問官は大喜びした。


「アルフィン姉! 情報を聞き出したら、俺をダラム城まで連れて行ってくれ。他のみんなは、ここに残って、王太子殿下の護衛と、聖女アリシアの監視を頼む!」

「OK!」


 アルフィンがゼノンの隣に降り立った。


「ちょ、ちょっと待って! 全部話す、全部話すから!」


 私は大慌てとなった。

 スキル能力で拷問をされたら、隠し事は一切できない。私の野望は潰え、極刑になるだろう。


 だけど、きっとそれだけじゃ終わらない。


 私も遊び半分で、立場の弱い者をいじめてきたからわかる。


 この拷問官は、私と同種の真性サディストだ。

 どんな自白をしても、まだまだ隠していることがあると言って、拷問を楽しみ続けるに決まっている。


 これは地獄の始まりなのだ。

 

「ヴァレリアにしたことも、謝る! 謝るからぁああああッ!」


 私は恥も外聞もなく泣き叫んだ。

 かわいそうな美少女を演じれば助かることを、私はこれまでの人生で学んできた。

 今回も、とにかくこれで乗り切らなければ……


 拷問を開始されたら、もう打つ手が無い。


「アリシア……帝国軍と、どんな取引をしたのか。レティシア皇女の居場所も含めて、全部話して、どうか罪を償ってくれ」


 だけど、項垂れたハロルドは、私に助け船を出そうとはしなかった。


 い、今までは、私が泣けば、どんな言うことだって、聞いてくれたのに!?


「うーん、いいわ! アリシアちゃん、最高よぉおおおおおッ! ホントは、もっと、じっくり楽しみたいけど、ゼノン様のご命令だからね? まずはお尻から逝っちゃうわね?」

「ひぃいいいっ……!?」


 拷問官が私の背後に回って、焼きごてを振り上げた。


「さあ、兵士のみなさん、アリシアちゃんが暴れないように、しっかり捕まえていて頂戴ぃいいいッ!」


 レティシアから、彼女の通信魔法の発信元は、決して漏らすなと釘を刺されていた。


 ゼノンは脳筋集団のグレイヴァン辺境伯家の嫡男だから、通信魔法の発信元から、相手の居場所を特定できるといった高度な魔法知識はまず持っていないだろうけど、念のためという話だった。


 もし、これを漏らすなら、同盟関係は終了。たとえ、レティシアが辺境伯軍に勝っても、私を助けることは決して無いと……


 だから、これは絶対に秘密にしなければならなかった。

 だけど……


 次の瞬間、私は信じられない激痛によって、一瞬で固めた覚悟を消し飛ばされた。


 私は完全に破滅したのだった。

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