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第61話。神罰執行官カマエルを、パワーアップして倒す

「──対抗手段として管理者用ウェポンの使用を申請」


 カマエルの手前の空間が、再び揺らいだ。

 奴が、その揺らぎに手を突っ込むと、何も無い空間から、剣が引きずり出されてくる。


【虚無剣】(ヴォイド・ソード)


 それはなんとも奇怪な剣だった。俺のゲーム知識には無い代物だ。

 刀身が、波のように揺らめいて見える。剣の周囲の空間が、歪曲しているようだった。


 多分、斬撃の他に、敵に何かヤバい追加攻撃を加える武器ではないかと推察した。


 俺が不死身に近い再生能力を持つとはいえ、アレを喰らうのは危険だ。ここは……


「アルフィン姉!」


 俺はアルフィン姉に目配せすると同時に、地面に転がっていた槍を拾って、カマエルに投げつけた。


【付与】(エンチャント)、【炎帝】!」


 俺の意図を瞬時に理解してくれたアルフィン姉によって、投擲の瞬間、槍に炎の魔法が【付与】(エンチャント)される。


 紅蓮の炎を纏った槍は、音速に近い速度で飛んだ。

 炎の魔法はスキルで、吸収、無効化できるとしても、これならどうだ?


 すると、カマエルは無言で、【虚無剣】(ヴォイド・ソード)で槍をガードした。


「消えた……!?」


 奴のスキル能力から、ある程度、予測できていたが、【虚無剣】(ヴォイド・ソード)と槍が激突した瞬間、槍は煙のように消えてしまった。


「えっ、あれ、どうなっているの!?」


 アルフィン姉が、目を白黒させている。

 判明したのは、あの武器が即死系であることだ。


 触れれば恐らく肉体が消滅して、そこでゲームオーバーだ。


「神罰執行」


 突如、カマエルの【虚無剣】(ヴォイド・ソード)を持つ右手が、軟体動物の触手のように俺に向かって伸びた。


 スライム系モンスターは不定形であるため、身体を細く伸ばして攻撃できるのだ。


「うおッ!?」


 俺は身体を屈めて避け、バックステップで距離を取る。

 カマエルには殺気が感じられず、攻撃が読みにくかった。


「神罰執行」


 しかし、その瞬間、カマエルは先程と同じ広範囲爆裂魔法を放ってきた。


 俺とアルフィン姉は地面を蹴って回避したが、巻き上がった土煙でカマエルの姿が見えなくなる。

 しかも、爆音でキーンと耳鳴りがし、聴覚がイカれた。


 やるな……!


 俺の聴覚を奪うために、カマエルは先程より、爆音が強くなるように魔法を調整したのだ。さらに土煙で身を覆い隠した。


 おそらく、奴は俺の視覚と聴覚を封じた上で、不定形の姿による予測不能な攻撃で、トドメを刺す気だ。


 対応を誤れば、次の瞬間、俺は死ぬ。


「ヴァレリア……!」


 その時、俺の脳裏にヴァレリアの姿が過ぎった。

 

 コイツは俺のゲーム知識には無い強敵。ならば、俺が運命を変えようとしたために出現した、世界の強制力【因果のループ】が生んだ怪物に違いなかった。


 カマエルに敗北すれば、この世界はおそらくゲームシナリオ通りにすべてが進行する。

 ならば、絶対に負けられない。ヴァレリアを死の運命から救うためにも……!


 俺は左手で、己の左耳を全力で殴って、ヒールを放った。


「ヒール!」


 俺の左の鼓膜が破れ、視界がブラックアウトした。

 だが、同時に放ったヒールにより、頭の致命傷は一瞬で回復する。


 視界が戻り、消えていた音が聞こえるようになった。

 左耳が再生されたことにより、聴覚が強化されたのだ。


「ゼノン、自分の頭を……!?」


 アルフィン姉の悲鳴に近い声が聞こえる。自殺じみた行動を取ったのだから、当然だ。


 同時に俺は、矢のように迫りくるカマエルの触手の風切音を捕らえた。


「はっ!」


 俺は背後からのカマエルの斬撃を、紙一重で躱した。


 しかし、無理な避け方をしたために、俺の体勢が崩れてしまう。

 カマエルの触手は、チャンスとばかりに俺にさらに【虚無剣】(ヴォイド・ソード)を叩きつけようとする。この攻撃は避けられない。


 剣でガードするしかないが、【虚無剣】(ヴォイド・ソード)と俺の魔法剣がぶつかり合ったら、恐らく俺の魔法剣が撃ち負け、消滅するという確信があった。


 なら一か八かだ。


【過剰回復】(エクセシブ・ヒール)!」


 俺は魔法剣に、【過剰回復】(エクセシブ・ヒール)をさらに重ねがけした。

 【三重付与】トリプル・エンチャントだ。


 脳の傷をヒールで回復すると、魔法の威力が上がる。

 これは脳の魔法演算機能が上がっていることを意味してると思う。


 なら、脳の損傷も回復した今、超高等技術の【三重付与】トリプル・エンチャントも、必ず成功するだろうと踏んだのだ。


 そのためにも、俺は自分の頭を殴り砕いた。カマエルに勝つためには、常識を超えた魔法の力が必要だと思ったからだ。


 【炎帝】×、【過剰回復】(エクセシブ・ヒール)×、【過剰回復】(エクセシブ・ヒール)。この【三重付与】トリプル・エンチャントの魔法剣なら、【虚無剣】(ヴォイド・ソード)にも対抗しうる。


 俺の三重魔法剣と、【虚無剣】(ヴォイド・ソード)がぶつかり合った。お互いを消滅させようと、激しい火花を散らす。


【虚無剣】(ヴォイド・ソード)が消滅……!?」


 その拮抗状態は、一瞬にも満たなかった。

 俺の剣は、カマエルの剣を崩壊させて、奴の触手を叩き斬った。


「うぉおおおおおんッ!」


 カマエルの全身が燃えて、崩壊しだす。【炎帝】と、【過剰回復】(エクセシブ・ヒール)の効果が、奴の全身に及んだのだ。


 絶叫するカマエルは、塵となって空気に溶け消えた。

 勝てたのか……?


「か、勝った! ゼノンが勝ったぁ!」


 アルフィン姉が、大喜びで俺に抱き着いてくる。

 

「まさか、自分の頭を吹っ飛ばしてパワーアップしちゃうなんて、お姉ちゃん、驚いちゃったわ!」

「……そうだなアルフィン姉」


 一歩間違えれば自死してしまうところだった。

 だが、俺は賭けに勝った。


「カマエル!? く、くそぅ、役立たずがぁ!」


 頼みの綱のカマエルが敗れ、拘束された聖女アリシアが地団駄を踏んでいた。


「ア、アリシア! なんて口汚い言葉を!?」


 ハロルド王太子が、兵の制止を振り切って、聖女アリシアに駆け寄る。

 演技で見せられていた清らかな聖女の顔とのあまりのギャップに驚いているようだった。


「ゼノン様! 兵たちのほとんどは一命を取り留めました!」

「回復薬のおかげです! 死者は300名程で済みました!」


 俺が率いてきた兵たちが集まってきて、被害報告をしてきた。


「そうか……」


 俺は約300名の戦死者たちに、静かに黙祷を捧げた。俺が死なせてしまった者たちだ。


 その犠牲は決して無駄にはしない。

 これ以上、聖女アリシアと聖教会による好き勝手は決して許さないと、亡くなった兵たちに誓った。


「……さっさと終わらせるとするか」


 俺は剣を納めて、聖女アリシアの元に向かった。


 すべてに決着をつけるため、こいつから、帝国軍とレティシア皇女に関する情報を引き出す!

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