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第57話。ハロルド王太子に、聖女の逮捕状を突きつけ、ざまぁする

「いや、さすがはランスだ。少しでも気を抜けば、一気に畳み込まれていた。その力で、この俺を助けてくれ」


 俺は模造剣を下ろして、ランスの健闘を称えた。


「はっ、ゼノン様! このランス、ゼノン様に生涯変わらぬ忠誠を誓います!」


 ランスは、俺に臣下の礼を取る。

 他の武将たちから、おおっと、感銘のどよめきが上がった。


「お館様が、毒でお倒れになった時は、この世の終わりかと思ったが……これならば安心ですな!」

「ゼノン様は、お館様に勝るとも劣らぬ武人だ! いや、これに【癒しの奇跡】が加わるとなると、それ以上か……!」

「ゼノン様、どうか、我らを手足としてお使いくだされ!」

「ありがとう、みんな。よろしく頼むぞ!」


 ふぅ、よし。うまくいったな。

 武将たちは俺を認めただけでなく、本気で父上が、毒で伏していると思い込んでいた。


 これなら、実は父上は健在であり、伏兵としてレティシア皇女を倒すために密かに動くなど、誰にも予想できないだろう。


 ゲームでも、敵を計略にはめるには事前準備が重要だった。

 これで、帝国軍と義勇軍に勝つための算段は整ったな。


「申し上げます! 聖女アリシア様が義勇軍を引き連れ、関所近くにお見えになりました!」


 その時、大広間に伝令兵が飛び込んできて告げた。

 ようやく、やって来たか。

 ヴァレリアの表情が強張る。


 聖女アリシアには、未だに4000人近くの義勇軍が従っている。奴らが厄介なのは、自国民であるため、攻撃できないことだ。


 聖女アリシアが義勇軍の信頼を失いながらも、彼らを強引に率いてこの地にやってきたのは、その優位性を理解しているからだ。


 だが、対策に抜かりは無い。

 奴らは、関所前で鎮圧されることになるだろう。


 俺はそのための、もう一つの切り札を用意していた。


「ゼノン・グレイヴァン! もう総大将就任式は終わったな!? 約束だぞ。僕の大事なアリシアに会わせろ!」


 いきり立ったハロルド王太子が、大広間に乗り込んできた。式が終わったら迎えに行くと言っておいたのに、待ちきれなかったらしい。


 実は、この辺境まで聖女アリシアに会いにきたハロルド王太子を、アルフィン姉に空を飛んで迎えに行ってもらったのだ。


 万が一、ハロルド王太子に聖女アリシアと合流されたら厄介なので、それを防ぐための措置でもあった。


 ハロルド王太子は大勢のお供を連れ、ゲームと同じキンキラな目立つ衣装を身に着けていたので、見つけやすかった。 


「アリシアが、僕の命を狙った真犯人など、デタラメだ! 彼女と会ってそれを証明してやる!」


 乙女ゲームのヒーローであるハロルド王太子は、聖女アリシアの無実を頑なに信じていた。


「ハロルド王太子殿下……!」


 ヴァレリアの顔が険しくなる。


「ヴァレリアか!? まさか新しい婚約者を抱き込んで、アリシアに逆恨みの復讐劇を仕掛けてくるなんて、信じられないぞ!」


 ヴァレリアと目の合ったハロルド王太子は、怒りを爆発させた。


「義勇軍を率い、この地の援軍にやってきた勇敢で心優しいアリシアが、なぜ!? どうして、僕の命を狙った真犯人などと、お前やアスフォデル公爵は言うんだ!? しかも、アリシアが、帝国軍に王国をわざと侵略させようとしているだって!? バカバカしいにも程がある!」

 

 ハロルド王太子はヴァレリアに詰め寄った。


「やはり、お前は『稀代の悪女』だ! 僕がアリシアの無実を証明したら、今度こそ必ずお前を断頭台に送ってやる! 王太子の名と誇りに賭けて、僕はお前のような悪を決して許さない! 地獄に落ちろ、ヴァレリア・アスフォデル!」


 まさか、大広間に乱入してきて、ここまで言いたい放題言うとは、思わなかった。


「お待ちを殿下」


 俺はヴァレリアを守るべく、ハロルド王太子の前に出る。これ以上の横暴は絶対に許さない。


「この城の廊下の壁が、何か鋭い刃物で切り刻まれていたのをご覧になられましたか?」

「……見たが、ソレがどうした!?」


「アレは、ヴァレリアに取り憑いてたアンデッドモンスター【魂喰い】(ソールイーター)の攻撃によるモノです。つまり、アルビオン王国の王宮内には、ヴァレリアの他にもう一人【死霊使い】(ネクロマンサー)が出入りしており、その者がヴァレリアを陥れようとしていた物的証拠となります」

「そんなモノが証拠になるものか!? おおかた、兵に命じて作らせた代物だろう!?」


 ハロルド王太子は、激しく反論してきた。


「信じられないとおっしゃるなら、これから殿下には、聖女アリシアの本当の姿をお見せします。お望み通り、俺と一緒に、聖女アリシアのところに参りましょうか?」


 もう一つの切り札とは、このハロルド王太子だった。

 彼をこちら側に拘束しておけば、俺たちが官軍だ。義勇軍は俺たちを決して攻撃できない。


 もし、そんなことをしたら、義勇軍は王家に弓引く賊軍となり、そのトップである聖女アリシアは名実ともに反逆者となるからだ。


 ハロルド王太子が、聖女アリシアに味方する危険は、国王陛下からの逮捕状で、完全に無くすことができる。

 

「それと、これは国王陛下直筆の聖女アリシアの逮捕状です」

「なに!?」


 俺が懐から、逮捕状を取り出すと、ハロルド王太子は顔面を引き攣らせた。


「罪状は、国家反逆罪。陛下は、聖女アリシアの罪をすべて明らかにした上で、この地の領主権限で裁くように、と仰せです。そのために、いかなる手段も許可すると」

「こ、これは確かに父上の直筆とサイン!」


 王太子と言えど王命には逆らえない。

 ハロルド王太子は押し黙った。


「……すべてが終わったら、ハロルド殿下には、ヴァレリアを罪人扱いしたこと、『稀代の悪女』などと呼んだことを謝罪していただきましょうか?」

「ふ、ふざけるな! まだアリシアが完全にクロだと決まった訳じゃない!」


 反発するハロルド王太子に、俺は冷たく言い放つ。


「クロだと証明しますよ。この国王陛下の逮捕状があれば、聖女アリシアを逮捕、拷問を加えることができます。すでに、アスフォデル公爵家の【拷問官】スキル持ちを、国境の関所に派遣しておりますので、アリシアの口から真実を語らせます」

「はっ、はあ……?」


 ハロルド王太子は、目を白黒させた。


「ま、まさか、そこまで周到に準備をして……僕のアリシアに拷問を加えようと!?」

「僕のアリシアですか? まだ、おわかりになりませんか? 殿下は騙されていらしたのです。聖女アリシアこそ、正真正銘の『稀代の悪女』です」


 ハロルド王太子に、俺は厳しい口調で告げる。


「この国のために働いてきたヴァレリアは、聖女アリシアとハロルド殿下によって、不当な汚名を着せられました。その汚名を晴らすためなら、俺はなんでもやります」

「くぅっ……! そ、そんなバカな!」


 気圧されたようにハロルド王太子は、後ろに下がった。


「ゼノン……!」


 ヴァレリアが、感銘を受けたような小さな声を漏らす。


 さあ、いよいよ聖女アリシアに引導を渡してやるぞ。

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