第56話。ゼノンは武将たちから総大将だと認められる
──2日後
「若様……いえ、ゼノン様。我ら家臣一同、あなた様に忠誠を誓います!」
本城の大広間にて、辺境伯軍の主だった武将たちが一斉に俺の前に跪いた。厳つい男たちが同時に頭を垂れる様は、圧巻の一言だった。
軍の総大将が父上から俺に変わった事を示すセレモニーのため、彼らを本城に呼び集めたのだ。
アルフィン姉も、この場に参列していた。
2日前に仕掛けた、義勇軍からの聖女アリシアへの信頼を破壊し、自滅に追い込む作戦は、上々だった。
義勇軍は、相変わらずこの地に向かってきているが、逃亡する者が続出し、数を半数以下に減らしていた。
聖女アリシアが、父上の解毒のために先行をすることを拒否したのが最大の原因だが、それ以外の理由もあった。
この地に近い村々に、辺境伯軍の大勝利と、俺が一万人の負傷兵を【癒しの奇跡】で快復させたという知らせを、大々的に届けていたからだ。
人を使って、『帝国軍、恐れるに足らず!』 という、威勢の良い噂をばら撒いた。
これによって、そもそも援軍など必要無いのではないか? 歓迎されていないなら、援軍に向かうべきではないのではないか?
という疑問が、義勇軍内に沸き起こり、聖女アリシアは、これを抑えることができなくなっていた。
わざわざ歓迎されていない地に援軍に向かい、必要も無いのに命を賭けるなど、バカげているからな。
それでも援軍に向かうと強弁する聖女アリシアに、義勇軍の兵たちはかなりの不信を抱いている。
士気はダダ下がりで、おそらくもう聖女アリシアを逮捕しても、暴徒化するような心配は無いだろう。
だが、今日、この地に到着するであろう聖女アリシアは、最後の悪あがきを仕掛けてくるだろうと予測し、そのためにも武将たちを本城に集めていた。油断は禁物だからな。
これで、聖女アリシアがどう動いてこようが、すばやく兵を動かして対応できる。
最悪なのは、帝国軍と手を組まれることだが……ダラム城は城壁の修理が完了し、約一万人の強化兵で守っているので、防衛態勢は完璧だ。
あとは、このセレモニーを通して、武将たちに俺への忠誠を誓わせれば、戦闘準備は万全になったと言える。
実は、戦の勝敗に直結する回復薬作りを優先するあまり、総大将の正式な交代は後回しになってしまっていた。
だが、そのおかげもあって、全軍の約半数の兵に、1つの回復薬を配布することができた。まさに不死身の軍団が、誕生しようとしていた。
「ありがとう。つい先日、スキルを授かったばかりの未熟な俺だが、倒れた父上に代わって総大将として、お前たちと共に、この地を守り抜くことを誓う!」
「はっ!」
武将たちが、平伏したまた力強い返事を返す。
「みなの者、面を上げなさい」
俺の隣に立ったヴァレリアが、凛とした張りのある声で命令した。
ヴァレリアいわく、総大将はドッシリと構え、命令や何か伝えたいことがあったら、副将を通した方が威厳が出るとのことだった。
辺境伯軍の兵数は、現在、怪我から復帰した者、俺が雇った傭兵も含めて、約2万7000人にも膨れ上がっている。
この数の兵を統率するためには、権威が必要であり、侮られないようにしなければならないとヴァレリアから言われた。
なので、総大将交代式の司会進行役は、ヴァレリアに任せることにしたのだ。
「初めて顔を合わせる者も、多いわね。私はゼノン様の婚約者にして、辺境伯軍の副将を拝命したヴァレリア・アスフォデル。我が父、アスフォデル公爵はゼノン様に対して、全面的な支援を約束しているわ」
「なんと……ッ!」
「かのアスフォデル公爵家が、ゼノン様の後ろ盾に!?」
武将たちは驚嘆に息を飲んだ。
俺とヴァレリアとの政略結婚については、知っている者も多かったが、アスフォデル公爵家が大罪人の娘を厄介払いしてきたと受け取る者も多かったため、ここで公爵家との関係性を明言することにしたのだ。
アスフォデル公爵家が、俺の後ろ盾となってくれることは、戦いに明け暮れる武将たちにとって、かなり心強いことだろう。
「すでにみんな知っての通り、ゼノン様のスキル【超回復】は、【聖女】の上位互換たる究極の力。『怪我をした身体を強く作り変えるスキル』よ。なにより、ゼノン様は寡兵にてダラム城を奪還するほどの知勇を持つお方。ゼノン様が軍を率いられる限り、私たちの勝利は決して揺らぐことはないと知りなさい!」
ヴァレリアは手にした扇を、威厳たっぷりにかざした。
なんというか、ここまで持ち上げられるとこそばゆいな。
「ゼノン、万歳! この私、アルフィン・グレイヴァンはゼノンに忠誠を誓うわ!」
武将たちの先頭にいたアルフィン姉が声を張り上げる。
姉は父上が倒れた場合、総大将となる資格を持っていた。その姉が、俺への忠誠を先頭で口にするというのは、武将たちを従わせる上で、大きなプラスになる。
「バルド様に次ぐ実力者のアルフィンお姉様も、このようにゼノン様を認めているわ」
ここでヴァレリアは、武将たちを見渡した。
「だけど、あなたたちの中には、未だに魔法系スキルなど、戦闘系スキルに劣ると、ゼノン様を侮り、そのお力を認めない者もいるようね。もしゼノン様に頭を垂れるのが不服と言う者がいるなら、今ここで正直に名乗り出なさい!」
この一言に、武将たちは呆気に取られた。
このパフォーマンスも、俺を権威付けするために、最初から決めていたことだ。
俺はこの地の武将たちの価値観を良く理解していた。
それは、剣術至上主義、剣が強い奴、腕っぷしが強い奴が偉い。という単純明快なものだ。
「……要するに軽い腕試しをやろうということだ。今から名乗り出た者を罰することは決して無いから、安心してくれ」
俺が合図すると、刃の無い訓練用の模造剣を持った侍女たちが、大広間に入ってきた。
「俺の実力を知りたい者は、この剣を取ってくれ。今ここで、俺と勝負しよう」
戦で大手柄を上げたこと、一万人の兵士を癒したことで、俺の指揮能力とスキル能力は、確かに認められた。
だが、俺の武勇、剣の強さについては未だに懐疑的な者がいると、フェリクスからの報告にあった。
なにしろ、【超回復】を得るまでは、アルフィン姉に剣で勝ったことが無かったのだから仕方がない。
ボルド将軍を一騎討ちで倒した話、アルフィン姉と戦って正気に戻した話も広まっていたが。前者は、実はフェリクスが手助けしたのではないか? 後者は父上の貢献が大きいのではないか? との見方をする者がいた。
本来、戦闘系スキル持ちが、魔法系スキル持ちに剣で負けることなど、有り得ないからだ。
魔法系スキルは、剣術至上主義のこのグレイヴァン辺境伯家では、格下扱いされていた。
「俺は魔法は一切、使わない。純粋に剣だけで勝負する」
なら、この場で、俺の実力を披露するべきだろう。
そうしなければ、武将たちの真の忠誠を得ることはできない。
「さあ、俺と腕試ししたい者は、遠慮なく申し出てくれ!」
「では、このランスめが!」
頬に大きな傷のある巨漢、ランスが名乗り出てきた。
ランスは俺の2倍くらいの体格がある上に、剣速が飛躍的に上昇する【飛燕】のスキルを持っていた。
「ゼノン様は、【癒やしの奇跡】の使い手でおられる。なら、勝負にてどのような怪我をしても問題ござらんな?」
「その通りだ」
俺を見下ろすランスは、自信ありげに鼻で笑った。
彼は父上に昔から仕える古参武将で、俺がかつて剣で一度も勝てなかった強者だ。俺のことを侮っているのが、ありありとわかった。
「ふん、ならば。もし、拙者が勝ったら、仮の総大将は拙者ということで、よろしいかな? お若いゼノン様には、まだちと荷が重いでしょうからな。ゼノン様には、我が副将となってご活躍していただきましょうか?」
ランスは模造剣を受け取ると、切っ先を俺に突きつけた。
「もちろん、構わない。弱い奴が、俺たちの総大将なんて、認めたくはないだろ?」
父上も言っていたしな。万の軍を統率するのは並大抵のことではないと。
形ばかりの総大将になったとしても、この荒くれ者どもが素直に命令を聞いてくれなければ何の意味も無い。
俺も模造剣を手にした。
「ほう。良き、お覚悟。いざ、勝負ぅッ!」
「おう!」
俺は腰を落として、剣を正眼に構える。
【飛燕】スキルによる先制攻撃を警戒し、防御に優れたこの構えを取った。
「ぬっ……!」
ランスはうめき声を漏らして固まった。
その額に、玉のような汗が浮かぶ。
「……? なぜ、動かないの?」
対峙した状態が長く続き、ヴァレリアが不思議そうに呟いた。
「こ、これは……!」
だが、他の武将たちは、俺たちの静かな攻防を緊張の目で見つめていた。
ランスが動こうとすると、それを察知して俺が機先を制しようとし、ランスは行動の起こりを妨害されて動けなくなる、ということをすでに何十回と繰り返していた。
強引に動けば負けると、ランスは確信しているようだった。
「素晴らしい! ゼノン様は、あのランスを完全に抑え込んでいるぞ」
「【飛燕】のランスが、一歩も動けぬとは……!」
「まるでお館様様の若いころのようだ!」
「戦闘系スキルを得てもいないのに、この領域へ!?」
武将たちが、口々に賛辞を送ってくる。
同じグレイヴァン流剣術の使い手だからこそ、戦闘態勢を取った瞬間に、相手の力量が正確に読めるのだ。
それは剣の技だけでなく、力や精神性といった目に見えない部分にまで及んだ。
「ふふっーん、さすがはゼノンね。心技体、すべてにおいてランスを上回っているわ」
アルフィン姉も腕組みをして頷いている。
「純粋な剣技なら、私でも敵わないかもね。短期間で、ここまで腕を上げるなんて……! やっぱり、あなたって天才だわ」
「剣を交えもせずに、相手の力量がわかるものなのですか?」
ヴァレリアが、驚いている。
「当然よ。相手の力量を正確に見抜くのも、強さのうちだからね」
その通りだ。真の強者同士の対決は、一合も剣を打ち合わず終わることがある。
故に、『剣を極めれば、剣は必要ない』などと言われるのだ。戦わずして、相手を屈服させられる。
「ま、まさか……これ程とは。参りました!」
ランスは剣を捨てて、降参した。
「ゼノン様の実力、拙者の及ぶところではありませんでした! ご無礼、平にご容赦ください!」
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