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第54話。ざまぁ回。聖女アリシア、ゼノンの罠に嵌められる

【聖女アリシア視点】


2日後──


「た、大変です。グレイヴァン辺境伯領の負傷兵、約一万人がゼノンの【癒しの奇跡】によって、全員、快復したとのことです!」

「ごはっ……!?」

 

 通信魔導師の少女の報告に、私こと聖女アリシアは食事中のパンを喉に詰まらせた。

 今は移動中の馬車内。辺境伯領まで、あと約2日で到着するところまで来てのことだった。


「い、いや、ちょっと訳がわからないわ!? 戦勝から数日程度で、どうしてそんなことができるわけ!?」


 私も【癒しの奇跡】の使い手だから、わかる。何をどうしようと、一万人をこの短期間で癒すのは不可能だ。


「わ、私にそのようなことを聞かれましても!? し、しかも、回復した兵ら──通称、強化兵の手によってダラム城の城壁工事も完了してしまったとのことです!」

「……はっ? な、なんだ、それ?」


 あまりに意外過ぎる事態に、私は頭が真っ白になってしまった。


 この少女には音信不通となったギデオンとの連絡の試みや、アスフォデル公爵への使者を襲撃した件の真相解明を優先させたため、本来は成すべき辺境伯軍に潜り込ませたスパイとの定期連絡が滞ってしまい、久々の連絡だった。


 通信魔法は大量のMPを消費するため、そう何度も使えないのだ。


「今は、辺境伯領ではゼノンの【超回復】(オーバーヒール)は、【聖女】をはるかに超えるスキルだと、大変な話題になっているそうです!」

「ちくしょう……!」


 聖女をはるかに超える。

 その言葉が、私の心を冷たく鷲掴みにした。


 聖女とは、神に選ばれた唯一無二の存在。その希少価値こそが、私が王妃に成り上がるための最大の武器だった。


 国王が私を大切にするのも、再び病にかかることを恐れてのこと。私にかかれば、病も怪我も恐れるに足りないからね。


 聖女とは、この世で最も価値のある『生命を司る者』なのよ。


「クソッ! このままじゃ、私の存在意義は……」


 このままでは、私よりゼノンの方が国王に重用され、民たちから救世主ともてはやされることになる。


 しかも、ゼノンのスキルは、聖女には無い強烈な付加価値があった。


 本来なら一ヶ月はかかるであろう城壁工事を数日で終わらせたという事実が、『怪我をした肉体をより強く作り変える』という超絶スキルが、実在することを物語っていた。


「ギデオンの奴も行方不明になっているし、一体、どうなってんの?」


 ギデオンの安否確認のために、奴が潜伏中の隠れ家に人を派遣したところ、そこはもぬけの殻だったという報告が来た。


 常在している筈の通信魔導師の姿も消えていた。


 ただ、何者かに襲撃されたような痕跡も無く、なぜふたりとも居なくなっているのか、謎だった。


 ギデオンの突然の失踪に、私は腑に落ちないモノを感じていた。

 なにしろ、アスフォデル公爵の使者を襲撃した工作員も行方不明となっており、連絡が途絶えているのだ。


 やはり、私のあずかり知らぬところで、何か致命的な事態が進行しているのではないか? という不安が拭えず、日に日にその不安は大きくなっていった。


「聖女様、一大事です!」

「今度は何よ!?」


 馬車に追い縋ってきた聖教会の工作員が、私に声をかけてきた。


「そ、空から人が……! 強力な魔物やも知れません!」

「はぁっ!?」


 慌てて、馬車の小窓から空を見上げる。


 直後。

 ドォォォォォォォォンッ!

 

 大気を震わせる轟音と共に、義勇軍の隊列のど真ん中に「ソレ」は着地した。

 舞い上がる土煙。悲鳴を上げて逃げ惑う兵士たち。


 降り立ったのは、竜を思わせる翼と角を持つ、禍々しくも美しい少女だった。


「魔物……!? いや、でもアレは!?」


 一瞬、魔物の襲撃かと思った。


 でも、驚いたことに少女の手には──グレイヴァン辺境伯家の紋章が刻まれた軍旗が握られているじゃないの!?


「聖女アリシアの義勇軍ね! 私はグレイヴァン辺境伯バルドの娘アルフィンよ!」


 少女の口上は、私たちの度肝を抜くものだった。


「これがその証拠の紋章入りの軍旗! 使者の私を攻撃したら、グレイヴァン辺境伯軍と戦争勃発だからね!」

「えっ、いや、ちょ……!?」


 馬車から飛び出した私は、あまりのことにしばし呆然とした。

 剣聖バルドの娘アルフィンは、帝国軍との戦争で命を落としたと聞いていた。


 それが、なぜ魔物──竜を彷彿とさせる翼と角を生やして、ここにやってきているのか、訳がわからないわ。


「こ、殺せ! 魔物が我らを惑わそうとしているぞ!」

「射撃だ! 隊列を立て直して、矢を浴びせよ!」


 パニックに陥った一部の兵士らが、少女に矢を放とうした。


「みんなソイツを……! えっ、いや、そのお方を攻撃しては駄目よ!」


 私は大声でそれを制止する。

 軍旗を携えた使者──しかも領主の娘を攻撃したとあっては、私たちの方からグレイヴァン辺境伯軍と敵対したことになる。


 そうなれば、かの地に足を踏み入れることなど、不可能になるわ。

 つまり、味方面して奴らを滅ぼす計画は、完全におじゃんになる、ということ。


「なんと、聖女様!?」

「私が話をするから、あなたたちは下がるのよ!」


 兵たちは困惑しながらも、構えていた武器を下ろした。


「よろしい。あなたが、聖女アリシアね?」


 アルフィンは軍旗を地面に突き刺すと、腕組みして鼻を鳴らした。

 聖女であるこの私に対して、傲岸不遜な態度だった。


 ムカツクが、私はぐっと我慢して話を始める。


「そうよ! あなたは辺境伯バルド殿の娘アルフィン? 本物……? なんで、そんな翼と角を生やしているの?」

「帝国軍に捕まって、人体改造を受けたの。空も飛べるし、スゴイ魔法も使えるようになったから、割と気に入っているわ!」

「えっ……」


 かなりヤバいことを、この娘は平然と言い放った。


「私の正体を疑って攻撃してきても構わないけど。その時は、反撃で聖女様を殺すから注意するように!」


 アルフィンは剣を抜くと、魔法を【付与】(エンチャント)した。


【付与】(エンチャント)、【炎帝】」


 ゴォオオオオッ!


 と唸りを上げて逆巻く炎が、アルフィンの剣に巻き付く。


「ふん!」


 アルフィンが気合とその剣を振るうと、大地に深い亀裂が入った。熱と剛腕による凄まじい斬撃の結果だった。


 義勇軍からどよめきが上がる。

 

 こ、この人間離れした魔法剣の技。剣を振った際の堂に入った構え。

 剣聖の娘というのは、多分、本当だ。下手にやり合ったら、危険だわ。


 チラリと、わずかな期待を込めて背後を振り返るも、神罰執行官カマエルは馬車に籠ったまま出て来なかった。


 あの意味不明野郎は、やっぱり私を守る気はさらさら無いらしい。


 ギデオンのSランクモンスターが居ない今、アルフィンに対抗できる戦力はアイツだけだというのに……クソ!


「聖女様を殺すだと!? たとえ、グレイヴァン辺境伯のご令嬢と言えど、聞き捨てならないぞ!」

「そうだ! そうだ!」


 私の信者である義勇兵たちが、騒ぎ立てる。


「ちょ!? みんな待って! 使者の方に失礼があっては駄目だわ!」

「せ、聖女様……!」

「おおっ、なんと寛大なる御心!」


 私は大慌てで、場を鎮めた。

 勘違いした皆が、私を崇拝の目で見つめる。


 だけど、この場の主導権は、完全にアルフィンに握られていた。


 きっと、この娘は、わざと私たちを挑発して、自分を攻撃させようとしているのだ。

 うかつにコレに乗せられたら、私の負けよ。


 これはおそらく、ゼノンの計略ね。


 義勇軍にアルフィンをわざと攻撃させて、私たちを敵軍扱いし、領内に入れない腹積もりに違いない。

 そうでなければ、魔物と見紛う者を使者には立てる筈が無い。


 だけど、私はしっかり義勇軍の手綱を握っていた。

 挑発に乗せられることを、見事、阻止した。


 ここにいるのは、王国を守るべく集まった聖女の義勇軍。私を信奉する彼らは、私の命令に忠実に従うのよ。


 しかし、次の瞬間、アルフィンは信じられないことを言い出した。


「え〜と……なになに」


 アルフィンは懐から紙を取り出した。そこに書いてある文章を、たどたどしく読み上げる。


「この義勇軍の中には、帝国の工作員が潜んでいる。奴らは、民間に出回ることの無い強力な毒を所持しており、グレイヴァン辺境伯領の井戸や川を毒で汚染するのが目的だ」


 その一言に、私の隣に立つ聖教会の工作員が青ざめた。


 ま、まさか、私たちの策略がバレている!?


「よって、我らが領内に入る前に、全員に身体検査を受けていただく。毒を所持している者は事前にそれを申告して差し出すように。もし、これを怠って、毒を秘密裏に所持しているのが見つかった場合、誰であろうと斬首に処す!」

「はぁ!?」


 私は素っ頓狂な声を上げた。


「これは私の弟。現在のグレイヴァン辺境伯軍の総大将ゼノンの言葉よ。ゼノンは義勇軍の中に、帝国軍の工作員がいるのではないかと疑っているけど。まさかそんなことはないわよね?」


 アルフィンはニッコリ微笑んだ。

 義勇軍の兵士たちは絶句していた。


 辺境伯軍の総大将がゼノンに代わったのは、たった今知ったので、驚きだった。そう言えば、剣聖バルドは毒を受けて倒れたという報告が入っていた。


 援軍に向かう先の総大将の言葉となれば、これほど重いことはない。


 根拠も無く、義勇軍の中に裏切り者がいると言うことなど、有り得ないからだ。


 実際に、私の側近として配置している工作員たちは、民間人が持つには不自然な猛毒を所持しており、もし今、身体検査をされれば、アルフィンの言葉が正しいことになってしまう。


「ど、どういうことだ……?」

 

 私を信奉していた義勇軍の兵たちに、動揺が走った。


「私たちの中に裏切り者がいるですって!? 何を根拠にそんなことを!? 私は神の御使い聖女アリシア! 私たちは剣聖バルド様の援軍の求めに応じ、バルド様と辺境の民を助けるべく集まった正義の義勇軍よ! 誰一人そんな者がいるものですか!?」


 私は義勇軍の動揺を抑えるために、強く反発した。


「ふむふむ。わかったわ、なら安心ね。じゃあ、聖女様には、数名のお供を連れて早馬で、毒で苦しんでいるお父様の治療に来てもらおうかな? ゼノンの【癒しの奇跡】じゃ、解毒まではできなくてね」

「えっ、ちょ。そ、それは……」


 私は返答に困った。

 今、剣聖バルドの求めに応じて、バルドを助けるためにやって来たと言ったばかりだった。故に、断ることはできない。


 供を連れて行こうにも毒の所持を禁止されては、飲水を毒で汚染する計略は使えない。

 

 つまりこれは……こちらの計略を封じた上で、私と義勇軍を分断し、私を捕縛する策に他ならないと、直感した。

 義勇軍を残して、敵地に数名で突入するなんて、自殺行為に他ならないわ。


 アルフィンは、さらに別の紙を取り出して読み上げた。

 それが、私を地獄に叩き落とすことになった。

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