第53話。アスフォデル公爵から、王にふさわしいと賞賛される
「……ありがとうございます。では、ヴァレリアの濡れ衣については完全に晴らすことができたということですね?」
ここが重要なポイントだったので、俺は確認した。
もう誰にもヴァレリアを悪女などと呼ばせたくはないからな。
『無論だ。【拷問官】スキルによる自白は、裁判で、有力な証拠となる。この自白の正しさは、神が保証してくれるのだからな。すでに国王陛下に、通信魔法でこのことをお伝えした。聖女アリシアには、陛下からすぐにでも正式な捕縛命令が出される。奴はもはや立派な逆賊だ』
「ありがとうございます、お父様! これもゼノンのおかげだわ!」
ヴァレリアは、声を震わせて感激していた。
【拷問官】スキルについては、俺もゲーム知識で知っていた。
対象の人間を拘束し、拷問を加えて初めて効力を発揮するスキルだ。
その人間から嘘偽り無い自白を引き出せるとしても、例えば【拷問官】スキルを下手に聖女アリシア相手に使って、聖女は無実でしたでは済まされない。
だから、確実にクロだという証拠が無い相手には、迂闊に使えないスキルだった。
だが、レアスキルである【死霊使い】の持ち主であり、かつ王宮に出入りしていたギデオンなら、その時点で王太子暗殺未遂事件の容疑者となるため、強引にギデオンを拘束して、拷問を加えることができたんだ。
「ですが、お父様。ここでハッキリ申し上げておきますが、濡れ衣が晴れたとしても、私はハロルド殿下の元には戻りたくはありません。私はゼノンの妻として、この地で、彼を王とすべく働きたく存じます」
「……ヴァレリア!」
アスフォデル公爵相手に、こうまで明確に俺の妻になりたいと言われると、心にくるものがあった。
それはアスフォデル公爵自身が、俺とヴァレリアに望んだことだったとしてもだ。
『ハハハッ、安心するが良い。それは私も同じ思いだ。ヴァレリアを蔑ろにした上に、この程度の策に踊らされる王太子殿下に、大事なヴァレリアをやることなどできぬからな。だが、ゼノン殿ならば安心だ。帝国軍相手の大勝利の報告は、すでに私の元に届いているよ。どうか、我が娘を末永く、よろしく頼む』
「恐縮です」
俺は頭を下げた。
「……ただ、俺が王になるというのは」
『私も君が次の王にふさわしいと思っている。我が娘婿なら、王位継承権を主張できるからな。だが、これについては時間が無いので、いずれ直接会って話そう。それよりも、聖女アリシア率いる義勇軍が、そちらに向かっている。調べではあと、4日ほどで到着する距離だ』
「あと、4日……!」
思ったより、早く動いてきたな。
その間に、こちらも準備を完了せねば。
『聖女の義勇軍を領内に入れては何をしでかすか、わからぬ。早急に対処する必要があるだろう』
「お待ちください、お父様。陛下からの捕縛命令を早馬で義勇軍に届け、聖女アリシアの罪を白日の元に晒せば、アリシアは大義名分を失って義勇軍は解散となるのではありませんか? さすがに王命に反することはできないと思いますが?」
ヴァレリアが、もっともな疑問を口にした。
『いや、捕縛命令が義勇軍に届けられたら、アリシアは一万人の義勇軍を扇動して破れかぶれの行動に出る恐れがある。故に、捕縛命令は陛下の直筆、実印入りの書状として伝書鳩を使って、グレイヴァン辺境伯領に送ろうと思う。ゼノン殿、これをうまく活用してもらいたい』
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
これは聖女を追い詰める強力な武器だ。
「……アリシアが破れかぶれの行動に出るとは? 戦わずして聖女を倒し、義勇軍を崩壊させる最高の一手だと思いますが?」
ヴァレリアは首を捻っていた。アスフォデル公爵の不安を理解できていないようだったので、俺が説明することにする。
「義勇軍の兵士たちは、おそらく聖女アリシアを強く信奉している。この数日間で、まず間違いなく、そのように躾けられていると思う。だから、下手に聖女を罪人として逮捕しようとすると、義勇軍が反発して、暴徒化する危険があるんだ。『俺たちは正義の義勇軍だ。俺たちの聖女様を罪人扱いするのか!?』ってな。一万人の暴徒化は厄介だろ?」
「あっ……!」
ヴァレリアは、理解の色を示した。
下手をすれば義勇軍が、聖女アリシアを父親を使って告発したヴァレリアを逆恨みして、グレイヴァン辺境伯領に攻め込んで来る可能性もある。
自国民なので殺さずに鎮圧する必要があるが、それには多大な兵力と時間が必要となり、帝国軍相手に致命的な隙を見せることになる。
なにより、義勇軍の怒りと憎しみがヴァレリアに向くことは避けたかった。何が彼女の死の引き金になるかわからないからな。
「その通りだ。さすがはゼノン殿。何とも聡明であるな。故に、兵を送って強引に聖女を捕縛するという手が使えぬのが、悩ましいところなのだ。聖教会の工作員どもも、義勇軍にはたくさん紛れておるようだしな」
アスフォデル公爵もどう対応すべきか、頭を悩ませているようだった。
「その【拷問官】スキルを持つ者を、この地に送っていただくことはできませんか? 確か、アスフォデル公爵家は、希少な天馬を飼っていた筈。それを使って空を飛んで来てもらえれば」
『ほう? もちろん、遅くとも3日あれば空輸で、拷問官を送り届けられると思うが、まさか……』
アスフォデル公爵は息を飲んだ様子だった。
「義勇軍の前で、聖女アリシアに罪を自白させるつもりなのゼノン!?」
「いや、少し違う。【拷問官】のスキル発動条件は、拘束した相手に苦痛を与えた状態で質問をすることだ。アリシアに罪を自白させるにしても、義勇軍のアリシアへの信頼と崇拝を壊してからでないと、『俺たちの聖女様を傷つけた!』となって、やっぱり義勇軍が暴徒化するを恐れがある」
『なんと、義勇軍の聖女への信頼を壊す策があるというのかね? 罪を突きつけるという手段以外に? 義勇軍を暴徒化させることなく……!?』
アスフォデル公爵が感嘆した様子が伝わってきた。
「はい。もちろん、ございます」
俺は自信をもって腰を折った。
実は、前から考えていた策だった。
アルフィン姉に活躍してもらう必要があるので、ダラム城防衛のための一万人の強化兵を、ダラム城に送ってからになるが。
『ほう! 策士だとは思っていたが、まさかこれ程とは……!?』
「それに俺の狙いは、聖女アリシアを捕縛して裁くだけでなく、聖教会もこの国から完全に排除することです。これを成せれば、奴らからの刺客にヴァレリアが脅かされる心配はゼロになります」
『聖教会も、この一手で国から追い出すだと!?』
「……ゼノン。私のために?」
ヴァレリアが感激に潤んだ瞳で俺を見つめた。
俺はヴァレリアの安全のために、ゲームのラスボスである聖教会をここで徹底的に叩いて、潰しておきたかった。
奴らのトップである教皇は、自らを神の代理人と称して、裏から世界を支配しようと暗躍するやべぇ奴だ。
そんな奴が、王国でのさばっていては、ヴァレリアの死の原因となるかも知れない。
『ふむ。なかなか興味深い心の声が聞こえたな。君がただ者ではないことは良くわかった。ゼノン殿とは、やはり一度、会ってゆっくり話したいものだ』
思わずギグっとした。
気をつけていたつもりだったが、精神を繋げる通信魔法の効果で、思考を多少読まれてしまったようだ。
といっても、後ろ盾になってくれるアスフォデル公爵に、俺の事情を知ってもらっていた方が、都合が良いかも知れないと思い直す。
転生者の俺の思考を、変人の妄想だと切って捨てない賢明さは、さすがは貴族の中の貴族といったところか。
俺はアスフォデル公爵に語りかける。
「アスフォデル公爵様が、国王陛下に聖女アリシアの罪を告発したのでしたら。おそらくハロルド王太子は愛するアリシアの罪を晴らすために辺境まで駆けつけて来ると思います。彼はそういう男ですからね」
乙女ゲームのヒーローであるハロルド王太子は、ヒロインである聖女アリシアがピンチになると、立場もわきまえずに真っ先に駆けつけた。
初登場時は、未熟な王子だったが、そうやって成長していくのだ。
なら、必ずこの辺境にやってくる筈だ。
『ふむ。ハロルド殿下に対する的確な分析だ。殿下の聖女に対する溺愛ぶりは、少々常軌を逸していると話題になっているからな。辺境に居ながら中央の情勢について、ここまで詳しいとは……』
アスフォデル公爵は感服した様子だった。
『ということはまさか?』
俺は一拍置いてから告げる。
「はい。俺は義勇軍を自滅に追い込んだ上で、ハロルド王太子の前で、聖女アリシアに拷問を加えて、すべての罪を告白させようと考えています。聖教会と結託して、この国を乗っ取ろうとしていたとね。それで、聖女も聖教会もお終いです!」
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