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第52話。ゼノンの仕掛けた策が決まりアスフォデル公爵から絶賛される

 ヴァレリアは恥ずかしそうにうつむきながら、俺の返事を待っている。


 女の子から、キスして欲しいなんて言われたのは、初めてだ。


 俺の心臓がうるさいほど早鐘を打った。緊張に喉がカラカラになるが、断るなんて選択肢はない。


 俺は覚悟を決めて、ヴァレリアを抱き寄せた。


 静かに瞳を閉じたヴァレリアは、俺の口付けを待ち望んでいるようだった。


 俺が彼女の唇に触れようとしたまさに、その瞬間……!


『……失礼、少々、邪魔するが良いかね?』


 俺の頭の中に、渋い男性の声が響いた。


「お父様!?」


 ヴァレリアが、ビックリした声を上げる。

 どうやら、彼女にもこの声が聞こえているらしい。


 お父様ってことは、この声の主はアスフォデル公爵か……?

 俺は慌てて、バッとヴァレリアから手を離す。


『左様。今、通信魔法で君たちの心に語り掛けている。心で念じたことは、私に伝わる故に、気をつけてくれたまえ』


 なに!? 俺は驚いて、ヴァレリアに対して抱いていた想いを打ち消した。

 今まさに、あなたの娘にキスしようとしていましたなんて、バレたら気まず過ぎるぞ。


 見ればヴァレリアも、必死に居住まいを正し、何事を無かったように振る舞おうとしていた。


 通信魔法は、意思疎通をしたい遠く離れた相手と精神をリンクさせる魔法だ。


 本来はうかつに他人に心を読ませないために、貴族は通信魔導師を代理人として、対象の人間と情報交換をするものだ。


 だから、まさかアスフォデル公爵が直接、俺に通信魔法で語り掛けてくるとは思わなかった……


 多分、これは俺をヴァレリアの婿として試す意図があるのかもな。

 精神をリンクさせるという特性上、本音を隠すのが難しくなる。


 ここは気を引き締めて対応しないと。

 万が一にも、ヴァレリアと別れさせられる羽目になったら、たまったものじゃないからな。


「お初にお目にかかります。ゼノン・グレイヴァンと申します。お話できて光栄です。アスフォデル公爵様」


 俺はその場に跪いて敬意を示した。


 前世の電話対応で学んだことだが、実際にお辞儀した方が、言葉や心に敬意がこもるものだ。仕事で叩き込まれたビジネスマナーが役に立った。


『ほう』


 アスフォデル公爵が、感じ入ったような声をもらす。どうやら効果があったようだ。


『ゼノン殿。まずは礼を述べさせて欲しい。我が娘、ヴァレリアの命を救ってくれたこと、娘の冤罪を晴らすために活躍してくれたこと。心から感謝いたす』

「いえ、ヴァレリアは俺の大切な婚約者なのですから、当然です」


 俺の嘘偽り無い本音だった。彼女への想いを心に込めた。

 ヴァレリアは、ぽっと赤面していた。


 彼女に聞かれるのは少々照れくさいが、変に誤魔化したりするのは、ここでは悪手だ。


 すると、脳内に響く公爵の声色が、ふっと柔らかいものに変わった。


『これはこれは! 半ば娘を押し付けるように婚約させたのに、本心からそう思ってもらえるとはありがたい。これほど想い合っているなら安心だ。なにしろ、ヴァレリアからの手紙には、君へのノロケが便箋3枚にも渡って──』

「お、お父様ッ! その話は今しないでください!」


 ヴァレリアが動転した様子で、話を遮った。


「通信時間は限られている筈です。早く本題に入ってください!」


 それはそうだ。

 通信魔法は長時間の会話になると、他の通信魔導師に、内容を傍受されるリスクが上がる。


 帝国軍や義勇軍の偵察部隊が近くにいるかも知れない以上、手短に終わらせた方が賢明だった。


『……おっと、そうであったな。私としたことが、少々、浮かれてしまった』


 アスフォデル公爵の声音が、そこで一気に凄味を帯びた。


『結論から言うと、王太子殿下暗殺未遂事件の実行犯ギデオンを捕らえた。ゼノン殿の情報提供のおかげだ。指定された場所に奴はいた』


 俺はゲーム知識で、聖教会の幹部が利用している秘密の隠れ家について知っていた。それをヴァレリアに書いてもらった手紙を通して、アスフォデル公爵に伝えたのだ。


 俺がギデオンの居場所を知っていると、【魂喰い】(ソールイーター)を通してギデオンに伝えれば、捕まることを恐れた奴は、その隠れ家に逃げ込むと予想してのことだった。


 それが見事、功を奏したようだ。さすがはアスフォデル公爵だな。


『うん……? ゲーム知識?』


 アスフォデル公爵から伝わる思考に一瞬、訝しげなものが過ぎた。


「時間がありません。話を続けていただけませんか? アスフォデル公爵様」


 思わずギクリとしたが、俺は心を鎮めて先を促す。


 ここがゲームの世界で、俺が転生者であるということは、うかつに伝えない方が良いだろう。

 アスフォデル公爵から変人だと思われたら困るからな。


『……そうだな。【拷問官】のスキルを持つ我が配下を使って、ギデオンを自白させた。聖女アリシアを王妃にすべく、アンデッドに王太子殿下を襲撃させたと、ギデオンは吐いたよ。その黒幕は、聖教会であり、聖女アリシアは聖教会が権力を握るために育てた駒であるともね』


 そこで、アスフォデル公爵の声音は、凍えるような殺意を漲らせたものに変わった。


『ああっ、そうそう。【死霊騎士】(デスナイト)化したゴードンも、私のところに聖教会の刺客を捕らえてやってきた。まさか、ヴァレリアを殺そうと襲撃までしていたとはな……これで証拠は揃った。私のかわいいヴァレリアに濡れ衣を着せて殺そうとしたのみならず、我が配下シュヴァルツ・リッターを全滅さてくれた返礼は、逆賊アリシアと、聖教会にたっぷりせねばなるまい』


 俺は自分の仕掛けた策が、完全に決まったのを悟った。


 アスフォデル公爵は、国王の妹を妻とする国王に次ぐ権力者なのだ。敵に回せば恐ろしいが、味方になってくれるなら、これ以上無く頼もしかった。


『すべては君のおかげだよゼノン殿。さすがは、我が友、剣聖バルドの子息だ。君のおかげで、ヴァレリアだけでなく、王国の大勢の民が悪しき者たちから救われた。このアスフォデル公爵エルンスト、王家に連なる者として王国を代表してゼノン殿に対して、幾重にも感謝しよう。君が我が娘婿になってくれたことは、私にとっても王国の民にとっても最大の幸運であったな』


 アスフォデル公爵は朗らかな笑い声を上げた。

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