第51話。ヴァレリアはゼノンと離れ離れになりたくなくて、キスして欲しいとお願いしてくる
俺の回復薬が、富を生み出し、外交の武器にもなるか。
ただ、交渉材料にするにしても、敵に回る可能性がある国や領主に売るには、『怪我をした身体を強化できる』という部分が大きな問題になるな。
「外に対して売るのは、効果を薄めたり限定できるようになってからだな。多分、スキルレベルが上がればできるようになると思う。まずは、こいつの大量生産に努めよう」
「そうね。大量生産の過程で、ゼノンの【超回復】がまたさらに進化するかも知れないわ。そしたら、回復薬の使い方をまた考えましょう」
ヴァレリアは俺の手を握って、今、失った魔力を補充してくれた。
温かくて、心地良い。
知恵も出してくれるし、俺をこうやっていつも支えてくれる。
ヴァレリアは本当に、俺にはもったいないくらいに良くできた婚約者だ。
だからこそ、僅かでも彼女を失う可能性を潰したいと俺は強く思った。
彼女の温もりを感じながら、俺は意を決して切り出した。
「俺とヴァレリアが別行動を取っても……この回復薬があれば、ヴァレリアは安全に【死霊使い】のスキル魔法が使えるようになるな」
「……そ、そうね。あなたは今後、グレイヴァン辺境伯軍の総大将になるのだし、別行動しなければならない場面は出てくるかもね」
ヴァレリアは、何とも言えない寂しそうな顔をした。
激戦の連続と、昨日の負傷兵たちの治療を経て、俺の最大MPは140にまで急増していた。
ヒールを1日に14回使える計算になる。もはや俺単独でも、実戦をこなせる段階に入ってきていた。
これなら、もうヴァレリアを危険な戦場に──俺の隣に立たせる必要は無い。
本来、【死霊使い】は、安全な後方から、アンデッドたちを操作して敵を攻撃するタイプの魔法系スキルだ。
その最大のデメリットは、使役するアンデッドに生命力を喰われることだが、回復薬を使えばこの問題をクリアできる。
だから……
「そうだな。ヴァレリアには、今後、ダラム城の中から、アンデッド軍団の指揮を取ってもらいたいと思っている」
本当は、最も安全な本城の中にいて欲しかったが、それではヴァレリアは納得しないだろうと考えての妥協案だった。
「えっ……? それってどういう?」
ヴァレリアの声が凍りついた。
俺を見上げる瞳が揺れ、その顔が捨てられた子猫のように頼りなく歪む。
予想外に強い反応に、俺は慌てて説明した。
「ダラム城は防衛上の重要拠点だから、アルフィン姉の代わりに、ヴァレリアに城主を任せたいんだ。アスフォデル公爵様も、元々、ヴァレリアを辺境伯軍の将とするべく、俺と婚約させた訳だろ? だから、城主を引き受けてくれないか?」
「……そ、それは。そうね」
ヴァレリアの敬愛する父親を引き合いに出すと、彼女は不承不承といった様子で頷いた。
「これまで通り、あなたの側で魔力供給をしたかったけれど……今はアルフィンお姉様もいらっしゃる訳だしね」
ヴァレリアは顔を伏せて呟く。
「ああっ。最前線の俺の援護はアルフィン姉に任せて、ヴァレリアには城の防衛と部隊指揮に専念してもらいたい。ヴァレリアを信頼しているからこそ、頼みたいんだ」
「ええっ……適材適所の配置だと思うわ」
ヴァレリアが握る俺の手に、力が込められた。
……ふぅ、良かった。納得してもらえたようだ。
俺がヴァレリアを要らないなんて思っていないことは、ちゃんと伝わったみたいだな。
「それと頼みがあるんだが。ダラム城に何か【魔法罠】が仕掛けられていないか。もう一度、シュヴァルツ・リッターたちに命じて調べてくれないか?」
ヴァレリアにダラム城を任せるにあたって、これは非常に重要なことだった。
ゲーム本編で、レティシア皇女は城を落とされた場合に備えて、城内に遠隔操作できる魔法の罠を仕掛けていた。
これに気づかず、帝国軍から城を奪還して浮かれていた聖女アリシアの義勇軍は、大打撃を受ける羽目になったのだ。
これと同じことが、起きないとは言えない。
もっとも俺たちがダラム城を落とした直後に、シュヴァルツ・リッターに【魔法罠】が仕掛けられていないか調べさせた上、城内の敵兵を締め上げて情報を吐かせたので、まず問題無いとは思うが……
そもそも、城内を遠隔操作で攻撃できる罠や仕掛けがあるなら、この前の攻城戦で、レティシア皇女が使って来なかったのは、おかしい。
しかし、念には念を入れておきたかった。
ヴァレリアに万が一のことがあったら、いくら後悔してもしきれないからな。
「……わかったわ。ダラム城は国境防衛の要ですものね。敵の仕掛けた罠が残っていないか、【罠探知】の魔法で、城の周辺も含めて、もう一度、入念に調べてみるわ」
「助かる。ヴァレリアに負担をかけて悪いが、この土地には他に魔法について詳しい人材がいないからな」
アルフィン姉は、強力な魔法の使い手だが、ドラゴンの能力によって感覚的に魔法を使っているので、知識は初心者と大して変わらない。
そのため姉には、巧妙に隠された【魔法罠】の発見と解除という繊細な作業はできなかった。
この魔法使いの人材不足は、早急になんとかしなければならない問題だ。
魔法使いを大量に雇って、辺境伯軍に組み込まなければ、今後、帝国軍に対抗するのは難しいと思う。
剣士ばかりのバランスの悪い軍勢が、辺境伯軍だからな。
いかに、【超回復】で兵を強化したとしても、どうしても【魔法罠】や遠距離攻撃に弱いという構造的な欠陥を抱えることになる。
なにより、ヴァレリアに魔法関連の負担が集中してしまうのは避けたかった。
「気にしなくて良いわ。ゼノンのためですものね」
ヴァレリアが花が咲くように微笑んだ。
うれしいことを言ってくれるな。思わず俺の胸が熱くなる。
だからこそ、俺は彼女を失いたくないんだ。この手をずっと繋いでいたいんだ。
俺はヴァレリアと繋いだ手をギュッと握り締めた。
だけど、俺はヴァレリアと離れ離れにならなくてはならなかった。彼女を守るために。わずかでも、彼女を失う危険を減らすために……
「その代わりに……い、今、ここで私にキスをしてくれない?」
えっ?
俺の頭がフリーズした。
見れば、うつむいたヴァレリアは耳まで真っ赤になっていた。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』登録と、下にあるポイント評価欄【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!




