表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/70

第51話。ヴァレリアはゼノンと離れ離れになりたくなくて、キスして欲しいとお願いしてくる

 俺の回復薬が、富を生み出し、外交の武器にもなるか。


 ただ、交渉材料にするにしても、敵に回る可能性がある国や領主に売るには、『怪我をした身体を強化できる』という部分が大きな問題になるな。


「外に対して売るのは、効果を薄めたり限定できるようになってからだな。多分、スキルレベルが上がればできるようになると思う。まずは、こいつの大量生産に努めよう」

「そうね。大量生産の過程で、ゼノンの【超回復】(オーバーヒール)がまたさらに進化するかも知れないわ。そしたら、回復薬の使い方をまた考えましょう」


 ヴァレリアは俺の手を握って、今、失った魔力を補充してくれた。

 温かくて、心地良い。


 知恵も出してくれるし、俺をこうやっていつも支えてくれる。

 ヴァレリアは本当に、俺にはもったいないくらいに良くできた婚約者だ。


 だからこそ、僅かでも彼女を失う可能性を潰したいと俺は強く思った。


 彼女の温もりを感じながら、俺は意を決して切り出した。


「俺とヴァレリアが別行動を取っても……この回復薬があれば、ヴァレリアは安全に【死霊使い】(ネクロマンサー)のスキル魔法が使えるようになるな」

「……そ、そうね。あなたは今後、グレイヴァン辺境伯軍の総大将になるのだし、別行動しなければならない場面は出てくるかもね」


 ヴァレリアは、何とも言えない寂しそうな顔をした。


 激戦の連続と、昨日の負傷兵たちの治療を経て、俺の最大MPは140にまで急増していた。


 ヒールを1日に14回使える計算になる。もはや俺単独でも、実戦をこなせる段階に入ってきていた。


 これなら、もうヴァレリアを危険な戦場に──俺の隣に立たせる必要は無い。


 本来、【死霊使い】(ネクロマンサー)は、安全な後方から、アンデッドたちを操作して敵を攻撃するタイプの魔法系スキルだ。


 その最大のデメリットは、使役するアンデッドに生命力を喰われることだが、回復薬を使えばこの問題をクリアできる。

 だから……


「そうだな。ヴァレリアには、今後、ダラム城の中から、アンデッド軍団の指揮を取ってもらいたいと思っている」


 本当は、最も安全な本城の中にいて欲しかったが、それではヴァレリアは納得しないだろうと考えての妥協案だった。

 

「えっ……? それってどういう?」


 ヴァレリアの声が凍りついた。

 俺を見上げる瞳が揺れ、その顔が捨てられた子猫のように頼りなく歪む。


 予想外に強い反応に、俺は慌てて説明した。


「ダラム城は防衛上の重要拠点だから、アルフィン姉の代わりに、ヴァレリアに城主を任せたいんだ。アスフォデル公爵様も、元々、ヴァレリアを辺境伯軍の将とするべく、俺と婚約させた訳だろ? だから、城主を引き受けてくれないか?」

「……そ、それは。そうね」


 ヴァレリアの敬愛する父親を引き合いに出すと、彼女は不承不承といった様子で頷いた。


「これまで通り、あなたの側で魔力供給をしたかったけれど……今はアルフィンお姉様もいらっしゃる訳だしね」


 ヴァレリアは顔を伏せて呟く。


「ああっ。最前線の俺の援護はアルフィン姉に任せて、ヴァレリアには城の防衛と部隊指揮に専念してもらいたい。ヴァレリアを信頼しているからこそ、頼みたいんだ」

「ええっ……適材適所の配置だと思うわ」


 ヴァレリアが握る俺の手に、力が込められた。


 ……ふぅ、良かった。納得してもらえたようだ。

 俺がヴァレリアを要らないなんて思っていないことは、ちゃんと伝わったみたいだな。


「それと頼みがあるんだが。ダラム城に何か【魔法罠】(スペルトラップ)が仕掛けられていないか。もう一度、シュヴァルツ・リッターたちに命じて調べてくれないか?」


 ヴァレリアにダラム城を任せるにあたって、これは非常に重要なことだった。


 ゲーム本編で、レティシア皇女は城を落とされた場合に備えて、城内に遠隔操作できる魔法の罠を仕掛けていた。


 これに気づかず、帝国軍から城を奪還して浮かれていた聖女アリシアの義勇軍は、大打撃を受ける羽目になったのだ。


 これと同じことが、起きないとは言えない。


 もっとも俺たちがダラム城を落とした直後に、シュヴァルツ・リッターに【魔法罠】(スペルトラップ)が仕掛けられていないか調べさせた上、城内の敵兵を締め上げて情報を吐かせたので、まず問題無いとは思うが……


 そもそも、城内を遠隔操作で攻撃できる罠や仕掛けがあるなら、この前の攻城戦で、レティシア皇女が使って来なかったのは、おかしい。


 しかし、念には念を入れておきたかった。

 ヴァレリアに万が一のことがあったら、いくら後悔してもしきれないからな。


「……わかったわ。ダラム城は国境防衛の要ですものね。敵の仕掛けた罠が残っていないか、【罠探知】(トラップサーチ)の魔法で、城の周辺も含めて、もう一度、入念に調べてみるわ」

「助かる。ヴァレリアに負担をかけて悪いが、この土地には他に魔法について詳しい人材がいないからな」


 アルフィン姉は、強力な魔法の使い手だが、ドラゴンの能力によって感覚的に魔法を使っているので、知識は初心者と大して変わらない。


 そのため姉には、巧妙に隠された【魔法罠】(スペルトラップ)の発見と解除という繊細な作業はできなかった。


 この魔法使いの人材不足は、早急になんとかしなければならない問題だ。


 魔法使いを大量に雇って、辺境伯軍に組み込まなければ、今後、帝国軍に対抗するのは難しいと思う。


 剣士ばかりのバランスの悪い軍勢が、辺境伯軍だからな。

 いかに、【超回復】(オーバーヒール)で兵を強化したとしても、どうしても【魔法罠】(スペルトラップ)や遠距離攻撃に弱いという構造的な欠陥を抱えることになる。


 なにより、ヴァレリアに魔法関連の負担が集中してしまうのは避けたかった。

 

「気にしなくて良いわ。ゼノンのためですものね」


 ヴァレリアが花が咲くように微笑んだ。

 うれしいことを言ってくれるな。思わず俺の胸が熱くなる。


 だからこそ、俺は彼女を失いたくないんだ。この手をずっと繋いでいたいんだ。

 俺はヴァレリアと繋いだ手をギュッと握り締めた。


 だけど、俺はヴァレリアと離れ離れにならなくてはならなかった。彼女を守るために。わずかでも、彼女を失う危険を減らすために……


「その代わりに……い、今、ここで私にキスをしてくれない?」


 えっ?

 俺の頭がフリーズした。


 見れば、うつむいたヴァレリアは耳まで真っ赤になっていた。

お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、


『ブックマーク』登録と、下にあるポイント評価欄【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読み頂きありがとうございます!!
少しでも面白いと思って下さった方は

ぜひ「ブックマークに追加」をしていただけると嬉しいです!!


小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ