第50話。無自覚に究極のチートアイテムを作り出してしまう
次の朝、俺はヴァレリアと自室で、新たに目覚めたスキル能力【回復薬作製】を試すことにした。
昨日は、十分に睡眠が取れたおかげで、体調はすこぶる良い。
ヴァレリアも、俺が強引に休ませたおかげで、顔色が良くなっていた。
兵たちを助けたいという彼女の気持ちは尊いと思うが……
無理をして過労で倒れるなんて、本末転倒だからな。それじゃ、結果的に救える人数は減ることになる。
……なにより、ヴァレリアはこの戦争で死ぬのが本来の運命だ。
実は、俺が密かに心配していることがあった。
それはゲームシナリオの強制力──言い換えれば前世のSF映画で知ったタイムトラベルにおける『予定説パラドックス』だった。
これは、過去にタイムトラベルして、未来を変えようとして起こした行動が、最終的に元の未来を引き起こしてしまう原因となる『因果のループ』が存在しているという考え方だ。
つまり、ヴァレリアの死の運命を変えようと、兵士たちの治療を無理して行った結果、ヴァレリアが過労状態となり、それが原因で死ぬ、なんてことが起こり得るんじゃないか? ということを、俺は心配していた。
無論、これは心配し過ぎ、考え過ぎかも知れない。
だが、ヴァレリアが俺にとって大切な人になった結果、今はヴァレリアを救うことが第一の目的になっていた。
例え俺の死の運命が変わっても、ヴァレリアが死んだら何の意味も無い。
彼女が死ぬ可能性の芽については、極力排除したかった。
そのためにも、新能力【回復薬作製】を使った回復薬の作製をがんばらなくちゃな。
最悪の展開として、ゲームシナリオ通り、俺たち家族が全滅するという未来がやって来る可能性も、ゼロじゃない。
未来を改変しようというんだ。これは世界そのものに戦いを挑むということ。決して油断はできなかった。
「えっと、その回復薬とは、そもそもどういったものなの?」
水を満たしたいくつもの瓶を見つめて、ヴァレリアは不思議そうな顔をした。
俺の指示を受けたメイドたちが、井戸水を桶に入れて、次々に運んで来てくれていた。さらにそれを1リットルの瓶に移して、机の上に並べてもらう。
これからこの瓶の水を【回復薬作製】の能力で回復薬に変える実験をする訳だが……
ゲーム世界の住民に、ゲームでお馴染みの回復薬の説明をする羽目になるとは、ちょっとおかしな気分だな。
「一言で言うと【癒しの奇跡】が宿った水なんだ。飲むと、怪我が治る」
「えっ……?」
ヴァレリアは口に手を当てて驚いた。
「い、いや、ちょっと待て。そんな奇跡の水がまさか、大量に作れるとか。そんな話じゃなわよね?」
「そんな話だが?」
おそらく3日で、一万人の負傷兵を回復できるだけの量の回復薬が作製できると思う。
「……そ、そんな水が実在したら、それこそ不死にして最強の軍隊が作れるじゃないの!?」
ヴァレリアは、目の色を変えて詰め寄ってきた。
「『怪我を癒すだけでなく、その度に強くなれる奇跡の水』を兵たち一人ずつに持たせられるってことよね!?」
「えっ? いや、まあ……確かに。そうなるか」
これからちゃんと検証しなくては断言できないが、【超回復】の効果が乗った回復薬を作れるなら、そうなるよな。
うん? これは、もしかして……
「俺の予想をはるかに超えたチートアイテムが誕生するかも?」
怪我をした身体の強化まで出来るとなれば、それはまさにゲームバランスをぶっ壊しかねないチート級アイテムだ。
「その通りよ。早く試しましょう! 戦争の……いえ、世界の常識が一変するわ!」
ヴァレリアは興奮が抑えきれない様子だった。
世界の常識が一変するとは少々、大袈裟な気もするが……
でも、その評価はあながち間違いではないのかも知れない。
戦争が身近にあり、魔物が跋扈するこの世界の人々は常に死と隣り合わせだ。
そんな世界で、傷を癒し、身を守れる力を得られることのできる価値は計り知れない。
「そうだな。え~と、水を満たした容器に触れて、スキル魔法を発動させれば良いのか……?【回復薬作製】!」
俺が瓶に手を触れて叫ぶと、瓶は眩い光に包まれた。
瓶に満たされた水が、色鮮やかなコンバットブルーに変わる。
「水色が変化したわ!? こ、これが回復薬……?」
「成功したのか?」
割とあっさり成功できたので、実感が乏しかった。
「検証が必要ね。誰か怪我人に飲んでもらう必要があるわ。どの程度の効果があるかで、話は変わってくるし」
それはそうだ。大量に作ってあまり効果がありませんでしたでは、時間と労力を無駄にすることになるしな。
「じゃあ、もう何本か作って、傷病者収容所まで運ぶとするか」
「失礼しま……うきゃ!?」
その時、部屋に入ってきたメイド少女が派手に転んで、運んでいた桶の水をぶちまけた。
「もっ、ももも申し訳ございません!?」
桶の水を被って、ずぶ濡れとなったメイド少女は、その場に土下座して、必死に頭を下げる。
ヴァレリアのドレスに、水が多少かかってしまったのだ。
「何をしているのあなたは!? ああっ、ヴァレリア様、申し訳ございません!」
作業中のメイド長が、メイド少女を叱りつけ、平謝りとなった。
「あっ、いや、大丈夫だ。みんなは気にせず作業を続けてくれ」
「ゼノン様が、そうおっしゃるのであれば……」
俺が手で制すと、メイド長はお辞儀して引き下がった。
俺はメイド少女に手を差し伸べる。
「見慣れないけど新人の子か? 怪我は無いか?」
「えっ……!?」
「そんなに恐縮しないで頂戴。ちょっと濡れてしまっただけだわ」
「は、はい……?」
俺たちの態度に、メイド少女は心底驚いた様子だった。
公爵令嬢であるヴァレリアに粗相をしたら、本来ならクビじゃ済まないからな。文字通り首が飛んでもおかしくない。
しかし、民のために誇り高くあろうとするヴァレリアは、俺たちのために働いてくれたメイドを叱責したりしなかった。
俺もヴァレリアの態度を予想していたから、慌てたりはしなかった。
「あ、あッ、ありがとうございます……! 痛ッ!?」
メイド少女は、右手を押さえて仰け反った。
見れば右手首が腫れ上がり、ちょっとおかしな方向に曲がっている。
「これはもしかして、手首を骨折してしまったのか?」
「大変だわ、ゼノン。早く【癒しの奇跡】で治療を」
「えっ、え……? 私ごときのため、そんな、もったいないです!」
メイドは恐れ多いといった様子で、首をブンブン振った。
「若様の魔法は、聖女様をはるかに超えるまさに神の御業だとお聞きしました! それを私になんて、とんでもございません……!?」
「そうか?」
なんで、そんな風に恐縮して断ってくるのか、良くわからなかった。そこまで俺の負担になることじゃないんだが。
「じゃあ良かったら、代わりにこの回復薬を飲んでみてくれないか? 怪我が治ると思う」
俺が作ったばかりの回復薬を勧めると、メイドは唖然とした固まった。
回復魔法をかけられるのは、お断りということなら、せめて応急処置として多少は効果が見込めるだろう回復薬ならどうか? と思ったのだが……
あっ、いきなり、こんなコンバットブルーの未知の液体を飲めと言われたら、怖いか。
「悪い。ほら、別に身体に悪いものじゃないから。これは【癒しの奇跡】が宿った水なんだ」
俺はメイドを安心させるために、一口飲んで見せた。
蜂蜜を混ぜたようなほんのり甘い味がした。悪くない味じゃないか?
「わ、わ、若様と間接キス……!?」
「は?」
「い、いえ、何でもありません!」
メイドはなぜか顔をぽっと赤らめて、首をまたブンブンと振る。
「あっ、そうだ。これを飲むと右手の怪我が治るだけじゃなく、右手が強化されて力が倍増するかも知れない。それでも大丈夫か?」
念の為、確認を取った。
俺にとっては力が倍増することはうれしいことだが、メイドにとってもそうであるかわからない。
女の子だからな。
それが嫌で、断っている可能性に思い至ったのだ。
「いえ、そういうことではないのですが……」
メイドは口をモゴモゴさせた。
「う、うれしいです! ありがたく頂戴いたします!」
メイドは俺から回復薬をうやうやしく受け取ると、一気飲みした。
すると、怪我をした右手首が眩い光を放ち、腫れが急速に引いていく。曲がっていた形も正常となった。
「……ッ! 骨折が一瞬で治ったわね」
「ホントです! まったく痛くありません!」
メイドは手首を掲げて歓喜した。
「良かった。じゃあ、着替えてからで良いんで、右手の力が上がっているか、ちょっと試してくれないか?」
「実は、この回復薬の効果を検証したいのよ。期待通りなら、大勢の兵たちを救えるだけでなく、戦力が大幅に上がるわ」
ヴァレリアが真剣な顔で説明した。
「そ、そうだったのですね! では善は急げです! って、あ、あれ……」
メイドが部屋に置いてあった30キロ近くはあるであろう大型の水瓶を、右手だけで持ち上げた。
キョトンとしている彼女は、まるで力を込めていない様子だった。
「これは……!」
「やっぱり右手の力が増しているわね。ゼノン、大成功よ!」
ヴァレリアが快哉を上げる。
「この【奇跡の水】は、外部に持ち出されないように厳重に管理する必要があるわ! 最低でも骨折を一瞬で治せるとしたら、これは最強の軍隊を作れるだけでなく、使い方によっては、莫大な富を得ることも、国家間の外交の武器にもなり得るまさにこの世の至宝よ!」
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