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第5話。稀代の悪女ヴァレリアとの婚約が決まる

 だがフェリクスは、苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。


「ただ、そのご令嬢というのが……」


 その瞬間、俺の脳裏に、前世でプレイしたゲームシナリオが稲妻のように駆け巡った。


「ヴァレリアは、王太子の婚約者にも関わらず、その暗殺を企てて婚約破棄された『稀代の悪女』じゃなかったか?」


 そのヴァレリアと俺が、破滅する直前に婚約していたというのは、ゲームシナリオでは触れられていないことだった。


 彼女がこの地に追放されたことは知っていたが……モブの俺とそんな関係になっていたとは驚きだ。


 多分、わざわざ語るほどのことではないと、ゲーム中ではカットされたエピソードなんだろうな。


「すでに噂をご存知でしたか? 申し上げにくいことですが、左様でございます。王家の血を引くヴァレリア様は、恐ろしいことにご自分が王座に就こうと企てたのです。しかし、聖女アリシア様によって、その陰謀は阻止され、ヴァレリア様は7日前にこの辺境に追放処分となっております」


「……つまり、流刑にされて、もう嫁の貰い手が見つからないから、娘を俺に押し付けちまえっていうのが、アスフォデル公爵の思惑ってことか?」

「はっ、言葉を選ばずに申し上げれば……まさにその通りかと」

「わざわざ戦地に流刑ってことは、王家としては、できればヴァレリアには死んで欲しい、ということだろうな」


 王家に連なるような身分が高い者が大罪を犯した場合、死刑にするのは憚れるので、中央から遠く離れた土地に流刑にするのが一般的だった。


 要するに厄介払い。


 アスフォデル公爵としては、娘を俺に嫁入りさせてしまうことで、もう公爵家の者ではないという論法で、切り捨てることが可能になる。

 

 王家と公爵家、父上の思惑が絡み合った結果、この状況が生まれたということか。

 援軍は非常にありがたいところだが……


「……はっ。お館様は、坊ちゃまに酷な役目を任されましたな」


 俺はゲームシナリオを思い出す。

 ゲーム序盤で、主人公の聖女アリシアを虐めていた悪役令嬢がヴァレリアだ。


 アリシアは平民でありながら【聖女】のスキルを得たことで、国王の病気を癒すために王宮に招かれた。そして王太子と急接近することになる。


 ヴァレリアは、そんなアリシアを妬み、ことあるごとに突っかかって行くのだ。

 

『軽々しく王太子殿下の手を握るなど、言語道断だわ』

『廊下を走ってはなりません。はしたないですわよ』


 なんて感じでな。


 だけど堅苦しい王宮での生活に嫌気がさしていた王太子は、自由奔放な性格のアリシアに心惹かれていった。


 そんな中、貧しい孤児院出身のアリシアは、王太子に孤児たちの支援をして欲しいとお願いする。


 アリシアのやさしさがわかる感動的なエピソードだよな。


 でも、これを知ったヴァレリアは分を超えた申し出だと激怒するのだ。 


『平民が政治に口出しするなど、身の程を知りなさい!』


 そして、王太子が始めた孤児院への支援を打ち切って、そのお金を軍事費に回そうとするのだ。これによって、ヴァレリアとアリシアの対立は決定的となった。

 

 今、思い出してみてもヴァレリアは公爵令嬢の権威を振りかざした、嫌な女に思えた。


 挙げ句の果てが、王太子の暗殺未遂とは、まさに人格が終わっている。

 そんな娘と俺は婚約するのか……? うーん、ちょっと頭が痛くなってきたぞ。


「ただ、アスフォデル公爵様は、ヴァレリア様を完全にお見捨てになった訳ではございません。ご令嬢に帝国軍を撃退させることで名誉を挽回し、国王陛下の許しを得て、貴族アカデミーにもいずれ入学させたいとお考えのようです。我らにとっては、渡りに船ですな」

「……それで、虎の子の精鋭騎士団を護衛に付かせたってことか」

 

 いかにも、王国の剣たる武門の家系が考えそうなことだった。

 戦勝の手柄があれば、国王が恩赦を与えてくれる可能性がある。


 困ったら武力で解決! というのは、共感できるところではあるけどな。


 できれば、もっとたくさんの騎士を援軍に寄越して欲しいところだが。

 確か、ゲームシナリオでは、南で発生した魔物の大群の討伐を、アスフォデル公爵は任されていた。80名というヴァレリアの護衛の数は、彼女が罪人であることも考慮して、ギリギリといったところだろう。


「はっ。ヴァレリア様は、御年15歳ながらもかなりの腕前の魔法使いで、今年、強力な魔法系スキル【死霊使い】(ネクロマンサー)を授かったとのこと。お館様はヴァレリア様個人にも戦力として、大きな期待をしておられるようです」

 

 なるほどな……

 ヴァレリアは帝国軍との戦争で死んでしまう序盤の悪役キャラだったので、彼女の生い立ちまでは良く知らなかった。


 強力な魔法系スキルを授かったということは、いざという時、王太子の護衛となれるように、幼い頃から魔法戦闘の英才教育を受けてきたに違いない。

 その強さは折り紙付きと言えた。


 しかし、それを差し引いても、あの剣術至上主義の父上が、魔法使いを戦力として期待するとは……


「……俺が外れスキルを引いて、父上もいよいよ、なりふり構っていられなくなったか? バルザーク帝国は魔法国家。こちらにも凄腕の魔法使いがいなければ、対抗しようがないからな」

「はっ、ゼノン坊ちゃまには、ヴァレリア様の機嫌を損ねぬように、うまく手綱を握っていただきたいとのことです」


 俺に本城にいるように父上が厳命してきたのは、このためか。父上が前線を離れられない以上、婚約者である俺がヴァレリアを本城で出迎えて、歓迎する必要がある。


 前世を含めて女の子と付き合ったことがない俺には、難しい注文ではあるが……


「ヴァレリアとその護衛のシュヴァルツ・リッターを、父上ではなく俺の軍に引き込めれば、勝てる可能性は大幅に上がるな」


 俺は頬を叩いて、気持ちを切り替えた。

 相手が『稀代の悪女』だろうと、やるしかない。


「よし、必ずヴァレリアを味方にしてやるぞ!」


 そうだ。これは俺にとって、大チャンスだ。

 うまくいけば、破滅の運命を回避できるぞ。

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アスフォデル⋯アホでする、か
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