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第48話。ざまぁ回。聖女アリシア、計画が破綻しかけて慌てまくる

【聖女アリシア視点】


「ありがとうございます、聖女アリシア様!」

「素晴らしい、これが【癒しの奇跡】ですか……!?」


 グレイヴァン辺境伯領に義勇軍を率いて向かう道中。私こと聖女アリシアは、夕陽に照らされる中、3人の兵士からキラキラとした崇拝の目を向けられていた。


 私が泊まる豪勢な宿を取らせるため、街に先行させたこの男どもが、魔物の襲撃を受けて少しばかり怪我をしたので、ヒールで、ちょちょーいと癒してやったのよ。


「そう、これこそが神の御業たる【癒しの奇跡】。これで私は王国を救ってみせるわ!」


 胸を張って大見得を切ると、周囲の兵士たちから大絶賛の嵐となる。


「まさに救世主! 聖女アリシア様がおられれば、俺たちは無敵だ!」

「バルザーク帝国軍など、恐れるに足りないぞ!」

「聖女様の元、俺たちで王国を守り抜こう!」


 ぷっ、まったくチョロい奴らね。

 私は内心、笑いをこらえるのに必死だった。


 こいつらは、私が聖女の名を使って、王国を守るという大義名分の元に集めた約一万人の義勇軍だった。


 私が王妃に成り上がるため、まずは救国の英雄となるための駒ね。


 だから、ほんのわずかな怪我であってもパフォーマンスとして【癒しの奇跡】で癒して、私への信奉を強くする必要があった。


 こうやって道中、徹底的に躾けて、こいつらを私の命令通りに動く忠犬にするのよ。


「帝国軍から、大切な民の命を救う! それが、聖女である私の使命なの! 愛と正義のために、みんなどうか力を貸してぇ!」

「うぉおおおおおッ! 聖女様、万歳!」

「なんて、お優しいお方なんだ!」

 

 瞳を潤ませて叫ぶと、バカな男たちが一斉に雄叫びを上げた。

 よしよし、順調、順調!


 本当は、民の命なんて、どうでも良いのだけどね。

 愛だの正義だの口にするのは、正直、吐き気がするわ。


 でも、これも私が王妃となるためよ。


 私が義勇軍を率いてグレイヴァン辺境伯を助けに行くと言ったら、ハロルド王太子殿下は感激の涙を流していたわ。

 アリシアは素晴らしい、まさに聖女だってね。


 ハロルド殿下は、ますます私にゾッコンになった様子だった。

 まさに計画通り!


 なのだけど、ハロルド殿下は「アリシアにだけ危険なことはさせられない!」と叫んで、自分も辺境まで出陣するとか騒ぎ出して、止めるのが大変だったわ。


 さすがに、ハロルド殿下に付いて来られたら計画はおじゃんよ。


 なんてたってこの義勇軍は、辺境伯軍を助けるのではなく、全滅させるために向かうのだからね。


 具体的なシナリオは『聖女である私が王国を守るために出陣したのに、グレイヴァン辺境伯バルドが、自分の地位の安泰をはかろうと帝国に寝返ったため、敗北した』ということを考えていた。


 帝国軍との戦闘中に、「裏切り者の剣聖バルドを倒しなさい!」と私が叫んで、義勇軍に潜ませた聖教会の工作員たちを剣聖バルドに突っ込ませる。

 これで辺境伯軍への援軍だった義勇軍は、内なる敵に早変わり。


 私のことを信じるこのヒロイズムに酔ったバカどもは、釣られて剣聖バルドの本陣を攻撃しだして、辺境伯軍は大混乱に陥って全滅するという計画よ。


 もし万が一、ゼノンやヴァレリアの反対で、義勇軍が剣聖バルドの本陣から離れた場所に配置されても問題無いわ。


 その時は、井戸に毒を投げ込んでやるから。


 そうすれば、飲み水を汚染された辺境伯軍は、あっさり全滅。井戸に毒を入れたのは帝国軍の仕業にしてしまえば、私の罪は決してバレない。


 まっ、辺境伯領を占領した帝国軍にまで、かなりの打撃を与えるから、ちょっとリスキーなんだけどね。


 帝国軍には、この国をある程度、侵略してもらわないと困るから。この聖女アリシアの華麗なる救世主伝説を作るためにね。

 

 ……だけど、なによりまず優先すべきは、私の野望の邪魔となるゼノンとヴァレリアを殺すこと。


 私と同じ【癒しの奇跡】を持つゼノン。ハロルド殿下の婚約者であった公爵令嬢ヴァレリア、あのふたりは結託して、身の程知らずにもこの私を断罪しようとしている。


 ふふっ、だけど、あのふたりが、いかに足掻こうとも、もはや辺境伯軍の敗北は決まっているのよ。


 領主である剣聖バルド自らが援軍要請をしておきながら、私の援軍を受け容れないなんて、選択肢がある訳がない。


 もし剣聖バルドがそんなマネをしてきたら、ハロルド殿下に通信魔法を使って泣きつけば良い。


『ハロルド様、剣聖バルド様がおかしいわ。きっと、帝国に内通して私を殺そうとしているのだわ! アリシア悲しくて泣いちゃうぅううッ!』


 ってね。

 そうして、剣聖バルドを裏切り者に仕立てて、滅亡に追い込むのよ。


「アハハハハハッ、完璧ぃ!」


 笑い声を上げた私は、奇妙なことに気付いた。


「って、あれ……?」

 

 【死霊使い】(ネクロマンサー)ギデオンが、他の者には気づかれないように、Sランクのアンデッドモンスター【怨霊王】(ファントム・ロード)を、私の馬車の上空に張り付かせていたのだけど……


 その気配がいつの間にか消えていたのよ。


 聖女の【癒しの奇跡】は、アンデッドを浄化できる効果もあるためか、私はアンデッドの気配に敏感だった。


「……ちっ、ギデオンの奴、サボっているの!? あのクソジジイが!」


 思わず舌打ちする。


 アンデッドモンスターを使役するためには生命力を消費するため、ギデオンはそれを嫌って辺境伯領から遠い間は、【怨霊王】(ファントム・ロード)の召喚を解いているのかも知れなかった。

 術者から遠く離れた場所にアンデッドを召喚することも、召喚地点に触媒があれば可能だった。


 大勢の兵士たちの賞賛に囲まれながら、私は自分の馬車へと戻る。


「……神に仇なす存在、【回復薬】(ポーション)の発生兆候をグレイヴァン辺境伯領で確認」


 私が馬車に乗り込むと同時に、車内にいた司祭姿の中年男性が、奇妙な独り言を呟いた。

 教皇から、ゼノンを倒すための戦力だと言われて派遣されてきた神罰執行官カマエルなる男だった。


「ぶ、不気味な奴……!」


 私はブワッと鳥肌が立つのを感じた。

 この男は理解不能、意味不明過ぎて、正直、関わりたくなかった。


 カマエルと初対面の際、聖女である私にあいさつをしてこなかったので、上下関係を叩き込んでやろうとナイフで首を刺してやった。

 すぐにヒールで癒せば問題無いため、私は自分を舐めてくる相手には、いつもコレをかましていた。


 これをすると、どんな相手も怯えて従順になる。


 しかし、驚くべきことが起こった。

 ナイフはカマエルの首にズブッと埋まり、そのまま体内に吸収されてしまったのよ。


 血も出ず、カマエルは何事も無かったように突っ立っていた。殺されかけたというのに、私に対して、何の感情も反応も見せず、ただただ突っ立っていた。


 さすがの私も、この男には恐怖を覚えたわ。


 教皇はこの男について、手紙でこんなことを伝えてきた。


『聖女アリシアよ。神罰執行官カマエルは、お前の命令に従うことも、お前の身を守ることもせぬ。ただゼノン・グレイヴァンを。神に仇なす悪魔から世界を滅ぼしかねないスキルを授かったあの男を抹殺するために同行するのだ』

『この男には基本的に構うな。この私ですら、神罰執行官に命令することはできぬ』

『また、ゼノンを確実に抹殺することこそ、神の御心と心得よ』


 まったくもって、手紙の意味がわからなかった。


 教皇は、辺境伯軍を帝国軍に倒させる計略よりも、ゼノンの抹殺こそ優先すべきことだと、言ってきていた。

 そのために、カマエルを使えと……


 教皇の真意が知りたいと、カマエルに何か質問しても終始無言で、何の答えも返ってこなかった。


 また、カマエルから私に干渉してくることも無いため、仕方なく放置することにした。


 こんな男と同じ馬車に乗るのは苦痛でしかないが、カマエルはなるべく人目に触れさせるなとも教皇から手紙で指示されていたため、仕方なく同乗させていた。


 この私の馬車に、許可も無く乗り込んでくるような奴はいないからね。


「お、おかえりなさいませ、聖女アリシア様!」 


 車内にはもう一人、通信魔導師の17歳の少女が待機していた。彼女は、ぎこちない笑顔で私を出迎える。


「おい、クソ女! 今すぐ、ギデオンを呼び出せ!」


 ドカッと座席に腰掛けて、私は彼女に横柄に命令した。


 この娘は、私と同じ聖教会の孤児院出身だった。しかし、彼女は【聖女】のスキルは得られずに、【通信】の魔法スキルを神より授けられ、聖教会の暗部に属することになった。


 つまり、聖教会での序列は私が圧倒的に上。奴隷のように扱って良い存在だった。


「ま、まことに申し訳ございません! ギデオン様とは、少し前から連絡が付かなくなっております。な、何度も通信魔法で呼び掛けているのですが……」


 少女は緊張に身を強張らせて応えた。


「はぁ? 奴に任せた私の護衛任務はどうなってんのよ!?」

「ひっ!? も、申し訳ございません、聖女様!」


 怒鳴りつけると、少女は顔を引き攣らせて平謝りとなる。

 少し前に、憂さ晴らしに首をナイフで刺してやってから、私に対して、すっかりビビってしまっているようだった。


「ちっ、マズい……」


 約一万の軍勢に囲まれているから、魔物や野盗の類に私の命が脅かされる心配は無い。

 だけど、ヴァレリアがアンデッドと化したシュヴァルツ・リッターで奇襲を仕掛けて来たら、話は別だ。


 この世界では、兵は量より質。

 こんなハリボテの義勇軍じゃ、あっと言う間に、私のいる本陣まで攻め込まれるじゃないの。


 だから、護衛としてSランクモンスターを配置して安心していたというのに……

 聖教会の工作員だけでは、護衛として心もとない。


 なにしろ、シュヴァルツ・リッターは王国最強の騎士団だ。


 意味不明野郎のカマエルが、私の護衛としてまったく期待できない以上、ギデオンのSランクモンスターが頼りだったのに、居なくなったのは致命的だった。


「……私は神に愛された聖女アリシアなのよ!? この偉大なる私をほっぽり出して、ギデオンは何をやってんの!? いいから、今すぐギデオンを呼べ! 説教してやる!」

「……ッ!?」


 私は怒りに任せて、少女の首を掴んで、後頭部を壁に叩きつけた。


 少女は悲鳴を上げそうになったけれど、私の『心優しき聖女』というイメージを僅かでも壊さないように、懸命に声を殺して耐える。


 この少女は憂さ晴らしのために、いくらでも傷つけて良い私のサンドバッグだった。

 今日も虐め抜いてやる。


「だ、駄目です。やはり応答がありません! か、考えられることとして、ギデオン様は寝ておられるか、あ、あるいは……」

「あるいは何?」


「何者かの襲撃を受け、殺されたか捕縛されたのではないかと!? でなければ、あちらで待機中の通信魔導師とも音信不通になってしまっているのは不自然です!」

「はぁ……? ちょ、ちょっと待て。いくらあのジジイが使えないといっても、暗部随一の殺し屋が襲撃を受けて負けた? 有り得ないでしょ……?」


 私はかなりの戸惑いを覚えた。

 ギデオンは、ゼノンに王太子暗殺未遂事件の実行犯であることを見抜かれたため、身を隠していた。


 潜伏場所は、聖教会の一部の幹部しか知らない隠れ家だった。


 その場所には、常時待機している通信魔導師もいる。もし、ギデオンの身に何かあったらその通信魔導師から、私に連絡が来る筈。

 ギデオンの奴が、Sランクモンスターを無断で下げるようなバカなマネをしておきながら、それが無いということは……


「……ま、まさか、アスフォデル公爵家の手の者に踏み込まれたなんてことは!?」


 私はそのことに思い至って、背筋が凍りついた。


 この国でギデオンに勝てるとしたら、アスフォデル公爵家の手の者しか思い浮かばなかった。

 私の知らないところで、私の身を危うくさせる恐るべき敵の動きが進んでいる気配におののいた。

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