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第46話。負傷兵を癒して最強の兵と化し、大喝采を浴びる

 傷病者の収容施設は、長引く戦によって怪我人で溢れかえっていた。

 負傷兵は一万人以上もいるため、入りきらない者は仮設テントで治療を受けている。


「……重傷者はこの病室に集められております」


 初老の軍医の案内で病室に入ると、そこには手足や目を失った者たちが、うめき声を上げながら横たわっていた。


 血と汚物の匂いが混ざり合った死臭が、立ち込めている。


「ご覧の通り、薬や包帯が不足し、ひっきりなしに新しい怪我人が運ばれてくるため、もはや満足な治療ができぬ有り様です」

「これは……もはや医療崩壊の状態ね」


 ヴァレリアが、ここの惨憺たるありさまに顔を曇らせた。

 汚れた包帯を取り替えてもらうこともできず、怪我人たちは打ち捨てられたように病床に伏せている。


 食事にも事欠いているようで、彼らは痩せ細っていた。


「……俺もちょっとここまでヒドくなっているとは思わなかった。こんな不衛生な環境じゃ、怪我が癒えるどころか、感染症にかかるリスクが跳ね上がるな」


 戦争では、衛生環境の悪化と医療崩壊によって感染症が蔓延しやすくなる。戦闘による死者よりも、感染症による死者の方が多くなることもあるのだ。


「さすがね、ゼノン。その通りだわ。下手をすれば、ここを発生源にした伝染病が、領内全域に広がるわ。早急に対処しないと」


 ヴァレリアが深刻そうに頷いた。俺もまさに同感だ。


「まさしく。そのために、お館様には再三、対策をお願いしてきたのですが……」


 そこで軍医は半信半疑といった様子で、俺を見た。


「失礼ながら、若様が【癒しの奇跡】を使えるというのは本当なのですか? 瀕死の兵すら、たちどころに癒したとお聞きしましたが?」


 昨日の未明に俺たちが帝国軍に大勝利したとの知らせは、すでに領内全域に伝えられていた。

 これに伴い、俺のスキル【超回復】(オーバーヒール)の力も、噂として爆発的に広まっている。


 だが、長年、負傷兵を看取ってきた軍医にとって、俺の使う回復魔法というチート能力は、想像の埒外のようだ。


「その通りよ、私たちに任せなさい」

「はぁ……左様でございますか」


 軍医はドレス姿のヴァレリアを、場違いだと言わんばかりの目で見つめた。


 自分が懸命に奮闘している職場に、何も知らないバカな貴族令嬢が踏み込んできたという印象なんだろうな。

 だが、ていねいに説明している暇は無い。


「よし、さっそくやるぞヴァレリア」

「ええっ」


 ヴァレリアが俺の手を握って、魔力供給の準備をする。


「ヒール」


 俺は横たわる隻腕の兵士に触れてヒールを放った。

 その瞬間、癒しの輝きに包まれた兵士の右腕が再生する。


「……えっ、お、俺の腕が?」


 当人は、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。


「なっ、ま、まさか一瞬で……!?」


 軍医が絶句し、みんなの視線が全快した兵士に注がれた。


「……奇跡だ!?」


 復活した自分の右腕をマジマジと見つめていた兵士は、やがて歓喜を爆発させた。


「信じられない。医学の……魔法の常識を超越している!?」

「ハンスの腕が治ったぞ……!?」

「すげぇ、ど、どうなっているんだ!?」


 軍医は全快した兵士の右手に触れて、驚愕に打ち震えた。

 部屋中が興奮の坩堝に包まれる。


「よし。どんどん、やるぞ!」


 俺はヴァレリアと共に、負傷兵のベッドを回って、次々にヒールをかける。

 

「うぉおおおッ! 俺の足が動くようになったぞ!?」

「目が、目が見える……!?」


 怪我が癒えた喜びの声が、そこら中から沸き上がった。


「まさか、若様は聖女様と同じ神の御使いなのでは!?」

「違うわ。ゼノンは聖女以上の存在よ! その証拠に、再生したあなたたちの身体は、以前より力が増しているでしょ?」


 ヴァレリアが大声で指摘した。


「うぉ、確かに!? す、すごいぞ……!?」


 治った手でベッドの縁を掴んだ若者が、うっかり縁を握り潰して、目を白黒させていた。


「傷が癒えた者はダラム城に向かってくれ!」


 俺は手を止めずに命じた。


「そこで城壁の修復工事を手伝ってもらう。帝国軍から奪った食料もたんまりあるぞ!」


 兵糧の一部は焼いてしまったが、まだまだダラム城の倉庫に唸るほど残っていた。


 なにしろ、6万人もの兵士を食わせるだけの量だからな。おかげで、俺たちの食料事情が劇的に改善されていた。


 崩れたダラム城の城壁は、俺が強化した兵ら──通称『強化兵』に工事を手伝わせることで、短期間での修復が可能になる。


「ダラム城!? かの城を帝国軍から取り戻したのですか!?」

「そうよ。ゼノンの活躍によってね!」

「そ、そんな……大戦果ではないですか!?」


 自慢げに叫ぶヴァレリアに、兵らが歓声を上げる。彼らはまだ戦勝を聞かされていなかったようだった。


「みんなは、この俺、ゼノン・グレイヴァンの指揮下に入る。俺がいれば、戦場でどんな怪我を負っても、治してやれるぞ!」

「うっ、うおおおおッ!」

「ゼノン様、万歳!」

「俺たちの英雄だぁ!」


 俺の一言に、周囲は大熱狂に包まれた。


 総大将が父上から俺に代わる件は、まだ公にはしていなかった。だから、この場では、あくまでここにいる者だけを俺の配下にするような言い方をした。


 父上は毒を受けて、重体になったフリをしている。

 武将たちが本城に運ばれた父上の元にひっきりなしに見舞いにやってきているが、嘘であるとはバレてはいないようだった。


 さすがは父上だな。敵を欺くにはまず味方からだ。

 これなら、聖女アリシアもレティシア皇女も騙せるだろう。


「みんな、ゼノンに付いてきなさい! 彼こそ、この地の、いえ王国の救世主よ!」

「はいっ、もちろんです! 奥方様!」


 ヴァレリアがここぞとばかりに叫び、この場の一堂は胸に手を当てた敬礼で応えた。


「奥方様って……ちょっと照れちゃうわね」


 ヴァレリアは、うれしそうにはにかんだ。

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