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第43話。父の目を治して、大勝利

 見れば爆心地には巨大なクレーターができていた。


 おそらくレティシア皇女本人は、ずっと前に影武者ゴーレムと入れ替わって、逃げ出していたのだ。


 影武者ゴーレムを遠隔操作して、アルフィン姉たちキメラ兵の実戦データを取りつつ、確実に俺たち──特に父上を抹殺する気でいたのだろう。


 やはり、ゲーム同様、一筋縄ではいかない相手のようだな。

 となると、これで終わりじゃ無い筈だ。

 おそらく考えられるのは……


「なんだと……!? おのれ、卑怯な!」

「ゼノン!」


 ヴァレリアが俺の右手を掴んで、魔力を供給してくれた。


「ヒール!」


 俺は父上に触れて、【癒しの奇跡】を放った。

 次なる攻撃を防ぐために、父上を万全な状態にしたのだ。


 とたんに父上のこれまで受けたダメージと、潰れた右目が復活する。


「……右目が見える!? ち、力が湧き上がってくるぞ!?」

「えっ、これって、聖女の【癒しの奇跡】!?」


 父上とアルフィン姉が驚愕していた。激戦のせいで、父上の眼帯が外れていたのが幸いし、すぐに効果を実感してもらえた。


 だけど、俺のスキルについて詳しく説明している時間は無い。


 俺は自分にもヒールをかけて、ダメージを回復したが、蓄積された出血と疲労のあまり、もうマトモに戦える状態ではなくなっていた。


 なら、みんなに対策を指示するしかない。


「まだ終わりじゃない! ねえ、ヴァレリア、頭上にありったけの魔法障壁を張ってくれ!」

「わかったわ!」

「えっ? 魔法障壁って、何……? 私、【付与】(エンチャント)しかできないけど?」

「魔法が使える自覚が無い!? いや、それでOKだ! 空からの攻撃に備えてくれ!」


 ヴァレリアはすぐに応じてくれたが、新たに得た力の自覚に乏しいアルフィン姉は、キョトンとしていた。


 なら元々得意だった魔法剣で対応してもらうのが一番良い。


 俺は兄弟子フリッツの剣を拾って、アルフィン姉に渡した。


大型弓バリスタの一斉射撃か!?」


 父上が夜空を睨みながら、緊張を漲らせた。


 暗いため俺には見ることができなかったが、レティシア皇女が、ゴーレム兵による大量の太矢を、ここに撃ち込んできたのだ。


「わかるのお父様!?」

「ワシには見える。復活したこの右目のおかげだ!」

「うっ……もうデミリッチたちが魔力切れだわ!」


 ヴァレリアが、唇を噛んだ。


 デミリッチたちのMPが連戦によって底をついてしまったようだ。本当は何重もの魔法障壁で頭上をガードしたかったが、空にはヴァレリアが展開してくれたひとつの魔法障壁だけが張られていた。


 これではすぐに突破されてしまうだろう。


ねえ、防御態勢を取ってくれ!」

「ゼノン!?」


 着弾まで時間が無い。

 俺はヴァレリアを押し倒して、覆い被さった。彼女は、俺の身を盾にして守る。ヒールがあれば、最悪でもヴァレリアは守り抜ける筈だ。


 すると父上が気勢を上げた。


「この程度の矢など、どうということはない! お前たちは一箇所に固まっていろ!」


 父上は大地を砕いて跳躍した。

 そのまま猛然と剣を一閃する。


 パァァァァァァァンッ!!


 頭上に迫った数百、数千の矢が同時に弾け飛んだ。

 剣圧で衝撃波が発生したのだ。


「一発たりとも撃ち漏らさん!」


 父上は次々に剣を振るい、衝撃波を叩きつけて、矢の波状攻撃を防ぐ。


 父上が使っているのはボルド将軍と同じ、衝撃波を発生させる技だが、父上は風魔法を【付与】(エンチャント)することなく、音速の壁を突破していた。


 木っ端微塵になった矢の残骸が、舞い落ちてくる中、父上が音もなく着地する。


「さすがは剣聖バルド様ね!」

「お父様、すごいわ!」


 ヴァレリアと姉の賞賛に、着地した父上は首を振った。


「いや、ゼノンがワシの身体を治し、警告を発してくれたおかげだ。でなければ、お前たち家族を守ることはできなかった」


 空を睨んでいた父上は、やがて剣を納める。


「どうやら、攻撃は止んだようだな」


 俺に向き直った父上は、驚嘆を口にした。


「この右目、視力が上がったどころではない。闇夜を見通す獣のごとき力が備わった。しかも、火傷の癒えた両手は、力が増している。ゼノンよ、これは、一体どういうことなのだ!?」

「ゼノンの【超回復】(オーバーヒール)、は、傷ついた身体を治すだけではありません」


 ヴァレリアが誇らしげに胸を張って代弁する。


「癒した身体を『強化』する。それが、聖女の【癒しの奇跡】を凌駕する彼のスキル能力です」

「バカな、そんなことが……!」


 父上が口をあんぐりと開けた。


「ゼノンってば、とんでもなくすごいスキルを授かったのね!?」


 アルフィン姉は、驚きに身を震わせている。


「そうだ。この力で、レティシア皇女に操られたねえを元に戻したんだ」

「あっ、それじゃ、私の頭も良くなったりしているのかしら!? 癒した身体を強化できるんでしょう!?」 

「えっ、それはどうなんだろうな……」


 俺は首を捻った。

 肉体を強化するスキル効果が、頭脳にまで作用するかはわからない。


「そうだ! ゼノンの口振りからすると、私って、魔法がいっぱい使えるようになったのよね!? 魔法の威力は、確か知力が関係している筈! わっ、炎が出せた! しかも、すごい威力!?」


 姉が無邪気に手をかざすと、火炎放射器のような爆炎が噴き出し、地面を黒焦げにした。

 煽りを受けそうになった父上が、とっさに飛び退く。


「何をするのだ、アルフィン!?」

「あっ、ごめん、お父様!」

「……無詠唱、溜め無しでこの威力!?」


 ヴァレリアが手を口に当てて、驚く。


「すごいな。アルフィン姉の魔法の威力が、上がっているぞ」


 基礎的な魔法でコレだとすると……

 おそらく、最後に力を全開にして放ってきた雷撃以上の攻撃魔法を撃てるようになっていると思う。


 【超回復】(オーバーヒール)で脳の傷を回復させると、魔法の威力が上がるというのは、驚くべき発見だった。


 だけど、元々が最強クラスだったアルフィン姉の魔法能力がさらに強化されるというのは、ちょっと危険過ぎるな。


「とりあえず、アルフィン姉には魔法の制御、威力のコントロールを覚えてもらわなくちゃな」

「これは……そうね。魔法初心者がいきなりマスタークラスの力を手に入れてしまったようなモノだものね。ちょっと、危険だわ」


 ヴァレリアも、心配そうに眉をひそめていた。


「お姉様、私としばらく魔法の訓練をしていただけませんか? 魔法剣の威力を高めるのにも役立つと思います」

「えっ、ヴァレリア様。私に魔法を教えてくれるの!? 魔法剣をパワーアップできるなら、大歓迎だわ!」

「ありがとうございます。どうか私のことは、ヴァレリアと呼んでください。私はあなたの義妹なのですから」

「うん、よろしくね! ヴァレリア。こんな美少女の妹ができて、うれしいわ!」


 ヴァレリアの申し出をアルフィン姉は、快く受け入れてくれた。

 新たな家族となった2人は握手をかわす。


 アルフィン姉も強くなれるなら万々歳みたいで、良かった。


「すまぬがゼノンよ、早急に確認したいことがある」


 父上は興奮を抑えきれない様子で、俺に詰め寄ってきた。


「ゼノンが、我が軍の負傷兵を回復させれば、もしや世界最強の軍が作れるのではないか!? 今、我が軍には一万人以上の負傷兵がいるのだ!」

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