第41話。アルフィン姉、ゼノンに助けられて彼が大好きになり、激重感情を向けてくる
「……ボルドは!?」
アルフィン姉はハッとした様子で、周囲を見回し、それから俺の左手を食い入るように見つめた。
「ゼノンの左手が……なっ、なくなっている?」
あっ、そう言えば、左手はアルフィン姉の炎の魔法剣に吹き飛ばされたまま、ヒールで癒していなかった。
アルフィン姉の雷撃を連続で喰らったせいで、傷口が炭化して、【超回復】の自動再生能力でも、すぐには再生できなくなっていた。
「け、剣士の命の手が!? なんで!? どうして!? うっ、うぁあああっ……!? す、すぐに手当てしなくちゃ!」
アルフィン姉は、絶叫して取り乱した。
「アルフィン!? 良かった! ワシが分かるか!?」
そこに父上がすっ飛んできて、アルフィン姉を抱き締めた。その目には涙が光っている。
「お父様……!? 私なんかより、ゼノンの手当てよ!」
「ぬぉ!?」
アルフィン姉は、父上を力任せに振りほどく。
彼女はスカートを破いて、俺の失った左手に包帯代わりに巻きつけてくれた。傷口が保護されたおかげで、痛みが多少和らぐ。
うおっ、や、やさしい……!
見た目が最高に俺のドストライクとなったアルフィン姉に、こんなにやさしくされると、幸せで泣きそうになる。
「左手以外も、こ、こんなボロボロでぇ……!」
アルフィン姉は、俺の惨状に嗚咽を漏らした。
「誰にやられたの!? まさかボルドに!? 私の弟をこんな目に合わせるなんて、誰であろうと許さないわ!」
姉は怒りに震えて、俺の両肩を掴んだ。
肩も服の下は雷撃によってズタズタにされており、触れられると痛みが走る。
「……ね、姉、ボルド将軍と戦ってからの記憶が無いのか?」
「記憶? うっ、なんか頭がガンガンして……って、それよりも早くお医者のところに! 私がおんぶして運ぶわ!」
アルフィン姉はくるっと背を向けて、俺を背負おうとした。
「良かった……」
俺は、ほっと安堵の息を吐く。
アルフィン姉は、まだ本調子じゃなさそうだが、会話が成立するし、ちゃんと正気に戻ってくれていた。
しかも幸いなことに、彼女はここ半年あまりのことを覚えていないようだった。
頭と身体を錬金術で弄り回された記憶など、無い方が良い。
なにより、ミニスカート状態のドラゴン娘も、実に良いものだと思った。
「すごいわ、ゼノン! お姉様を想うあなたの愛の勝利ね!」
見ればヴァレリアが、思い切り泣いていた。
なんか、めちゃくちゃ感動しているようだった。
「うむ。その通りだ」
父上が重々しく頷いた。
「ゼノンが駆け付けて来なんだら、ワシは確実に死んでいただろう。アルフィンを取り戻すことも、きっと叶わなかったと思う。礼を言うぞゼノンよ。お前は、想像以上に大きな男になったのだな」
なんと、父上が俺に頭を下げて感謝を述べた。
これには、かなり驚いた。
今までの人生で、父上に怒られることはあっても、感謝されたことなど一度も無かった。
どんなに剣の修行に励んでも、試合に勝っても、それはグレイヴァン辺境伯家の長男として、当然のことでしかなかった。
「それにお前には教えられた。どんな姿になったとしても、アルフィンはアルフィンだとな」
父上は目頭を押さえた。
「ワシの生涯で、今日ほどうれしい日はない」
「私も、か、感動したわ! あなたの姉弟愛に!」
ヴァレリアもハンカチで顔を拭っていた。
「お父様、どんな姿って……うん? うーん!?」
アルフィン姉はそこで初めて、自分の身体の異変──翼や尻尾が生えていることに気付いたようだ。
自分の身体を見回して慌てまくる。
「ちょ、ちょっと、これ、どうなっているの!?」
「……お前は帝国軍に囚われ、レティシアの錬金術によって洗脳され、そのような身体にされたのだ」
父上が苦渋に満ちた声で告げる。
「だが、ゼノンのおかげで、お前は正気に戻ることができた。ゼノンがおらねば、ワシらは家族でずっと殺し合いさせられていたことだろう」
「そ、そんなことが……? あっ!」
アルフィン姉は、衝撃を受けた様子だった。
「それじゃ、まさかゼノンの怪我は私のせい!? わ、私を救うために、私と戦ったの!?」
「……そうだな」
隠してもいずれわかることなので、俺は頷いた。
「ゼノンは立派だった。姉であるお前を救うために、命を賭けたのだ。お前からどんな攻撃を受けようとも、お前を治すべく、魔法をかけ続けた」
その瞬間、アルフィン姉は顔を悲痛に歪めた。目から大粒の涙をこぼして、わっと泣き出す。
「ごめんなさい! 私のせいで、ゼノンがこんな目に!? どうしよう、私、私のせいでぇ……ッ!」
「い、いや、大丈夫だから……!」
姉のあまりに激烈な反応に、俺は慌てふためいた。
「大丈夫な訳ない……! 手が、左手が無くなっちゃったんだよ!? ゼノンは、あんなに、あんなに一生懸命、剣の修業に励んでいたのに! うぐっ、わ、私が弱かったのせいでぇ……!」
アルフィン姉は、俺の目を見つめて叫んだ。
「誓うわ! 私のこれからの人生、すべてゼノンのために捧げる!」
「はぇ!?」
「私がゼノンの左手になる! 私にできることなら、なんでもしてあげるわ! 私があなたを一生背負い続けるから……!」
「つぅ……!?」
アルフィン姉は俺を抱き締めようとしたが、俺が苦痛に顔をしかめたのを見て、驚いてやめた。
俺の全身は、雷撃のせいで手の施しようが無いほど傷だらけで、どこを触れられても激痛が走る状態だった。
「あっ、ごめん、ごめんなさい! 私はゼノンをお医者に連れて行こうと……こんな、こんな……うっ、うぁあああッ!」
俺を治療のために運ぶこともできないと知ったためか、アルフィン姉は天を仰いで嘆き悲しむ。
「な、なんでもしてあげる……?」
理想のドラゴン娘である姉にそんなことを言われて、俺は思わず舞い上がりそうになった。
じゃあ、ちょっとだけ尻尾に触らせてもらえるように頼もうかと一瞬思ったが……
ヴァレリアの視線に気付き、姉弟間とはいえ、一歩間違うとセクハラになりかねないと思って踏み止まった。
それに罪悪感につけ込んで、アルフィン姉に何かさせようなんて、そんなモノは本当の愛じゃない。
俺のドラゴン娘愛は純粋なものだ。
その本質は、ありのままのドラゴン娘を愛すること。相手の幸せを願うことだ。それがアルフィン姉ならなおさらだ。
「泣かないでくれアルフィン姉。俺なら大丈夫だから。それに、俺は今、最高に幸せなんだ」
「えっ……?」
「何でもしてあげると言ってくれたけど……俺の願いはもう叶っている。俺の願いは、アルフィン姉とこれからも家族として、何気ない日常を共に歩んで行くことだ。それ以上は何も望まない」
自分で言って気付いた。
そうだ。これ以上の望みなどない。
「今回のことで、アルフィン姉が責任を感じる必要なんてない。俺のことなんて気にせず、自分の人生を自由に生きて、好きな人ができたら、その人と幸せになって欲しい。アルフィン姉の幸せこそが、俺の幸せなんだから」
「ゼノン……!」
アルフィン姉は、驚愕して立ち尽くした。
本音を言えばアルフィン姉に、『ずっと俺と一緒にいてもらいたい』と頼みたかった。
好きな男なんか作らず、お嫁になんて行って欲しくなかった。
だけど、そんな風にアルフィン姉の人生を俺の都合で縛って、姉の笑顔が曇ることがあったら、ダメだ。
俺は、俺の愛するドラゴン娘には、なによりもアルフィン姉には、いつも本当の笑顔でいてもらいたかった。
それに俺が女の子として愛するのは、ヴァレリアだ。
だから、姉弟間とはいえ、アルフィン姉に治療目的以外で、俺から手を触れることは決してしないと決めた。
残念だが、アルフィン姉の最高にキュートな尻尾に触れることは諦める。一歩間違えばセクハラだからな。
「俺の怪我のことなら、まったく気にしなくて良いから。俺には傷を再生できるスキル【超回復】があるんだ。ほら、もう回復してきただろう?」
俺は右手の電撃による火傷を掲げて見せた。もう再生して、健康な皮膚を取り戻している。
「す、すごい! まるで聖女の【癒しの奇跡】みたい……!」
「いや、それそのものなんだが……」
「えっ?」
アルフィン姉は面食らっていた。
後で、ちゃんと説明しよう。
「こんな感じで、左手も再生できるんだ。とりあえず姉が、何か身体の不調を感じたら、俺が治すから遠慮無く言ってくれ」
大丈夫だとは思うが、念のためだ。
「あ、ありがとうゼノン。ちょっと見ない間に、見違えるほどカッコ良くなっちゃって。もう私の後ろを付いて回る小さな男の子じゃないのね?」
アルフィン姉は微笑みながら、俺に手を差し伸べてくれた。
その笑顔こそ、俺が見たかったものだ。
我が姉ながら、はにかむと最高にかわいかった。
俺がこの笑顔を取り戻せたのだと思って、誇らしくなる。
「もし、ゼノンが弟じゃなかったら、惚れちゃっていたところよ」
えっ、それって、アルフィン姉も俺が大好きってことか?
俺は無上の喜びを感じた。
「アルフィン姉を助けられて本当に良かった」
俺は万感の想いを込めて、姉の手を握り返した。
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