第40話。【超回復】で、レティシア皇女の錬金術に打ち勝つ
「う、うぁぁあああああああッ!?」
アルフィン姉の両膝が、ガクンと地面に落ちた。彼女は頭を抱えて絶叫する。
今、『俺のアルフィン姉』とうっかり言いかけて、慌てて『俺たちのアルフィン姉』と言い直した。
俺のドラゴン娘への愛を周囲に悟られるのは……特にアルフィン姉にバレて、俺がドラゴン娘マニアだと思われるのは非常にマズい。
下手をすれば、姉に口を利いてもらえなくなる恐れがある。
「ゼノン、やったわね!」
「ああっ……!」
ヴァレリアが俺の隣に駆けよってきた。
とりあえず、俺の失言については気づかれていないようで、ホッとした。
「……厳重に施した私の魔法プロテクトが突破されかけている!?」
レティシア皇女は、愕然とする。
癒しの光と、姉の頭から溢れ出した闇がぶつかり合い、空気が激震していた。
俺のヒールとレティシア皇女の錬金術、相反する2つの魔法がせめぎ合っているのだ。
その渦中で、うめき声を上げるアルフィン姉は、自分の意思を取り戻さんと戦っているようだった。
「ああっ、いいわ! これが、あなたの【癒しの奇跡】。なんて強大な力なの!」
レティシア皇女が俺を、とろけるような顔で見つめた。
うなじを冷たい指でなぞられたような悪寒が走る。
同時に、違和感を覚えた。
レティシア皇女は、なぜこの状況で、こんなに余裕なんだ?
アルフィン姉の洗脳が解かれるのは、死活問題の筈だが……
「ゼノンよ、やったのか!? ふんッ!」
思考を遮るように、鋭い金属音が響いた。
見れば父上が、キメラ兵──フリッツの剣を両断していた。
斬撃の威力が増す【剣聖】のスキルを活かした武器破壊技だ。
間合いを取ろうとフリッツは慌てて後退する。
父上はその首筋に冷静に手刀を食らわせて気絶させた。
その拍子にフリッツが被った仮面が取れて、剛毛に覆われた顔があらわになる。その口には牙が生えていた。
どうやらフリッツは、狼型の魔獣と合成させられてしまったようだ。
「……しばらく寝ておれ、フリッツよ。ゼノンがお前も正気に戻してくれるだろう」
父上は弟子を、やさしい顔で見下ろした。
こんなやさしい表情は、今まで見たことがなかった。
「こっちも決着が付いたわ! もちろん、殺さずにね!」
ヴァレリアが反対側を指差す。
見ればもう一人のキメラ兵も倒れ伏していた。
シュヴァルツ・リッターは個々の力ではキメラ兵に劣るが、息の合った連携攻撃によって、勝利を収めていた。
邪魔者は消えた。今しかない。
「アルフィン姉、俺の声が聞こえるか!? 戻って来い!」
俺は剣を鞘に収めた。
俺に敵意が無いことを示すことで、姉の敵意が弱められないかと考えたんだ。
「帰ったら、俺に稽古をつけてくれる約束だろ!?」
彼女の正気を取り戻す一助になることに賭けて、懸命に呼びかける。
「そうだ、アルフィンよ! 家族で、また共に暮らそう!」
父上も俺の隣に立って呼びかけた。
「お前がどんなに変わり果てようと、ワシもゼノンも、お前を変わらずに愛し抜く!」
いや、俺の場合、アルフィン姉のことが、さらにさらに好きになったので、変わらずどころではないのだが。
「そうだアルフィン姉! 俺は姉と、これからもずっと一緒にいたいんだ!」
それは俺の魂の叫びだった。
理想のドラゴン娘になったアルフィン姉と、ご飯を食べたり、剣の修業をしたり、買い物をしたりする……そこには、喜びと感動しかなかった。
「ゼノン……! あなたは!」
ヴァレリアが感激した様子で、瞳を潤ませていた。
「……ゼノン?」
虚ろだったアルフィン姉の表情に、戸惑いの色が宿った。
「そうだ、俺がわかるか!?」
「お、お姉様の洗脳が解けかけている!? ゼノンの愛が……真摯にお姉様を想う気持ちがレティシア皇女の錬金術に打ち勝ったのね!?」
ヴァレリアも感極まっていた。
「ぷっ、愛ですって? そんな不確かで嘘くさいモノで、私の錬金術が破れるものですか」
レティシア皇女が肩を竦めて、嘲笑を浮かべた。
「アルフィンちゃん、遊びは終わりよ。『全リミッター解除』、『魔力最大出力』。すぐに処置して蘇生すれば問題無いわ。今すぐ、ゼノンを殺しなさい! 私の錬金術こそ至高だと、【癒しの奇跡】すら凌駕するのだと証明するのよ!」
「はい……マスター」
アルフィン姉の身体から爆発的な魔力が噴き上がった。ビリビリと肌を刺す絶大な力を感じる。
「勝ったと思った? ふふっ、残念ねぇ?」
どうやら、レティシア皇女はまだ奥の手を隠していたようだ。
「これをやると、アルフィンちゃんは数分で壊れちゃうけど。あなたの身体が手に入るなら、別に構わないわ。すぐに工房に運び込んで、一晩中、いいえ、一生愛し尽くしてあげるわね!」
レティシア皇女が、俺を見つめて喜悦の声を上げる。
洗脳が解けるくらいなら、アルフィン姉が壊れても構わないってか? ゲームシナリオ通り、レティシア皇女は最悪の魔女だった。
「くそッ! 下がれヴァレリア!」
「ゼノン!?」
俺はヴァレリアが巻き添えにならないよう、彼女を後ろに突きとばした。
魔法の使い手を倒せば、魔法は効果を失う。
それを狙って俺を攻撃魔法で倒すべく、アルフィン姉が手をかざしてきた。
「うぉおおおおッ!」
まだ、デミリッチから受けたバフ魔法の効果が残っている。そのおかげで、俺はアルフィン姉より、わずかに素早い動きができた。
俺は雄叫びと共にアルフィン姉に突撃して、その身を抱き締める。
「【雷帝】」
「ヒール!」
同時に、意識が飛びそうになるほどの強烈な電撃が、俺の身を焼いた。
アルフィン姉が俺を抱き締めて、直接、背中に雷魔法を叩き込んできたのだ。しかも、先程より、雷撃の威力が倍増していた。
だけど、俺もアルフィン姉を決して離さない。激痛の中、俺は彼女の後頭部を右手で掴んで、ヒールを何度も浴びせる。
アルフィン姉を縛るレティシア皇女の錬金術が力を増して、俺のヒールに抵抗しているようだが……そんなモノ、強引に突破してしまえば良い。
「まさか……! 我が身を顧みず、アルフィンちゃんに【癒しの奇跡】をかけ続けるなんて!?」
レティシア皇女の驚きの声が遠くに聞こえる。
痛い。
猛烈に痛いが、ドラゴン娘になったアルフィン姉と抱き合うことができて、俺は幸せを感じていた。
アルフィン姉を取り戻すことができるなら、俺はどんな痛みにも耐えてみせる。
「まさか、口先じゃなく、本当にアルフィンちゃんを愛して……! 自分の身より、姉の方が大事だとでも言うの!?」
レティシア皇女は俺の気迫に、気圧されているようだった。
「ゼ、ゼノンよ。お前はなんという……なんという男なのだ!」
「ゼノン、勝って! レティシア皇女の錬金術なんかに負けないで!」
「そうだ、ゼノンよ。お前ならアルフィンを取り戻せる! お前はワシの自慢の息子だぁ!」
父上とヴァレリアも、声を枯らして俺を応援してくれていた。
「ヒール!」
気が遠くなる中、俺はアルフィン姉と抱き合う喜びを糧に気を保ち、なおもヒールを放つ。
アルフィン姉を壊されたりなどするものか。俺が、ヒールで癒やす、救う、守るんだ。
俺には自動再生能力を与えてくれるスキル【超回復】がある。だから、どんな魔法攻撃にも耐えられる。根比べなら、俺は決して負けない。
だが、もう俺のMPはゼロになりかけていた。MPの少なさが、俺の致命的な弱点だ。
「これが最後のヒール……!」
この一撃に俺のすべてを賭ける。
俺は渾身の力を込めて、ヒールを放った。
ただただ純粋に、アルフィン姉を救いたいと願いながら……
これまでより、はるかに強い輝きがアルフィン姉を覆う。
その瞬間──
俺の身を焼く電撃が止まった。
「……あっ、えっ、ゼ、ゼノン?」
うわ言のようにアルフィン姉が呟いた。その瞳には、理性の光が戻っている。
「や、やったわ!」
ヴァレリアの歓声が聞こえた。
アルフィン姉の頭を覆っていた錬金術の魔力が、完全に吹き散らされた。
「バカな……! 命令よ! アルフィン、そいつらを皆殺しになさい!」
レティシア皇女がなおも喚くが、アルフィン姉がその命令に従うことはなかった。姉の戦意は完全に消失している。
力を全開にしたアルフィン姉は、数分で壊れるという話だったが、俺が何度もヒールを浴びせたおかげで、その兆候も無かった。
「……おかえり、アルフィン姉」
安心した俺は、目眩を感じて、その場に片膝をついた。
【超回復】のおかげで死にはしなかったが、もはや全身ズタボロだ。
だけど、今度こそ本当にアルフィン姉を取り戻すことができたんだ。
その喜びを静かに噛み締めた。
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