第39話。新技【ヒール・ソード】で、姉に勝つ
父上の言う通り、身体能力だけでなく俺の剣技も格段に向上していた。
ガウェインやボルド将軍、強敵たちとの死闘が短期間で俺の技を磨き上げてくれたんだ。
かつては届かなかったアルフィン姉の剣技にも、手が届いている。
「やはり、私の見込んだ通り。いえ、それ以上の男のようね、ゼノン」
レティシア皇女が、俺を食い入るように見つめて舌舐めずりした。
「いいわ。ますます、あなたが欲しくなった。ああっ、早くあなたの身体をこの手で思う存分にいじくり回したいわ!」
「レティシア皇女……!」
ヴァレリアがレティシア皇女を睨みつける。
「ゼノンは私の夫ですわ。彼を害そうというなら、容赦しません」
「ふーん、あなたが噂の【死霊使い】ね? まっ、レアではあるけど、間に合っているわ。身体の弱い子じゃ、私の改造手術には耐えられないしね」
レティシア皇女は、ヴァレリアを見やると興味無さそうに肩を竦めた。
魔法系スキル所持者は帝国では珍しくないので、ありがたいことにヴァレリアには関心が無いようだ。
一瞬、レティシア皇女の偏愛がヴァレリアにも向けられるかと思ってヒヤッとした。
レティシア皇女は原作ゲームでも、気に入ったスキル所持者を拉致、監禁、改造していたヤバい奴だったからな。
さて……
「……帰ったら俺に稽古をつけてくれる約束、果たしてもらうぞ、アルフィン姉」
俺は深く息を吸い込み、精神を集中した。
アルフィン姉ほどの達人にピンポイントに魔法を命中させるには、こちらも賭けに出る必要がある。
「ヴァレリア、【魂喰い】戦のアレをやるぞ!」
「わかったわ!」
ヴァレリアがハッとしながら、配下のデミリッチたちを一瞥した。
今の一言で、俺の意図を即座に理解してくれたようだ。
右足が回復、強化された俺は、この戦闘開始前より脚力がアップしている。
ここにさらに、【魂喰い】と戦った時のガウェインのように、バフ魔法を重ねがけすることで、アルフィン姉の予想を上回るスピードが出せる筈だ。
見れば、シュヴァルツ・リッターの戦況は優勢のようだった。
強力なキメラ兵相手にデミリッチも攻撃魔法の詠唱に大忙しだったが、多少なら、俺にバフ魔法をかける余裕はあるだろう。
さらに……
「【癒しの剣】!」
俺はヒールを剣に【付与】した。
ヒールは相手の身体に触れないと効果を発揮しない。しかし、アルフィン姉の頭に手で触れるなど、雷撃を浴びせたり、多少ダメージを与えても、まず不可能だと悟った。
だったら、剣にヒールを付与すれば良い。
【癒しの剣】で、姉の額の角を叩いて頭に【癒しの奇跡】を流し込めば、彼女を殺めることなく、治すことができる筈だ。
「ヒール! ヒール! ヒール!」
さらに俺はヴァレリアの魔力供給を受けて、一発ではなく、数発のヒールの【付与】を試みた。
これなら確実に、アルフィン姉の洗脳を解くだけの癒しの力が得られるだろう。
「えっ、【付与】の重ねがけですって?」
レティシア皇女が、目を見張った。
【付与】の重ねがけは超高等技術だ。本来は、魔法初心者の俺にできる芸当じゃない。
実際に、俺は何度か失敗したが、何度も挑戦し、3発のヒールの【付与】の重ねがけに成功した。
「まさか。その剣はリュシアンの……!」
成功した秘訣は、これがリュシアン皇子から奪った剣だったおかげだ。
後から気付いたことだが、この剣は魔法を【付与】しやすい希少金属であるミスリルでできていた。
「ハハッ! それを差し引いても素晴らしい魔法の才能だわ! ああっ、ゼノン、あなたって最高よ!」
うっとりとしたレティシア皇女が、両手から閃光を放った。
「うっ!?」
ソレは攻撃魔法ではなく、強い光を発するだけの照明魔法だったが、効果は抜群だった。暗闇に目が慣れていた俺の視界が潰れる。
その隙を、アルフィン姉が見逃すはずがない。
鋭い刺突が、俺ではなくヴァレリアの心臓めがけて放たれたのが、気配でわかった。
アルフィン姉が得意としたグレイヴァン流剣術の心臓刺突。 必殺の一撃。
おそらく、レティシア皇女はヴァレリアがいなければ、俺がまともに魔法が使えないことを見抜いたのだろう。シュヴァルツ・リッターもヴァレリアを倒せば消せる。
だが、そう来ることは予測できていた。
ヴァレリアは必要無いというなら、こちらの戦力を削ぐため、まずは彼女を躊躇無く殺しに来るだろうとな。
「【過剰回復】!!」
ヴァレリアの胸の前へ、俺は発光する左手を突き出した。
俺はヴァレリアを必ず守ると誓った。だから、誰であろうと、指一本触れさせない。
「【付与】、【炎帝】」
アルフィン姉の剣が爆炎を纏う。
「ゼノン!?」
ヴァレリアが、小さな悲鳴を上げた。
姉の刺突が、俺の掌を貫く。
その瞬間【過剰回復】のエネルギーが、姉の剣を構成する物質の結合を狂わせ、崩壊させた。
姉の剣は、俺の左手を焼き尽くしたが、その切っ先はヴァレリアには届かなかった。その前に砂粒と化して、霧散する。
武器を失ったアルフィン姉の動きが、一瞬だけ止まった。それは致命的な隙だった。
「【筋力増強】、【速度強化】」
そこにデミリッチたちからのバフ魔法が届いた。最高のタイミングだ。
バックステップで逃げようとするアルフィン姉に、俺は神速の踏み込みで追いすがる。
絶対に逃さない、必ず姉を取り戻すんだ。
「正気に戻れ、アルフィン姉ぇぇぇッ!!」
姉の額の角に、俺は刃の付いていない剣の腹を振り下ろした。
【癒しの剣】に込められた三重【癒しの奇跡】が、姉の頭部へと炸裂する。
「まさか私のアルフィンちゃんが……!?」
レティシア皇女の驚愕の声が聞こえた。
「お前のじゃない。俺の……俺たちのアルフィン姉だぁ!」
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