第38話。姉を【超回復】で救うべく戦い、父に強さを賞賛される
俺は剣先を、変わり果てた姉へと向けた。
「さあ、大人しくしてもらうぞ、アルフィン姉!」
レティシア皇女が、錬金術の成功率を上げるレアスキル【偽の神】で、人間と魔獣を融合させたキメラ兵を作り出していたのは、ゲームシナリオで知っていた。
しかし、姉がその実験台にされて、ドラゴン娘になって生き延びていたとは知らず、衝撃だった。
アルフィン姉は、ゲーム未登場だったからな。死んだものとばかり思っていた。
もしかして、本来のゲームシナリオでは、アルフィン姉と父上は相討ちになっていたんじゃないか……?
父上も本来なら、この戦争で命を落とす運命だ。その性格からして、リディア王女との誓いを果たすために、実の娘を手に掛けるといった最悪の展開も十分に有り得た。
俺はアルフィン姉を、よく観察する。
額から伸びる鋭利な角。背中で威圧的に広がる竜の翼。
それが小柄な童顔美少女フェイスに、なんというかベストマッチしており魔性の魅力を醸し出していた。
やっ、やばい……
悪いが俺は、ドラゴン娘がドストライクに好きなのだ。
「アルフィン姉をこんな姿にするなんてな……」
思わず全身が震えた。
「ゼノン……!」
俺に抱えられたヴァレリアが、言葉を失った。俺になんと言って声をかけるべきかわからず、胸が締めつけられている様子だった。
「ふふっ、あなたもアルフィンちゃんのこの魅力が理解できないって訳? まったく残念ね」
レティシア皇女が、からかうような笑みを浮かべる。
いや、逆だ。わかる。すごく、わかるぞ。
「さぁアルフィンちゃん、大本命のゼノンがやってきたわ。まずは弟君のお相手をしてあげなさい。抵抗できないように徹底的に痛めつけるのよ」
「……はい、マスター」
アルフィン姉は、剣に炎を纏わせた魔法剣を構えていたが、その炎が消えた。
もしかして、別の魔法を剣に【付与】《エンチャント》させるつもりか?
「……す、少し待てゼノン! 治すとは、まさかアルフィンの洗脳を解くどころか、怪物にされた身体をも元に戻してやれるのか!?」
「怪物だって!?」
父上に対して、俺は思わず声を荒げた。
ドラゴン娘を怪物と評するのは、ヒドくないか?
父上はアルフィン姉が洗脳されたこともさることながら、姿が変わったことを嘆いている様子だった。
無論、それは痛いほど理解できる。
理解できるが……ここだけの話、アルフィン姉が生きていてくれた上に、こんなにキュートになっていて、俺は喜びを禁じ得なかった。
「それは無理ですが、先程も言った通り、姉上の洗脳は俺の【癒しの奇跡】で、解くことができます!」
「……誠なのだな!?」
父上の顔に希望の光が差す。
ヒールとは傷ついた肉体を「正常な状態」へと再生する魔法だ。
身体構造そのものが作り換えられた場合、それが「正常」と化すため、変身を解くことはできない。
だが、脳もまた肉体の一部。そこに魔法薬物によって刻まれた洗脳という名の「傷」ならば、元に戻すことができる。
なにを隠そう、原作ゲームでは、聖女アリシアが、レティシア皇女に囚われて狼獣人にされてしまった騎士団長の息子を救い出し、その愛──要するに【癒しの奇跡】によって、洗脳を解くという感動イベントがあった。
敵となって襲ってきたヒーローを慈悲の心で癒やす聖女アリシアが実に良かったんだが……
アリシアの実態は、激ヤバだったんだよな。
「だが、身体の方は無理なのだな。アルフィンが怪物に……!」
父上は口惜しそうに歯軋りした。
その瞬間、俺の全身を怒りが貫いた。
「何を言っているんだ!? どんな姿になっても、アルフィン姉は俺たちの家族じゃないか!? 俺は今の姉は最高だと思う!」
「ゼノン……!」
父上とヴァレリアが俺の熱弁に息を飲んだ。
だけど、今の喜びを正直に表に出し過ぎると、まずそうな雰囲気なので自重することにする。
【スキル授与式】の失敗で、懲りたしな。
この世界の住人と、転生者である俺の常識は、ズレているんだ。
俺にとっては最高に魅力的なアルフィン姉が、父上には怪物に見えていても、それは致し方ない。
俺はゲームの主人公のような無難なことを言って父上を説得することにした。
「大切なのは外見じゃなくて、心だ! 俺はアルフィン姉の心を取り戻す! これからも姉と、ずっと一緒に暮らすんだ!」
「……そ、その通りだ。頼んだぞゼノン!」
父上は感銘を受けた様子で、深く頷いた。
俺は剣を構えるアルフィン姉をチラっと見る。
我が実の姉ながら、最高にかわいかった。
大切なのは外見じゃなくて心と言っておいてなんだが、見た目のおかげで、俺はアルフィン姉がますます大好きになった。
「ふふっ、大切なのは心ねぇ? そんなことを言ったところで、あなたはアルフィンちゃんの姿にショックを受けていたわよね? そんなアルフィンちゃんを、あなたは私以上に愛せるというの? お笑い草だわ」
レティシア皇女が、なにやら嘲笑ってくるが、俺は間髪入れずに断言した。
「愛せる!」
「なんですって……?」
「俺はアルフィン姉が大好きだ!」
「くっ……!」
これにはレティシア皇女も非常に驚いたようだ。
無表情だったアルフィン姉の顔が、ピクリとわずかに揺れた。
「わ、私も、あなたのお姉様を救うのを手伝うわ。私にとっても、お姉様となる人だものね!」
俺の腕の中のヴァレリアも、なにやら感激した様子だった。
「ありがとうヴァレリア、絶対にアルフィン姉を取り戻すぞ!」
「ええっ!」
……まぁ、取り戻すといっても、アルフィン姉は何か気に入らないことがあると、俺のことをポカポカ叩いてきたり、勝手に俺のオヤツを食べたりしていたので、今回の件を恩義に感じて、その辺のところを直してもらえると非常にありがたい。
「ゼノンよ……まさか息子に教えられることになろうとは……!」
父上が眩しいモノでも見るように、目を細めた。
「なるほど……ふふっ、これは興味深いわね。それじゃ、あなたの【癒しの奇跡】。果たしてどれ程のものか、確かめてあげるわ!」
レティシア皇女が指を鳴らすと、姉たち三剣士が、俺を包囲するべく動いた。
アルフィン姉が正面に留まって俺に圧をかけつつ、他の二人が左右に散って、俺の死角に回り込もうとしてきた。
背後を取られると致命的なので、バックステップで囲まれないように立ち回る。
「ゼノン! フリッツは、ワシが相手をする!」
右方向から迫る敵の前に、父上が割って入ってくれた。
「なら、左の敵はシュヴァルツ・リッターに任せて!」
ヴァレリアが、ガウェインを筆頭にした【死霊騎士】、デミリッチたちを合計10人を召喚する。彼女の疲労も限界に近く、今やこの人数を使役するのが、精一杯のようだ。
「ありがたい!」
だけど、これで俺は正面のアルフィン姉のみに集中できる。
姉には悪いが、多少ダメージを与えて動きを止めないと、彼女にヒールを注ぎ込むことができない。
そう思った瞬間、アルフィン姉が疾風迅雷の刺突を放ってきた。彼我の距離が、一気にゼロになる。
「つぅっ!?」
剣の切っ先が俺の頬を掠める。
アルフィン姉のスピード、パワー、技のキレ。そのすべてが、半年前より段違いに上がっていた。
姉は地面を蹴った。
飛び過ぎるかと思いきや、空中で反転しつつ、俺に剣を叩き込んできた。
ガギィィィンッ!
俺とアルフィン姉の剣が激突した。重い金属音が響き、腕が痺れる。
一撃防いだ程度では止まらない。
姉は俺の頭上の空中に張り付いたまま、無数の斬撃を繰り出してきた。
飛行能力を駆使した人間には不可能な連撃だ。
しかも、俺が片手に抱きかかえるヴァレリアを狙った攻撃も混ぜてきて、非常に厄介だった。
「きゃ!?」
眼前で無数の剣戟の火花が散って ヴァレリアは目を白黒させた。
一撃たりとも通さずに弾き返すが、竜の力を得たアルフィン姉の攻撃は、尋常じゃなく速くて重い。
しかも、地に足をつけることなく繰り出す連撃は、剣術の常識から外れており、攻撃が読めなかった。
一方で、姉は俺の技を知り尽くしており、俺の反撃はことごとく躱されてしまう。
【過剰回復剣】のようなアルフィン姉を殺してしまいかねない新技は使えないし、どうする!?
「【火焔弾】」
「【黒雷】!」
飛び退いて距離を取ると、すかさずアルフィン姉が魔法を放ってきた。
だけど、ヴァレリアが雷魔法で、姉の火炎弾を叩き落としてくれる。
「魔法攻撃は、私が対処するわ!」
「そうだヴァレリア、雷魔法で姉の動きを止めてくれ!」
今の攻防で閃いた。
姉を雷魔法で痺れさせてヒールを叩き込めば、俺たちの勝ちだ。
ヴァレリアと2人がかりなら、なんとか押し切れるぞ。
「わかったわ!」
ヴァレリアはさらに黒雷を発射するが、アルフィン姉はそれを巧みな動きで回避して突っ込んで来た。
魔法発動のタイミングを完全に読んでいるようだった。
次の瞬間、俺と姉の剣がぶつかり合って、鍔迫り合いとなった。
アルフィン姉のパワーは人外のそれだが、【超回復】によって強化された俺の右腕なら、押し返せる。
姉の体勢を崩して、ヴァレリアの黒雷を当てるチャンスを作るんだ。
そう思って、全身の力を込めた瞬間だった。
「【付与】、【雷帝】」
ドォオオオオオオン!
轟音と共に、姉の持つ剣に雷が纏われた。
「魔法剣!?」
「きゃう!?」
剣を伝った電撃によって、俺の全身が痺れ、逆に体勢を崩された。
ヴァレリアも感電して、苦痛の声を上げる。彼女が練り上げていた魔法が、発動前に霧散してしまった。
うまい。実に効果的な魔法剣の使い方だ。
最初から、雷の魔法剣が使われていたら、鍔迫り合いにはならず、体勢を崩されることはなかった。
幸いなことに、【超回復】の自動再生能力のおかげで、身体が痺れて動けなくなったのは一瞬だった。アルフィン姉の袈裟斬りは、俺の右肩を僅かに斬り裂くだけで深手には至らなかった。
「【火焔弾】」
アルフィン姉はここぞとばかり切り札を切ってきた。
姉のロングスカートから竜の尻尾が伸びる。尾の先端と、彼女の左手から、逃げ道を塞ぐように同時に炎の弾丸が発射された。
だが、これは予想できていた。
動きにくいロングスカートを着ているのは、ドラゴン娘の特徴である尻尾を隠し、敵の不意を突くためだろうってな。
「ヒール!」
俺はあえて回避せずに、炎の弾丸に右足を貫かせた。すぐさまヒールで完全回復して、機動力を奪われるのを防ぐ。
ヴァレリアにもヒールをかけて、ダメージを癒した。
「……本当に【癒しの奇跡】!? しかも、麻痺からもすぐに立ち直った!?」
レティシア皇女が、驚愕の声を上げる。
俺は回復、強化した右足で、アルフィン姉の尻尾を蹴って距離を取った。
これは姉にとって予想外の攻撃だったようで、命中する。
「蹴りにヒールを乗せたんだが……洗脳は解けないか」
これで決まるかと一瞬期待したが、アルフィン姉は、変わらず剣を向けてきた。
「……おそらく、頭部に直接、【癒しの奇跡】を流し込む必要があるわ」
アルフィン姉を観察していたヴァレリアがアドバイスをくれた。
ヒールそのものは効いたようだが、姉の生命力を回復させただけのようだな。
「ゼノンよ、お前は剣聖に勝るとも劣らぬ身体能力を手に入れていたのだな!?」
横目で戦況を見ていた父上が、驚嘆した。
「しかも、剣技も段違いに磨かれておるではないか!?」
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