第37話。ゼノン、剣聖の父の大ピンチを救う
【剣聖バルド視点】
「ふっ、いくら吠えたところで、力の差は埋まらないわ。さあ、アルフィンちゃん。実戦テスト、再開よ!」
レティシアが指を鳴らした。
同時に目の前のアルフィンの姿が掻き消える。
ワシの死角となる潰れた右目側に、回り込んだのだ。
「ぐぅッ!?」
剣でアルフィンの斬撃を受けると同時に、両腕の骨が軋むほどの衝撃が走った。
重い。
これが、竜の力とやらか!
「【付与】、【炎帝】」
さらに、アルフィンの持つ剣に、炎が纏われた。
アルフィンが、炎の魔法を剣に【付与】したのだ。
「ハハッ! どう? あなたが、邪道と切り捨てたアルフィンちゃんの魔法剣の味は?」
「ぬあッ!?」
その熱が、剣を持つワシの両手を容赦なく焼く。
「こんな素晴らしい【付与】の才能を持っていたのに、アルフィンちゃんはあなたに邪道と罵られて、悲しんでいたわよ?」
レティシアが、ワシをなぶりものにするかのように笑う。
「アルフィンちゃんは強くなって、大好きなお父様に認めて欲しかっただけなのにね。そのお父様は、恋い焦がれた王女様との誓いを果たすことしか頭になくて、アルフィンちゃんのことなんて、まるで考えていなかった。それで彼女の才能を潰しちゃうなんて、ふふっ、滑稽ねぇ」
「貴様……!」
レティシアめ。アルフィンの心身を改造する過程で、その記憶を読み取ったのか。
図星を刺されて、ワシは動揺した。
なにより、アルフィンがワシに認めてもらいたかったのだと知って、忸怩たる思いだった。
「でも、私は違うわ。私ならアルフィンちゃんの才能を限界まで引き出して伸ばしてあげられるわ。ほら、今のアルフィンちゃんは、最高に輝いているでしょう!?」
「ぐっ!?」
押し込まれたワシが体勢を崩した瞬間、アルフィンの左手が目前にかざされた。
赤く輝く魔力が、そこに収束。至近距離から広域殲滅魔法を放つ気だと悟った。
「許せアルフィン!」
ワシは娘の腹を蹴り飛ばして、反動で距離を取った。
直後、元いた場所を太陽のごとき火球が焼き尽くす。
その爆風を切り裂き、残り二人の剣士が左右から襲いかかってきた。
「この太刀筋……フリッツにゲイルか!?」
太刀筋のわずかな癖から、敵が何者かわかった。
ワシが自ら育てた弟子。戦場に消え、死んだとばかり思っていたが、まさかこの魔女に囚われていたとは……
こやつらも、なんらかの魔獣の因子を埋め込まれたのか、身体能力が大幅にアップしていた。それがアルフィンを加えて3人がかりとなれば、かなり厄介だ。
なにより、この2人も魔法を使ってきた。
雷撃が至近距離で弾け、ワシの剣を持つ手が痺れる。
「ぐぉお!?」
そこにアルフィンの音速に近い剣が叩き込まれた。
勘で弾いて、なんとかしのぐ。
だが、アルフィンの魔法剣の熱で、ワシの両手が焼けて痛みが走った。
そうだ。あの炎が【付与】された剣が、まずい。
受け太刀をすれば、手を火傷するだけでなく、ワシの剣が融解しかけていた。
何度も受ければ、剣が破壊されるだろう。
これが、アルフィンがワシに有効性を訴えていた魔法剣士の戦い方か……!
かつて、ボルドごときの戦い方をマネしよってと腹立ち紛れに一蹴したが、ここまで凄まじいものだったとはな。
「すまぬアルフィン。ワシが聞く耳を持っておれば、お前のこの見事な才を伸ばしてやれたものを……!」
そうすれば、アルフィンはボルドに敗れず、今もワシの元におったかも知れぬ。
ゼノンに対してもそうだ。息子の才能とスキルを見誤った。
ワシは自分の物差しでしか、子供たちを評価しておらなかった。
もし許されるなら、今度は子供たちと、きちんと向き合いたい。話がしたい。
「……お父様」
その時、アルフィンの瞳から涙が溢れた。
「殺して、私を……!」
悲痛な懇願と共に、娘の手から連続で爆発魔法が放たれる。
ドドドォオオオンッ!
ワシは地面を蹴って、効果範囲外に逃れて転がった。
「アルフィン……!?」
今、アルフィンはワシを撃つのを僅かに躊躇った。そのおかげで、無傷での回避に成功できた。
アルフィンはレティシアに、完全に洗脳された訳ではないのか?
では、やはりレティシアさえ倒せれば……
「うん、あら? 元の人格は完全に潰した筈だけど?」
レティシアは首を捻った。
「ふふっ、まあいいわ、アルフィンちゃんは実験作だものね」
レティシアは何がおかしいのか笑い声を上げた。
「本命のゼノンが手に入るなら、最悪、アルフィンちゃんは壊れても問題無いわ。それで今回の痛手は帳消しにできる。きっと、ボルドも草葉の陰で、喜んでくれているわよね!」
「お、おのれ……!」
ワシは防戦一方に追い込まれた。
アルフィンたち3人は、見事な連携でワシを攻め立てる。
だが、ワシとて剣聖。
反撃しようと思えば、チャンスは何度かあった。
しかし、斬れるわけがない……ッ!
いかに怪物と化してしまったとしても、我が娘を、弟子たちを。
なにより、涙を流すアルフィンは、ワシに救いを求めておるのだ。
なんとか、こやつらを傷つけずに囲みを突破して、レティシアめを叩き斬らねば。
「……差し違えてでも、貴様を倒す!」
ワシは覚悟を決めて歯を食いしばった。
アルフィンたちの攻撃をあえて防御せずに、レティシアに向けて突撃を敢行するしかない。
ワシは死ぬだろうが、それでアルフィンたちを解放することができるなら、本望。
辺境伯家は何の心配もいらぬ。
ワシには、ワシの跡を継いでくれる頼もしい息子がおるのだからな。
ゼノンとアルフィンが、手を取り合って辺境伯家を盛り立ててくれるなら、これに勝る喜びがあるだろうか?
「……リディア様、我が誓いはここまです」
ワシは王国を守り抜くというリディア様との誓いを捨てた。
人生最後の一太刀は、娘アルフィンと息子ゼノンを守るために。
「ゼノンよ。後は頼んだぞ!」
ワシは、意を決してレティシアに突撃しようとし……
「やめろ、アルフィン姉!」
横合いから飛び込んできた影が、剣を振りかざしたアルフィンを蹴り飛ばした。
「なッ、ゼノン!?」
目の前に着地したのは息子ゼノンだった。
驚嘆すべき全身のバネとスピードだった。こやつ、いつの間に、こんなに強くなったのだ?
ゼノンは、片手にヴァレリア殿を抱きかかえ、もう片手には抜き身の剣を持っていた。
「黒雷!」
ヴァレリア殿の放った漆黒の雷撃が、フリッツたちを牽制し、後退させる。
吹っ飛ばされたアルフィンが空中で静止して、地面に降り立った。その背中には、いつの間にか竜のごとき翼が生えていた。
「アルフィン姉上、ドラゴン娘って、かなり大胆なイメチェンを……!」
ゼノンは剣を構えて、ワシらの間に割って入った。
「ゼノンよ! アルフィンは魔法薬物で、レティシアの手駒にされておるのだ! 油断するでない!」
ワシは姉との再会を喜ぶゼノンに、アルフィンは敵だと警告した。
ゼノンとアルフィンを戦わせたくなかったワシは、不甲斐なさに震えた。
「大丈夫です!」
だが、ゼノンは驚くべき宣言をした。
「姉上も兄弟子たちも、全員、俺のヒールで正気に戻します!」
「なんですって?」
レティシアが、信じられないといった顔をした。
「あなたがゼノンね? あなたの【癒しの奇跡】の報告は受けているけど、そんなことができるものですか」
それは残念ながら、ワシも同感だった。
レティシアの錬金術が、そんな簡単に破れるとは思えぬ……レティシアを倒せたとしても、アルフィンたちを正気に戻せるかは賭けだった。
「俺の【超回復】なら、治せます! 聖女アリシアにできたのなら、俺にだってやれる筈だ!」
だが、ゼノンはワシの不安を一蹴する叫びを放った。
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