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第36話。剣聖バルド、己の罪を悔い、息子を自分以上の男と認める

【剣聖バルド視点】


 ワシは少数精鋭の手勢と共に、群がる敵軍を蹴散らして敵本陣に突入した。


 憎き敵総大将レティシアを見つけるなり、大地を蹴って大きく跳ぶ。


「――――チェストォオオオッ!!」


 そのまま奴の脳天めがけて剣を振り下ろした。


 余波で大地が陥没して亀裂が走り、敵兵とゴーレムどもが、吹っ飛ばされて爆散する。

 だが、肝心のレティシアを斬った手応えがなかった。


「……ふふっ、まったく、せっかちな男ね」


 余裕の声が、後ろから投げかけられた。

 レティシアは煙のように消えて、ワシの背後に出現していた。その身には、かすり傷ひとつ負っていない。


「挨拶もなしにいきなり斬りかかるなんて。無粋だとは思わなくて?」


 まだ20歳という若さの金髪碧眼の美しい娘だ。


 皇女の癖にヘソ丸出しの踊り子のような露出度の高い格好をしているのは、魔法効果を高める意味があるらしい。


 魔法──特に錬金術に取り憑かれた怪物が、このレティシアだ。

 魔法使いなど軟弱と断じるワシも、こやつの……レティシアの力だけは認めざるを得ない。なにしろ、あのゴーレムどもを開発したのだからな。


「幻惑の魔法か? ふん。小細工の好きなバルザーク帝国の皇女らしいな」

「おのれ、魔女めッ!」


 即座に反応した配下たちが、レティシアへ殺到する。


「会話の邪魔よ」


 刹那、レティシアの背後より、3つの影が躍り出た。

 瞬きする間に、配下たちが全員斬られて倒れ伏せる。


「……グレイヴァン流剣術だと!?」


 ワシは愕然とした。

 我が配下を倒した3人の仮面の剣士。


 その構え、足運び、そして太刀筋は見紛うはずもない。我が家に代々伝わる『グレイヴァン流剣術』そのものではないか。


「バカな……我が配下に、帝国に寝返る者がいたというのか!?」


 しかも、この3人の動きは、達人級だった。


 特にレティシアの側に立つあの少女の実力は、このワシに近いのではないかと直感が警告を鳴らした。


 小柄な上に、戦場に似つかわしくない足首まで隠れるようなロングスカートを履いておるが……

 レティシアめ、これ程の切り札を隠し持っていたのか。


 しかし、グレイヴァン流剣術の達人で、こんな若い娘がおったか?

 なにより、今の太刀筋は……


「皇女殿下ぁッ! は、早く安全な場所までお逃げ下さい!」

「あーっ、もう野暮ね。今から、お待ちかねの剣聖相手の実戦テストだというのが、わからないの? しっしっ!」


 帝国兵がレティシアを守ろうとして駆け付けてくるが、奴は邪魔だと言わんばかりに手で追い払った。


「し、しかし……!」

「いいから手を出さずに黙って見ていなさい。それとも、この私の最高傑作が、剣聖に劣るとでも?」

「はっ!」


 底冷えするような声で言われて、レティシアの兵たちは引き下がった。


「実戦テストだと……? そやつらは、何者だ!」


 ワシにとっては好都合の展開だったが、三剣士が我が家に縁のある者かが気になった。もし裏切り者なら、捨て置けん。


「ふふっ、疑問に答えてあげるとね。捕虜に寝返るよう説得しても、誰1人として寝返られなかったわよ? 見上げた根性ね」


 レティシアは妖艶に笑った。

 奴は、愉快げに少女剣士の頬を撫でる。


「だから、魔法薬物による洗脳で、頭を弄り回して、無理やり私に忠誠を誓わせてあげたわ。いわば、この子たちは自ら思考して戦うゴーレム。どう? 素敵でしょう?」

「……魔女め!」


 ワシは怒りに歯ぎしりした。

 我が家への忠節を曲げなかった天晴な者たちを、レティシアはもてあそんだというのか。


 やはり、一刻も早くこの女を斬らねばならんと、ワシは腰を落として剣を構える。


「そんなに怒らないでちょうだい。ボルドに斬られて瀕死だったあなたの娘を、私は助けてあげたのよ? ボルドに見つからないように工房まで運んで処置するのは、それはそれは大変だったんだから」


 パチンとレティシアが指を鳴らすと、少女剣士がその仮面を取った。

 そこに現れた顔を見て、ワシの思考は凍りついた。


「ア、ル……フィン?」


 そこにいたのは半年前に戦死したはずのワシの娘アルフィンだった。


「い、いや、これはどういうことだ……!?」


 アルフィンの額からは、角のような物が生えていた。

 無論、かつてのアルフィンにはそんな物は無かった。一瞬、別人かと思ったが、すぐにその考えを打ち消す。


 長年、共に暮らしてきたのだ。


 その顔、その佇まい、その雰囲気。見れば見るほど、この少女が、ワシの娘アルフィンであることの確信が深まった。


 なにより、その太刀筋だ。最初に引っかかりを覚えてまさかと否定したが、アルフィンの太刀筋と瓜二つだった。


「随分とかわいらしくイメージチェンジしたでしょう? 錬金術で『竜の因子』を埋め込んだのよ」


 レティシアが自慢気に語りだす。


「……竜の因子だと?」

「ええ。本来なら人間と魔獣の融合なんて、拒絶反応が起きるから絶対に不可能。でも、私のスキル【偽の神】(デミウルゴス)なら、その奇跡が低確率とはいえ可能となるわ。この娘たちはね。何度も何度も失敗し、何人も何人も犠牲にした末での貴重な成功例なの」


 レティシアはうっとりとした表情で、アルフィンの頬を愛おしそうに撫で回す。娘は人形のように無表情のままだった。


「特にこのアルフィンちゃんは特別。無限に近い竜の生命力を宿しているの。どんな傷を負っても即座に復活できるのよ。例えば、こんな風にね?」


 アルフィンの近くにいた剣士が、アルフィンの左腕を斬り飛ばした。


「な……っ!?」


 しかし、すぐにアルフィンの左腕は再生し、元通りになる。

 アルフィンは、そんな目に遭ったというのに、眉ひとつ動かさなかった。


「素晴らしいでしょう!? まさに聖女の【癒しの奇跡】の再現! 神の御業に、この私の錬金術が近づいたのよ! アハハハハハッ! やったわ!」

「ゆ、許せん……!」


 ワシは剣を握る両手に力を込めた。

 レティシアめは、ワシの大事な娘を怪物に変え、自らの手駒にしたのだ。


 よりにもよってアルフィンに、ワシらを殺させようとしておったとは……!

 怒りのあまり全身の血が沸騰しそうだった。


「ふふっ、じゃあ、アルフィンちゃん命令よ。あなたのお父様の手足を切り落として捕らえてちょうだい」

「……はい、マスター」


 アルフィンも、腰を落としてワシと同じ構えを取る。

 殺気も気負いも葛藤も、いかなる感情もその姿からは感じられない。言うなれば虚無。


 本当にアルフィンは、この魔女の言いなりの人形にされてしまったのか!?


「はぁッ!」


 ワシは一気に踏み込んで、レティシアに剣を叩き込んだ。


 だが、その斬撃はアルフィンの剣によって防がれる。

 その力は、以前より比べ物にならぬ程、増していた。


「アルフィン、ワシがわからぬか!? 退けい!」

「……」


 必死に呼びかけても無言、無反応。

 だが、一縷の望みをかけて、ワシは説得を続ける。


「その魔女は、ワシらに殺し合いをさせようとしておるのだぞ!」

「うーん? それはちょっと違うわね」


 レティシアはきょとんとして首を傾げた。


「私の目的は、あなたのような優秀な戦闘スキル所有者を捕らえて、実験材料にすることよ。さらには、アルフィンちゃんたちキメラ兵の実戦テストも行いたいという訳」


 レティシアは、ワシらのことを実験動物でも見るような目で見ていた。


「ボルドは、『武人に対する冒涜でございます!』なんて言って反対していたから。これまで、隠れてコソコソやっていたけど……ボルドは、討れてしまったから、これからは大手を振ってやれるわね」

「な、なに……? ボルドが討たれただと!?」


 跳び退いてアルフィンの斬撃を躱したワシは、驚愕した。


「あら? あなたの指示で、ゼノンにダラム城を落とさせたのでしょう? わざわざボルドがいる時を狙ったなんて……あなたは息子が授かったスキルの強さを知って、この作戦を立てたのよね? まったく、してやられたわ」


 レティシアは肩を竦めた。


「そんな規格外の息子がいるなんて。ぜひ紹介してくださらない?」 

「……ま、まさか、ゼノンがボルドを討ったというのか!? このワシが討つことが叶わなかったあの男を!?」

「はぁ? まさか知らなかったの?」


 ……な、なんということだ。

 ゼノンは、名将の器であるだけではなかった。

 武人としても、すでに超一流となっていたのだ。


「ハハハハハッ! そうか! ならば、なんの憂いも無い! レティシアよ、この場で全身全霊の力をもって貴様を討つ!」


 ワシの全身に歓喜が漲った。

 たとえ、この場でワシが討たれても、ゼノンがおるなら、グレイヴァン辺境伯家は安泰だ。


 ゼノンは、将としても、武人としても、いずれワシなど及びもつかない高みに登り詰めるだろう。


 ならば、ワシの成すべきことは、ただ一つ。


 父として、息子ゼノンと娘アルフィンを戦わせるような悲劇だけは食い止めてみせる。


 アルフィンは魔法薬物によって、レティシアに忠誠を誓わされているようだ。


 ならばレティシアを討てば、アルフィンを正気に戻せる可能性が、僅かながら有る。ゴーレムと同じようにレティシアの命令のみに従うようにされておるなら、攻撃を中止するかも知れん。


 これは贖罪だ。


 ワシは決して、良い父親とは言えなかった。

 剣術に魔法を取り込もうとしたアルフィンを邪道と叱りつけ、ゼノンを外れスキル呼ばわりした。


 最強の剣士となって王国を守るという、リディア様への誓いを果たすため、剣に拘り過ぎた故に、愚かにも子供たちを苦しめてしまったのだ。

 

 その罪を償わねばならぬ。このレティシアを討つことによってな。


「ふふっ、いいわ、かかって来なさい。あなたを倒したら、次はゼノンを手に入れる。彼こそ私の理想。今、私はゼノンを想って、胸がトキメイてしまっているのよ!」


 レティシアは恍惚とした様子で、両腕で自らの体を抱いた。

 こやつ、アルフィンだけでなく、ゼノンまで手に入れようと言うのか?


「そんなことはワシがさせん。剣聖バルド・グレイヴァン、推して参る!」 

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