第32話。ゲーム知識で、8000体のゴーレム兵団を返り討ちにする
ダラム城の城壁の上に立った俺は、帝国軍の本隊──その先陣であるゴーレム兵団が、地響きを鳴らして、押し寄せて来るのを眺めていた。
その数、約8000体の巨人の集団だ。
そいつらが、津波のようにこの城を目指して来る様は、まさに圧巻だった。
その後ろには、魔法に長けた帝国軍約6万の兵が続いて来ている。予想通り、敵総大将レティシア皇女は、全軍でもって一気にこの城を落とすつもりらしい。
「……ひっ、こ、こいつはやべぇ」
俺と共に城壁に登っていた数十名の傭兵が、恐怖の声を漏らした。
彼らには、ダラム城にグレイヴァン辺境伯軍の軍旗をいくつも立ててもらっていた。
俺がこの城を奪還した証だ。
これによって、父上の軍に、帝国軍の後続の魔法部隊を突いてもらうのが狙いだった。
城の庭では、帝国軍の兵糧をガンガン燃やしている。このため、夜であっても煌々と明るく、遠くからでもこの黄色の軍旗が見える筈だ。
レティシア皇女はこの様を見て、さぞかし泡を食っていることだろう。
この城の兵糧を失えば、6万の大軍は飢えで苦しむことになる。
大軍の弱点とは、補給だ。
ゲームでもそうだったのだが、兵数が増えれば増えるほど、彼らを食わせるための兵糧が大量に必要となる。
地球の歴史上でも、大軍が崩壊するケースは戦闘による敗北ではなく、補給の断絶によるものが多い。
例えば、ナポレオンのロシア遠征は、補給の崩壊により、60万の大軍が壊滅する悲劇となった。
このゲーム『君恋』も、そのあたりのリアリティを追求しており、兵糧がゼロになると、大軍が弱体化して、消えていく仕様になっていた。
ゲームでは聖女アリシアを操作して、帝国軍の兵糧庫を焼き払うのが、実に楽しかったなぁ。
『やぁったああッ! 燃えろ! 燃えろ!』
と、火を放って大喜びする聖女アリシアが、普段とのギャップが魅力的だと、ファンの間でネタにされていた。
さて、あとは俺たちが持ち堪えさえすれば……
「ご苦労様、ここはもう危ないから、下がりなさい」
俺の隣に立つヴァレリアが、傭兵たちに声をかけた。
「へ、へい。ですが、大将、あんな奴らにホントに勝てるんですか?」
どうやら、傭兵たちは、すっかり怯えてしまっているようだな。
ゴーレム兵は1年前に登場したばかりの帝国の最新兵器だ。傭兵も実際に戦うのは、今回が初めてらしい。
「大丈夫だ。第一世代のゴーレム兵の弱点は知り尽くしているからな」
俺は傭兵たちを安心させてやるべく、自信を持って告げた。
大迫力で攻めてきている連中ではあるが、しょせんは、単純な命令に従うだけのロボットに過ぎない。
ボルド将軍のような生身の人間とは異なり、自分で考える頭を持っておらず、カタログスペック以上の力を発揮することもないため、罠に嵌めるのは簡単だった。
「まったく、ゼノンの情報収集能力には、驚かされてばかりね。帝国に何人のスパイを送っていたの?」
「……まぁ、詳しいことは言えないな」
ゲーム知識とは説明できないので、ヴァレリアの質問には、お茶を濁しておく。
それに不幸中の幸いというべきか。
ボルド将軍が城壁の一角を崩してくれたことで、敵の動きが読みやすくなっていた。
案の定、守りの弱くなった箇所に向けて、ゴーレム兵は全力で突っ込んできている。
「ヴァレリア、今だ!」
「ええっ!」
俺の指示と同時に、土の中に隠れていたアンデッドたちが一斉に起き上がって、ゴーレム兵団の足にしがみついた。
勢いに乗ったゴーレムたちは、アンデッドに躓いて、盛大にすっ転ぶ。
ドドォオオオオンッ!
転倒した先頭集団にぶつかって、後続のゴーレムたちも、次々に倒れた。
「……や、やったわ!」
ヴァレリアが喜びの声を上げる。
「すげぇ。また大将の作戦が決まったぜ!」
城内からの傭兵団から、大歓声が湧き上がった。
ゴーレム兵の弱点の1つは、人型であること。つまり、とても不安定なのだ。
原作ゲームでも二足歩行のあいつらは、障害物に激突すると転倒し、スタン状態になっていた。
だから、障害物や地形を利用した戦術が、有効だった。
アンデッドを使って、派手に転ばせれば足止めになる。そう考えての作戦だった。
「今だ! 魔法部隊、雷撃……!」
俺は間髪入れずに指示を飛ばした。
城壁に並ぶヴァレリアのデミリッチ部隊が一斉に魔法を唱える。
「放てッ!」
夜の帳を切り裂いて、数百条の紫電がゴーレム兵団に降り注いだ。
轟音と共に、奴らから黒煙が噴き上がる。
第一世代ゴーレム兵の魔導回路は絶縁処理が甘く、雷を喰らうと停止してしまった。
こいつらの最大の弱点は、雷魔法なのだ。
「うぉおおおおッ!?」
「勝てる、勝てるぞ、これは!」
「本当ね! 本当にゼノンの言う通り、奴らは雷魔法に弱かったのね!?」
城壁上のヴァレリアと傭兵たちが、目を見張った。
「その通りだ! ガンガン、雷魔法を浴びせるんだ!」
雷撃はゴーレム兵の魔導回路を焼き切り、奴らの巨体をただの鉄クズへと変える。
本来なら奴らの位置は、まだ魔法の射程圏外だが、ゴーレム兵は金属の塊であるため、雷魔法なら届いた。
後続のゴーレム兵が突撃を続行するも、倒された味方の残骸がバリケードになって阻まれ、雷撃の餌食になっていく。
「よっし!」
ゴーレム兵は、制御権を持つレティシア皇女の命令を忠実にこなす。
その命令が、状況に合わず、どんなに無意味かつ、無謀なものであってもだ。
「ヴァレリア、この隙に敵の数を減らせるだけ、減らすんだ!」
「わかったわ、【黒雷】!」
ヴァレリアも黒い雷を放ち、ゴーレム兵団を撃破していく。
俺は指揮を取りつつ、彼女をヒールで癒した。
さらに俺は、ゴーレム兵の装甲と同じダマスカス鋼の槍を、城壁上に大量に用意していた。この城にあった帝国軍の武器だ。
この槍を、ゴーレム兵に向かって思い切りぶん投げる。
夜気を切り裂いて飛翔した槍は、ゴーレム兵の装甲をブチ貫いて、串刺しにした。
「す、すげぇ! 人間の筋力じゃねぇ!?」
「あんな遠くの敵を撃つなんて……大将は本当に魔法系スキル持ちかよ!?」
桁外れの俺のパワーに、傭兵たちが腰を抜かす。
「的が多くて大きいから当てやすいな。ドンドン行くぞ!」
「さすがね、ゼノン!」
俺は次々に槍を投げ放ち、迫るゴーレム兵を撃破した。
やがて、ゴーレム兵団は味方の残骸を迂回しだした。
「レティシア皇女の指示があったようだな。だが……!」
しかし、俺はその行動を予測していた。迂回先にも伏兵のアンデッドを配置しており、ゴーレム兵を転倒させる。
「……すごいわ! 何もかもゼノンの予想通りね!」
「あ、あの化け物の大軍を手玉に取っている!?」
ヴァレリアと傭兵たちが、俄然、勢いづいた。
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