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第31話。剣聖バルド、息子の大手柄に歓喜し、名将だと評価する

【剣聖バルド視点】


 ワシは、剣聖バルド。約20年の長きに渡り、バルザーク帝国の侵略を跳ね返してきた誉れ高き王国の盾、グレイヴァン辺境伯である。


 今、ワシの胸に去来するのは23年前に、最強の剣士となって、王国を守って見せると誓いを立てたリディア王女の姿だ。


『バルド殿、あなたの誓い、うれしく思います。どうかあなたの剣で、我が王国の民を守ってくださいね』


 リディア様はそうおっしゃった。

 このワシが、生涯で唯一愛した女性。別の貴族令嬢と政略結婚をした後も、リディア様との誓いを守るために、ワシは懸命に剣を振るってきた。


 あの方のいる王都に、不埒な侵略者を近づけるものかと。真にあの方を守るのはアスフォデル公爵エルンストではなく、このワシだと密かに想い続けてな。


 だが、情けないことに、この夜、ワシは辺境伯軍の本陣の天幕で、配下からまたもや惨憺たる被害報告を受けていた。

 今日の帝国軍との戦いで、我が軍はまたしても敗北の苦渋を舐めさせられたのだ。


「お館様、本日の我が軍の死者は300人近く……怪我人は500人にも及び、もはや医療物資も底を付きております」

「おのれ……!」


 ワシは口惜しさに、簡易机を叩く。

 魔法などに頼る軟弱な帝国軍……かつて連戦連勝を重ねていた頃は、そう侮っておったが、奴らとの力関係は今や完全に逆転していた。


 あのゴーレム兵団の強さは、ワシらが長い歴史をかけてきた培ってきた剣術を上回っておる。


 我が軍は、戦が始まった1年前は4万人近くいたが、今ではまともに戦えるのは半数以下の1万5000人程度に激減していた。


 斬撃を弾き返すゴーレム兵にまともにダメージを与えられる者は少なく、じわりじわりと兵数を削られてきていた。


 腹立たしいのは、奴らがその気になれば、ワシらを殲滅できる力があるのに、なぜか、それをせぬことだ。


 こちらの兵力を削ってから、決戦を仕掛ける気かと思っていたが、帝国軍の総大将レティシアめは、どうやら自らが開発したゴーレム兵の実戦テストに耽っているようだった。


 捕らえた敵兵からの情報でわかったことだが、このワシを舐めているとわかり、腸が煮え繰り返る思いだった。

 

「……アルフィンの仇を取ってやるどころか、このワシが、20歳そこそこの皇女に手玉に取られているとはな」


 半年前、我が娘アルフィンは18歳という若さで、戦場に散った。


 アルフィンの率いる部隊は全滅したため、誰に討たれたのかはハッキリせぬが……部隊ごとあの娘を討ち取れるとすれば、レティシアの懐刀、ボルド将軍であるとしか考えられぬ。


 後日、アルフィンの死体を配下に探させたが、見つからなかった。

 まともな弔いすらしてやれなかったのだ……


 ワシはこの手で、娘の仇を討ちたいと意地を張ってしまったが故に、なにより、リディア様に情けない姿を見せられぬと頑なになってしまったが故に、積極的に王国政府や他家に援軍を求めて来なかった。


 勝手に王国政府に援軍を求めた配下を、愚かにも叱り飛ばした。


 それ故に取り返しがつかぬほどの劣勢に追い込まれ、日々、悔しさに震えていた。


「……もしゼノンが、堕落することなく【剣聖】のスキルを得ていたなら」


 繰り言を言っても詮無きことだが。

 ワシは息子ゼノンと共に戦場を駆けたかった。


 右目を失ったワシとは異なり、ゼノンならアルフィン以上の剣士になれると期待していたのだがな……


 しかし、それはワシの買いかぶりだった。

 ゼノンは【剣聖】どころか、戦闘スキルさえ得られなかった。


 おそらく、剣の修行をサボって、魔法などにうつつを抜かしていたのだろう。

 そうでなければ、訳のわからん魔法系スキルを得て喜ぶことなど、あり得ん。


 アルフィンが、剣術に魔法を取り込もうとしたのを見て、愚かにも触発されたか?


「せっかくの剣の才能を腐らせおって、愚か者めが」


 ワシは頼みの綱として、リディア様とエルンストの娘ヴァレリア殿をゼノンの婚約者にした。


 もはや、意地を張っているどころではなかったからだ。

 旧友のエルンストからの『大罪人となった娘を嫁にもらって欲しい』という頼みに、渡りに船とばかりに飛び乗った。

 

 魔法使いを下に見ていたワシだが、ヴァレリア殿と、シュヴァルツ・リッターの魔法使いたちを戦力に加えることにした。


 さらにワシ自らが、通信魔法で王都への援軍要請も行った。


 しかし、ままならぬことに、ヴァレリア殿はこの辺境にやって来る途中で帝国軍の襲撃を受け、護衛のシュヴァルツ・リッターを全滅させられたばかりか。本人は身体が元々、弱かったこともあり、体調を崩してしまったようだ。


 しかも、間の悪いことに王国軍は、南で発生した魔物の大軍の討伐に出払ってしまったらしい。


 だが、不幸中の幸いというべきか、王国軍の代わりに援軍として、王都から聖女アリシア様の義勇軍がやって来ることになった。


 義勇軍は、聖女アリシア様が民を募って組織した軍とのこと。ズブの素人の集まりなので戦力としては、あまり期待できぬが……


 【癒やしの奇跡】の使い手である聖女様がやって来てくだされば、負傷兵を癒してもらうことで、逆転の目が出てくる。


 このワシの古傷の右目も、もしかしたら癒してもらえるかも知れぬ。

 ワシが敵将ボルドに遅れを取ってきたのは、この右目が光を失ったからだ。この右目させ、見えるようになれば。


「……ワシは必ず誓いを果たして見せますぞ、リディア様」


 ワシはそう独り言を呟いた。

 なにより、お預かりしたヴァレリア殿は、若き頃のリディア様にそっくりだった。

 

 敗北し、愛娘を死なせたとあっては、ワシはリディア様に一生顔向けできぬ。

 

「一大事! 一大事でございます!」

「敵の夜襲か!?」


 その時、天幕の中に伝令兵が転がり込んできた。

 ワシは剣を手にして、立ち上がる。


 敵のゴーレム兵は、眠る必要が無く、夜も平然と攻めてきた。

 奴らが大型弓バリスタから放つ矢は、人間を鎧ごと粉砕するほど強力であり、対応の遅れは壊滅的な被害に繋がる。


「いえ、ダラム城に火の手が上がっております!」

「なんだと……?」

「しかも、敵の全軍がダラム城に向かって退却し始めております!」


 敵の前線基地から、火災……? 全軍退却?

 何かとてつもない事件か事故が、ダラム城で起こったということか。

 

「……反撃の好機か!?」


 思わず歓喜したワシだったが、すぐに考え直す。


 これはワシらを誘い込もうという敵の計略かも知れぬ。

 喜び勇んで敵の背を討とうとして、罠に嵌められては元も子もない。

 もはやこれ以上、兵を失う訳にはいかんのだ。


「急ぎ偵察を出して、ダラム城で何があったか調べさせろ!」


 ワシは慎重に動くことにした。

 考えられることとしては、ダラム城で反乱が起きたことだが……


 そんな大袈裟なものではなく、すぐに鎮火する程度のボヤ騒ぎの可能性もある。焦らず、まずは情報収集に徹するべきだ。


「お館様、急ぎダラム城の火災について、ご報告したいことがございます! 我々は、ゼノン様配下の本城守備隊の者です!」


 そこに3人の兵が、許可も得ずに天幕に押し入ってきた。


「なに、ゼノンの……? 申してみよ」


 本来なら、軍規違反で叱りつけるところだが、敵軍の異変について知りたかったワシは、不問にした。


「はっ! 実はゼノン様が、敵に降ると見せかけて、ダラム城に侵入しました。そして、城主リュシアン皇子を討ち、兵糧に火を放ったのです!」


 これはまさに青天の霹靂だった。

 理解するのに、しばしの時を要した。


「……ま、誠であるのか!?」

「はっ! そのために、ゼノン様は、ずっと無能を演じられておられたのです! すべてはリュシアン皇子を油断させて討ち取り、ダラム城を奪還するために! 我らの勝利のために!」

 

 にわかには信じられない話だった。

 だが、守備兵の目は輝きに満ちており、とても嘘を言っているようには見えぬ。


 しかし、単独でそんな無茶なマネをすれば、ゼノンはすぐに殺される筈。

 兵糧に火を放つことに成功したということは、なにより、敵軍が全軍後退したということは……


「つ、つまり、ゼノンは、それなりの兵を従えており、今まさにダラム城を奪還しようと戦っておるということか!?」


 凄まじいことだった。

 成功すれば、戦の形勢が一気にひっくり返る。


「はっ! ゼノン様は、お館様の壺とヴァレリア様の装飾品を売った金で2500名ほどの傭兵団を雇われたのです!」


 ま、まさか……


「さらにゼノン様は、本当に【癒しの奇跡】の使い手だったのです。そのお力で、フェリクス様の右膝も治してしまわれました!」

「フェリクス様は傭兵団を率い、ダラム城奪還に向かわれました。またゼノン様には、ヴァレリア様が付き従い、お二人で奮闘されておられるよしにございます!」


「我々は、ゼノン様より、ダラム城に火の手が上がったら、お館様に退却する敵軍の背を撃ってくださるようお伝えせよ、と申し付けられて、参りました!」

「今なら敵の背後に、盾となるゴーレム兵団はおらず、脆い魔法部隊を討ち放題です!」

「お館様、これまでの雪辱を晴らしてやりましょう!」

「ば、バカな……あのゼノンが、これ程の策を!?」


 ワシは仰天した。


「ダラム城を奪還するのみならず、帝国軍本隊にも、大打撃を与える策を考えておったとは!?」


 め、名将の器でないか……?

 少なくとも、このワシより、よほど兵法に優れているように思える。


 しかも、わざと無能を装って、屈辱に耐え、このワシすら欺くとは……なんという恐るべき胆力。


 いや、それもさることながら、聖女様にのみ許された【癒しの奇跡】の使い手となれば、まさに戦局を一変する力を持っていることになる。


 ワシがいくら怪我を負っても、ゼノンがいれば復活できる。

 医者と医療物資が不足し、まともな治療も受けられずにいる負傷兵たちも、聖女様の到着を待つことなく、戦線に復帰させられる。


 ならばアルフィンの仇を討ってやれるではないか!?

 リディア様との誓いを守ることができるではないか!?

 奪われた土地を取り返し、民を守護することができるではないか!?


 歓喜に震えたワシは、ふと気付いた。


「……そうか。あの【スキル授与式】の日、ゼノンは本気で、ワシの右目を治そうとしてくれていたのだな」


 それなのに、ワシはゼノンを役立たず呼ばわりしてしまった。

 ゼノンはそんな目に遭っても、我が軍の勝利のために密かに動いてくれたのだ。


 ワシは己を恥じ、胸が熱くなるのを感じた。


「ゼノンを、ワシの息子を死なせる訳にはいかん……! ゼノンこそ、ワシの誇りだ! ワシの後継として、この地を任せるにふさわしい男だ!」

「はっ! 我らも同じ想いです!」


 兵らが敬礼を返す。

 ワシは大声で命令を発した。


「全軍、出陣! 帝国軍の背を撃つぞ! ゼノン・グレイヴァンの策の恐ろしさ、あの小癪なレティシアめに思い知らせてやれ!」

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