第30話。ダラム城攻略に成功。名将ボルドに一騎討ちで勝つ
ボルド将軍が、次々に遠距離から衝撃波を放つ。
そのどれにも必殺の意思が込められており、俺は避けるだけで精一杯だった。
「見事! だが、躱してばかりでは勝てぬぞ!」
その通りだが、もし一発でも直撃すれば、身体が砕け散り、再生する暇も無く死ぬという予感があった。
この大技を連発するのは、かなりの負担な筈だが……
クソッ、俺の回復力を知り、短期決戦に賭けてきたか。
しかも、ボルド将軍は、俺が遠距離攻撃ができないことを見抜いているな。
この短時間で、俺の長所と短所を正確に見極めるとは、やはり恐るべき武人だった。
しかし、同時に違和感も覚える。
遠距離から俺を仕留めようという消極的な戦法は、英雄と讃えられるその勇名にふさわしくない気がした。
何か、狙いがあるのか……?
「がんばってゼノン……!」
ヴァレリアが俺に、必死のエールを送ってくれる。
彼女を守るためにも、俺は勝たねばならない。
約5分間、ボルド将軍が力尽きるまで、攻撃を躱し続けるんだ。
その瞬間にこそ、勝機はある。
「ゼノン・グレイヴァン、その名、覚えておこう!」
ボルド将軍が、風魔法による超加速で一気に間合いを詰めて、剣を振りかぶった。
突然の接近戦への切り替えだ。
驚いた俺は、後ろに飛んで避けようとするも、背中が城壁にぶつかる。
しまった……!
俺は奴の衝撃波を躱しながら、いつの間にか城壁の間際に追い詰められていたことに気付いた。最初からこれを狙っていたのか。
今からの回避は間に合わない。
だが、奴の攻撃をガードすれば、受けた剣ごと俺は衝撃波によって砕け散るだろう。
一か八か、やるしかない!
その瞬間、俺は剣に【過剰回復】の魔法を【付与】した。いつでも、【過剰回復】を放つことができるように準備していたのだ。
だが、手から放つ【過剰回復】は射程距離が短く、ボルド将軍の長剣の方が先に届く。そこで、ぶっつけ本番だったが、とっさにボルド将軍と同じ【付与】が、今の俺にもできないか、試したのだ。
「なにッ!?」
発光する俺の【過剰回復剣】が、ボルド将軍の風の剛剣とぶつかり合った。
ガギィンッ! という金属音はしなかった。
ボルド将軍の剣が、接触した箇所から砂粒と化して、崩れ落ちたのだ。
驚愕に目を見開く彼を、俺の剣が深々と袈裟斬りにした。
鮮血が飛び、ボルド将軍が膝をつく。
「貴様は、俺と同じ魔法剣士だったか……ッ!」
ボルド将軍は俺の顔を見て、微かに笑った。
「……見事なり。だ、だが、城壁は崩せた。レティシア皇女殿下、勝利を……」
それが、英雄の最期の言葉となった。
倒れたボルド将軍に対し、俺は油断なく剣を構え、残心をとっていたが、彼は二度と動かなかった。
「バカな……帝国の英雄、ボルド将軍が!」
帝国兵たちから、皇子を討たれた時以上の悲痛な叫びが上がる。へたり込んだ彼らに、もはや抗戦する気力は失われていた。
「さ、さすがでございます、ゼノン坊っちゃま! このフェリクス、今日ほどうれしい日はございません! お館様もお喜びになるでしょう!」
フェリクスは感涙にむせびながらも、帝国兵に向けて叫んだ。
「武装解除せい! 応じぬ者には死んでもらう!」
「わ、わかった。言う通りにする……!」
帝国兵たちは次々に、武器を投げ捨てて降伏した。
ダラム城攻略はここに成ったのだ。
ここでようやく、俺は緊張を解いて背後を振り返った。
「……城壁を崩していただと?」
驚くべきことに、城壁の一角が破壊されていた。
俺は今の立ち会いの意味に気付いた。
ボルド将軍の衝撃波は、俺を城壁まで追い詰めただけでなく、一箇所に攻撃を集めることで、城壁を崩す狙いもあったのだ。
もし一騎討ちに敗れても、主君であるレティシア皇女の勝利に繋げるために……
そもそも、ダラム城の陥落は防げないと考え、俺に城壁崩しを妨害させないために、一騎討ちを挑んできたのかも知れなかった。
「強かったな」
俺はボルド将軍の亡骸に目を落とした。
この男は、俺と同じく、愛する女性のために命を賭けて戦ったんだ。
将としても、武人としても尊敬に値する男だった。
「ゼノン、やったわね!」
その時、ヴァレリアが大喜びで、俺の胸に飛び込んできた。俺も歓喜して、彼女を抱き止める。
「ボルド将軍ほどの英雄を討ち取れた意義は大きいわ! 私たちの大勝利よ!」
「ヴァレリアとの特訓のおかげだ。俺1人じゃ、とても勝てなかった」
俺にとってヴァレリアは、やはり勝利の女神なんだと思う。
一騎討ちの最中、彼女はずっと声を枯らして俺に声援を送り続けてくれていた。
「いえ、あなたには元々、魔法剣士の素質もあったのよ。あの土壇場で、練習もしていない【付与】を成功させてしまうなんて……!」
おそらく10回中、9回は失敗するような危険な賭けだった。
俺が勝てたのは、運が良かったのと……
亡き姉が力を貸してくれたような気がする。
姉は剣を極めるために、剣に魔法を【付与】する魔法剣にも手を出して、剣術至上主義の父上と、ぶつかっていたからな。
それを見ていたからの発想だった。
「……アルフィン姉の仇を討てたんだな」
俺は星空を見上げ、小さく呟いた。
なにより、これで父上と武将たちに、俺を総大将だと認めさせることができる筈だ。
そうなれば、俺たちを滅ぼそうとする聖女アリシアの陰謀も阻止できる。
破滅の運命を覆し、ヴァレリアを守り抜くことができるんだ。
だが、勝利の余韻に浸っている余裕はない。
「だけど、まだ終わりじゃない。すぐにレティシア皇女率いる帝国軍の本隊が、ここに押し寄せてくるぞ!」
「ええっ、わかっているわ。すべて、あなたの立てた作戦通りにね!」
俺の目を見つめて、ヴァレリアは頷いた。
ボルド将軍によって、城壁が崩されたのは予想外だったが、この城を防衛するための秘策は用意してある。
むしろ、城壁が崩されたことで、敵の攻撃目標が読みやすくなった。敵は必ず、この崩れた箇所を目指して、大量のゴーレム兵を投入してくるだろう。
そこを一網打尽にする。
「ああっ、逆に帝国軍の本隊に大打撃を与えられる筈だ!」
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