第3話。外れスキル【超回復】の真価
2日後の朝──
俺はあれから破滅を回避するべく、ヒールの使用に失敗しては血を吐いてぶっ倒れ、その度にМPが1増えるという修業を繰り返した。
スキルは使えば使うほど進化するし、なによりせっかくのヒールを使えるようにならなくちゃ、宝の持ち腐れだからな。
血を吐くということは、内臓にダメージがあるんだと思うが、【超回復】の効果によって、吐血と痛みはすぐに収まった。
短時間で内傷が癒えているとしたら、人間とは思えない回復力だ。
その結果、俺のМPの最大値は10にまで増えていた。
「……これで、ついにヒールが一発使えるようになったか」
ベッドで目覚めた俺は、修業の成果を噛み締めていた。
一晩寝たことによって、MPは最大値まで回復していた。
まだ実戦で通用するほどでないが、我ながら予想以上の成長速度だ。
だが、どうやら失った血液まではすぐに回復しないようだった。
体調はドンドン悪化し、昨晩の修業でぶっ倒れて起きたら、身を起こすのもしんどくなっていた。
「ゼノン坊ちゃま、ご気分はいかがでしょうか? ご要望通りの料理をお持ちしました」
初老の執事フェリクスが、カートを押して俺に朝飯を届けに来てくれた。
かつては、剣鬼フェリクスと恐れられた凄腕の剣士だったが、右膝に矢を受けてしまったため、引退して執事をしている男だ。
俺と姉の剣の師匠でもあった。
「助かるフェリクス、ちょうど腹が減っていたところなんだ」
空元気を出して、身体を持ち上げる。
ぱかっと保温用の丸い蓋が取られると、もうもうと立ち昇る湯気の中から、『牛レバーのガーリックバター炒め』が現れた。
「おっ、こいつは……!」
俺は我慢できずに、白米と一緒に、熱々の牛レバーをかっ込んだ。
レバー炒めは、血液を作るための栄養素が豊富なんだ。なにより、前世からの俺の大好物だった。
「うまい! さすが、厨房のおっちゃんは良い腕をしているな!」
会社帰りに、近所の食堂でレバニラ炒めを頼んで、ビールで一杯やるのが好きだったのを思い出して、ジーンと来た。
これを再現するために、ダメ元で白米も炊いてもらえるように頼んだのだが、俺のリクエストに応えてくれた厨房のおっちゃんには感謝しかないな。
「はっ、少しでも元気になられたのなら、うれしく思います。自暴自棄になられているのではと、フェリクスめは心配しておりましたぞ」
「そうか、心配かけてしまったか……」
よく考えれば、外れスキルを授かってから、血を吐いては倒れるなんて奇行を繰り返してしまった訳だからな。
事情を知らない者から見たら、変人そのものだろう。
「大丈夫だ、フェリクス。ちゃんと説明していなかったが、これは魔法の修業なんだ。俺が授かったのは魔法系スキルだからな。まっ、血を吐いて倒れるのは、剣術と同じだな」
「はっ、左様でありましたか……」
俺が苦笑いするとフェリクスは、少し安心した様子だった。
「では魔法の師匠を手配いたしましょう。指導者の元で行えば、危険は減らせるかと……このような修業を続けられては、命に関わります」
一瞬、お前が言うか? と思った。
フェリクスに厳しく鍛えられて、血を吐かされたことは、一度や二度じゃないんだが……
まあいいか。
「ありがたいし、ぜひそうしてもらいたいんだが。人材を探すには、最低でも2週間はかかるんじゃないか?」
剣術の名門であるグレイヴァン辺境伯家は、昔から魔法を軽んじていて、魔法を師事できるような人材がいなかった。父上は遠距離攻撃など、弓で事足りると考えている。
帝国軍の総攻撃が始まろうとしている今、悠長に師匠探しをしている時間は無い。
「心配をかけてすまないが、俺は帝国軍を撃退するために、一刻も早く回復魔法を実戦レベルで使えるようになりたいんだ。悪いが、黙って見守ってくれないか?」
そうしないと、俺が死ぬからな。
この地から逃げだしたら、敵前逃亡で死罪。
戦に負けたら、捕らえられて斬首。
俺が生き延びるためには、この負け確定イベントに勝利するしかない。
ゲームだとすれば燃えるシチュエーションだが……
セーブもロードもできない一発勝負となると、まさに命がけの真剣勝負。無茶だろうとなんだろうと、やれることは全部やるしかない。
「……坊ちゃま、ご立派です! 領民を救うために、なっ、なんというお覚悟!」
感銘を受けたようにフェリクスは息を呑んだ。
「なぜ神は、坊ちゃまに剣聖のスキルをお与えにならなかったのか……! 坊ちゃまの程のお方が、な、なぜ!」
「あっ、いやまあ、単に俺が死にたくないだけなんだが……それよりも、父上に手紙を届けてくれたか?」
「申し訳ございませぬ。無駄なことに割く時間は無いと、受け取ってさえいただけませんでした」
フェリクスは深く頭を下げた。
予想はしていたが、父上の失望と怒りは、かなりのもののようだな。
俺は前線から下げられて、本城の守りを命じられていた。俺がいると将兵の士気が落ちるので、邪魔なのだそうだ。
無理にでも父上に会って話を聞いてもらおうとしたが「本城にいろ!」と鉄拳制裁で、気絶させられた。
父上に直接話ができないなら、せめて手紙で敵の総攻撃のタイミングや、俺の知り得る情報を伝えようとしたのだが……
まったく聞く耳を持ってもえないとなると、帝国軍に勝つには、別の手段を考えるしかない。
まずは、できることからやっていこう。
俺は気を取り直して告げた。
「……試しにフェリクスの膝の怪我を、俺のヒールで癒してみたいんだが、どうだ?」
「なんですと?」
フェリクスは目を瞬いた。
1日1回だけだが、ヒールを使えるようになったので、まずはフェリクスを癒してみることにした。
「まだ、俺の【超回復】はスキルレベル1。完全には治らないかも知れないが。多少は良くなるだろう」
原作ゲームでも、聖女アリシアが【癒しの奇跡】を完全に使いこなすのには、それなりに時間がかかった。
最初は、お忍びで街にやってきた王太子が負った切り傷を治してあげる、といった簡単な怪我の治療しかできなかったな。
そんなことを思い出しながら、俺はフェリクスの右膝に手を当ててヒールを発動した。
「こ、これは……!」
フェリクスは驚愕に声を震わせた。
「どうだ?」
どれだけの効果があったかわからないので、俺は不安になった。
フェリクスは右膝を見つめていたが、やがて、いてもたってもいられない様子で、護身用のショートソードを引き抜いた。
今は戦時であり、本城に敵の斥候が近づく可能性もあるため、武器を持っていたのだ。
フェリクスは剣を一閃する。
ヒュッ、と空を切る音は、これまでとは明らかに違う鋭さを帯びていた。
刹那、宙を舞っていた羽虫が、二つに分かれて床に落ちる。
「すげぇ。さすがだなフェリクス、膝が多少良くなったくらいで、その動きができるのか」
俺は感嘆する。
これは剣筋が相当に速く、正確でなければできない芸当だ。
「……いや、これは、多少良くなったなどという程度のものではございませんぞ。失礼」
フェリクスは、部屋の隅に置いてあった鉄兜を掴んだ。彼はそれを上に放ると、右足で蹴る。
すると、鉄兜は一撃で粉砕された。
は……っ?
頑丈に造られた鉄兜を、こうまで見事にぶっ壊しただと……
「やはり……ご覧の通り。この右足には、全盛期をはるかに超える力が漲っております」
「うんっ?」
俺は首を捻る。
「……ゼノン坊ちゃまの【超回復】とは、聖女のように怪我を癒すスキルではなく、怪我をした箇所をより強く作り変えるスキルなのではありませんか?」
まさかの一言だった。
そう言えば、傷付いた筋肉が回復する際に、以前より強靭になることを【超回復】というんじゃなかったか?
「ま、待てよ。だとすると、これは【聖女】スキルの完全なる上位互換……?」
トンデモナイ仮説が、頭に浮かんだ。
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