第28話。フェリクスの傭兵団が援軍として突入してくる
敵軍が怯んだ隙に、ヴァレリアはさらに多くのアンデッドを召喚した。
「さぁっ、存分に戦いなさい、あなたたち!」
「……家族はコロさせない!」
ヴァレリアに応え、アンデッドたちが錆びついた剣を振り回す。
死んでも、家族を守ろうとする彼らの気迫に、敵軍は縮み上がった。
「ひ、ひゃあ……!?」
アンデッドを兵として使う最大の利点は、人間を根源的な恐怖に陥れることだ。自分たちが殺した相手が、死霊となって襲いかかってくるなど、悪夢以外のなにものでもない。
「おのれ、地獄に送り返してくれる……!」
一人猛然と剣を振るうボルド将軍の元に、ガウェインを先頭にしたシュヴァルツ・リッターが殺到していく。
世界に名が轟くボルド将軍をここで討ち取ってしまえれば、ダラム城を陥したのに匹敵する大手柄となる。
「我が名は、【剛魔剣】のボルド・グランヴェル! 死者とはいえ、アスフォデル公爵家のシュヴァルツ・リッターが相手となれば不足なし!」
「しょ、将軍をお守りしろぉおおッ!」
帝国兵たちは必死に応戦するが、ボルド将軍以外は腰が引けていた。
「あなたたちに良いことを教えてあげるわ。アンデッドに殺された者は、アンデッドになる! そして、永遠に続く苦痛に苛まれるのよ!」
ヴァレリアが、追い打ちとばかりに声を叩きつけた。
「なっ、なんだと……!?」
それは、アンデッドに対する根拠の無い俗説だった。
だが、極限状態の戦場において、恐怖は理性を押し潰して、強く強く伝染する。
直後、ヴァレリアの言葉を証明する事態が起きた。
倒された帝国兵が、ギギィッ、と不気味な声を立てて起き上がり、かつての仲間の喉笛に食らいついたのだ。
「ぎゃあああッ!? や、やめろトーマス! 俺だぁ!?」
「正気を失っている!? い、いや、アンデッドになっちまったのか!?」
ヴァレリアが【死霊使い】のスキル魔法で、一時的に敵兵の死体を操っている訳だが、効果はてきめんだった。
戦友に攻撃された帝国兵らは、一気に恐怖状態に陥った。
「い、いやだぁあああッ!」
「俺はアンデッドなんかには、なりたくないッ!」
「もうやってられるか!?」
ついに士気が瓦解し、武器を放り投げて逃げ出す者が続出した。
「やったぞ、ヴァレリア!」
「ええっ、ゼノンの作戦通りね!」
俺とヴァレリアは、ハイタッチして喜び合った。
戦に勝つには、敵の心を攻めることだ。
ゲームでは、敵軍の士気をゼロにまで落とすと、敵は散り散りになって逃げ出した。
狙い通り、それと同じことが起きた。
一旦、潰走し始めた軍を立て直すことは、どんな名将だろうと不可能だ。例え、英雄ボルド将軍だろうとな。
「待て、お前たち! 城門を勝手に開けるな!」
ガウェインたちと切り結ぶボルド将軍が制止するが、逃げ出す兵たちは聞く耳を持たない。
彼らは、我先へと城門に殺到し、かんぬきを外した。自分たちを守る城門を、自ら開け放つという最悪の愚行を犯したのだ。
「これで、逃げられ……えっ!?」
城門を開けた彼らは、唖然として立ち尽くした。
「者ども、進め! ゼノン坊ちゃまをお助けするのだ!」
そこにフェリクス率いる傭兵団が、待ってましたと言わんばかりに、突入してきたのだ。
「ぎゃあああッ!?」
逃亡兵たちは、傭兵団の揃えられた槍の穂先に貫かれる。
彼らこそ、父上の壺と、ヴァレリアの装飾品を売った金で雇った2500人あまりの傭兵団だった。
父上には悪いことをしたが、十分に元が取れたと思う。
「フェリクス、良く来てくれた!」
俺は歓声を上げた。
首尾よくリュシアン皇子を討ったら、庭に積まれた敵の兵糧や軍事物資に火を放つ。
火の手が上がれば、フェリクス率いる傭兵団が、突入してくる手筈になっていた。
先ほど物見櫓を壊したのも、傭兵団の接近を気取られないようにするためだ。
傭兵たちも無駄死にはしたくないので、ダラム城に火災が起きなければ、突入はしないという契約になっていた。
「はっ! ゼノン坊ちゃまの御為なら、このフェリクス、地の果てであっても駆け付けて、敵を殲滅する所存です!」
フェリクスが敵兵を薙ぎ倒しながら、檄を飛ばす。
「ものども、城を陥落させたら、ゼノン坊ちゃまより追加の褒賞を賜われるぞ、奮起せよ!」
「うぉおおおおッ!」
傭兵たちが、ギラついた雄叫びを上げた。傭兵にとっては、名誉より金だ。
「あの男は……まさか剣鬼フェリクスか!?」
ボルド将軍が、驚きに眼を剥く。
「け、剣鬼とは!? かつて何度も帝国軍を撃退したという伝説の剣士……!?」
「ハハハハハッ、左様! 怪我で戦場から遠のいておりましたが、ゼノン坊ちゃまの【癒しの奇跡】により、こうして舞い戻ったぁ!」
フェリクスの剣がひるがえる度に、帝国兵が倒れていく。その怒濤の活躍の前に、傭兵たちの興奮は最高潮となった。
「すげぇ!」
「伝説の剣士と共に戦えるなんざ、光栄だぜ!」
どうやらフェリクスは、傭兵たちにとっても伝説的な存在らしい。
最近のフェリクスは、気の良い好々爺といった感じだったのだが……これが戦場での姿か。実に頼もしいじゃないか。
「さあ、帝国兵ども。我が剣を恐れぬなら、かかって来るが良い!」
フェリクスは剣を天に掲げて、大音声を発した。
「ひぃ!?」
帝国軍は、完全に恐怖に飲まれた。
よし、後はかろうじて抵抗を続ける残敵を掃討するだけだ。
「まさか、剣鬼フェリクスまで従えているとは……!」
ガウェインの猛攻を弾き飛ばし、ボルド将軍が俺を睨み据えた。
その瞳にあるのは、武人としての最後の意地だ。
「見事なりゼノン・グレイヴァン! だが貴様だけは、この俺が討ち取る! バルザーク帝国軍副将、このボルド・グランヴェルと尋常に勝負せよ!」
「あれはボルド将軍!? 天下に名が轟くかの名将が、ゼノン坊っちゃまに一騎討ちを挑むですと……!?」
フェリクスが驚きに目を見張った。
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