第27話。ダラム城炎上。ゼノンの作戦が決まる
「そ、そんな、バカな……!?」
目の前で起きたことを、帝国兵たちはすぐに受け入れられないようだった。
「今すぐ武器を捨てて、降伏しろ! でなければ王国の誇る精鋭騎士団シュヴァルツ・リッターが、お前らを殺し尽くすぞ!」
俺が叫ぶと同時に、ヴァレリアのシュヴァルツ・リッターが、敵の親衛隊に襲いかかった。
偵察によると、この城には5000人近くの兵が駐留していたが、ゴーレム兵という強力な兵器に防衛を頼り切っていたため、親衛隊以外の質は低かった。
親衛隊を倒せば、脅威となる敵はいない。
「人間がボロ雑巾みたいに……!?」
デスナイトたちが剣を振るうたびに、鎧を着込んだ親衛隊員が吹っ飛ぶ。
残りの親衛隊は約15名。シュヴァルツ・リッターは80名。局所的な戦力はこちらの方が上だ。一気に畳み掛ければ、押し切れる。
他の兵が介入して来れないように、アンデッド魔術師デミリッチたちが周囲に火炎魔法を放ち、帝国兵を焼き払った。
「あ、あづいッ、身体に火がぁあああッ!?」
身体に炎が引火した兵士たちが、めちゃくちゃに暴れて転げ回る。
火炎魔法の標的とするのは帝国兵ばかりではない。混乱に拍車をかけるため、庭に山と積まれた兵糧にも火をかけた。
「いかん! しょ、消火だ! 急いで火を消せ!」
「駄目です! 火の勢いが強過ぎて……!」
さらには、厩舎にも火の手が回り、軍馬がいななきを上げる。
「貴様ぁッ……! 皇子殿下の仇だ!」
親衛隊が、怒りを漲らせて俺に襲いかかってきた。
彼らは、自らにバフ魔法をかけて筋力や敏捷性を大幅にアップさせ、神速の斬撃を繰り出してきた。
帝国親衛隊が誇るバフ魔法戦術だ。
おそらく、『戦闘系スキル所持者でない俺は、身体能力に劣っており、魔法で超強化した身体能力で圧倒すれば勝てる』と考えたのだろう。
それは全くの間違いだ。
さっき殴られて理解できなかったのか?
俺は親衛隊を、彼らの主から奪った剣で、次々に返り討ちにする。
「がはッ!?」
「バカな、こ、この小僧……我らの力を上回っているだと!?」
「剣の腕も、凄まじいぞ!」
皇子を守れなかった親衛隊は、責任を取らされて処刑される運命だ。そんな彼らは冷静さを欠いており、連携を取れていなかった。
なにより、何度も【超回復】による身体能力アップを繰り返したおかげで、俺は急激に強くなっていた。故に、まったく負ける気がしない。
「当然よ、ゼノンは剣聖の息子。ガウェインにすら勝った男よ! ガウェイン、蹴散らしなさい!」
ヴァレリアの命令に、ガウェインたちデスナイトが疾風となって、親衛隊を次々に叩き斬る。
「親衛隊が!? も、もう駄目だぁ!?」
帝国兵たちが、浮足立った。
「うろたえるなァアアッ!!」
だが、帝国兵が完全なパニックに陥る前に、将官と思わしき男が大声を発した。
「敵を見ろ! あれほど数のアンデッドを戦わせれば術者の命が保たない! すぐに動きを止める筈だ!」
さすがは魔法研究の盛んなバルザーク帝国だ。将官級の者は【死霊使い】の弱点を知っているらしい。
それで帝国兵たちの顔に希望が灯る。
「おおっ! 誠ですか、ボルド将軍!」
な、何? ボルド将軍だって……?
俺は仰天して、その男に注目した。
30代後半くらいの厳つい大男だった。
やはり、間違い無い。
ここにいるのはゲームに登場していた強敵、ボルド将軍だ。帝国でも五本の指に入ると謳われる名将にして、最強格の魔法剣士だった。
彼は敵総大将であるレティシア皇女の懐刀。彼女に古くから守役として仕えている武人であり、本来はゲーム終盤で戦うボスキャラだ。
レティシア皇女の側にいるものとばかり思っていたが、ボルド将軍も重要拠点であるこの城に来ていたのか……
不測の事態が起きることは織り込み済みだが、コイツは厄介だな。
「通信魔法で本隊に危機を知らせた! 間もなくレティシア皇女殿下の本隊が、ここにやってくるぞ!」
ボルド将軍が声を張り上げる。
帝国軍の本隊は、辺境伯領の深くに侵入し、父上の軍と睨み合っていた。
しかし、補給拠点であるダラム城が陥落の危機という急報が入れば、慌てて取って返してくるだろう。
それまでに決着をつけなければ、俺たちの負けだ。
「聞け、勇壮なる兵士たちよ! 我らこそ帝国軍の命綱! 帝国の勝利と栄光は、我らの双肩にかかっておるのだ! 全軍奮起せよ!」
「うっ、うぉおおおおッ! ボルド将軍!」
「て、帝国、バンザイ!」
ボルド将軍の檄によって、瓦解寸前だった帝国兵たちは、秩序を取り戻した。
さすがだな。
なら、こちらも切り札を切るしかない。
「ヴァレリア、やれるか!?」
「もちろん。あなたが側にいてくれる限り、私は大丈夫よ!」
ヴァレリアは力強く頷いた。
俺は最後の親衛隊を斬り捨てながら、叫ぶ。
「ヴァレリアは無制限に【死霊使い】のスキル魔法が使える! なぜなら、俺が【癒しの奇跡】で、生命力を回復させるからだ!」
「……【癒しの奇跡】だと!?」
ボルド将軍が息を呑んだ。
「そうだ! 聖女の奇跡の力だ! どんな大軍であろうとも、俺とヴァレリアを殺すことはできない! 俺たちには神の加護が付いている!」
「まさか……!」
世迷い言と一笑に付することは、ボルド将軍にはできなかった。
先程、ゴーレム兵の太矢に貫かれた俺の怪我が、一瞬で癒えるところを目の当たりにしたからだ。
それは他の兵士たちも同じであり、狙い通り敵軍に動揺が走った。
「その通り! 私とゼノンが揃っている限り、アルビオン王国に敗北は無いわ!」
ヴァレリアが両手を掲げると、地面に巨大な魔法陣が展開される。
魔法陣から這い出してきたのは、アンデッド化させた辺境伯軍の戦死者たちだ。その数、ゆうに二千体以上。
「こ、こいつらは……!?」
「辺境伯軍が、化けて出たぁッ!」
帝国兵たちは恐怖し、竦み上がった。
アンデッド軍団は恨みを晴らすべく、不気味な雄叫びを上げて、突っ込んで行く。
「うろたえるな! 射手、魔法使いは【死霊使い】を狙え! アンデッドどもはそれで動きを止める!」
ボルド将軍の怒号が飛んだ。
「……ッ!」
「ヴァレリア!」
ヴァレリアが苦しそうに胸を押さえてうずくまった。俺は彼女に肩を貸しながら、ヒールで回復させる。
ヴァレリアは、生まれつき心臓が弱いと聞いた。それが多くの死霊たちに生命力を喰われては、たまったものではないだろう。
しかし、彼女の瞳には、運命に屈するものかという火のような闘志が宿っている。
「ありがとう、ゼノン。絶対に勝ちましょう……!」
「おう!」
大量の矢と魔法が飛んでくるが、俺はヴァレリアを片手で抱えて、躱した。
「なんだ、奴の動きは!?」
「バフ魔法も使っていないのに、目で追えぬほどのスピードだと!?」
ここが正念場だ。
俺は包囲攻撃を受けないように、縦横無尽に動き回りながら剣を振るう。
「これが剣聖バルドの息子……!」
「なにが、外れスキル持ちだ! 話とまったく違うじゃないかぁああッ!?」
俺の渾身の一撃に物見櫓が倒れて、多くの帝国兵たちが下敷きになった。
尋常ではない俺の力に、敵にさらなる動揺が広がる。
「こ、この力……まるで人間とは思えんぞ!」
「その上、【癒しの奇跡】まで使えるというのか!?」
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