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第26話。ダラム城の城主、リュシアン皇子を討ち取る

「我が帝国が誇るゴーレム兵の一斉射撃を受けて、ご無事とは……誠に恐れ入りました!」


 馬車から降り立った俺たちを出迎えたのは、煌びやかな衣装をまとった18歳くらいの貴公子だった。


 バルザーク帝国第五皇子、リュシアン・バルザーク。

 乙女ゲームの悪役だけあって、整った顔立ちをしていた。


 その中身は、野心家で拷問好きのサディストなんだが、女性に対する扱いは、さすがに良く心得ているようだった。

 リュシアン皇子は、歯の浮くような美辞麗句を並べる。


「その上、夜空の星々も霞むほどの美しさ! あぁ、私が吟遊詩人であったなら、ヴァレリア殿を称える詩を千は詠むことでしょう。しかし、どんなに言葉を尽くしても、あなたの魅力を表現しきれないのがもどかしい!」


 彼は芝居がかった仕草で嘆いて見せると、食い入るような視線をヴァレリアに向けた。

 まるで、希少な美術品を品定めするような目つきだった。

 

「……ふん」


 ヴァレリアは露骨に不快感を露わにし、俺の手を強く握り返してきた。


 俺たちは武装した帝国兵によって、包囲されている。


 リュシアン皇子の周囲には、噂に名高い親衛隊約20名が立ち並び、城壁の上からは巨大弓バリスタを構えたゴーレム兵が、俺たちに狙いを定めていた。


 少しでもおかしな素振りを見せたら、一斉攻撃されるのは目に見えていた。


「では、まず武装解除していただけますでしょうか? 兵が怯えますので、その薄汚いアンデッドどもを下がらせていただきたい」

「薄汚い……?」


 ガウェインを侮辱されて、ヴァレリアは怒りを滲ませた。

 

 しかし、彼女はグッと堪えて、ガウェインとゾンビホースを、彼らが眠る別次元──冥府に送還し、この場から消す。

 まずは、敵を油断させなければならない。


 俺は腰の剣を帝国兵に差し出した。


「おおっ、ありがとうございます。ヴァレリア殿が、道理をわきまえたお方で実に喜ばしい」

「……道理ですって? 我が王国を不当に侵略した帝国の皇子殿は、道理とはいかなるものだとお考えなのかしら? その上、使者の白旗を掲げた者に攻撃してくるなんて」


 ヴァレリアが、氷のような冷たい目でリュシアン皇子を射抜いた。


 『おい、油断させるつもりが、怒りの本音が漏れているぞ』と、俺はヴァレリアの手を握る左手に力を込めて、警告する。

 ヴァレリアも失言に気付いたようだ。


「これは手厳しい。ゴーレムには『敵を発見次第、殲滅せよ』と命じていたものですから。忠実ですが融通が利かないのが彼らの欠点でして……ご無礼、平にお許しいただきたい」

「謝罪を受け入れるわ。では、城内にご案内いただけるかしら? 大量の矢のおもてなしで、少々、疲れてしまいましたわ」


 ヴァレリアは扇を広げ、堂々たる態度で、城内に入れろと促した。


 俺たちの計画で最も重要なのは、城主であるリュシアン皇子を討つことだ。

 ヴァレリアに挨拶するために、この男がすぐ目の前にやって来てくれたことは幸運だった。


 しかし、この場でリュシアン皇子を討とうとしたら、奴の親衛隊に阻まれ、ゴーレム兵の射撃によって、俺たちは挽き肉にされるだろう。


 まずは城壁からの射線の通らない城内に場所を移し、油断させてからこの皇子を討つべきだった。


「もちろんです。ただ、その前に、ご要件をお伺いしてもよろしいでしょうか? 降伏するなら、その証として、我らが宿敵グレイヴァン辺境伯バルド殿の首を持ってくるように、お伝えしていた筈ですが?」


 だがリュシアン皇子は、この場で話を進めようとした。

 返答によっては、ここで俺たちを拘束するつもりだろう。


「まさか、我が城にやってきて、お茶だけして帰るなどということはあり得ませんでしょう?」


 我が城ね。

 ここは元々、俺たちの城なんだがな。父上に連れられて何度もやってきた場所だ。

 悪いが、侵略者には早々に立ち去ってもらおう。


「我々の帝国への亡命を受け入れていただきたいためです。まずは自己紹介させていたたぎますと、私は……」


 俺が口を開くと、リュシアン皇子が怒気を発して話を遮った。

 

「なんだ、貴様は。ヴァレリア殿の付き人風情が、口を挟むな」

「無礼な! 彼はゼノン・グレイヴァン。私の愛しい夫ですわ。私たちは、すでに夫婦の契りを交わしています」

「なんだと……!?」


 これにはリュシアン皇子も非常に驚いたようだ。


 それにしても、俺は付き人に見えていたのか。まあ、モブ貴族だから、ヴァレリアの高貴な美しさの前には俺の存在は霞んでしまうだろうけどな。


「ゼノン・グレイヴァンと申します。以後、お見知り置きくださいリュシアン皇子殿下」

「はっ! 貴様が、外れスキルを得て、バルド殿の怒りに触れたという出来損ないか!?」


 ヴァレリアに対するものとは正反対の態度に、俺は面食らってしまった。

 まあ、父上との不和の噂がうまく伝わっているのは何よりだが……


 あからさまな侮辱に、ギリッと、ヴァレリアが悔しそうに唇を噛むのが見えた。

 ちょ、ちょっと、押さえてくれよ。


「……はい。まさしく、そういった理由で、私は王国に居場所が無い身。妻のヴァレリアも反逆者の汚名を着せられています。故に、我々を帝国に受け入れていただきたいのです。私のスキルは魔法系ですので、帝国でならご評価いただけるのではないかと」


 気を取り直して、俺は頭を下げた。


「はっ、見下げ果てた奴だ。ヴァレリア殿ならともかく、外れスキル持ちの無能を受け入れて、帝国に何の得がある?」

「グレイヴァン辺境伯軍の機密情報をお話します。長くなりますので、お部屋にご案内いただけないでしょうか? 私は父上を見返してやりたいのです」

「クズが。良いだろう。ただし、貴様に案内してやるのは死体置き場だがな」


 リュシアン皇子が指を鳴らすと、兵士たちが寄ってきて、俺を縄で拘束した。


「お待ちなさい! ゼノンは私の夫だと言ったでしょう!? 彼に無体なマネをすることは、この私が許さないわ!」


 ヴァレリアが、猛然と抗議の声を上げた。


「ヴァレリア殿、あなたの亡命は喜んで受け入れましょう。この私の妻となるならね。王家の血を引くあなたを我が物とすれば、王国の統治権はこの私のものだ!」

「はぁ……!?」


 俺とヴァレリアは呆気に取られた。


 この皇子は、皇帝を目指す野心家で、戦争で手柄を上げるべく、ここにやって来ていた。


 捕らえた者に拷問を加えるのは、趣味だけでなく、功績を得るためでもある。

 拷問で得た情報で帝国軍の勝利に貢献すれば、危険な最前線に出なくとも、皇帝の覚えが目出度くなるからだ。


 帝国軍の総大将であるレティシア皇女は、女性であるため皇位継承争いから外れており、帝国軍の勝利はリュシアン皇子を皇帝に押し上げるための踏み台だった。


 姉であるレティシア皇女を矢面に立たせて、利益を得る小物悪役が、リュシアン皇子だ。


 しかし、まさか、いきなりヴァレリアに求婚するとは思わなかった。

 原作ゲーム同様に腹の立つ奴だな。


 ……だけど、まあ、これならば、ヴァレリアが殺される心配はまず無いか。


「まったく、ヴァレリア殿のような素晴らしいご令嬢が、貴様のようなクズの花嫁にされるとは、なんとも嘆かわしい!」


 リュシアン皇子は剣を抜いて、その切っ先を俺に突きつけた。


「ゼノンとやら。貴様はこの私、自らが首を刎ねるてやろう! ヴァレリア殿は、私の寝室へ。この男を処分してから、お迎えに参ります」

「……なんですって?」


 ヴァレリアの冷たい声が響いた。


「ああっ、うれしいでしょう! あなたは未来の皇帝の妃になれるのですよ。王太子を暗殺して王座を狙おうとしたあなたは、私と同じ、野心に燃えている筈だ!」


 恍惚とした表情で、リュシアン皇子は叫んだ。


「しかし、夢破れ、こんなカスにも劣る男の花嫁にならざるを得なかった! その口惜しさ、良くわかりますとも! 私が今から、あなたを解放して差し上げる!」


 ふぅ〜っと、息を吐いて、俺は密かに安堵した。

 どうやら、リュシアン皇子に拷問してもらおうという、当初の予定通りの展開になりそうだ。

 

 この皇子の性格上、首を刎ねる前のお楽しみの拷問タイムがあるだろう。

 功績を得るため、俺からも情報をある程度、引き出したいだろうしな。


 なら、拷問部屋に連れて行かれてから、リュシアン皇子を、【過剰回復】(エクセシブ・ヒール)で討ち取れば良い。


 それに首を刎ねるのは、実はかなり剣の腕前を必要とする。武力が0に等しいこの皇子が、俺を即死させることはまずできないので、その点でも安心だった。


「ヴァレリア。ここは言う通りにして、城内へ入ってくれ」

「……今、なんとおっしゃいましたの?」


 ヴァレリアが、手にして扇をパチンと閉じた。

 彼女の瞳からハイライトが消え、深淵のような闇が覗いている。


 あ、あれ……? 本気で、すごい怒っている?

 

「あなたごとき俗物が、この私のゼノンを、カスにも劣る男ですって? その上、首を刎ねる?」

「おっ、おい……!」


 俺は仰天してヴァレリアを制止しようとした。

 しかし、彼女は止まらない。


「身の程を知りなさい、下郎!」


 リュシアン皇子がたじろぐほどの、圧倒的な怒気がヴァレリアから放たれた。

 ヴァレリアの周囲にバチバチと、赤い稲妻が駆け抜け、いくつもの魔法陣が地面に刻まれた。


「なにぃいいいッ!?」


 帝国兵たちは、唖然とした。


 輝く魔法陣の輝きの中からヴァレリアが誇るシュヴァルツ・リッター──【死霊騎士】(デスナイト)と、アンデッド魔術師【デミリッチ】が、怒涛のごとく出現したのだ。その数はおそらく80体近くと、いきなり総戦力だ。


 これはヴァレリアの生命力を極度に消耗するアンデッドの使い方だった。


「おっ、おやめくださいヴァレリア殿! すぐに褥を共にしようとしたのは、レディに対して大変失礼でした……!」


 リュシアン皇子が慌てふためき、必死の謝罪をする。


 ヴァレリアを妃としたいこの男は、ヴァレリアを殺すのを躊躇っているようだった。


 そうか! ヴァレリアは、リュシアン皇子が自分を殺すことは無いと踏んだから、ここで勝負に出たんだな。


 段取りとは異なるが、敵の注意がシュヴァルツ・リッターに完全に向いている今こそ好機。


 ゴーレム兵たちが大型弓でシュヴァルツ・リッターを撃とうとした瞬間、俺は動いた。

 縄を一瞬で、引き千切る。


「なにっ!?」


 リュシアン皇子に一気に詰め寄って、邪魔な親衛隊を殴り飛ばす。

 先ほど、ゴーレム兵に撃たれてパワーアップした右腕の威力は、絶大だった。一撃で、殴られた親衛隊員は沈黙する。


 なにより、こいつらが、俺を外れスキル持ちのクズと、侮ってくれていて助かった。

 まるで警戒されることなく、接近することができた。


「……バカめ!」


 しかし、次の瞬間、俺の背中をゴーレム兵の太矢が貫通した。

 骨が砕け、血肉が弾け飛ぶ。


「ゼノン!?」


 ヴァレリアが悲鳴を上げた。


「ゴーレム兵の射撃は精確無比! 私を傷つけず、貴様だけを殺すことなど、容易なのだ!」


 リュシアン皇子が勝ち誇る。


「さあ、ゴーレム兵たちよ、あのアンデッドどもを片付けろ! まずはヴァレリア殿に、我が力の偉大さを見せつけるのだ!」


 ゴーレム兵たちが城壁より飛び降りて、シュヴァルツ・リッターに襲いかかろうとした時だった。


「ヒール」


 俺の怪我が、一瞬で完治する。 


「はえっ……?」


 リュシアン皇子の目が点になった。親衛隊も、何が起きたかわからない様子だった。


 さらに一歩、大きく踏み込んだ俺は、リュシアン皇子に触れて【過剰回復】(エクセシブ・ヒール)を叩き込む。


「あ、が、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?」


 リュシアン皇子の全身が膨張する。 

 血管が膨れ、筋肉が肥大化し、細胞が異常増殖した。


 リュシアン皇子は断末魔すらまともに上げられなかった。

 生命力という名の猛毒を注ぎ込まれた彼の肉体は、内側から崩壊した。一瞬で、粉々になる。


 人間に対して使ったのは初めてだったが、こいつは恐ろしい魔法だな。


「悪いが 、お前なんかにはヴァレリアは任せられないな!」

「ああっ! ゼノン……!」


 ヴァレリアが歓喜して、俺に抱きついてきた。

 俺は彼女を片手に抱きながら、ヒールをかける。


 それにしても、こんなに強く抱きついて……ラブラブに見せる演技は、もう必要ない気がするが?


 そんな潤んだ瞳で見つめられると、ヴァレリアは俺のことが本気で好きなのではと、勘違いしてしまいそうになるじゃないか。


「……お、皇子、殿下……!?」


 主を失った親衛隊が、茫然自失としていた。

 ゴーレム兵たちも、制御者を失い、その瞳から光を消して動きを停止する。


「ダラム城の城主、リュシアン皇子は、この俺、ゼノン・グレイヴァンが討ち取ったぞ!」


 皇子の剣を奪って、俺は天高く掲げた。

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