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第25話。ダラム城奪還作戦、開始。城門を突破する

 次の日の夜、俺とヴァレリアは、アスフォデル公爵家の馬車に乗って、一路、国境に位置するダラム城を目指した。


 ヴァレリアは父上の陣営に呼ばれていたが、体調が悪いと言って、参陣を断った。


 ダラム城を陥落させれば、おそらく未来は大きく変わる。この一戦には必ず勝たねばならない。


「……むごいものね」


 窓の外を見つめるヴァレリアが、痛ましげに眉をひそめた。


 路上に転がっているのは、ダラム城攻略に失敗した辺境伯軍の兵士たちの亡骸だ。打ち捨てられた彼らは、ゴーレム兵の怪力によって、みんな大きく損壊していた。


 兵士たちの中には、俺と共に剣術の修業に励んだ者もいる。

 みんな、この地を守るために戦って、無念の死を遂げたのだ。


「でも、だからこそ、私は力を発揮できる」

「ああ、頼むぞ。ヴァレリア」

「ええ……」


 ヴァレリアは大きく息を吸って叫んだ。


「無念のままさまよう魂たちよ! あなたたちの中で、アンデッドと化しても、この地を守りたい者は、この私ヴァレリア・アスフォデルの呼び掛けに応えなさい! 私とゼノン・グレイヴァンが、ダラム城を落として見せるわ!」


『おおっ……! ま、まことですか?』

『俺の妻子を帝国軍に殺させはしない……!』

『奴らに復讐できるなら、喜んで……!』


 ヴァレリアに応えて、闇の中からいくつもの声が響いてきた。彼らの声は、歓喜に満ちていた。


「約束するわ。あなたたちの悲願は、必ず果たす!」


 ヴァレリアが魔法を詠唱すると、転がった死体たちがガクリと動き出す。


 彼女が使ったのは、死体をアンデッド化させる魔法だ。城主を討った後、敵城内部に彼らを召喚して暴れさせるというのが、俺たちの作戦だった。


 しかし、誰も彼もアンデッドにしている訳ではない。ヴァレリアはアンデッドになることを望んだ者だけをアンデッド化させていた。


 本人が望まぬアンデッド化は、死者への冒涜に他ならないからだ。


「戦いが終わったら。みんなをねんごろに弔ってやらないとな」

「……あなたの大事な家臣たちだものね。勝つためとはいえ、やっぱりアンデッド化には抵抗がある?」


 思わず出た俺の沈んだ声に、ヴァレリアがすまなそうな顔をした。


「違うと言ったら嘘になる……けど、帝国軍を撃退することこそ、彼らの何よりの供養になるはずだ。みんなソレを望んで、今、俺たちに付いて来ているんだから」


 俺は力強く言い切った。


「それに、この策にゴーサインを出したのは俺だ。ヴァレリアが罪悪感を覚える必要はない。この俺がすべての責任を負う」

 

 ヴァレリアは今まで『死体を弄ぶ悪女』扱いされてきた。

 だが、今後はそんなことは、俺が決して許しはしない。


 なにより、俺の【癒しの奇跡】は、アンデッドを浄化し、その魂を安らかな眠りへ送ることができた。


「戦いが終わったら、俺の【癒しの奇跡】でみんなを天国へ送ってあげようと思う。それでもヴァレリアを悪く言う奴がいたら、俺が黙らせる」

「……あ、ありがとう、ゼノン」


 ヴァレリアは、俺の力説にちょっと驚いたようだった。


「いや、当然だろう? ヴァレリアだって、【死霊使い】(ネクロマンサー)のスキルを得たくて得たわけじゃない。この地を救うために命を賭けたヴァレリアが、その手段のせいで非難されるなんて、おかしいじゃないか?」

 

 この世界の人々は、授かるスキルを選べない。だけど、それで人生のほぼすべてが決定されてしまう。


 俺は外れスキル持ち扱いをされたことで、原作ゲームで悪女扱いされたヴァレリアの悲しみが、理解できた。


 ヴァレリアが悪女扱いされたのは、死者をアンデッド化して操る【死霊使い】(ネクロマンサー)スキルが、【聖女】とは正反対の邪悪なモノであるというイメージがあったのが大きい。


 当人の人間性よりも、授かったスキルのイメージで、善悪が決めつけられてしまうのだ。


「疲れたんじゃないか? ヒールで元気になってくれ」


 俺はヴァレリアの手に触れて、ヒールを発動した。

 アンデッドに生命力を喰われ、疲労が滲み出ていたヴァレリアの顔色が良くなる。


「……それにアンデッドと化した者が、みんな不幸とは限らない」


 俺は馬車の御者を務める【死霊騎士】(デスナイト)のガウェインを見やった。


「少なくともガウェインは、自らアンデッドになることを望んで、本気でヴァレリアを守ろうとしてくれているだろう?」


 ガウェインから感じられるのは、ヴァレリアへの強い忠節だ。

 一般的なアンデッドのイメージ、人間に対する尽きせぬ憎悪を燃やしているような素振りは感じられなかった。


「……あなたは、本当にやさしいのねゼノン」


 瞳を伏せ、何かに耐えるようにヴァレリアは呟いた。


「ガウェインは私が幼い頃から、アスフォデル公爵家に仕えてくれていた騎士だった……私がもっとしっかりしていれば、彼らが命を落とすこともなかったのに」

「……」


 俺は言葉に詰まった。

 しまった。ヴァレリアを励ますつもりが、逆に嫌なことを思い出させてしまったか?


「だから、もう絶対に私は……大切な人を殺させはしない。あなたは、命に代えても守ってみせるわ」


 俺を見つめるヴァレリアの瞳に、強い決意の炎が宿った。


「ウォオオオオン!」


 その時、ガウェインが獣のような咆哮を発した。


「きゃあ!?」


 俺はとっさにヴァレリアの頭を抱え込み、床へと伏せさせる。


 ドゴォオッ!


 直後、凄まじい衝撃音と共に、窓を突き破った「何か」が反対側の壁に深々と突き刺さった。

 それは矢の形状をしながらも、矢と呼ぶにはあまりに巨大な鉄の杭だった。


「……これは!?」


 ヴァレリアが目を白黒させる。

 ガウェインの警告のおかげで、間一髪、ヴァレリアを救うことができた。


「ゴーレム兵の射撃だ!」


 特徴的な太矢を見て、一発でわかった。

 これはゲームに登場していたゴーレム専用の武器だ。人間には引けない巨大弓バリスタをゴーレム兵が城壁上から撃ってきているんだ。


「使者の白旗を掲げているのに!?」


 ヴァレリアが驚くのも無理はなかった。

 白旗を掲げた使者を警告も無く撃つなど、文明国のやることではない。


 だが、問答無用とばかりに、馬車に次々に太矢が撃ち込まれてきた。

 ガウェインが、飛来する太矢を長剣で弾き返すが、敵の物量に押されてよろめく。


「くぅっ! 並の威力じゃないわ」


 アスフォデル公爵家の馬車は、特殊な装甲が張られており、それでギリギリ攻撃に耐えられていた。

 もし、ふつうの馬車だったら、一瞬でグジャグジャのゴミと化していただろう。


「ヒヒーンッ!?」


 しかし、馬車を牽引する馬は別だった。

 ガウェインが防御しきれず、馬はいくつもの太矢に滅多刺しにされて、ズタボロの肉塊と化した。

 制御を失った馬車が横転しそうになる。


「我に従え【ソンビホース】!」


 ヴァレリアが手をかざすと、死体となった馬に、仮初めの命が宿った。


 ゾンビと化した馬が、ガウェインに手綱を引かれて、馬車を再び牽引しだす。

 地面から浮いた馬車は、何度かバウンドしながら、先程に倍するスピードで走りだした。


 おかげで、太矢のほとんどを回避できている。


「さすがだなヴァレリア!」

「まだ油断できないわ。天井がもう限界よ!」


 ヴァレリアの指摘通り、何本もの太矢が突き刺さった天井に亀裂が入っていた。


「これが帝国のゴーレム兵!? 予想以上の強さだわ!」


 次の瞬間、太矢が天井をぶち破って飛び込んで来る。

 その先にあるのは、ヴァレリアの顔面だ。


 思考より先に体が動いた。

 俺は【過剰回復】(エクセシブ・ヒール)の発動準備を終えていた。


 発光する右手を突き出して、飛び込んできた太矢にギリギリ触れた。


 バンと血の華が咲いて、俺の右手と太矢が同時に消滅した。

 【過剰回復】(エクセシブ・ヒール)で撃ち込まれた太矢を崩壊させたが、運動エネルギーまでは消せず、右手が弾け飛んだのだ。


「ゼノン!?」

「大丈夫だ。ヒール!」


 【癒しの奇跡】により、俺の右手が一瞬で元通りに復活する。

 ヴァレリアの手前、カッコつけてポーカーフェイスを保って見せたが、激痛で失神しそうだった。


 さらに続けて飛び込んできた太矢も、同じく【過剰回復】(エクセシブ・ヒール)で、消滅させた。

 またしても右手が爆散し、再生する。


「痛ってぇ……!」


 狭い車内では満足に剣が振れず、身体を張るしかなかったのだが、この痛みには正直、慣れないな。


「あ、あなた、また無茶をして……!」

「大丈夫だ!」


 とはいえ、身体の弱いヴァレリアに被弾を許す訳にはいかない。

 不死身に近い俺が、彼女を守らなくちゃな。


 それに、2回再生した俺の右腕は防御力が上昇し、3度目の被弾の際には、太矢を弾いてみせた。

 どうやら【超回復】(オーバーヒール)によって、射撃に対する耐性を得たらしい。


「すごい……!」


 ヴァレリアが感嘆の声を上げた。


「だけど、それ以上、血を流すのは危険だわ! ここからは私に任せてちょうだい!」


 彼女は馬車の前方に、アンデッドの魔法使い【デミリッチ】を何人も召喚した。


 彼らは即座に魔法を詠唱し、半透明の魔法障壁を馬車の周囲に何重にも展開する。

 その厚みによって、ゴーレム兵の射撃を弾き返した。


「なるほど、これなら防げるか……!」

「ええっ、シュヴァルツ・リッターの対応力は天下一よ!」


 さらにヴァレリアは、俺の手を握って魔力を供給してくれる。


「……ありがとうゼノン。だけど、私だって、あなたに死んで欲しくないのよ」

「あっ、ああっ……」


 ヴァレリアの真剣さに、俺はドキッとしてしまう。


 さきほどの彼女の言葉、『あなたは、命に代えても守ってみせるわ』が、俺の胸に強く響いていた。


 するとヴァレリアは抜けた天井からダラム城を見上げた。

 篝火に照らされたダラム城はすでに間近に迫りつつあった。


「……よし、ここからなら声が届くわね」


 矢の雨の中、ヴァレリアは声を張り上げた。


「我が名は、ヴァレリア・アスフォデル! アルビオン王国、王家の血を引くアスフォデル公爵家の娘が、使者として参上したわ。攻撃をおやめない!」

「おおっ、これは申し訳ありません。公爵令嬢ほどのお方に使者として来ていただけるとは……!」


 芝居がかった男の声が、響いた。

 城壁の上に、豪奢なマントを羽織った青年が姿を現して手を掲げる。


 すると、太矢を撃ってきたゴーレム兵たちが、ピタリと攻撃を止めた。


「私はダラム城の城主を任されております、バルザーク帝国の第五皇子リュシアン・バルザークと申します。噂に名高い【死霊使い】(ネクロマンサー)のスキル魔法、拝見させていただきました。不死身の馬とは、実に素晴らしい! 歓迎いたしましょうヴァレリア・アスフォデル殿!」


 堅く閉ざされていた城門が開けられる。

 やったな、まずは第一関門突破だ。

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