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第24話。身体がさらに強化。秘められていた父の息子への想いを知る

『МPが1上昇しました。

 現在の最大МPは33です』


 その時、システムボイスが頭の中に響いた。


 昨日も、ヴァレリアに魔力を供給してもらいながら、ヒールを使いまくる修業をしたおかげで、かなり最大MPが増えていた。


 しかし、まだ俺単独で、魔法を使って帝国軍と戦えるほどじゃない。


 ダラム城攻略作戦の前に、少しでも最大MPを増やしておく必要があった。不測の事態が起きて、ヴァレリアと離れ離れになった際にも、対応できるようにしておかなくちゃな。


「よし、次は魔法の修業だな。この調子で、ガンガン最大МPを上げて行こう。ヴァレリア、頼むぞ」

「ええっ、任せておいてちょうだい」


 今度は、用意してきた小石や魔物の角に【過剰回復】(エクセシブ・ヒール)をぶつけて、次々に砂に変えた。

 倉庫内の資材を、これ以上勝手に潰す訳にはいかないからな。


 本当は生きた魔物相手にもこの魔法を試してみたかったが、俺の力を秘匿するため、野外でそんなマネをする訳にはいかなかった。


 俺たちは人目につかない倉庫で、日が暮れるまで魔法の修業を続けた。


『МPが1上昇しました。

 現在の最大МPは42です』


 順調に修業が進んでいた時だった。


「ゼノン、ゼノンはおるかぁあああッ!」


 父上の怒声が倉庫内に鳴り響いた。

 見れば、完全に怒り心頭の父上──剣聖バルドが入り口に立っていた。


 どうやら、俺の狙い通りの展開になったようだ。

 これはダラム城攻略作戦のために、必要なことだった。


 俺と父上の仲違いが深まっているという噂を領内に流して、俺が帝国軍に偽りの投降をすることに説得力を持たせるのだ。


「父上、どうされましたか?」

「どうされましたか、だと? 勝手にワシの壺を売り払い、その金で、昨晩、ド派手なパーティーを開いたそうだな!」


 父上の前に出ていくと、問答無用で胸倉を掴まれた。


 その通り。ヴァレリアの歓迎会と称して、パーティーを行った。

 かつ、フェリクスを通してワザと父上に、事実とは異なる非常識なパーティー内容を知らせた。


 守備兵たちに大量の酒を振る舞い、俺も羽目を外して酔っ払い、夜通し遊び呆けたといった具合だ。

 これは本城の守りを命じられた者としては、有り得ないことだった。


 実際は、父上の壺を売って得た金の9割は傭兵団を雇うために使った。また、守備兵たちには酔わない程度に、一杯だけ酒を許しただけだ。


「はい、ヴァレリアの機嫌を取れとのご命令でしたので。お気に召されませんでしたか?」


 俺は、皮肉げに笑って不貞腐れた態度を演じた。


「どうせ、俺は外れスキル持ち。戦場では何の役にも立たない存在ですから。後方で、せいぜい女の機嫌でも取っていますよ」

「お前……腐り果ておったか!?」


 父上の鉄拳が、俺の腹にクリーンヒットした。凄まじい衝撃と共に吹っ飛んだ俺は、積み上げられた木材の山に叩きつけられた。


「ゼノン!?」


 悲鳴に近いヴァレリアの声が響く。彼女は憤然と父上に喰ってかかった。


「バルド様、やり過ぎでは……!?」


 気が遠くなるほどの痛みだ。おそらく、全身打撲の上に、あばら骨が数本折れているな。

 しかし、いい感じに、木材が崩れてきて俺の姿を覆い隠してくれた。

 

 これで、スキル【超回復】(オーバーヒール)で、俺の怪我が治るところを父上に見られなくて済む。


 父上の性格からして、鉄拳制裁で、死なない程度に木材に叩きつけられることは予想できていた。


「ふん。多少、手加減はしてやった。ベッドで猛省しておれ!」


 憤懣やるかたなしといった父上の怒声が聞こえる。

 騙して悪いが、これで俺と父上の不和の噂は、領内に確実に広まるだろう。


「お見苦しいところをお見せしましたなヴァレリア殿。明日から、いよいよ戦場に立っていただきたいのですが、よろしいかな?」

「……もちろん、私はこの地に勝利をもたらすためにやって来たのですから」


 ヴァレリアの不快混じりの声に、父上は恐縮した様子だった。


「かたじけない。愚かな息子ではあるが、どうか見捨てないでくださるとありがたい」

「ご心配なく、私はゼノンを愛しておりますわ」

「おおっ、なんとありがたい! ヴァレリア殿は、ゼノンなどにはもったいないくらいよく出来た嫁御だ!」


 ヴァレリアに対して、父上は深く腰を折って礼を述べていた。


 しかし、『ゼノンを愛しておりますわ』なんて言葉を耳にすると、父上へのリップサービスだとしても胸に来るものがあるな。


「ワシとそなたの父君エルンスト殿は、学生時代からの親友……今回のご助力には、感謝にたえません」

「存じておりますわ。王女であったお母様の愛をかけて決闘までされた仲だったとか?」

「いや、まったくもってお恥ずかしい。【剣聖】のスキルを得て増長し、リディア王女は俺が守るのだと息巻いてエルンスト殿に敗北したのは、今となっては良い思い出です」


 父上は恥ずかしそうに笑った。

 それから、急に声が真剣なトーンになる。


「敗れたワシですが……その時、お母君に『いずれ俺は、この国を守れる最強の剣士になって見せる』と誓いました。エルンスト殿は、『ならば私は最強の将となって王国を守って見せる』と、ワシに負けじと誓いを立てました。あの時の誓いがあった故に、ワシは最強の剣士にして猛将と呼ばれるようになったのです。だからこそ、ゼノンが変わる切っ掛けになればと、ヴァレリア殿との縁談を申し込んだのですが……愛は人を変えますからな」

 

 これにはいささか驚いた。

 今回の俺とヴァレリアの婚約には、そんな背景があったのか?


 【スキル授与式】の場では感情的になっていた父上だが、どうやら俺を見捨てた訳では無かったらしい。


「それにしても、エルンスト殿が育てたシュヴァルツ・リッターが全員毒殺されるとは驚きました。帝国の計略によるものとか?」

「ええっ……ですが、彼らは私の【死霊使い】(ネクロマンサー)スキルによって、より強力な存在に。Aランクのアンデッドに生まれ変わりました。その力はより増大したとお考えになってくださって、良いですわ」


 ヴァレリアは、静かな怒りを秘めた声で応えた。

 聖女アリシアと聖教会が、辺境伯軍を敗北させるべく暗躍しているという事実は、現段階では父上には伝えないことにした。


 まだ父上たちを納得させられる確実な証拠や、手柄を立てていない状況でこれを伝えるのは、大きなマイナスの影響があるからだ。


 この辺境伯領にも、聖教会の信者がそれなりにいる。もし彼らに一斉に反発でもされたら、俺たちは不利な状況に追い込まれるだろう。


 それよりもシュヴァルツ・リッターの全滅は帝国軍の仕業にしておいた方が、辺境伯軍は帝国憎しと一致団結して戦える。


「それは頼もしい。彼らの弔い合戦のためにも、帝国軍は叩き潰させねばなりませんな」

「……はい」


 ヴァレリアは口惜しそうだったが、今はまだ聖女アリシアの罪を糾弾する時ではない。


「……我が家臣たちを卑劣にも毒殺した仇敵には、必ず報いを受けさせますわ」

「うむ。共に帝国軍に目に物見せてやりましょうぞ。ただ念のため申しておきますが、前衛は我らに任せ、ヴァレリア殿は安全な後方から我らを援護してくだされ。【死霊使い】(ネクロマンサー)とは、後方支援に特化した魔法系スキルであるとか? なにより、そなたを死なせたとあっては、お母君──リディア様やエルンスト殿に顔見せできませんからな」

 

 父上はそう言って、豪快に笑って倉庫から去った。

 すると、ヴァレリアがすぐ様、俺の元に駆けつけて来くる。


「ゼノン、大丈夫!?」

「……ああっ、大丈夫だ」


 俺は【過剰回復】(エクセシブ・ヒール)で、身体の上にのしかかる木材を崩壊させた。

 心配そうなヴァレリアと目が合ったので、にっと笑って見せる。


 【超回復】(オーバーヒール)による再生能力のおかげで、怪我はほぼ消えかけていた。


 しかも、全身に怪我をしたことにより、身体がより強靭に作り替えられたのを感じる。


「……これは、作戦成功のための父上からの何よりのプレゼントだな」


 父上の過去と、秘めた気持ちを知ったことで、俺の心は静かに燃えていた。


 愛した姫君との誓いを守るために強くなった父上は、俺も愛を知れば、強く立ち直ってくれると思ったのだろう。

 不器用なりに、俺のことを考えてくれていた訳だ。

 

 ならば父上に見せねばならない。

 俺は怠けていた訳でも、堕落した訳でもなく、すべてはこの地に勝利をもたらすためだったのだということを。


 試しに転がっている全長3メートルのゴーレム兵を掴んでみたら、呆気なく持ち上げることに成功した。

 思った通り、筋力が桁違いに増しているようだ。


「……えっ、ゴーレム兵が!? それは一トン近くはあるんじゃないの?」


 ヴァレリアが、口に手を当てて驚いている。

 さぁ、これで敵城への侵入作戦の準備は整った。


「よし、明日の夜、いよいよ、この地を救うための決戦開始だ!」

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