第23話。おい、新魔法【過剰回復】の攻撃力が、剣聖を上回っているんだが?
次の日の昼──
本城の倉庫にやって来ると、そこはバルザーク帝国のゴーレム兵の残骸で埋め尽くされていた。
俺はヴァレリアと共に、金属の亡骸が転がる倉庫内を歩く。
「……これが帝国のゴーレム兵? 実物は初めて見るわ」
ヴァレリアは実に興味深そうだった。
「コイツらの物理防御力はかなりのモノなんだ。戦闘スキル持ちでも、その装甲を破るのは難しい……なんといっても俺たちグレイヴァン辺境伯軍対策のために、レティシア皇女によって開発された代物だからな」
3メートル近いゴーレム兵の巨体は、特殊合金『ダマスカス鋼』で造られている。
ダマスカス鋼は非常に硬く、武器や防具の材料として極上だった。そんなゴーレム兵は、俺たちの装備として工房で生まれ変わるために、この倉庫に運び込まれていた。
「なるほど。剣術に至上の価値を置く辺境伯軍との相性は、最悪という訳ね。でも、同じダマスカス鋼の武器を使えば、装甲を斬れるということ?」
さすが、ヴァレリアはすぐに事情を察してくれた。
「その通り。だけど、ゴーレム兵対策はもう1つある。魔法を使うことだ」
俺はゴーレム兵の残骸に右手を当てて、精神を集中した。
こいつらの魔法防御力は、せいぜい並といったところだ。
父上が今になって、ヴァレリアやシュヴァルツ・リッターのような非凡な魔法使いに協力を求めたのは、おそらく、そのことに気付いたからだ。
ゴーレム兵に前衛を任せ、後衛の魔法使いたちが攻撃魔法を放つというのが、帝国軍の基本戦術だ。
まれに誤射で、ゴーレム兵の背を撃つ事故も起こる。
「【過剰回復】!」
俺の右手が発光する。
この倉庫にやってきた目的は、俺が新たに覚えた攻撃魔法【過剰回復】が、ゴーレム兵にどの程度、通用するか試すためだ。
射程距離、発動速度なども検証して知っておく必要がある。
【過剰回復】は名前からして、生物にしか通用しなさそうな気がするが、果たして……
固唾を飲んで見守ると、ゴーレム兵の装甲がボロボロと砂のように崩れた。その胸に、すぐ後の壁が覗けるくらいの大穴が開く。
「おっ、おお……!?」
予想外の破壊力に、思わず感動してしまった。
「これは……ダマスカス鋼を腐食させて破壊したの? まさか、ここまでの大穴を開けてしまうなんて……」
ヴァレリアも驚嘆の面持ちで、風通しの良くなったゴーレム兵を見つめた。
「やった。やったな! 射程距離は短いけど、コイツは使える魔法だ!」
後ろの壁が傷ついていないことから、有効射程は、せいぜい1メートルくらいであることがわかった。
だが接近戦で使う魔法なら、剣士の俺にとっては、相性が良い。
物理攻撃が効きにくい敵に対してだけでなく、武器が壊れた時にも重宝するだろう。
ゲーム未登場のこの魔法が、かなり有用なことがわかって、テンションが爆上がりだった。
なにより、これはリュシアン皇子暗殺に使う予定の魔法だからな。
帝国軍に投降して捕虜になったら、武器はすべて取り上げられる。
【過剰回復】が低威力だったら、素手で仕留めることを考えねばならなかった。
「……じゃ、じゃあ、次は魔力供給を受けた状態での発動を試してみるべきね」
ヴァレリアが右手を差し出してくる。
「あなたの【過剰回復】は、込めるМPが大きければ大きいほど威力を発揮するタイプでしょう?」
「ああっ、そうだな……」
国宝級美少女のヴァレリアと手を繋ぐのは、未だに慣れなくてドギマギする。
ラブラブ演出のために、もう2度も同じベッドで寝た仲なのにな。
俺とヴァレリアは、駆け落ちして帝国に寝返ったという筋書きのために、相思相愛の夫婦をみんなの前で演じていた。
「あっ……」
手を繋ぐと、ヴァレリアの顔がリンゴのように赤く染まった。
……えっ、な、何、この初々しい反応?
まさか、ヴァレリアも俺を異性として意識して、緊張しているなんてことは無い筈だよな?
昨日は、ベッドの中で『私とキスしたくないなんて許せないわ!』とか、かなり恥ずかしいこと言っていた癖に。
無論、俺はキスだけは断固拒否した。
聞けば、ヴァレリアはファーストキスはまだとのことだった。
いくら帝国軍に勝つための演技でも、そんな彼女の唇を奪うのは気が引けた。
ヴァレリアは唇を尖らせて不満そうだったが……
俺は昨晩、ずっとベッドの中で彼女に背を向けて耐えた。
そうしなければ、理性が吹っ飛んでしまいそうだった。
フェリクスの奴が、ヴァレリアに身体のラインがくっきり見える透け透けのネグリジェを着せて、『お嬢様、ファイトでございますぞ!』と、謎のエールを送っていたからだ。
ヴァレリアは『これで、ゼノンに喜んでもらえるの?』と、こともあろうにソレに乗っかり、直視できないようなエロい格好で、俺と同じベッドに潜り込んできたのだ。
ラブラブの演技とはいえ、やり過ぎにもほどがあった。
しかし、帝国軍を騙すためには、味方をも欺く必要があり、俺は理性の限界にチャレンジさせられる羽目になった。
そのせいか、ヴァレリアのことをより強く異性として意識するようになってしまっていた。
こんな、かわいい娘が俺の婚約者で、ベッドの中でキスをせがんできたら、おかしくなっちまうだろうが!?
「ど、どうしたんだ……?」
「なっ、なんでもないわ。魔力を供給する際に起こる不随意運動のようなものよ」
ヴァレリアは照れたようにソッポを向いた。
はて? 不随意運動とは、自分の意思とは無関係に体が勝手に動いてしまう現象のことだが……
「そんなことが、起こるものなのか?」
「た、たまにそういう体質の者もいて、私はそうなのよ!」
ヴァレリアはなぜか、ムキになって叫んだ。
それから、うつむいて、ボソッとつぶやく。
「……うっ、意識しすぎて、変に……」
「えっ、なんだって?」
「なっ、なんでも無いわ! さっ、早く検証を行いましょう。貴重な時間を無駄にはできないわ!」
「そ、そうだな!」
ヴァレリアは、婚約者として俺を真剣に助けようとしてくれていた。
ラブラブ演技だけでなく、身に着けていたネックレスや指輪を売って、傭兵を1人でも多く雇うための軍資金にしてくれたのだ。
勝利のため、自分にできることは何でもやりたいのだそうだ。
俺の策を信じて、ここまで協力的になってくれるなんて、最高の婚約者じゃないか?
「よし、次の標的はコイツだな」
「これは圧巻の巨体ね。剣聖バルド様が倒したの?」
「そうだ。現在のところ、最強のゴーレム兵だな」
今度は、より巨大な全長5メートルほどのゴーレム兵を対象にすることにする。
父上が剣によって、胸を刺し貫いて撃破した強敵だ。
敵に修理されて再利用されることを防ぐために、数頭の牛を使ってここまで牽引してきた。
「なるほど。装甲に大きな傷がある。剣聖の力でなければ撃破できなかったと……」
ヴァレリアが手を繋いでくれた。
その手を通して、膨大な魔力が一気に注ぎ込まれてくる。
【過剰回復】の発動に必要な消費MPは10だが、これを10倍の100にまで引き上げる。
MPの消費量と威力は比例する筈だが、果たして……
「【過剰回復】!」
ドシャアアアアッ!
巨大ゴーレムが、一瞬で砂粒と化して完全崩壊した。
「こ、これは、すごい……」
俺はそれ以上の言葉を出せなかった。
巨大モンスターも一撃で即死させられる魔法じゃないか。
とはいえ、接近戦専用で、かつヴァレリアからの魔力供給を受ける前提となると、使う場面は限られてしまうが……
使いどころを考えていると、隣でヴァレリアが肝を潰していた。
「……ま、まるで、神の怒りによって塩に変えられてしまったロトの妻みたいね」
彼女が引用しているのは、聖書の物語の一節だった。
ゲーム開発者が、キリスト教の旧約聖書を元ネタにしていたため、転生前の地球にあった聖書と共通点が多い。
聖教会もそうだが、この世界の宗教は、すべてこの聖書を元にして派生している。
「神の怒りって、そんな大袈裟な代物じゃないと思うが……」
「なにを言ってるの?」
ヴァレリアは呆れ顔になった。
「まず間違いなく、【過剰回復】の威力は、剣聖の攻撃力を上回っているわよ!」
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