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第22話。ヴァレリア視点。聖女を断罪する策を実行する

【公爵令嬢ヴァレリア視点】


 私はアスフォデル公爵の娘ヴァレリア。

 その日の午後、私はグレイヴァン辺境伯家の書斎で、喜び勇んでお父様への手紙を書いていた。


 内容は、婚約者ゼノンのおかげで、私の潔白が証明できる算段が整ったので、ぜひ協力して欲しいということよ。


 お父様に、一分一秒でも早くこのことをお伝えしたいと、気が急いてしまう。

 通信魔法が使えれば、手紙など書く必要は無いのだけど……


 このグレイヴァン辺境伯家では、通信魔法の使い手は、当主である剣聖バルド様が手元に置いている1人だけだった。

 さすがに、戦時中にそんな貴重な人材を借り受ける訳にはいかないわ。


 それにこれは、ゼノンが考えた聖教会を罠に嵌める策でもある。

 

『……ご報告は以上となります。


●追伸

 私はゼノンのおかげで命を救われました。彼とお引き合わせてくださったこと、心より感謝致します。ゼノンは我が夫となるにふさわしい殿方です。どこが素晴らしいかというと、まず、一見無鉄砲に思えて実は思慮深く』

 

 追伸で、お父様への感謝を述べようとしたら、ついゼノンの話ばかりを書き連ねてしまった。


「……あっ、こ、これじゃ、まるで惚気話だわ」


 思わず頬が、カッと熱くなるのを感じてしまう。

 

 15年間生きていて、ここまで心が掻き乱される男性に会ったのは、初めてよ。


 幼くしてハロルド王太子殿下の婚約者となった私は、殿下を支えるために、あらゆる知識、教養、魔法を身に着けるべく努力を重ねてきた。


 でも、そんな私を嘲笑うかのように、ハロルド殿下からは、常に冷めた視線を向けられ続けた。


 王国のため、親同士の決めたことだから、仕方なく最低限の付き合いをしてやっているだけ、というのが、殿下の態度からありありと透けて窺えた。

 

 だけどゼノンは、全くの真逆だった。

 私を救うために、命を賭けるという火のような熱い情熱を、出会った瞬間にぶつけられた。

 それは、全身が痺れるほどの凄まじい衝撃だった。


 なにより、領地を守るために、死地に率先して赴くという気高い精神は、まさにお父様が常々理想として語っていた【高貴なる義務】ノブレス・オブリージュの体現者と言えるわ。


「はっ……!? き、気づいたら、またゼノンのことばかり書いてしまっていたわ」


 またやってしまったと、手紙をクシャクシャに丸めて、最初から書き直すことにする。

 ゼノンのことばかり考えて、ちょっとおかしくなってしまっているわ。気を引き締めなくては……


 いそいそとペンを走らせ、私に濡れ衣を着せたのは聖教会に所属するギデオンという名の【死霊使い】(ネクロマンサー)であること。


 その者こそ、ハロルド殿下の暗殺未遂事件の実行犯であること。つい最近まで、王宮に出入りしていた者であろうから、その線からギデオンの調査をして欲しいと、書き綴る。


 この手紙は、聖教会の工作員に奪われても良い前提で書いており、敵に知られても問題無い情報しか載せなかった。

 この手紙は、聖教会の工作員を誘き寄せるためのいわば釣り餌ね。


「よし、今度こそ完成ね。では……」


 私は呪文を詠唱し、シュヴァルツ・リッターの1人である【死霊騎士】(デスナイト)ゴードンを召喚した。


「さあ、ゴードン。この手紙をお父様に送り届けるのよ」


 ゴードンが片膝をつき、恭しく封筒を受け取った。


 彼に渡した封筒は、アスフォデル公爵家の家紋入り封蝋を押した立派なものよ。これはゴードンが、たとえアンデッドであっても、我が公爵家の使者であることを証明する物だわ。


「あ、あのヴァレリア様……本当に、その者は襲っては来ないのですよね?」


 背後に控えさせていたメイドたちがゴードンの威容を目の当たりにして、恐怖で震えていた。


 まあ、この反応は致し方ないわね。

 私にとっては大事な家臣でも、デスナイトは人間の天敵であるAランクの魔物ですもの。


「……大丈夫よ。安心して、彼に偽装を施してちょうだい」

「は、はい! わかりました。これもゼノン様の恩義に報いるためです!」

 

 メイドたちは、決死の覚悟でゴードンに近寄った。デスナイトの薄汚れた鎧兜を磨いて綺麗にし、干からびた顔が生者に見えるように厚めの化粧をする。


 メイドたちはゼノンを心から慕っていた。

 ゼノンはどうやら城の使用人たちに普段から温かい言葉をかけ、親切に接しているようだった。


 身分の低い者に対して傲慢に振る舞う貴族が多い中、これは驚嘆すべきことだったわ。


「ありがとう。見事な手際ね。これなら生きた人間に見えるわ」

「お、お褒めに預かり、光栄です。ヴァレリア様!」


 私もゼノンを見習って、やさしい言葉をかけてあげると、メイドたちは目を輝かせて喜んだ。


 ……こ、これは、これで悪くないのものね。


 王宮で過ごしていた時は、自分にも他人にも厳しく接するのが正しいことだと信じて疑わなかった。


 でも、ゼノンの振る舞いを見て、もしかして違うのでは? と、考えるようになっていた。


 そういえば、ハロルド殿下からは、『ヴァレリアの言うことは正しいけど、思い遣りに欠ける。君といると息が詰まる』と、険しい顔で言われたことを思い出す。


 殿下の心が、聖女アリシアに傾いたのも、私が誇り高くあろうとするあまり、知らず知らずに周囲に威圧感を与えていたからなのかも知れないわ。


 ……だとしたら、ゼノンに嫌われないように、これからは言動に気を付けた方が良いかもね。


「さて、ゴードン。あなたは主要な都市を通って、なるべく目立つように旅するのよ。アスフォデル公爵の使者として黒薔薇の剣を掲げ、夜は高級宿屋に泊まりなさい」

『はっ。お任せください、ヴァレリア様。我が身に代えましても必ず成し遂げてご覧に入れます』


 ゴードンの力強い忠義の声が、私の心に響いてくる。


 【死霊使い】(ネクロマンサー)と、【死霊使い】(ネクロマンサー)に使役されるアンデッドは、お互いの精神が繋がっているため、離れていても意思疎通が可能だった。


 つまり、あの【魂喰い】(ソールイーター)の見聞きした情報は敵の【死霊使い】(ネクロマンサー)に筒抜けになっていた。


 これを利用して、ゼノンは敵の行動をコントロールする情報をソールイーターを通して、流したのよ。


『アスフォデル公爵に手紙を送って、協力を要請する。俺はお前の主人の名前と、その居場所に心当たりがあるからな。1ヶ月もあれば牢獄にぶち込めるぞ』


 とね。

 慌てた聖教会と聖女アリシアは、これを妨害するため、お父様への使者を襲って、手紙を奪おうとしてくるというのが、ゼノンの見立てだった。


 なにより、聖教会はゼノンの掴んでいる情報の真偽を確かめたいと思う筈……


 その刺客を捕らえれば、逆に聖教会の罪を糾弾し、私の身の潔白を証明することに繋がるわ。


「まったく、こんな策をあの場で思いつくなんて、さすがはゼノンね」


 私はもう一通、手紙をしたためる。


 内容は、さきほどの内容に加えて、アスフォデル公爵家の忠実な家臣であるゴードンが、刺客を捕らえてそちらに向かうので、刺客を尋問して聖教会の陰謀を暴いて欲しいというものよ。 


 デスナイトは睡眠の必要が無く、疲労も感じないため、その気になれば昼夜関係なく全力疾走することによって、すぐにお父様の元に刺客を送り届けられるわ。


 さらに私を陥れた敵の【死霊使い】(ネクロマンサー)、ギデオンの潜伏場所も書き記した。


 王都近郊の打ち捨てられた廃教会に、秘密の地下室があるらしく、ギデオンはそこに身を隠しているらしい。


 これはゼノンが教えてくれたことだけど……

 彼がなぜ、そんな聖教会の機密中の機密を知っているのかは、さすがに疑問だった。


 ただ、ゼノンによると、今回の戦争で王国が負けるように裏で糸を引いているのが聖教会であり、なるべく早くこのことをお父様のお耳に入れるべきとのことだった。


 幸いにしてアスフォデル公爵家には、スキル能力によって、拷問を加えた相手の口を割らせることができる拷問官がいる。


 その者のスキル【拷問官】によって自白させられた内容は、100%正しかった。

 刺客やギデオンを捕らえて情報を吐かせれば、芋づる式で聖女アリシアに繋がり、彼女の罪を糾弾できる筈よ。


 そうすれば、ガウェインたちの仇を討つことができる……

 彼らを毒殺し、王国の民たちを戦火に晒そうという聖女アリシアだけは、決して許しておくことはできないわ。


 私は飛行能力を持つアンデッドモンスター、【骨鳥】(スケルトンバード)を召喚した。骨しか残っていない動く鳥の死体よ。


「さっ、これをお父様に届けるのよ。大急ぎでね」


 骨格だけの鳥が、カタカタと喉を鳴らして頷く。

 その剥き出しの肋骨に、私は落ちないよう固く手紙を括り付けた。


 スケルトンバードは一声大きくいななくと、窓から飛び出して行った。

 1日もあれば、南部で魔物討伐任務中のお父様に、手紙が届くわ。


 これで、もし万が一、ゴードンが手紙を刺客に奪われることがあっても大丈夫。【死霊使い】(ネクロマンサー)ギデオンを油断させて、捕らえることが容易になるという二重の策よ。


「……ふぅ」


 召喚したアンデッドたちに生命力を吸われた私は軽い疲労を覚えて、椅子に深く腰掛ける。

 生まれつき心臓が弱く、生命力に乏しい私にとって、命を削られるこの感覚は、少々キツイものがあるわ。


「ヴァレリア様、大丈夫でございますか!?」

「ええっ、問題ないわ。悪いけど、ゼノンを呼んできてちょうだい」


 心配したメイドたちに、私は微笑んだ。

 ゼノンの【癒しの奇跡】で回復してもらえれば、特に問題無い。


「ゼノンに出会わなければ、私は聖教会の陰謀に気づくことなく……間違いなくこの地で死んでいたでしょうね」


 窓枠越しに、どこまでも澄み渡る快晴の空を見上げた。


 この空の下には、星の数ほどの人間が生きている。


 その中で、ゼノンと出会えたこと。それは偶然などではなく、運命、あるいは神様の思し召しとしか思えなかった。


「ありがとう、ゼノン。私のすべての力を尽くして、必ずあなたに勝利を捧げてみせるわ」


 私は静かに誓うのだった。

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