第20話。ゲーム知識で、帝国軍相手に大逆転の作戦を立てる
「ゼノン坊ちゃま……あ、あのソールイーターを撃破されたのですか!?」
血の匂いと魔力の残滓が漂う中、駆け込んできたフェリクスと守備兵らが目を剥いた。
ヴァレリアのアンデッドたちが廊下を塞いでいたため、彼らは近づいて来れなかったが、ヴァレリアが配下の召喚をすべて解いたのだ。
「ご覧の通りよ、フェリクス」
鼻を鳴らして、ヴァレリアが誇らしげに答えた。
「ゼノンの【癒しの奇跡】は、アンデッドの天敵でもあるのよ。それで勝つことができたわ」
あまりのことにフェリクスたちは言葉が出ない様子だった。
「ま、まさか、Sランクの魔物に勝ってしまわれるとは……さすがは坊ちゃま! このフェリクス、感無量でございます!」
「いや、俺一人の力で勝った訳じゃない」
俺はフェリクスを静かに見つめた。
「俺がこの力が使えるようになったのは、ヴァレリアの協力だけじゃなく、フェリクスや食堂のおっちゃんたちの応援があったからだ」
父上は俺を見限ったが、フェリクスやこの城の使用人たちは、俺を見捨てなかった。
それが、どれだけ心の支えになったことか。
だから……
「フェリクスたちが無事で本当に良かった」
一歩間違えれば、城の全員が皆殺しにされていただろうからな。
今、思い起こしても冷や汗ものだな。
「なっ、なんともったい無きお言葉!」
「ゼノン様は我らの誇りです! し、しかし、【癒しの奇跡】とは……?」
数名の守備兵らは、目の前で起きた出来事をまだ飲み込めていないようだった。
「それについてなんだが……」
「こほんっ」
その時、ヴァレリアが、なにやら意味有りげな咳払いをした。
そこでヴァレリアが、俺から微妙に視線を逸らしているのに気づいた。
あっと、今更ながらに気づいた。
ソールイーターの魔法攻撃を喰らった俺の服は、上半身が穴だらけのボロボロになっていた。
俺は大慌てになる。
ヴァレリアの前で、この半裸に近いような格好はさすがにマズい。
さっきから彼女は顔を赤くして、俺の胸をチラチラ見ているじゃないか?
きっと、貴族にあるまじき醜態とか、呆れているに違いない。
「……フェリクス、俺の代わりの服を大至急、用意してくれ!」
「はっ、すぐにお召し替えの服をご用意いたします!」
フェリクスが、やってきたメイドたちに指示を送る。
彼女たちはお辞儀して一旦、下がった。
「とりあえず、こちらを」
フェリクスが、上着を貸してくれる。
「助かる……それと最大の勝因はヴァレリアが魔力を与えてくれたからだ。魔法使いとして半人前の俺じゃ、とてもソールイーターに対抗できなかった」
「左様でございましたか! ヴァレリアお嬢様、ゼノン坊ちゃまに力をお貸しくださり、厚くお礼申し上げます!」
フェリクスが実直に頭を下げた。
「礼には及ばないわ。私たちは婚約者ですものね」
「おおっ……! も、もしや坊ちゃま、さっそくゴールインをされたのですか!?」
「はぁ……?」
フェリクスが突然、目を輝かせたので、俺は面食らってしまった。
「このフェリクス、坊ちゃまのお子の顔が見れるかと思うと、感動で胸がいっぱいでございます! これで我がグレイヴァン辺境伯家ば安泰でございますな!」
「なっ、なにを勘違いしているんだ。ヴァレリアとは、何もしていない!」
フェリクスがおかしな事を言ってきたので、全力で否定する。
こいつ、まさかソレを狙って初日から、俺とヴァレリアを同じベッドで寝かせたのか?
「……はて、そうなのですか?」
「ええっ、その通りよ」
ヴァレリアは呆れ気味に肩をすくめる。
「ただ、何も無かったというのは違うわね。私はゼノンに命を救われ、共に死線を潜り抜けたのよ」
「そういうことだ。それで、ヴァレリアは俺を婚約者と認めてくれたんだ」
「ふふっ、まったく、シュヴァルツ・リッターが束になっても勝てなかった強敵を倒してしまうなんて、末恐ろしい男ね」
ヴァレリアはフェリクスに変な勘違いをされたというのに、気分を害した様子は無かった。むしろ、心なしかうれしそうに見える。
彼女は、弾んだ声で続けた。
「しかも、今回の戦いを通して、最大MPは20を超えたんじゃない?」
「俺への魔力供給を通じて、気づいたのか?」
まさにその通りだった。
俺の最大MPは、さきほどの戦いで21にまで増えていた。
「呆れた成長速度だわ。これで、私に頼らずともヒールを2回使えるようになった訳ね。この調子なら、いずれあなたを中心とした最強の軍団──Sランク級の兵で構成された不死の軍勢ができあがるかもね」
「不死の軍勢かぁ……」
順当に最大MPが増えていけば、俺の回復魔法によって、死者を極力出さずに敵軍に勝つことができるようになるだろう。
実際、ゲームでも、味方の兵を損耗させない立ち回りが、勝利の鍵だったからな。
「現状でも、ヴァレリアが俺に魔力を供給してくれれば、それに近いことができる気がするな。今回も、それで勝てた訳だし」
「そうね。全身穴だらけにされた状態から、一気に怪我を完治させてしまうなんて、聖女以上の回復力だったわ。その上、肉体もパワーアップしてしまうなんて、反則よね」
「す、素晴らしい……! それは誠にございますか!?」
フェリクスが大喝采を上げて、詰め寄ってきた。
「ヴァレリアお嬢様の力を借りれば【癒しの奇跡】を連発できると!?」
「わ、我らにもご説明いただけませんか!? ゼノン様が【癒しの奇跡】を使えるというのは……!?」
守備兵らも、詳しい説明を聞きたくてたまらない様子だった。
「要するに、ゼノンの【超回復】は【聖女】の完全上位互換スキルなの。ゼノンが受けた傷は自動で治るし、私が彼に魔力を供給すれば、【癒しの奇跡】が、何十発でも撃てるわ。瀕死の状態からでも復活が可能かつ、再生された肉体は、Sランクモンスターとも渡り合える強さとなるの」
ヴァレリアが俺の代わりに解説して、ふふんと、自慢げに胸を張る。
「どう? すごいでしょう?」
「なっ、なんと!」
「こ、これはトンデモナイ話では、ございませんか……!?」
「ゼノン様がおられれば、我らは帝国軍に勝てる……勝てるぞ!」
「ええっ、その通りよ!」
みんな勝利を確信して、大はしゃぎとなった。
「さっそくお館様にご報告を! 喜んで、坊ちゃまに一軍をお任せいただけるでしょう!」
「いや……」
興奮する彼らを、俺は手で制した。
「今のままじゃ、俺たちは敗北すると思う。聖女アリシアの軍が介入してくるだろうからな」
「……聖女アリシアの軍ですと?」
フェリクスは、キョトンとした。
「手短に説明すると、聖女は王妃になる野望を持っているんだ。そのために、ヴァレリアに罪を被せて殺そうとした。その悪行がバレることを恐れて、聖女自らが軍を率いてこの地にやって来ると思う。父上がそれを受け入れたら、俺たちは内外から攻撃されてお終いだな。聖女の軍は、最悪、飲み水に毒を投げこむと思う。シュヴァルツ・リッターを殺したのと同じ手口だ」
この場にいる全員が絶句した。
聖女アリシアは、とにかく行動力が凄かった。
ゲーム内では、自分の手足となる義勇軍を組織していたし、この世界ではヴァレリアを自分の手で始末しようとした。
アリシアは、ヴァレリアに自分の罪を調子に乗ってしゃべってしまっており、ヴァレリアの暗殺に失敗したのなら、次は間違いなくもっと確実で直接的な行動に出てくるだろう。
おそらく、この世界でも、聖女の義勇軍が誕生するに違いない。
聖女をトップとし、弱き民を帝国軍や魔物の軍勢から守るための正義の軍団だ。ソイツらが、大義名分の元に、この戦いに介入してくる可能性が高いと言えた。
「そ、そんなことが……?」
俺の予想にフェリクスは、信じられないといった顔つきとなった。
「……なるほど、さすがはゼノン、卓見ね。その予想は合っていると思うわ。剣聖バルド様は、王都に援軍要請を出しているもの。それに乗じて、援軍と称して聖女アリシアが、大勢の手の者を率いてやってくるでしょうね」
ヴァレリアは緊張を漲らせて頷く。
「それを許せば、まさに内憂外患。いかにゼノンが強くても、私たちは全滅の危機に瀕すると思うわ。聖女アリシアには聖教会の暗部が付いている。奴らは毒殺といった卑劣な手口や、Sランクモンスターを使うのだしね」
まったくもってその通り。
つまり、ゲームの主人公とラスボスの組織が手を組んで乗り込んで来る訳だ。油断は、少しもできない。
「ヴァレリアの言う通りだ。そこで、俺のスキルの詳細は、味方にも秘密にする。それでこそ、帝国軍相手に大逆転の一手が打てる」
俺は静かに宣言した。
「俺が今、欲しいのは……一軍の指揮権じゃない。全軍の指揮権──グレイヴァン辺境伯軍の総大将の地位だ。父上や武将たちにそれを認めさせる圧倒的な大手柄を、俺たち単独で立てるんだ」
「なっ、なんと……!」
フェリクスは息を飲んだ。
「父上が、聖女アリシアを受け入れてしまったらアウトだからな。援軍要請を出してしまっている以上、父上がアリシアの援軍を突っぱねることは、まずもって考えられない。俺とヴァレリアがいかに父上を説得しようとしても、まだアリシアを有罪と断ずるための証拠が集めきれていないから難しいだろう」
俺が敵の【死霊使い】に対して仕掛けた策が成功すれば、聖女アリシアを罪人として裁くことが可能になり、それで父上を説得することもできるかも知れないが……
時間がかかる策なので、これが間に合うかは賭けだ。
これだけに頼る訳にはいかない。
「なら総大将か、最低でもナンバー2の副将に短期間──1週間程度でなるしかない。それで、アリシアの軍勢の領内への立ち入りを禁止するんだ」
聖女アリシアが今から兵を集めたとして、軍を組織するには、どんなに早くても3日はかかるだろう。
王都からここまで来るのにかかる時間は、馬車で約1週間。強行軍なら5日で来ることも可能だ。
このことから、おそらく聖女アリシアの軍がやってくるタイミングが、帝国軍の総攻撃の時期と重なる。
聖女の軍がやってくるという予想が杞憂であったとしても、ここで大きな一手を打たねば、俺たちが破滅の危機に瀕するのは変わらない。
「い、いや、ゼノン坊っちゃま。いくらなんでも、ソレは……お館様に領主の座を譲れと言っているようなものでございますぞ!」
「……まあ、有り体に言うとその通りだな」
軍の総大将とは、すなわち領主だからな。
しかし、援軍要請をしておきながら、援軍を突っぱねるという横紙破りをするには、そのくらいの地位に付かなければ無理だ。
「ま、まさか……そんな大手柄を立てる秘策が有るというの? 帝国軍は強大よ。しかも手柄を認めさせる相手は、あの剣聖バルド様よ。生半可な戦果では」
「もちろん、ある」
ヴァレリアの疑問に、俺は力強い肯定を返した。
俺にその場の全員の視線が集中した。
そう。このゲームの戦闘パートを極めた『君恋』マスターの俺に、不可能はない。
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