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第2話。聖女を超える力

「はぁ?」


 父上や武将たちの目が点になった。


「……ゼノン、お前、ふざけておるのかぁあああッ!?」

「い、いや、お待ち下さい父上! 聖女しか使えないチート能力──【癒しの奇跡】が、俺にも使えるってことですよ!?」


 ものすごい剣幕で父上に胸ぐらを掴まれて、俺は慌てて説明した。

 父上の怒りはもっともだ。


 まずは、回復魔法がいかに優れた魔法なのか、理解してもらわなくてはならない。


「まさか、聖女様の【癒しの奇跡】が、お前に使えると抜かすのか!? お前は男で、聖女様はすでに降臨されておられるのに!?」

「その通りです!」


 俺は力強く頷いて断言する。

 父上の馬鹿力で首が締まって、めちゃくちゃ苦しかった。


「ならば、今ここで使ってみせよ! できるものならな!」


『おめでとうございます。

【ヒール】の使用が可能になりました』


 その時、俺の頭の中に、魔法の習得を知らせる神の声──システムボイスが鳴り響いた。


 おっ、グッドタイミングだ。

 ゲームと同じで、魔法系スキルを与えられると、それに合った魔法が1つ、修行無しで使えるようになるようだった。


「では、父上の右目を治してごらんに入れます!」

「なにぃッ!?」


 俺は父上の顔に触れ、ヒールの魔法を使うべく、無我夢中で念じた。


 父上は戦で右目を失い、眼帯をつけていた。

 これによって、剣士としての力量を落とし、口惜しい思いをしているのを俺は知っていた。


 この右目を治せば、父上の戦闘能力は大幅にアップする。


 この世界には、数千、ともすれば一万の軍勢に匹敵する文字通りの一騎当千、万夫不当の武人が存在している。父上もそんな稀有な武人の1人。万の軍勢に匹敵する武力の持ち主だ。


 つまり、この目を治すことは、千単位の軍勢を得ることと同じ!

 これで、俺は死ななくて済むかもしれないぞ。


【魔力量】(МP)が0のため、魔法の発動に失敗しました』


 直後、身体を引き裂かれるような激痛が走った。

 あ、あれ……?


「ごはっ!?」


 俺の口から溢れたのは、熱い血の塊だった。


 ……ああっ、クソ、なんてことだ。

 今まで魔法なんて使ったことがなかったから知らなかったが、俺は魔力量──MPがゼロだったらしい。


 MPが枯渇した状態で魔法を使うと必ず失敗し、【生命力】(HP)の半分を失うのだった。


「わ、若……!?」

「大丈夫でございますか!?」


 家臣たちがざわめき、俺に駆け寄ろうとする。

 それを父上が手で制した。


「もう良い。ゼノン、お前に期待したワシがバカだった」


 父上は心底軽蔑した様子で吐き捨てた。


「とんだ外れスキルを引いたようだな……無様極まりない!」


『МPが1上昇しました。МPを増やすには、魔法を使い続けてください』


 激痛の中、俺にとって朗報のシステムボイスが響いた。


 ……い、いや、大丈夫だ、希望はある。

  血反吐を吐き続けようとも魔法を使えば、МPが増えるんだ。


 今は駄目でも、時間をかけて修行をすれば、俺にも【癒しの奇跡】が使えるようになる。


 そうだ。そうすれば、グレイヴァン辺境伯軍は勝てる。

 俺は生き延びることができるぞ!


 そう思った瞬間、俺の脳裏に最悪の記憶が蘇った。

 『君恋』のシナリオ。グレイヴァン辺境伯領の末路だ。


 ……なぁ、ここって、ゲーム序盤で帝国軍によって滅ぼされる土地じゃなかったっけ?


 確か、そこの領主のモブ息子──つまり俺が、外れスキルを授かって、二週間かそこらで、帝国軍の大攻勢が行われるんじゃなかったか!?

 それで父上は討ち取られ、俺は捕らえられて公開処刑で斬首となるんだ。


 お、おい、これはヤバいなんてもんじゃないぞ。


 このままじゃ、100パーセント死ぬじゃないかよ!


 せっかく大好きなゲーム世界に転生して、推しの聖女アリシアに会いに行けると思ったのに、嘘だろう!?


 なんとか、この事実を父上たちに知らせて、対策を講じないと……


「父上、2週間後に敵の大軍が……!」


 血に噎せながら叫んだが、その声は誰にも届かなかった。


「役立たずが。みな行くぞ! 貴重な時間を無駄にしたわ!」

「はっ……!」


 肩を怒らせて神殿から去っていく父上たちの背中が、あまりに遠かった。

 クソッ、最悪の展開だ。


 俺は必死に頭を巡らせた。

 ヒールを使うためのMPは10。


 毎日血反吐を吐きながら、魔法を使い続ければ、2週間前に父上の目を治すことができるМPをギリギリ得られるか?


 そうすれば、運命を変えることも……不可能じゃない筈だ。

 何よりここは俺の生まれ育った土地。今まで俺に良くしてくれた人達が無残に殺されるとしたら、心が痛んだ。


「ゼノン殿、動いてはなりません!」

「すぐに医務室に参りましょう!」


 俺は神官たちに肩を貸されて、医務室のベッドへと運ばれた。


 【超回復】(オーバーヒール)は、最強のスキルに違いない。

 だけど、剣士として生きてきたМPゼロの俺とは、致命的に相性が悪いのか……?


「これは魔力欠乏症か。とにかく安静にさせて、魔力の回復を促進させる薬草を……」

「初動を誤れば命に関わるぞ」

 

 神官たちが、俺を残して薬草を取りに行くべく去っていく。

 そこで俺は、唐突に気づいた。

 

「……うん? い、痛くない?」


 吐血がもう止まっている。

 それどころか、すこぶる体調が良い気がした。


 これは、どういうことだ?

 

「ま、まさか……」

 

 スキル【超回復】(オーバーヒール)。効果は、『回復魔法が使えるようになること。回復効果が高まること』。


 回復効果の高まりとは、回復魔法だけでなく、俺自身の自然治癒力にも適用されているんじゃないのか……?


 スキルは使えば使うほど進化して、その効果を増していく。

 それを思い出した俺は、興奮に身震いした。


 そうだ。聖女アリシアは攻撃力を持たなかったが、俺にはこれまで鍛え抜いてきた剣技がある。


 だとすると、俺は不死身の剣士になれるんじゃないか? 

 МPアップの修業も、ダメージを気にせず、効率的に行うことができる。

 

「相性が悪い……?  いや、違う」

 

 口角が、無意識に吊り上がった。

 回復した俺はベッドから跳ね起きる。


「これ以上ないくらい、最高の相性じゃないか!」


 俺は逆転の道筋をこの手に掴み取っていた。

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