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第19話。ざまぁ回。聖女アリシア、ゼノンの罠に見事にハマる

【聖女アリシア視点】


「まさか、別の聖女が現れたっていうの……?」

「はっ、それが……」

 

 ギデオンの説明を遮って、私は癇癪を爆発させた。


「なら、ソイツもすぐに殺すのよ! 私の地位が脅かされるかも知れないじゃない!?」

「おごっ!?」


 椅子から立ち上がってギデオンを蹴る、蹴る、蹴る。

 ヴァレリア以外にも、私の計画を邪魔する奴が現れるなんて、一体どうなってんの?


「まさか、教皇猊下はソイツを内に取り込もうなんて、言わないわよね!?」


 教皇は自分たちの教えに従えば、神が救いの手を差し伸べてくれると説いていた。


 聖教会への入信を勧める際の謳い文句は、『自分たちの言う通りに子供を育てれば、望みのスキルが神より与えられる』よ。


 もし、望みのスキルが得られなければ、信心が足りなかったと言って、さらにお布施を出させて丸め込めば良いからチョロいものね。


 このペテンに説得力を持たせるために、聖女も聖教会の教えに従った少女の中から選ばれるという体裁を整えようとしていた。


 だから、もう1人の聖女が現れたのなら、教皇は、何が何でもソイツを幹部に迎えようとする筈……!


「い、いえ、教皇猊下のお考えは、わかりませんが……ソールイーターが最後に送ってきた情報によると、その者はヴァレリアの新たなる婚約者ゼノン・グレイヴァンのようです」


 私は耳を疑った。


「そいつは外れスキル持ちじゃなかったの? そもそも聖女スキルは女にしか与えられない筈でしょう?」

「その通りですが。ゼノンに与えられたのは、我ら聖教会も把握していない、未知のスキルのようです」


 ギデオンは苦々しい声を出した。


「ゼノンは肉体の再生能力に加え、高ランクの戦闘系スキル所持者並の身体能力も兼ね備えており……下手をすると、【超回復】(オーバーヒール)とは【聖女】を上回るスキルではないかと、今、聖教会の上層部は大変な騒ぎになっております」

「は、はぁ……?」


「ゼノンは今回の件を通して、王太子暗殺未遂事件の黒幕は、我ら聖教会だと見抜いたようです。しかも、この私の名前と居場所を知っており、手紙でアスフォデル公爵に私の捕縛を依頼すると……」

「……そ、それって最悪じゃないの!?」


 背筋を冷たいものが走り抜けた。


 この私と同じ【癒しの奇跡】の使い手が、ヴァレリアの新しい婚約者?

 しかも、そいつは聖女を上回るかも知れない未知のスキル所持者……?

 その上、さっそく反撃を仕掛けてきている!?


 まったくもって有り得ないことで、私は激しく混乱した。

 頭を掻きむしった末に、最大の疑問を口にする。


「……だけど、なんでそのゼノンって奴は、あんたの名前と居場所を知っているの? まさか、あんたの知り合いとか?」


 特に気になるのは、ゼノンが王太子暗殺未遂事件の黒幕と実行犯について、見抜いていることだった。


「いえ、奴とは接点などまるでございません。故に、完全にハッタリだとは思いますが……ゼノンは【死霊使い】(ネクロマンサー)が聖教会の暗部におり、王太子暗殺未遂事件は、その者の仕業だと断言するなど……明らかに我らの事情に通じていると思われるフシが有り、捨て置けません」

「まさか、そこまで正確に私たちのことを掴んでいるなんて!?」


 私は唖然とした。


「どこから、情報が漏れた? 辺境貴族の小倅風情がとうやって……?」


 考え込んだけど、情報の出所は見当も付かなかった。

 暗部──特にギデオンに関する情報の秘匿は、徹底されているからよ。


 王太子暗殺未遂事件は、ヴァレリア以外の【死霊使い】(ネクロマンサー)が王宮に出入りしていたことが判明すれば、ヴァレリアに罪を被せることができなくなる。


 そのためギデオンは偽名を使い、顔も経歴も所有スキルも詐称して、私に礼儀作法を教える家庭教師として、王宮に出入りしていた。


 こいつが、【死霊使い】(ネクロマンサー)のスキルを持っているのは、極秘中の極秘。王宮内では、私以外誰も知らない筈だった。


「ゼノンについては、早急に対処せねばなりません。しかし、【癒しの奇跡】はアンデッドの天敵。この私との相性は最悪ですし、ヴァレリアもいるとなると、手出しするのは容易ではないかと」

「……何か手は無いの!? 【癒しの奇跡】の使い手が、王太子を暗殺しようとしたのは聖教会だなんて騒ぎ出したら、厄介なことになるわ!」


 聖教会が、この国での布教を禁じられる程度なら別に構わないけど、最悪、私にまで手が及ぶ危険がある。

 もし、この陰謀に私が関わっていることが判明したら、私は国家反逆罪で処刑されるわ!


「それは……」


 言葉に詰まったギデオンの表情が、天啓を得たかのように晴れた。


「……今、教皇猊下より我がアンデッドを通じて、ご命令がございました」

「教皇猊下から!?」

「はっ、幸いにして今は戦時中。聖女様自らが援軍と称して軍を率いてグレイヴァン辺境伯領に赴き、我ら暗部を使って戦場にてゼノンとヴァレリアを背中からお討ちいただくのが最善の策とのことです」

「そっ……それは妙案だわ!」


 私は歓喜して手を叩いた。


 教皇がゼノンを幹部に取り込むのではなく、抹殺する決断を下したことが、うれしかった。

 なにより、不安を抱えながら、王宮でジッとしているなんて、私の性分には合わない。


「グレイヴァン辺境伯からは援軍要請が届いていたものね。きっと成功するわ! 救世主として、前線で身体を張る私の名声も高まるし! さすがは教皇猊下!」


 真実を知るゼノンとヴァレリアは、私を排除しようとするでしょうけど、奴らの総大将の剣聖バルドは私の──聖女の援軍を喜び、受け容れる筈だわ。


 となれば、ほぼ100パーセント、グレイヴァン辺境伯軍で内輪揉めが起きる。そうなれば敗北の原因を、内輪揉めを起こしたゼノンとヴァレリアのせいにしてしまうことで、私は名声を傷つけずに、計画を遂行できる。


 もっと手っ取り早い手段として、辺境伯領の井戸に毒を投げ込んでやっても良い。


「はっ、援軍が実は敵軍とは、いかに剣聖バルドと言えど見抜けぬでしょう。これで辺境伯軍は予定通り壊滅ですな」

「あはっ! その通りね!」


 安心した私は景気づけに、最高級ワインのコルクを開けた。

 真っ赤なワインをグラスに注いで一気にあおる。


「邪魔者は死に、この国は帝国に蹂躙される! そこに救世主として私がさっそうと登場して大逆転勝利に導く! そうすれば王太子との結婚に反対する者は誰もいなくなって、ハッピーエンドだわ!」

「私は念の為、姿を隠します。確たる証拠が無ければ聖女様を裁くことなど、誰にもできますまい」


「ふんっ、その通り。お前の居場所を知っているなんて、わざわざ知らせてくるなんて、ゼノンという男はクソバカね」

「はっ、おおかた我らを動揺させようとでもしたのでしょうが、無駄なことです」


 実は聖教会には、ごくひと握りの幹部しか知らない秘密の隠れ家があるのよ。

 そこにギデオンが隠れてしまえば、王太子暗殺未遂事件の実行犯は見つからず、ヴァレリアの罪が晴れることはない。


 たとえ、ゼノンがどんな情報網を持っていようと、アスフォデル公爵家の力を借りようと、ギデオンを見つけ出すのは不可能よ。


 私がヴァレリアを襲って護衛を全滅させた罪も、私と対立して流刑に処されたヴァレリアが騒いだところで、誰も取り合いやしない。


 【癒しの奇跡】の使い手であるゼノンが騒げば別でしょうけど、今から速攻で潰してしまえば、問題無いわ。


 聖教会の者たちを使って、さっそく私の手足となる軍勢を用意しましょう。聖女をトップに頂く正義の軍勢よ。


 ……ふふっ、これで、この私の未来の王妃の座は安泰ね。


「それから暗部を使って、ゼノンからアスフォデル公爵への使者を襲い、手紙を奪わせます。この私の名前を知っているなどハッタリだとは思いますが……これでゼノンがどこまで我らのことを掴んでいるか判明する筈です」

「任せるわ。アスフォデル公爵に介入されるのは危険だしね」

「はっ」


「ぶはっ。笑いが止まらないわ。私は神に選ばれし、聖女アリシア! そうよ、世界は私を中心に回っているのよ! 今までも、そしてこれからも!」


 私はワインを飲んで大笑いした。


 まさか、この時、すでにゼノンの罠にハマっていたなど、想像の埒外だった。

 ゼノンが聖教会の隠れ家の場所を知っており、ギデオンがそこに誘導されたなんて、私たちは知る由もなかった。


 さらにはゼノンが、私たちの打つ手を正確に予想していることも。


 ましてや、ゼノンのスキルが、聖女を上回っているどころか、人類史上最強だなどとは微塵も思っていなかった。

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