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第18話。ざまぁ回。聖女アリシア、ヴァレリア暗殺計画が失敗し、ゼノンのスキルを知って大ピンチとなる

【聖女アリシア視点】


「ハロルド様ぁ〜! 孤児院への寄付ありがとうございますぅ!」


 その夜、私──聖女アリシアは思い切り甘ったるい声を出して、王太子のハロルドに抱き着いた。


 シャンデリアが輝く王宮の廊下での出来事だった。


 孤児院にいた貧乏臭い少年たちとは、まるで異なるきらびやかなイケメン王子。私が権力を得るための大切な駒。

 あのいけ好かないヴァレリアを蹴落として、ついに私は王太子の一番のお気に入りの座に付くことができたのよ。


 ふははっ、内心、笑いがこみ上げてきちゃうわね。


「これくらいのお安い御用さ。君の笑顔が見られるならね」


 ハロルドは爽やかに笑って、私の頭を撫でた。


「なにより、アリシアのおかげで、僕はこの国にいかに孤児が多いか思い知った。彼らにまともな教育を受けさせ、生活を支援することは王太子として当然の義務だと思う」

「ご立派です、ハロルド様ぁ!」


 私は思い切りかわいこぶって、上目遣いで彼を見上げる。


 まっ、せっかく支援してあげても、孤児たちの4分の1くらいは聖教会のために暗躍する工作員にされちゃうんだけどね。


 シュヴァルツ・リッター80名を毒殺するのに加担した暗殺者らは、そうやって育てられたと知ったら、世間知らずのハロルドは、どう思うかな?


 何を隠そう、この私も元々は、ハニートラップ用の工作員として育てられていた。

 だから、男性の気を引く言動はお手の物。


 ハロルドの好みの女の子を研究して、演じきっていた。

 天真爛漫で心の優しい聖女が好きって、ぷぷっ、王太子様ってば、女子に夢を見すぎだわ。


 この調子で、ハロルドをメロメロにして、王妃の座を射止めてやるのよ。

 聖教会のためなんかじゃなく、この私の幸せのためにね。


 豊かに育った自慢の胸を、ハロルドの腕に押し付けると、彼は照れたようにソッポを向いた。そして、真面目腐った口調で語り出す。


「そ、そうだ……聖教会からの報告にあった南部で大発生した魔物は、アスフォデル公爵率いる王国軍がすでに掃討を開始してくれている。ヴァレリアが僕の命を狙った負い目があるから、公爵はすぐに動いてくれて助かったよ」

「わぁ! これで、みんな安心して暮らせますね!」


 その魔物の大発生は、実は聖教会の工作員によるものなんだけどね。


 魔物の大好物の人間の死体を、わざわざ墓地を掘り起こしてばら撒いてやったのよ。それで魔物は短期間で、数が爆増した。


 すべてはアスフォデル公爵と王国軍を南に釘付けにして、バルザーク帝国軍による王国侵略を成功させるため。


「剣聖バルドから帝国軍に苦戦しているとの報告が入っているけど……懲罰も兼ねてヴァレリアと精鋭騎士団を援軍として送り込んだんだ。そちらも、まず問題無いだろう」

「はい!」


 その援軍は、私が全滅させてやったから、問題大有りだけどね。


 王家は剣聖バルドの力を過信しすぎなのよ。

 それに帝国の新兵器についても、甘く見過ぎていた。


 まっ、辺境からの情報によると、その剣聖バルドも、息子が【剣聖】のスキルを得るだろうと高を括って、外れスキルを得たものだから、滑稽にも大慌て。ヴァレリアとシュヴァルツ・リッターの戦力を当てにしている始末だった。


 何もかも、私の思い通りで、笑いがこみ上げて来るわ。

 南部では、かなりの人が魔物に殺されて、聖女による救済を求める声が高まってきている。


 あとは、帝国の侵略で滅亡の危機に瀕したこの国を、私が救世主として救ってあげるだけ。


 くふふっ、お膳立ては順調ね。


「ヴァレリア様が心配ですよね。私は、彼女のことを思うと心配で心配で……食事が喉を通りません」

「ア、アリシア! 君は、ヴァレリアからさんざんひどい目に遭わされたというにの、なんて心が清らかなんだ!?」


 ハロルドは、チョロいにも程があった。

 王様も、私が病気をチョチョイと【癒しの奇跡】で治してあげたら、私をいたく気に入ってくれたし、チョロい親子ね。


 ぷっ、まあ、その王様の病気も、侍女として王宮に潜り込んだ工作員が、バレないように希釈した毒を食事に混ぜ続けた結果なんだけど。


「それで、ハロルド様ぁ。今夜は一緒にいて欲しいなぁ。なんて」

「な、なんだって……!」


 私がしなだれかかると、ハロルドはゴクリと唾を飲み込んだ。


「実は、すっごく美味しいワインを、孤児院の兄弟たちが、なけなしのお金を出し合ってハロルド様にお礼ですって、プレゼントしてくれたんです。よろしかったら一緒に飲みませんか?」

「な、なんて健気な……もちろん喜んで」

「やったぁ〜!」


 これで今夜、酒に酔ったハロルドを落として、私との婚約を約束させてしまえば……


「聖女様、お耳に入れたきことが」


 気分が最高潮になっていたところを、無粋な声が水を差した。

 見れば廊下の片隅から、聖教会の暗部に属する老【死霊使い】(ネクロマンサー)ギデオンが、私に手招きしていた。


「ちっ……」


 思わず舌打ちが漏れた。

 ギデオンには、Sランクのアンデッドを使ってヴァレリアを取り殺すように命じていた。


 私の顔に傷を付けたあの女が、苦しみ抜いた末に帝国軍に無様に敗れるように仕組んでやったのだけど、何か問題が起きたのかしら?


「アリシア……?」

「な、なんでもありませんハロルド様。どうも、ちょっと孤児院で問題が起きたみたいなので、失礼しますね!」


 私は満面の笑みを浮かべて、断腸の思いでハロルドの前を去った。

 それから、ギデオンの話を聞くべく、自室に移動する。


「……んで、なに? もし、くだらない話だったら、ぶっ殺してやるからね」


 私は清らかな聖女の仮面をかなぐり捨て、足を組んで座った。


「ご歓談中、申し訳ございませんでした。実は、ヴァレリアに取り憑かせていたソールイーターが討たれました。ヴァレリア暗殺計画は失敗です」

「はぁ……?」


 気分直しに最高級ワインを開けようとした私は、あまりのことに硬直した。報告の意味が頭に浸透するにつれて、怒りがこみ上げてくる。


 私は手にしたワイングラスを、ギデオンの禿頭に思い切り叩きつけた。


「何が聖教会、随一の殺し屋よ! あんな小娘一匹殺せないなんて、聞いて呆れるわね!」

「……お許しください聖女様」


 ギデオンは、そのシワだらけの顔をわずかにしかめて、腰を折った。


「あーあっ! せっかくの気分が台無しだわ! ヴァレリアが、辺境で手柄を立てるようなことがあったら最悪だって、わかってんの!?」

「はっ、し、しかし……あの小娘に絶望を味合わせ、なるべく苦しめて殺せとおっしゃったのは、聖女様では?」


 その一言に、カッチーンと来た。


「私のせいだって言うの!?」

「いえ、決してそのような。ただ、できれば、これならは教皇様のご命令通りに」


 へぇ~。なるほどね。

 聖教会のトップである教皇から、ヴァレリアは辺境にたどり着く前に殺せと指示されていた。

 それを私の一存で変更したことが、教皇は気に食わないってわけね。


「うがぁッ!?」


 私は手にしたワインボトルで、ギデオンの頭を思い切り殴りつけた。

 ボトルが派手に割れて、ワインと老人の血が混じった赤い液体が、絨毯にぶち撒けられる。


 さらに、私は割れて鋭利な凶器と化したボトルで、ギデオンの首を突き刺した。


「くだらない話なら殺してやるって、最初に言ったわよね? あんたが無能だから、失敗したんでしょうが!?」


 ドカンッと、大きな音を立てて、ギデオンが床に倒れる。


「ヒール」


 私はギデオンに【癒しの奇跡】をかけた。

 傷が治って復活したギデオンは、自らの血によって咽る。


「ごほ! ごほ……っ!」

「お礼はどうしたの? 『生きる価値の無いゴミカス以下の私めに偉大なる【癒しの奇跡】をお与えいただき感謝いたします、聖女様』でしょう?」


「は、はっ! 申し訳ございません。『生きる価値の無いゴミカス以下の私めに偉大なる【癒しの奇跡】をお与えいただき感謝いたします、聖女様』」


 ギデオンは慌てて平伏して、額を床に擦りつけた。


 聖女である私は、教皇に次ぐ聖教会のナンバー2。聖女は神に選ばれし救世主だと、聖教会ではされていた。そのため、ギデオンは私に絶対服従だった。


 ギデオンの無様な姿を見て、私の心が少しだけ晴れた。


 ハロルドの前では、ずっと天真爛漫の良い子ちゃんを演じていたから、かなりの鬱憤が溜まっていた。


 だから、こうやって本来の自分を解放して、立場の弱い者に当たり散らすと、得も言われる快感に満たされた。

 あはっ、権力って最高だわ。


「私は聖教会が勢力を伸ばせるよう、骨を折ってやってんのよ! その私に対して、敬意と感謝が足りないわ! もっと私を崇め、敬いなさい! 聖女の言葉は神の言葉よぉッ!」


 私はギデオンの頭を、土足で力いっぱい踏みつけ、床に叩きつけた。


「ごふっ!?」

「潰れた蛙みたいな声ね。聞き苦しいわ」


 冷たく言い放ち、さらにグリグリと力を込める。


「私が求めているのは結果だけ。さっさと、ヴァレリアの首を取って来なさい!」

「はっ……!」

「ああっ、イライラする! 万が一にもハロルドを暗殺しようとしたのはお前であって、ヴァレリアではないことがバレたら、お終いよ!」


 ヴァレリアの前で調子に乗って、自分の悪事をペラペラしゃべってしまったのは、今考えると、痛恨のミスだった。


 あの女には、なんとしても消えてもらわなければならないわ。


 なにしろ、アスフォデル公爵の権威は絶大で、孤児院出身の私への風当たりは、未だに強いのだから。


 下手をすれば、私とヴァレリアの立場は簡単にひっくり返る。未来の王妃から大罪人へ。まさに天国から地獄へ、真っ逆さまよ。


「ちくしょぉおおおッ! この私の方が、あの女より美貌もスキル能力も上回っているのに!? 公爵令嬢ってだけで、周りからチヤホヤされるなんて!?」


 私は親指の爪を強く噛んだ。


 ハロルドは、『今まで王宮の仕事がうまく回っていたのは、ヴァレリアのおかげだったのか』なんて。今になってあの女を評価し出すようなことを言い出し始めていた。


 私は猫を被って、ハロルドに調子を合わせてやってるけど……

 貴族社会にコネが無いどころか、貴族たちから反感を買っている平民の私に、ヴァレリアのように、王太子の仕事を補佐することなどできやしない。


「目障りなゴミ女がぁッ! 殺す、殺す、殺すぅうううッ!」


 私はギデオンを何度も踏みつけて、憂さを晴らす。


「ごぁッ!? お、おやめください! まだご報告には続きがございます!」

「はぁ? だったら、ささっと言いなさいよ!」


 私は鼻を鳴らして、再び椅子にドカッと腰掛けた。

 ギデオンは、恐る恐るといった様子で口を開く。

 

「た、大変、申し上げにくいことなのですが。どうか、お心を鎮めてお聞きください。どうやら、恐るべき魔法の使い手が──聖女様と同じ【癒しの奇跡】の使い手が、ヴァレリアを守護しているようです。ソールイーターは、その者によって討たれました」

「はぁっ……?」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。


 【癒しの奇跡】は聖女しか使うことを許されない神の御業。

 その力は、国家の趨勢さえ左右すると言われている。


 もし、私以外に【癒やしの奇跡】の使い手が現れたのなら一大事どころじゃない。

 下手をすれば、ソイツに救世主の座を奪われる!?

 こ、この私が、救世主となる計画がパーになるかも知れないじゃないの!?

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