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第13話。ヒールで悪役令嬢を救い、聖女の手下に大ダメージを与える

「なっ……」


 突然の告白に、俺は戸惑った。

 そ、それって、どういう意味だ?


 全身が火照って、言葉が出て来なくなる。

 そのままヴァレリアを、ただただ見つめていると……


「……えっ。もう魔力が身体から溢れてきた?」


 ヴァレリアは、顔を覆っていた手を払って目を見張った。


「ゼノン、あなたの最大МPは、いくらなんでも少すぎじゃない?」


 って、おい、おい、いきなり、ダメ出しか!

 今、ヴァレリアのことを、かわいいって、思っていたのに。


「し、仕方がないだろ……俺は魔法とは無縁で生きてきて、【超回復】(オーバーヒール)のスキルを授かった時は、最大MP0だったんだ」

「は……?」


 ヴァレリアは呆気に取られた様子だった。


「ちょっと待て、それって一昨日のことよね。たった2日足らずで、МPを10も上げたというの?」

「そうだ。俺が焦りまくっている理由がわかるだろう? 魔法系スキルを授かったのに、まだヒールが一発しか使えないなんて……ハァッ、情けなくなるよな」


 俺は取り繕うことなく現状を話した。

 ゲーム主人公の聖女アリシアは、最初からかなりのМP量を誇っていて、ヒールくらいならバンバン使えたというのにな。


 まあ、聖女とモブ貴族の俺とでは、魔法の才能が違うのは当たり前か。


「そ、そんな……有り得ない成長速度だわ」

「有り得ないって?」


 俺は首をひねった。


「先ほど、ガウェインを倒した剣術といい、剣も魔法も天才って反則じみているわね、あなた」

「はっ?」


 魔法の天才ヴァレリアからのあまりに意外な評価だった。


 乙女ゲーム『君恋』のキャラで、初期МP0なんて奴はいなかった。


 剣士タイプでも、初期MPは30くらいあった。魔法使いタイプは、俺と同等くらいのMP成長速度だった。


 あれ? でも、それって、みんなゲームのメインキャラで、あいつら全員、超天才だから、比較対象としておかしいか。


「そうよ。矢が尽きれば、弓が意味をなさないように。МPがいかに多いかが、魔法使いの位階を決める重要な指標になるのよ」 


 ゲーム攻略と同じ考え方だった。魔法使い系のキャラはMPが切れれば、ただの人に成り下がってしまう。


「……その論でいくと、今のところ俺はヘボってことじゃないか?」

「そうね。でも、数年後はどうなっているかわからないわよ」


 ヴァレリアは真剣な表情だった。その瞳は、期待に満ちている。

 そう言われて悪い気はしないな。希望が湧いてくる。


「なら、無事にその数年後を迎えられるようにしなくちゃな。MPは回復したし、さっそく修業をつけてくれないか?」

「呆れた。一日、何もしないで眠ってからって言ったでしょう?」


 頬を膨らませて、ヴァレリアは俺をたしなめた。


「いや、でも敵は待ってくれないし……」


 なにより、俺は一刻も早くヴァレリアを癒してやりたかった。


 彼女の顔色は、心なしか先ほどより悪くなっているように見えた。


 【死霊使い】(ネクロマンサー)のスキル魔法は一切使っていないのに、おかしいな。


 ヴァレリアの護衛と御者を兼ねていたガウェインは、死霊たちの眠る異界──冥府に送還し、使役を解いていた。


 【死霊使い】(ネクロマンサー)は、必要に応じてアンデッドを召喚して使役できるのだ。


 アンデッド化した80名のシュヴァルツ・リッターは、静かに主の召喚を待っている状態だ。今、ヴァレリアは彼らに生命力を喰われたりしていない。


 食事も取ってもらったし、彼女の体調は回復に向かっている筈だが……


「私がこのまま手を握っていてあげるから、早く寝なさい」


 ヴァレリアのやさしい口調に、ちょっと驚いた。

 だが、ヴァレリアの死がゲームシナリオで決まっている以上、ここで甘える訳にはいかない。


 ヴァレリアは、この地での戦争によって死ぬ。


 しかし、彼女が、いつどのように死ぬのか、詳しいことはわからなかった。


 もしかすると、【死霊使い】(ネクロマンサー)の代償が、予想より深くヴァレリアの身を蝕んでいるかも知れない。


「だけど……」


 気持ちとは裏腹に、急激に瞼が重くなった。

 あっ、これはまさか……


【睡眠】(スリープ)の魔法よ。おやすみなさいゼノン」


 ヴァレリアが陰りのある笑顔で微笑んだ。


「……お、お前」

「ごめんなさい。もう私のために、誰かに無茶をして欲しくないの」


 先程、少し話を聞いたが、ガウェインたちがヴァレリアを守ろうとして殺されたことを、彼女は気に病んでいるようだった。


 ガウェインは毒に冒された身で、最期まで主君を守ろうとして死んだという。


 俺はヴァレリアと繋いだ手に力を込めた。

 眠っている間、万が一にも彼女がどこかに消えてしまわないように。


「心配しなくても、約束したでしょう? 私は、あなたの側にいるわ」

「……約束だぞ」


 再度、約束を交わすと同時に、俺の意識は闇に溶けていった。


 ※※※※※※


 翌朝、目を覚ますと、全身に力が漲り、驚くほど身体がスッキリしていた。

 どうやら爆睡してしまったらしい。これほど快適な朝を迎えられるなんて、久しぶりだな。


 って、あ、あれ……? 妙に毛布が重い。


 ふと、身体に何か温かくて柔らかいものが覆い被さっているのに気付き、息苦しさを感じて押し退けようと力を込めると……


「ヴァ、ヴァレリア……!?」


 驚愕に目が飛び出そうになった。

 俺の上で眠っていたのは、ヴァレリアだった。

 妖精のように美しい顔がドアップで眼前にあった。


「ちょ、おっ、お前ぇ……!」


 俺はヴァレリアと抱き合って寝ていたのか!?

 一瞬、頭が興奮でぶっ飛びそうになるが……すぐに、彼女の様子がおかしいことに気付く。


「おい、どうしたんだ!?」


 ヴァレリアの顔から血の気が失せており、昨日より数倍、体調が悪そうだった。

 い、いや、これは死相が浮かんでいるぞ。


 俺は、何人もの仲間の死を看取ってきたせいで、ヴァレリアが死にかけであることが、すぐにわかった。


 【死霊使い】(ネクロマンサー)のスキル魔法を使うことなく休ませたのに、一体どういうことだ?


「クソッ、こんなことなら……!」


 昨日、無理にでもヴァレリアにヒールをかけておくべきだった。

 思わず歯噛みした時、ヴァレリアと繋いだ手を通して、未だに微弱な魔力が流れてきていることに気付いた。


「……まさか、一晩中、ずっと俺に魔力を注いでくれていたのか?」


 魔力を満たした状態で眠ることが、魔力欠乏症の一番の治療方法だとヴァレリアは言っていた。

 俺の体調がすこぶる良いのは、そのおかげか。


「バカ、俺より自分を優先しろよ……!」


 俺は全力で【癒しの奇跡】を放った。


「ヒール!」


 俺の手から眩い光が放たれ、ヴァレリアを優しく包み込む。


「これから汚名返上するだろ!? 戻って来いヴァレリア!」


 ヒールは、基本中の基本中の回復魔法だ。

 

 フェリクスの怪我には効いたが、これ一発で瀕死のヴァレリアを救えるのか、不安だった。


 すると……

 ヴァレリアの死人のような顔に血色が戻っていく。


「ゼノン……?」


 ぱっちりと、ヴァレリアがアメジスト色の瞳を開けた。


「嘘? あ、温かい……」

「約束しただろう。お前の身体を必ず治すって」


 不覚にも目頭が熱くなってしまった。

 一瞬、もう手遅れではと、本気で慌てた。


「これは聖女の【癒しの奇跡】……? あっ、あなたは本当に」


 ヴァレリアの顔が、歓喜と感動に染まっていく。


「……私の見込んだ通りの人だったのね」


 俺とヴァレリアが見つめ合ったその時だった。

 彼女の身体から、真っ黒い影が立ち昇った。


 ソイツは、禍々しい瘴気を撒き散らしながら実体化し、苦悶の叫びを放った。


「うぐぉおおおおッ!?」

「なに……!?」


 俺たちは驚いて、その怪物を見上げる。

 そこに現れたのは骸骨の顔を持つ、半透明の幽霊系モンスターだった。

 ゲームで見た記憶がある。間違いない。


「……そ、【魂喰い】(ソールイーター)!?」


 バカな、こいつはSランクのアンデッドモンスターだぞ。

 その戦闘能力は、約兵士5000人分に相当する。たった一体で、小さな砦なら陥落させられるレベルの化け物だ。


 なにより、物理攻撃に完全耐性があるため、魔法使いのいないこの城の残存兵力では、対抗する手段が無かった。


 こんな奴に暴れられたら、本城は壊滅する。帝国軍の総攻撃より先に、グレイヴァン辺境伯領は終わることになるぞ……


 一瞬、ヴァレリアの使役するアンデッドかと思ったが、そうではなかった。

 ヴァレリアは愕然と顔を引き攣らせていた。


「……こ、こいつ、あの時の。まさか私に取り憑いていたの!?」

「あの時の?」

「アンデッド化したシュヴァルツ・リッター総出でも倒せなかった聖女の手下よ!」


 なんだと……!? 


「おのれ。あと、少しでその小娘の息の根を止められたものを……何をした小僧!?」


 ソールイーターが熾き火のような赤い目で、俺を睨みつけた。

 半透明の奴の身体は、ヒールの聖なる光によって焼けただけれていた。


 そうだ。聖女の使う【癒しの奇跡】は、アンデッドを浄化する効果も持つ、いわば奴らの天敵だった。


「い、今のまさか……いや、そんな筈は無い!」

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