第12話。ヴァレリアがベッドの中でデレてくる
「手を握って魔力のパスを繋げたわ。あなたに私の魔力を分けてあげる。こうやって魔力を満たした状態で眠ることが、魔力欠乏症の一番の治療法なの。どう? 少しは身体が楽になったでしょう?」
「えっ、ああ……」
一瞬、変なことを期待してしまった俺は、悶絶しそうになった。
ヴァレリアの言う通り、彼女から温かい波動が流れてきて、身体全体がなんだかポカポカしてくるのを感じる。
だけどそれ以上に、ヴァレリアの手の感触に胸がバクバク言っているんだが……
「あ、ありがとう。すごく助かる」
ギュッと目を瞑って、なんとかお礼を言った。 すると、ヴァレリアが悪戯っぽく笑って、からかってくる。
「ふふっ、そんなに緊張しちゃって。剣聖バルドの息子ともあろう者が、もしかして女の子と手を繋いだこともなかったの?」
「おっ、俺は剣術一筋で生きてきたんだよ。お前こそ、身体が震えているぞ。実は無理してんじゃないのか?」
「はぁっ!? そ、そんなこと無いわよ!」
慌てて否定するヴァレリアの身体に不自然な力が入っているのが、俺には気配でバレバレだった。
まぁ、それも致し方ないだろう。
「好きでもない男と寝るはめになるなんてな……ヴァレリアも災難だったな」
「えっ……そ、それは違うというか……」
ヴァレリアは、なぜかモゴモゴと口ごもった。
「へっ? なんだって?」
良く聞き取れなかったので、聞き返す。
「べ、別に、嫌じゃないって言ったのよ! 私は大罪人となってお父様の顔に泥を塗ってしまった。その上、ガウェインたちも……ゆえに必ず帝国軍に勝たなくてはならないの!」
こ、こいつ、耳元でいきなり大声を。
「そのために、あなたと協力し合った方が良いと思ったのよ! だ、だから気にせず、私と手を繋ぎなさい! これは命令よ!」
「そ、そうか。そのためには、なんでもするということか……」
ヴァレリアが背負うものの重さに、胸が締め付けられた。
思えば聖女アリシアに陥れられ、付き従う家臣を皆殺しにされた彼女は、かわいそうな女の子だ。
「よし。一緒に帝国軍を撃退したら、次は俺がヴァレリアの無実を証明してやる!」
俺は一念発起して宣言した。
ゲーム知識と、辺境伯の跡取り息子という身分を使えば、きっとできる筈だ。
なによりヴァレリアを襲った聖女アリシアの手の者には、心当たりがあった。
思えばゲーム内では、最初からアリシアにとって都合の良い事件やイベントが多すぎたんだよな。
お忍びで城下町にやってきた王太子が刺客に襲われ、たまたま近くにいたアリシアが【癒やしの奇跡】で、彼の切り傷を癒やしたり。
悪役令嬢ヴァレリアが、何を思ったかアリシアが王太子とデートしているところを、アンデッドに二人を襲わせるという暴挙に出たりしていた。
それでアリシアと王太子はお互いを庇い合い、愛が燃え上がる訳だが……
ヴァレリアが本気で王太子を殺す気なら、なぜ【癒やしの奇跡】を使えるアリシアと一緒にいるところを狙うのかと、俺はシナリオに突っ込みを入れたものだ。
だが、ソレらはすべて、アリシアを王妃にすることで利益を得られる組織がいて、ソイツらがアリシアと王太子がくっつくように暗躍していたと考えれば、辻褄が合う。
おそらく奴らの正体は……ゲーム序盤から莫大な利益を得ていたあの組織だな。
「な、なんですって……?」
ヴァレリアは、唖然とした様子だった。
「ヴァレリアが王太子を暗殺しようとしたなんて、濡れ衣だろう? だから、俺がお前の無実を証明してやるって言ったんだ」
「えっ、あ……」
その瞬間、ヴァレリアの瞳から、一雫の涙がぽろりと零れ落ちた。
はぁ!? いきなり泣き出すなんて、ど、どうしたんだ……!?
俺の心臓は、今度こそ本当に止まるかと思った。
何か、ヴァレリアを深く傷つけるようなことを言ってしまったのだろうか?
それとも、俺と手を繋いだら、生理的に無理なことがわかったとか!? だ、だとしたら、嫌過ぎるぞ!
「ゼノン……あ、あなた、私の無実を信じて、力を貸してくれるの?」
ヴァレリアは涙を拭い、それ以上、泣かないように、懸命に堪えている様子だった。
「えっ、いや、だって俺たちは運命共同体(戦友)なんだから、当然だろう?」
戦友が困っていたら、手を差し伸べるのが、グレイヴァン辺境伯家の流儀だ。
「……夫婦なのだから、当然だと?」
ヴァレリアは目を瞬いた。
夫婦……? まだ結婚した訳じゃないのに、やや違和感を覚える言葉だった。
でも、とりあえず彼女を落ち着かせるべく、俺はテンパりながらも話を続ける。
「ヴァレリアは元々、この国を守るために軍備を増強しようとしてくれていたんだろ? 俺はそれを知って、ヴァレリアは凄い奴だと思ったんだ!」
彼女は何も間違ったことはしていなかった。
ただ、王太子と馬が合わず、周囲の理解が得られなかっただけだ。
それに、アリシアの手の者による妨害も受けていた。
「それに俺がガウェインと決闘しようとした時、心配して止めようとしてくれただろ? その後も俺の身体を気遣ってくれて……今もこうして手を握ってくれている」
「……ッ」
「正直、うれしかった。俺はまともに使えもしない魔法系スキルを授けられて、実はちょっと途方に暮れていたんだ。でも、ヴァレリアと一緒なら、きっとなんとかなるって思った」
ヴァレリアは耳まで、茹でダコのように真っ赤になった。
「お、俺は女の子の扱いはよく分からないから、もしかして変なことを言ったかもしれないけど……ヴァレリアを傷つけるつもりは全くないんだ! だから、その、泣かないでくれ!」
なにより、ヴァレリアが泣いているところを万が一にも侍女に見られたら、どんな誤解をされるか分からない!
下手すれば俺が嫌がるヴァレリアを襲ったなんて、城中の噂になるぞ。
そう思って、俺は内心、うろたえまくった。
「……ごめんなさい。ハロルド殿下も、アンデッドを使った暗殺犯は私だと決めつけて、取り合ってくれなかったから」
ヴァレリアは顔を伏せながら、消え入りそうな声で告げた。
そうか。婚約者に自分を殺そうとした暗殺犯扱いをされたら、それは傷つくに決まっているな。俺の言葉でそれを思い出して、泣いているのか。
「ごめん。嫌なことを思い出させてしまったか? まったくヴァレリアがそんなことをする筈がないのにな」
「えっ……」
「ヴァレリアが、いかに良い奴かわからないなんて。ダメダメな王太子だ」
ゲームではメイン攻略対象だったのに、ハロルド王太子は、人を見る目がなさ過ぎるな。
と言っても、俺も最初は、ヴァレリアは人格破綻者の悪役令嬢だと思っていたから、同じようなモノかも知れないが。
「……あ、ありがとうゼノン。私の味方なんて、誰もいないんだと思っていたわ」
ヴァレリアは顔を拭って、微笑んだ。
思わず、心臓がキュッとなった。
そうだ。高飛車に見えても、ヴァレリアはまだ15歳の女の子じゃないか。
そんな少女が大罪人にされた上、たった1人で敵軍と戦うために、この地にやってきたんだ。
それがどれほど重いことなのか、俺はわかっているようで、わかっていなかった。
ヴァレリアは、周りはみんな敵だと思って気を張っていたに違いない。
なら、俺は。
「安心してくれ。俺だけは、何があってもヴァレリアの味方だからな」
そう強く強く思った。
言った後に、あっ、これって乙女ゲームのヒーロームーブじゃないか? と気づいて、身悶えした。
しまった。こういうセリフは、俺のようなモブ貴族じゃなくて、イケメン王子が言ってこそ、ヒロインは喜ぶものだよな。
ガウェインと決闘した時も、猿真似で失敗したし……またやっちまったか?
「うっ、ありがとう……ゼノン」
ヴァレリアは声を詰まらせた。何を思ったか、顔を片手で覆って表情が見えないが、感激した様子だった。
「私、あなたの婚約者になれて良かった」
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