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大工×異世界転生_墨壺と異世界~追放された底辺大工、神の指金(さしがね)で王国を建てる~  作者: もしものべりすと


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22/22

第22章 墨壺は続く

戦争は、終わった。


帝国軍は、陣地の崩壊と、蛭間の死によって、完全に崩壊した。


残った兵士たちは降伏し、帝国は王国との和平交渉を開始した。


要塞「ガルムの牙」は——守られた。


匠の城は——崩れなかった。


戦後、匠は英雄として称えられた。


王都ルクセリアに凱旋し、国王アルヴィン三世から勲章を授与された。


「クロダ・タクミ。お前の功績は、計り知れない」


国王は、匠の前で言った。


「お前がいなければ、この王国は滅びていただろう」


「……恐れ入ります」


匠は、頭を下げた。


「報酬として、何でも望むものを与えよう。領地か? 金か? それとも——宮廷の地位か?」


匠は、しばらく考えた。


そして——


「……何もいりません」


「何も?」


「俺は——大工です。建てるのが、俺の仕事です」


匠は、国王を見た。


「俺は——王都には、残りません」


「どこへ行くのだ」


「ハルベルト村へ。俺が最初に来た、あの村へ」


国王は、驚いたようだった。


「なぜだ。あの村は、辺境の小さな村だぞ」


「でも——俺の仕事が、そこにあります」


匠は、微笑んだ。


「建てるものが、そこにあります」


国王は、しばらく匠を見つめていた。


そして——笑った。


「お前は——本当に、変わった男だな」


「よく言われます」


「分かった。お前の望み通りにしよう。ただし——」


国王は、条件をつけた。


「困ったことがあれば、いつでも王都に来い。お前は、王国の恩人だ」


「……ありがとうございます」


匠は、深く頭を下げた。


王都を発つ前に、匠は弟子たちを集めた。


「お前たち——よくやった」


匠は、一人一人の顔を見た。


ガルド。ドルゴ。ヴァルゴ。他の弟子たち。


みんな、成長していた。


「お前たちは——もう、一人前の大工だ」


「師匠……」


「俺が教えることは、もうない。これからは——自分で、学んでいけ」


弟子たちは、涙ぐんでいた。


「師匠と——別れるんですか」


「別れるわけじゃない」


匠は、微笑んだ。


「俺は——ハルベルト村に行く。建てるものが、そこにあるからだ」


「……」


「お前たちは——ここに残ってもいい。王都には、仕事がたくさんある」


「でも——」


ガルドが、前に出た。


「俺は——師匠についていきます」


「何?」


「俺は——師匠の傍で、もっと学びたいんです」


ガルドの目には、決意が宿っていた。


「師匠のような大工に——なりたいんです」


匠は、しばらくガルドを見ていた。


そして——頷いた。


「分かった。来い」


「ありがとうございます!」


「俺も——」


「俺も——」


他の弟子たちも、次々と志願した。


結局——全員が、匠についていくことになった。


「お前たち……」


匠は、言葉が出なかった。


「師匠。俺たちは——師匠の弟子です」


ガルドが、代表して言った。


「師匠のいるところが——俺たちの居場所です」


匠の目から、涙が流れた。


「……ありがとう」


それだけ、言えた。


ハルベルト村への旅は、一週間かかった。


匠、リーネ、弟子たち——総勢二十人以上の大所帯だ。


村に着いたのは、夕暮れ時だった。


「——あっ!」


村人たちが、匠を見て歓声を上げた。


「タクミ様が帰ってきた!」


「建築聖人様だ!」


村人たちが、匠を取り囲んだ。


匠が最初に建てた家。井戸。防壁。


全て——まだ、そこにあった。


「……ただいま」


匠は、呟いた。


「帰ってきたぞ」


ハルベルト村での生活が始まった。


匠は、村の復興に取り組んだ。


新しい家を建て、道を整備し、水路を引く。


弟子たちも、一緒に働いた。


毎日が、忙しかった。だが——充実していた。


「師匠、次はどこを直しますか」


ガルドが、朝から元気に訊いてくる。


「今日は——あの家の屋根だ」


「分かりました!」


弟子たちが、道具を持って走っていく。


匠は、それを見送りながら、微笑んだ。


「……いい弟子たちだ」


「お前が——育てたんだ」


リーネが、傍に来た。


「お前の『丁寧な仕事』が——彼らを、育てた」


「……そうかな」


「そうだ」


リーネは、匠の手を取った。


「お前は——素晴らしい大工だ。そして——素晴らしい師匠だ」


匠は、リーネを見た。


「お前も——素晴らしい」


「何が」


「全部」


リーネは、少し照れたように笑った。


「馬鹿」


「よく言われる」


二人は、笑い合った。


ある日の午後。


匠は、新しい家の棟上げをしていた。


最後の梁を、弟子たちと一緒に持ち上げる。


「せーの——!」


梁が、所定の位置に収まった。


「……よし」


匠は、完成した骨組みを見上げた。


「上棟だ」


弟子たちが、歓声を上げた。


村人たちも、拍手を送った。


匠は、骨組みの上に立った。


空を見上げる。


青い空に、白い雲が流れている。


二つの月は、見えない。昼間だから。


でも——確かに、そこにある。


「……親父」


匠は、呟いた。


「見てるか」


風が、吹いた。


まるで、返事のように。


「俺——まだ、大工やってるぜ」


匠は、腰の道具袋に手を当てた。


墨壺。


親父の形見。


「お前が言ってた『不器用だから』って——今なら、分かる気がする」


匠は、微笑んだ。


「不器用だから——一本一本、丁寧にやるしかない。それが——俺のやり方だ」


風が、また吹いた。


匠は、墨壺を取り出した。


糸を引き出し、木材の上に張る。


そして——弾いた。


真っ直ぐな墨の線が、木材の表面に刻まれた。


「さあ——次の仕事だ」


匠は、弟子たちに向かって言った。


「一本一本、丁寧にな」


「「はい、師匠!」」


弟子たちの声が、青空に響いた。


墨壺から糸を引き出す音。


鉋が木を削る音。


釘を打つ音。


それらの音が、村に響いていた。


匠は——大工を、続けていた。


異世界でも。


現実世界でも。


一本一本、丁寧に。


それが——黒田匠の、生きる道だった。


【完】

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