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「君を制御するのが僕の役目だ」 闇魔法の天才は、暴走する光を離さない  作者: 雪ノ燈子


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プロローグ

辺境の村――シルヴァリア。

その名は、古き時代に存在した偉大な存在と共にあった。


遥か千年以上前、世界がまだ魔法の理すら知らなかった混沌の時代。

そこにひとりの賢者がいた。


彼の名は――光の賢者(ルミナス・セージ)


賢者は、六大元素の枠を超え、

光と、今では“失われた”とされる生命(ライフ)の魔法を極めた唯一の存在だった。


戦乱と魔力の枯渇に苦しむ人々を救うため、

彼はシルヴァリアの地に己の光を刻みつけた。


――それが、「再生の結界」と呼ばれる奇跡。


その加護は千年の間、命を循環させ、

この村を緑と穏やかな風に満ちた楽園へと変えた。


だが今、その光は薄れつつある。

結界の力は衰え、土は乾き、草は枯れ、

再び“魔力の渇き”がこの地に忍び寄っていた。


そして村人たちは信じていた――


「いずれ、ノクタ・ルミナの印を宿す者が現れ、

再び生命の光を呼び覚ますだろう。」



森は、まるで時間が止まったみたいに静かだった。

風も鳴かず、木々も動かない。


ただ、光だけが暴れている。




フィーナ・セレスは、小さな手に杖を握りしめていた。

喉の奥が焼けるようで、息を吸うたびに涙があふれる。


ほんの少しでも、畑に水を――。


干からびた大地を見かねて、フィーナは幼い心でそう願った。

父の古い魔法書にあった「水脈を呼ぶ術」を、こっそり試してみただけだった。


けれど、杖の先から流れ出たのは、水ではなく、まぶしい光だった。

それは最初、きらきらと美しく見えた。

けれど次の瞬間、光は熱を帯び、形を失って暴れ出す。


「……どうして……止まって……!」


願いとは裏腹に、杖の先から溢れた光はどんどん膨らんでいく。

眩しい熱の塊が、畑も草も空気さえも焦がしていく。


光がはじける音がして、フィーナは思わず目をつぶった。

次の瞬間――


 


「――《収束アジャスト》。」


 


その声は、不思議なほど静かだった。

高くて幼いのに、どこか透き通っていて、

まるで夜の水面みたいに落ち着いていた。


聞いた瞬間、胸の奥のざわめきがすっと静まる。


光がしゅう、と音を立てて縮んでいく。

暴れていた光は吸い込まれるように収まり、

熱が引いて、空気がひんやりと冷たくなった。



フィーナがそっと目を開けると――

そこに、黒髪の少年が立っていた。


月明かりを受けて銀に光る髪。

その瞳は、夜明け前の空のように深く、青い。


 


少年は、焦げた地面をゆっくり歩きながらフィーナの前に来ると、

小さく息を吐いて片膝をついた。


「……もう大丈夫だ」


声はまだ幼い。

けれど、言葉の響きがどこか優しくて、頼もしかった。


フィーナが小さく頷こうとしたその瞬間、足が震えて膝をついてしまう。

少年は迷わず手を差し出した。

対してフィーナは少し迷い、その掌に触れた。


ーーー瞬間、フィーナの左手の甲がふわりと光を放った。


銀の紋が浮かび上がり、ゆっくりと鼓動のように脈を打つ。


 


「な、なに……これ……?」


驚いて見つめるフィーナに、少年は一瞬だけ目を見開き、

それから静かに微笑んだ。


けれど、その笑みはどこか寂しげで――すぐに消えてしまった。


「……気にしなくていい。君の魔力が、まだ形を探しているだけだ。」


 


「あなたは……誰?」


ようやく声を出したフィーナに、少年は少し間を置いてから答えた。


「……ルーク。」


「ルーク……?」


その名を繰り返した時には、

もう彼は立ち上がり、背を向けていた。


黒い外套が風に揺れ、彼は、まるで夜そのものに飲まれるように、森の闇へと溶けていった。


フィーナは、言葉もなくその背を見送った。

闇と光の境が曖昧になり、世界の音が遠のいていく。

ほんの一瞬、風が彼の外套を掠め、微かな銀の光が舞った。


そのきらめきは、まるで星が地上に落ちて、

再び夜空へ還っていったようだった。



***



少年は、小さな声でぽつりと呟いた。


「ノクタ・ルミナ……?

呼んだのはーーーあの子?」


その声は風に溶け、光と闇の(あわい)を漂いながら、

誰の耳に届くことなく静かな森の奥へ消えていった。



***



意味もわからずに、しばらくの間フィーナは立ち尽くした。



すると、焦げた大地のひび割れの間から、小さな芽が顔を出した。

最初は、ほんの一点の緑。けれどその瞬間――


土の下で、何かが静かに目を覚ます気配がした。

ぱらぱらと、乾いた地面の表層がほどけるように崩れ、

その隙間から、透明な水のしずくが滲み出す。


しずくは光を受けてきらめき、やがて細い筋となって流れ、

焦げた黒い土を淡く潤していった。

空気の匂いが変わる。

風が通り抜け、草と花の香りがかすかに混じった。


それはほんの一瞬の出来事だった。

けれど確かに、死んでいたはずの大地が息を吹き返した。

芽は月の光を受けて、まるで世界に“生まれたて”のように微かに揺れている。


その光景に、フィーナは息をのんだ。

胸の中がじんわりと温かくなって、言葉が出てこない。



――あの子は……神さま、なの?



やがて風が静まり、森が音を取り戻した。

残されたのは、柔らかく濡れた土と、小さく揺れる緑の芽。

それだけだった。


 

***



翌朝。


村人たちは驚きの声をあげていた。

昨日までひび割れていた畑の一角が、しっとりと潤い、

芽吹いた草花が朝露を受けて輝いていたのだ。


「見ろよ、畑が生き返ってる!」

「昨日までひびだらけだったのに……」

「これ、きっと“光の賢者”のご加護だ!」


村人たちは口々にそう叫び、驚きと喜びに包まれた。

その中で、村の長老がゆっくりと杖を握り、空を仰いだ。


「……古の光が、再び息づいたか……。」


その言葉には、信じがたい気持ちと、恐れが入り混じっていた。



その輪の外で、フィーナはただ黙って立っていた。

昨日の光景がまだ胸の奥に焼き付いている。

あの少年の声、瞳、そして――手の温もり。


自分の手の甲に、まだ微かに残る温もりを見つめながら、

彼女は小さく呟いた。


「……ルーク。

私たちの、神さま。」


そしてその声が、風に乗って静かに消えるころ、

シルヴァリアに一通の封書が届く。

それは「アルカナ魔法学院」からの特待生招待状だった。



送り主の名前は、どこにも書かれていなかった。


光と闇とを結び、

命と時とを巡らす、

世界のならひをつかさどる印なり。


ひとたびあらはるれば、

その者は光の内に影を見、

影の底に黎明れいめいを望む。


印は運命さだめの扉を開く鍵なり。

されどまた、滅びを封ずる鎖なり。


ゆえに古の賢者は記す。


「いづれ再び、光と闇、そして傍らに立つもの、

あひ巡り逢ふとき、

世界はその均衡を取り戻し、

生命は時と共に流れゆかん。」


――シルヴァリア古詠伝ノクタ・ルミナより

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