エピローグ 一歩ずつ進んで行こうと思う
このエピローグでひとまず完結となります。
色々というか、全くもって未熟な僕の腕では、なかなか思い描いた通りに書けなかった部分が数多く、僕自身納得してない出来でした。
でも、いくつか自分でも気に入ったところもあるので、この良いところと悪いところを次につなげていけたらな、と思っております。
では、皆さんがこの作品を読んで自分にとって大切であり、必要だと思う「何か」を感じ取って頂けたのなら、それだけでこの作品を創れてよかったと思います(^^)
それでは――
「それじゃあみんなぁ、気を付けて帰るんですよ~」
美子先生が一日の終わりを告げるHRの挨拶をして教室を出て行くと、帰り支度を済ませたクラスメイト達が自分の席を離れて行く。
「一前くん。また、です」
「はい。またです、叶井さん……あっ、あのっ」
いつものように挨拶を交わしてくれた叶井さんを、俺は呼び止める。
「あ、はい。なんですか?」
「あ、その……こないだは、ありがとうございました。相談にのってくれて」
俺は叶井さんと綾瀬さんにお礼を言って、頭を下げた。
「い、いえ、そんな……私なんかで役に立てたのなら、良かったです」
叶井さんは遠慮したように手を振ると、控えめに微笑んだ。
「ふん、別にあんたの為じゃないわよ。……まあでも、なんだか解決したみたいだし、良かったんじゃない?」
ぶっきらぼうに言うと、綾瀬さんは照れたようにプイッとそっぽを向く。
「はいっ! 二人のおかげです!」
俺はもう一度改めて二人にお礼を言うと、自然と弾むような笑顔が浮かんできたのを感じた。
あの日のお昼休み――二人に相談に乗ってもらった時の、あのささやかな二人の提案……。
『――俺、その友達に何ができるのか、考えてみても良いアイデアが思いつかなくて……でも、俺が何かする事は、二人にとって必要のない事で……もしかしたら迷惑になるんじゃないかって……』
『……そうね。そういう事なら、確かにお節介かもしれないわね。下手に干渉するよりも、放っておいた方が二人の為かもしれないわ』
『………』
『……でも、そうね。だったら二人がゆっくり話せるようにしてあげるくらいなら、別にいいんじゃない?』
『そうですね。私も優希ちゃんの言うとおりだと思います。それなら二人の迷惑になったりはしないと思います』
あの二人のアドバイスが俺に少しの勇気をくれた。二人に背中を押してもらわなかったら、もしかしたら俺は、また何もできない自分に自信を無くしていたかもしれないと思う。
――ありがとう、綾瀬さん、叶井さん。
「進くーん!」
聞こえてきた元気な声の方を見ると、廊下で葵さんが手を振っていた。葵さんの隣には天野さんも居る。
「あ……それじゃあ、叶井さん、綾瀬さん、また、です」
二人にそう言うと、俺はカバンを手に、廊下で待ってくれている葵さん達の元へと足を弾ませた。
「お、今日も3人一緒だな」
3人一緒にお助け部の部室に入ってきた俺達を見て、凛先輩が声をかけてくる。
その言葉に、葵さんは天野さんを見て嬉しそうに笑う。
「ん」
自分に向けられる優しい笑顔を受けて、天野さんが確かに頷いた。
「ふふ、そうか」
「はいっ!」
本当に嬉しそうに、元気いっぱいの笑顔を浮かべる葵さんは、眩しい太陽のよう。
引き寄せられるように葵さんの笑顔を見ていると、制服をくいっと引っ張られた。
「………」
見ると、何か言いたそうに天野さんが俺を見上げていた。
「? どうしたんですか、天野さん?」
見上げる大きな瞳に俺は訊ねた。
「……葵に聞いた。勇気を貰ったって……」
「?」
「は、はぴあちゃんっ? それはっ……」
俺は葵さんを見る。何故か慌てている様子の葵さんが目に映った。
「だから……」
一呼吸置いて、天野さんの小さな唇が、俺へと言葉を運ぶ。
「……すす、む……」
「? ……はい」
「……進」
「はい。なんですか?」
あどけない声で自分の名前を呼んでくれる天野さんに、俺は微笑みかける。
「……仲良くなるには名前で呼び合うって……昔葵が言ってた。それに、凛も……だから……」
小さな声で、けれども真っ直ぐにこちらを覗き込むように、頬っぺたを赤くしながら天野さんは俺を見つめる。
「ぁ……」
始めて名前を呼ばれた嬉しさと、仲良くなりたいと言ってくれた嬉しさを混ぜ合わせた気持ちが。そして、小さな温かい温もりが、俺の胸に飛び込んできた。
「ありがとう、進」
「っ~~!」
その飛び込んできたとびっきりの笑顔に、思わず心を囚われてしまいそうになる。
「はぁうぅぁぅ……」
言葉にならない幸せ? が空気となり、漏れるように俺の口から発せられた。
「あらあら~? 進さん、お顔が真っ赤ですよ~?」
「っ。あ、天野しゃん離れて……!」
水鳥先輩に指摘された事で自覚し、さらに気が動転してしまった俺は、呂律がうまく回らないながらも、急いで天野さんに離れてもらおうと抗議する。
「……いや」
「はぐ、そんな」
そんな風にあっさりと、どこか拗ねたような口調で天野さんは首を横に振る。
「……名前、呼んで欲しい」
天野さんは俺のお腹辺りに顔を埋めて、小さく言った。
「ぁ、へと、ちょの……っ~~」
だ、駄目だ~~。こ、こんな風に言われたら、もう……もう言うしかないじゃないかっ!
「は、はぴ……」
「ん」
「はぴあ……ちゃん」
「ん、進」
はぁぅ……言って、しまった……なんか、凄く恥ずかしい。
俺は、はぴ……あちゃん……の顔を見ないようにと、照れを冷ますかのように部屋の中を見渡した。すると、凛先輩と目があった。
同級生を『ちゃん』付けした俺に微妙な視線を向けていた凛先輩が、アイコンタクトで送ってくる。
(何故に『ちゃん』?)
「………」
その冷めた視線に、俺は黙って心で叫ぶ。
いやだって、『はぴあさん』ってなんか違う気がしたんだものっ! 葵さんだっていつも『はぴあちゃん』って言ってるし……そっちの方が言いやすかっただけだものっ!
「うふふ~」
俺の心の叫びが聞こえたのだろうか? 水鳥先輩がおかしそうに笑うので、俺は抑えきれない照れを、右の人差し指で頬を掻く事で誤魔化した。
「進くん」
葵さんがもじもじとした様子で俺の名前を呼ぶ。
俺は照れを(はぴあちゃんはそっと)振り切って、葵さんに向き直る。
「はい」
「あ、あのねっ。その、わ、私からもありがとう」
「え……ああ、いや、そんな……別に俺は何もしていませんし。その……ただ葵さんが頑張ったからと言うか、葵さんの想いが……や、その、何て言うか……」
葵さんにお礼を言われて、あたふたと、また復活してきた照れが邪魔する小さな声で、俺は口の中で言葉を転がす。
「?」
「えと、だからその……」
俺は、まだ抜けない照れを葵さんに見られないようにと、顔を背けながら言う。
「俺は、とっ、友達ですから。だから――」
ここから先はどう言葉にしていいのか分からず、代わりに言葉ではない微笑みを送る。
「ぁ……うんっ。ありがとう、進くんっ!」
葵さんも応えてくれるように微笑みを返してくれた。
「……やっぱり、葵の笑った顔……好き」
はぴあちゃんが笑っている葵さんを見て呟く。
「はぴあちゃん」
「葵……ごめん……」
「ううん。もう気にしないでって言ったのに、はぴあちゃんってば」
「ん」
「私の事を想ってくれたからだったんだよね。だから、もう全然気にしてないよっ」
「………」
「ね、はぴあちゃん。今度久しぶりにあのブランコで漕ぎ合いっこしようよ。あ、でも紐とか切れたら危ないからまずは新しいのに換えてからかな。ねっ、二人でまた一緒に遊ぼ」
「……ん、葵と遊びたい」
「じゃあ、ゆびきりしよっ」
そう言って、はぴあちゃんの小指に葵さんは自分の小指を優しく絡ませる。
「えへへ、約束だよっ。はぴあちゃん」
「ん、約束」
二人は互いの笑みを交換する。
「……うん」
俺は微笑み合っている二人の友達を見て、思う。
――あの時の自分の影が重なって見えたから、だから放っておけなかっただけなのかもしれない。
葵さん達の力になる事で、あの時救えなかった弱い自分自身を勇気づけられたと、そう思う事で自分が満足したかっただけなのかもしれない。だからあんなにどうすればいいのかって頭を悩ませたのかもしれない。
でも――
二人の笑顔に、やっぱりそれは違うんじゃないかとも思う。
だって、俺は今仲良く繋がれた二つの小指を見て、とても清々しい気持ちで微笑んでいるから。
あの頃にも負けないような、心からの笑顔を浮かべていると思うから。
そう、これはもしかしたら、二人の笑顔に教えてもらえたからなのかもしれない。
誰かの為に力を尽くす事で、自分も笑えるという事を――
自分の事だけじゃない、周りの事も想いやれる心を持つ事で、小さな幸せに出会えるという事を――
周りがくれる勇気は、新しい一歩を踏み出す力になって、確かな心を広げてくれるという事を――
なにより、一生懸命な気持ちが自分を成長させてくれるという事を――
「………」
……少しだけなら変われたのかな?
もし、そうなら……
俺は思う。
これからもっともっと笑えるようになる。
心からの笑顔で、「楽しい」と思える毎日を創っていける、そんな気がする。
そうきっと、これが俺の見つけた――
新しい〝生きがい〟なんだと思うから……
最後までお付き合いくださった方、本当にありがとうございましたっ!m(__)m
本当は書きたい事がたくさんあるのですが、書きだすと止まらなくなりそうなので、来月から執筆予定の「真・生きがいを見つけよう(仮)」でまたお会いできた時にでも(*^_^*)
前に書いたのですが、本編に入りきらなかった各部活のちょっとした短いエピソードも後で載せてみようと思うので、宜しければ時間のあいたときにそちらもお願いしますです。
ではこの辺で――
また会える事を願って……(ToT)/~~~