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三歩目 変わる為に出来る事

三話目です(*^_^*)


えと、なんと言いますか、出だしでこんな事言っちゃ駄目なんですけど、途中で投げ出されると悲しいので、先に言っておこうと思います。


この三歩目は非常にバランスが悪いです。

所々に無理やり感があると思われます。読みにくいかもしれません。無理にページ数に収めたのもおかしいところを創ってしまいました(@_@)

ですが、それでも僕の伝えたい事を読み取って頂けたら、これに勝る事はありません。

最後にエピローグを用意しております。

出来る事なら、そちらの方も読んで頂けたらと思っています。

それでは、最後までお付き合いくださる事、お願い申し上げますですm(__)m

「お、来たな」

 お助けベアーと書かれたプレートの下で扉を開けた俺達に、部室の中から声がかけられた。

「はい。もう放課後が待ち遠しくて、走って来ちゃいました」

 お日様の光を浴びた向日葵のような髪を青いリボンで後ろに纏めた女の子――葵さんが、言葉通りの満面の笑顔を浮かべながら、部屋の中からかけられた声に元気良く返事する。

「……ん、楽しみにしてた」

 その葵さんの隣で、昨日一緒にお助け部の体験入部をした小さな女の子――天野さんも、部屋の中に居る人物に言葉を返した。

 天野さんは入学式の日に迷ってしまった俺を助けてくれたもう一人の女の子。学園で会えたら改めてお礼を言おうと思っていたけど、昨日やっと言えて嬉しかった。なにより、葵さんの小さい頃に引っ越してしまった友達だったみたいで、再開した時の葵さんの凄く嬉しそうな表情は、しばらく俺の胸に残りそうだ。

 俺達に声をかけたこの部屋の主――お助け部の部長である千藤先輩は、上座に位置する部長席の前に立っていた。

「ふふ、そうか」

「皆さんが来てくれて、凄く嬉しいです~」

 葵さんの元気な返事と天野さんの言葉に、嬉しそうに千藤先輩が微笑む。その隣で御園先輩も柔らかな微笑みで俺達を迎えてくれた。

「あの、これ……」

 葵さんが持っていた入部届けを先輩達に差し出す。天野さんも俺も、葵さんと同じように入部届けを先輩達に差し出した。

「……本当にいいのか? もしかしたら、退屈かも知れないぞ?」

 そう言う口とは別に、千藤先輩の目は「そんなことはさせないけどな」と自信満々に見える。

「はいっ、絶対に大丈夫です!」

 葵さんが俺達を代表して先輩達に答えてくれた。

「ふふっ、そうか」

 俺達が差し出した入部届けを千藤先輩はそっと受け取って、御園先輩と微笑みを交わす。

「――うむ! では改めて自己紹介といこうではないか。あたしはお助け部部長、千藤 凛。よろしく頼む!」

「御園 水鳥と言います~。みなさんとたくさん仲良くなりたいですっ。これから、よろしくお願いしますね~」

「はい、よろしくお願いしますっ!」

「えと、こちらこそ、よろしくお願いします!」

「……よろしく、お願いします」

 先輩達の優しい笑顔に、俺達は新しい事に対する期待に満ちた声で応えた。

 ――たった今入部届けを出したばかりだけど、こうして改めて先輩達と挨拶をしてみて思った。

 これからここで、少しずつでもいい、たくさん笑えるようになれたら良いな、と。

「よし! では早速、新・お助け部の記念すべき最初の活動を開始する!」

 部長席の前に立って千藤先輩が大きく口を開くと、凛とした声が部室内に広がった。その声に皆が耳を傾ける。

「これから皆には、学園の各階にある掲示板の横に〈コレ〉を設置してきてもらいたい」

 そう言って部長席の後ろに回り込んだ千藤先輩が机の下から取り出したのは、四角い箱だった。

「コレは〈お助け箱〉と言ってな。あたしと水鳥が開発した、お助け部の活動を支える為の重要アイテムなのだ!」

「重要アイテム……! なんだかすごそうだね、はぴあちゃん」

「ん」

 重要アイテムという言葉の響きに、わくわくといった感じの葵さんに天野さんも頷く。

「ふっふっふ、そうだろうそうだろう。なにせ、重要アイテムだからな」

 重要のところを強調して、もう一度千藤先輩が言った。

「このお助け箱はですね~、学園の皆さんに困っている事や悩んでいる事などを、こちらに用意した用紙に書いて頂いて箱に入れてもらうというものなんですよ~」

 千藤先輩の隣に移動した御園先輩が、胸の辺りに用紙を掲げて説明してくれる。

「その通りだ、水鳥。その紙を昼休みや放課後など時間のある時に回収して、お助け部の活動目的である、〈困っている人の力になる〉というわけだ」

 ……ふむ、なるほど。確かに掲示板の横なら人目にもつくだろうし、各階に設置することでたくさんの人にお助け部の存在をより近くに感じてもらえる。それに箱には鍵が付いているみたいだし、人に言いづらい事でも誰かの悪戯で見られるという心配も無さそうだ。

「――というわけで、さっそく行動開始だ!」

 そう言った千藤先輩からはお助け箱を、御園先輩からは穴を通して紐で括られたハガキ大の用紙(厚さからして50枚程度の薄い束)を渡される。

「よし、皆持ったな。それじゃあ行くぞ」

「あ、凛ちゃん」

 御園先輩が歩きだそうとした千藤先輩を呼び止める。

「ん? なんだ水鳥」

「誰か残っていなくても大丈夫でしょうか~?」

「ん、そうだな。もしかしたら、誰かが来るかもしれんしな。ふむ……では、すまないが残ってくれるか水鳥」

「はい~、お留守番は任せてください~!」

 御園先輩が腕を折り曲げて、安心できる声で留守を預かってくれた。

「うむ、では行ってくる」

「行ってきますね、御園先輩っ」

「……行ってきます」

「あ、えと……行ってきます、です」

「はい~、行ってらっしゃい~」


      ***


 手を振る御園先輩に見送られて部室を出た俺達は、お助け箱と用紙を抱えて部室棟を歩く。

「お助け部って、千藤先輩と御園先輩二人だけなんですか?」

 昨日体験入部が終わった後に、メイドクラブで貰ったお土産のケーキを食べながらお助け部について先輩達から聞いた事とは別に、葵さんが前を歩く千藤先輩に訊ねる。

「ああ、そうだ。お助け部はあたしと水鳥が去年創った部活だからな」

「そうなんですか? 自分達で新しく部活を創るなんて、凄いですね」

「いや、そうでもないぞ。この学園はわりと何でもアリだからな。申請書を出しさえすれば、誰でもどんな部活でもオーケーだそうだ。まあ、そのおかげでよく分からない部活も多いんだけどな」

 そう言って、千藤先輩は笑う。

 まぁ確かにリストを見てもよく分からないやつが多かったな。思い出しながら俺は思う。

「……あの、千藤先輩はどうしてお助け部を創ろうと思ったんですか?」

 葵さんと先輩の話を聞いていた俺は、ふと、何となくそう思ったので訊いてみた。

「そうだな……んーまあ何だ。それについては、いつか機会があったら……な」

 訊いてはいけない事だったのだろうか? 千藤先輩は前を向いたまま言いづらそうに言葉を噤んだ。

「あぁそうだ、あたしの事は凛でいいぞ。その方が早く仲良くなれる気がするからな」

 誤魔化すように先輩が振り返って、後ろを歩く俺達新入部員3人に笑いかける。

 その聞いた事のある言葉に、俺は葵さんを見た。葵さんも俺の方を見ていた。

「ん? どうした?」

「ああ、いえ……その、葵さんと初めて会った時にも同じ事を言われたので……」

「ほぅ、そうなのか。なら丁度いい、これからはお互い名前で呼び合うようにしよう。もちろん水鳥の事もだ。きっと喜ぶだろうからな」

 先輩が提案すると、俺を見ていた葵さんが何故か微笑んだ。

 っ……! その微笑みを見た瞬間、急に恥ずかしくなって俺は葵さんから目を逸らす。

「………」

 と、今度は天野さんと目が合ってしまった。俺は照れながら慌てて窓の外に目をやった。

 今日の空も澄み渡るほどの青色だった。

 最後の階段を下りて部室棟から出る。そのまま真っ直ぐ校舎に続く道を歩いて行く。

 少し歩いたら校舎に着いた。玄関を通って、まずは1階の掲示板に向かう。

「よし、この机にまず一つだな」

 掲示板の前にはパイプ足の机が一つ置かれていた。その机の上に凛先輩がお助け箱と用紙を置く。

「今日の昼休みに用意しておいた。他の階も同じように机があるからその上に置いてくれ。ああ、ちゃんと教師の許可は得ているから安心してくれていいぞ」

 先輩の威厳を魅せつけてくれる微笑みを、凛先輩は俺達に向ける。

 準備が良いな。さすがに『先輩』は伊達じゃないという事か……!

「じゃこの調子で次に行くか」

 2階に上がり、1階と同じように置かれていた机の上に、今度は天野さんがお助け箱と用紙を置く。3階に上がって葵さん。4階の机には俺が。それぞれ抱えていたお助け箱と用紙を置いた。

「よし、これでお助け箱の設置は完了だな。部室に戻るか」


「あ、おかえりなさい~皆さん。最初のお仕事はどうでしたか~?」

「無事終わりましたっ」

 お助け部としての初めての活動を終えて部室に戻ってきた俺達。水鳥先輩の質問に、元気いっぱいに葵さんが答えた。

「うふふ、お疲れさまです~。では凛ちゃん……」

 水鳥先輩が凛先輩を見る。

「ああ。という訳で、明日から本格的に活動開始だ! 皆、気合いを入れていくぞ!」

「はい~! えいえいお~! です~」

「おー!」「……おー……!」

「お、ぉー……!」

 凛先輩が勢いよく腕を突き上げる。水鳥先輩、葵さんと天野さんも手を挙げる。仕方なく、恥ずかしがりながら俺も小さく手を挙げた。

「それでは、記念すべき新・お助け部最初のミッションコンプリートを祝して、君達にコレを授けよう!」

 ミッションコンプリートって言っても、ただ箱を置きに行っただけの気もするが……。

「見よ、これこそ我がお助け部一員の証。その名も、お助けバッチだっ!」

 じゃーん! と自慢するように、凛先輩が水鳥先輩の用意してくれたバッチを掲げる。

「これさえ付ければあなたもお助け部の一員に。『今なら特別プライス、あなたの笑顔を下さいな』です~」

 両手を可愛らしく合わせて、水鳥先輩が言う。

 ……なんか通販の宣伝みたいになってます、水鳥先輩。

「さあ、受け取ってくれ」

 凛先輩が俺達新入部員に、一人ずつ順番にバッチを手渡してくれる。

「わぁ、ありがとうございます」

「……ありがとう」

「ありがとうございます」

 俺達はバッチを受け取る。バッチにはおたすけベアーの顔がプリントされていた。

「はぴあちゃん、つけてあげる」

「ん」

 天野さんにバッチを付けてあげる葵さん。

「えへへ。可愛いよ、はぴあちゃん」

「……ん」

 葵さんに褒められて、天野さんは頬を赤くして照れる。

 うむ、確かに天野さんは可愛い。けど……男の俺が付けたらどうなるんだろう?

「進くんにもつけてあげる」

 さすがに似合わないなと思っていると、葵さんがこちらに寄って来た。

「えっ。い、いえっ、俺は遠慮します」

「そんなこと言わずに、ねっ」

「うぐ、いやでもその……」

「はい、バッチ貸して」

「あっ」

 そう言って俺からバッチを取り上げる葵さん。

「じっとしててね」

 葵さんが俺の胸にバッチを付けようとする。葵さんの髪の毛が俺の肩に触れた。

「っ」

 体が硬直する。

 う、動けない。それに……恥ずかしい。

「これでよしっと。可愛いよ、進くんっ」

 褒めてくれる葵さんから視線を逸らして、俺は人差指で頬を掻く。

 だから俺は男なのに……。

「ふっ」「うふふ」

 俺達と同じバッチを付けた先輩達が、俺達を見て優しく笑っていた。


      ***


 バッチを貰ってから先輩達と少し活動について話をした後、初日と言う事で今日はこれで解散になった。

 先輩達に挨拶してからお助けベアーを出た俺は、葵さんと天野さんと玄関に向かい、靴を履き替えて玄関から出る。

「うー、なんかちょっと緊張してきたよ。私に人助けなんてできるかな……」

「葵さんなら大丈夫だと思いますけど」

 実際に困っている俺を助けてくれたからな。

「そ、そうかな。てへへ」

 照れた葵さんがはにかむ。

 校門に着くと、天野さんが何も言わずに俺達が帰る方向とは逆の方へ歩いて行く。

「あれ? 確かはぴあちゃんのお家ってこっちじゃなかったっけ?」

 一人で歩いて行く天野さんに、幼馴染みの葵さんが訊ねる。

「……用事があるから……」

「そっか、じゃあまた明日だね。ばいばいはぴあちゃん」

 振り向いて、手を振る葵さんに頷いた後、天野さんは一瞬だけ俺を見た。

「?」

 何だろう……? ……あっ、もしかして挨拶してないからかな?

 俺がそう思って口を開こうとする前に、天野さんは振り返る。そのまま声をかける間もなく歩いて行ってしまった。

 あっ……。

「それじゃあ、私達も帰ろっか」

「え、あ……はい」

 天野さんを見送っていた葵さんが歩き出す。気になって天野さんの背中を見ていた俺も、振り返って葵さんと一緒に帰り道を歩き出した。


      ***


「うーん。さすがにきのう置いたばかりだもんね、まだ一つも無いや」

 お昼ご飯を食べた後の昼休み。昨日設置したお助け箱を、数字で0903と番号を合わせ鍵を開けた《見回り当番》の葵さんは、中を確認して呟いた。葵さんの隣で俺も箱を見てみる。空っぽだ。

 昨日の話で、《お助け箱の確認は曜日毎に当番》という事になったのだが、葵さんと一緒にお昼を食べてる時に話題になった所為か、やっぱり気になって俺も見に来てしまった。

 ……ふむ。上の何枚かの用紙がズレているから、誰かが興味を持ってはくれたんだろうけど。箱が空っぽって事は、さすがにすぐには書きづらいのかもしれない。

「んー、じゃあ次は1階の方を見に行ってみようよ。もしかしたらはぴあちゃんもそっちに居るかも」

 葵さんの考えに俺は頷く。

 さっき天野さんも一緒に食べようと葵さんと誘いに1―Aまで行ったのだが、食堂派なのか購買派なのか、もう教室に天野さんは居ないみたいだった。

 俺と葵さんは、鍵をかけ直して1階に続く階段を下りる。

「うーん……はぴあちゃん居ないね」

 一階にも天野さんは来ていないようだった。まだお昼を食べているのかもしれない。ご飯はのんびり美味しく食べるのが一番だからな。

「それじゃあ、どうしよっか? このまま私達だけで3階と4階に行ってみる?」

 お助け箱の中が空っぽなのを確認し鍵をかけた俺に、葵さんが言う。

「うーん。まぁ強制ではないですし、先に見に行くだけ見に行った方がいいかもです」

「そう、だね。うん。じゃあ、行こっか」

 葵さん、やっぱり天野さんと一緒に居たいのかな。ちょっと寂しそうだ。

 天野さん上に居るといいな。そう思いながら、俺は葵さんと階段まで戻る。

「おっ、葵に進ではないか」

「あっ、先輩。こんにちはっ」

「あ、こ、こんにちはです」

「はい~。葵さんに進さん、こんにちはです~」

 2階に上がった階段のところで、3階から降りてきた先輩達とばったり出くわした。

 葵さんと一緒に挨拶すると、凛先輩は軽く手を挙げ、水鳥先輩は笑顔を返してくれる。

「もしかして、見てきてくれたのか?」

「あ、はい。けど空っぽでした」

「そうか……いや、あたし達の方もだ」

 凛先輩は首を横に振って、何も無かった事を示す。

「えっ、凛先輩見てくれたんですか? 今日は私じゃ……」

「ん、まあそうなんだがな。やっぱり気になってしまってな、先に見てきてしまった。せっかく当番制に決めたというのに、すまないな」

「うふふ~、それだけではありませんよ~。皆さんは一年生ですから、上級生の居る階にはまだ行きづらいだろう、って凛ちゃんがおっしゃってました~」

「んなっ……おい水鳥、それは言わなくても……!」

「そうなんですか? 凛先輩っ、ありがとうございます」

 赤くなって水鳥先輩に詰め寄った凛先輩に、葵さんが笑顔でお礼を言う。

「~~っ! あ、ああ。まあ、なんだ、先輩だからな。当然だ」

「うふふ~、凛ちゃん真っ赤です~」

「う、うるさいぞ」

 照れを隠そうと腰に手を当てそっぽを向いた凛先輩は、水鳥先輩に指摘されてさらに赤くなった。

「……ところで~、はぴあさんはご一緒では~?」

 俺達と居ない天野さんを気にして、水鳥先輩が訊いてくる。

「それが教室に行ってみたんですけど居なくて。何か用事があるんだと思います」

「ふむ、そうか。まあ、時間がある時だけでいいからな。君達も毎日見る必要はないぞ」

 凛先輩が言う。

「あ、いえ。昨日入部したばかりとはいえ自分達もお助け部の一員ですから……」

 胸ポケットに入れてあるお助けバッチを思い浮かべながら、俺は答える。隣で葵さんも頷いてくれた。

「……ふ。君達は真面目なんだな」

「い、いえ。入部したからには、やっぱり、その……」

「うふふ。嬉しいですけれど、無理はしなくてもいいですよ~。見るだけとはいえ、さすがに毎日は手間でしょうから~。それに、その為のお当番ですからね~」

 まぁ、確かにそうなんだけど。そう言われると余計にやる気が出てしまうじゃないかっ。

「……ふふっ」

 急に凛先輩が笑い出した。どうしたんだろう?

「ああ、いや。去年はあたしと水鳥の二人だけだったからな。なんだか不思議だなと思ったら、ついな」

「……そうですね。私もきっと凛ちゃんと同じ気持ちです。くすぐったいような、嬉しいような、不思議な気持ちです……」

 先輩達がどんな気持ちなのかはっきりとは分からないが、なんだろうな……なんだか温かい気持ちが伝わってきた。

「……それじゃ、あたし達はそろそろ戻るとするか」

「はい~、凛ちゃん。それでは~、葵さん、進さん、また放課後に~」

「あ、はい」

 微笑む凛先輩と手を振る水鳥先輩は階段を上って行った。

「私達はどうしよっか? 戻ろっか?」

 先輩達が見えなくなってから、葵さんが俺に意見を求める。

「そう、ですね。先輩達が見てくれたんなら、もうする事も無いでしょうし。また放課後ですね」

「うん、放課後ならはぴあちゃんも居るだろうしね。戻ろっか」


 今日はお助け部で特に何もする事が無く、先輩達とまったり話をするだけで終わった。

 活動するの、結構楽しみにしてたんだけど……まぁ、皆の話を聞いているだけでも楽しかったからいいか。

 昨日と同じように三人一緒に部室を出て、俺達は歩く。

「はぴあちゃん、今日は一緒に帰れる?」

「……今日も用事があるから……」

 葵さんが天野さんに訊ねると、天野さんは小さく首を振って断った。

「え……あ、そ、そっか。なら仕方ないね」

「……また明日」

「うんっ。またね、はぴあちゃん」

 葵さんにそう言うと、天野さんは去って行く。

「………」

 葵さんがどこか落ち込んだ表情で、もう見えなくなった天野さんの背中を見ていた。

「た、偶々ですよっ。もしかしたらバイトでもしてるのかもしれませんし……」

「う、うん。そ、そうだよね、偶々だよね。えへへ」

 そう、つくった笑顔を葵さんは浮かべる。

「……ぁ、明日、また明日ですよっ」

 俺は、そんな元気の無い笑顔を浮かべる葵さんに、何の根拠もない言葉を掛ける事しか出来なかった。


      ***


「今日も相談事は無しか……」

 凛先輩が空っぽのお助け箱を見て唸り声を上げる。

「でも~、皆さんが困っていないというのは嬉しい事ですよ~」

「まあな」

 確かに誰も相談事を持ってこないというのは良い事なんだろう。でも、お助け箱を設置してから一週間以上経ったわけだし、そろそろ一つくらいきてもいい頃だと思う。

「ふむ……仕方ない。それならパトロールにでも行くか」

「パトロールですか?」

「うむ。学園で困ってる人を見かけたら、全力でその人の力になる! なにも待っているだけじゃないという事だ」

 パトロールか……うん、それはいいかもしれないな。待っているだけじゃ、その時その瞬間に困っている人がいたら、とても助ける事なんて出来ないだろうし……本当に誰かの力になりたいのなら、自分から動かないとそれを叶える事は、多分……出来ないだろう。

「では早速出発だ」

 皆で部室を出て、部室の扉に描かれているおたすけベアーのお腹に、「お出かけ中クマ~」という紙を張り付ける。そうしてから、部室棟から校舎へと移動を開始する。

 お助け箱を置きに行った時と違い、今日は水鳥先輩も一緒だ。これで改めて凛先輩の言っていた、新・お助け部の記念すべき最初の活動という感じがする。

「さて、まずは一通り回ってみるか」

 凛先輩を先頭に校舎を歩く。

「あ……は、はぴあちゃん、一緒に頑張ろうね」

「……ん」

 葵さんが天野さんに話しかける。

 その様子を見て、俺は違和感を覚えた。

 何だろう、葵さんの元気がいつもと違う。どこかぎこちないような……まるで照明の灯りが普段より一段落ちたような明るさに感じる。

「はぴあちゃん、今日は……一緒に帰れるかな?」

 一瞬どうしようかと言葉をとぎらせた葵さんだが、最後まで言い切る。

「……今日も……」

「あ……そ、そっか……」

 首を振られた葵さんが何でも無い風に前を見るが、その言葉と表情は、先程までより明らかに下を向いていた。

 ………………。

 お助け部に入部してからというもの、部活が終わった後、葵さんはいつも「一緒に帰ろう」と天野さんを誘っている。

 今まで離れていた友達が帰って来たんだ、葵さんの嬉しいという気持ちがよく分かる。

 でも……

 もう一度落ち込んでいる葵さんを見る。

 ――やっぱり、一緒に帰れないだけとはいえ、葵さんにとってそれは寂しい事なのだろうか。断られた葵さんの表情を見る度にそう思う。

「みなさ~ん、どうかされたのですか~?」

 距離が開いてしまった俺達を心配して、水鳥先輩が後ろを振り返って声をかけてくれる。

「あ……いえ、すみません……」

「葵、どこか調子でも悪いのか?」

 駆け寄ってきた凛先輩が、元気の無くなった様子の葵さんを気遣う。

「い、いえっ。そんなことは……」

 少しわざとらしく首を振ってみせる葵さんだが、やはり元気が無いのが丸分かりだ。

「……そうか。無理はするなよ。何か悩み事があるのなら、いつでも相談に乗るぞ?」

「ぁ……ありがとうございます。でも大丈夫ですから……。んと、パトロールってわくわくしますよね。困ってる人どこかな~……」

 無理やりな笑顔を浮かべ、葵さんは一人先に歩き出す。

「葵さん、どうかされたのでしょうか~……?」

「………」

 心配そうに呟く水鳥先輩。その呟きを聞いてかは分からないが、葵さんを見つめる天野さんが小さく唇を噛んだように見えた。


「………」

 葵さんが俯きがちに道を歩く。

「あ……」

 話しかけようとする俺の口は、小さく開くだけでそこから声を出す事が出来ない。

 俺はそのまま何も話せずに葵さんの隣を歩く。

 ……俺はどうすればいいんだろう。

 葵さんはこっちに来てからの初めての友達だ。こんな、まだ何も取り戻していない、失ったままの俺と一緒に居てくれる。

 葵さんと一緒に居ると、例えその時だけだとしても、俺は笑顔になれるような気がする。

 葵さんの太陽みたいな温かい笑顔を向けてくれるだけで、俺は嬉しいって思える。

 だから、いつも元気な葵さんが落ち込んでいるのを見ると、胸の辺りがチクチクと痛む。

 もしかしたら俺は、葵さんの力になりたいのかもしれない。中学の頃、皆が俺を励ましてくれたのと同じように……。

「……きょ、今日も困ってる人居なかったね。ちょっと残念かな。あ、でもその方がいい事だよね、えへへ……」

 天野さんと校門で別れてからずっと黙っていた葵さんが、ふいに明るい声を出した。元気のない笑みを浮かべて。

「……葵さん。その……」

「………」

「えと……」

 まだうまく考えが纏まっておらず、俺の言葉はそこで途切れる。

 その所為で、葵さんはまた前を向いて俯いてしまった。

「………」

「………」

 ……何やってるんだ、俺は。葵さんの力になりたいんじゃないのかよ。何か言わないと……。

「あの――」

「……ねえ、進くん。どうしてはぴあちゃん一緒に帰ってくれないのかな……?」

 何か言おうと口を動かす前に、沈んだ声が葵さんの唇から零れた。

「……はぴあちゃん、私の事……嫌いなのかな……」

「……葵さん」

 葵さんの瞳に一粒の滴が浮かんできた。

「! っ違いますよっ! そんな事……! だって部活の時は普通に話したり――それに体験入部の時だって、再会したばかりなのにあんなに仲良く――」

「じゃあ、なんでっ! お家だってこっちのはずなのにっ! バイトでもしてるのかもしれないけど、それだって……っ!」

「っ!」

 突然の葵さんの大きな声に俺は言葉を詰まらせ、僅かに身を仰け反らせてしまう。

 自分が大きな声を出した事に驚いたのか、ハッとなった葵さんは口元を押さえて、大きく開かれた瞳で俺を見た。さっき浮かんできた滴が頬を伝って、葵さんの手を濡らした。

「あ……私……」

 葵さんの瞳が大きく揺れる。

「あ……ご、ごめ……っ」

「っ葵さん!」

 駆け出す葵さんに、俺はとっさに呼びかける。

 だけど、俺の呼びかけを振り切って、葵さんの背中は遠くへと離れて行く。

「ぁ……」

 伸ばした手を見えなくなった背中に向けたまま、俺はその場に立ち尽くした。


      ***


「葵さん……」

 アパートの自室に戻ってきた俺は、額を手の甲で押さえながら、床に敷いた布団に寝転がって先程までの事を思い返していた。

「……くっ」

 俺は葵さんの力になりたいと思った。なのに……。

 人は不安を感じた時、どんな些細な事でもその気持ちを大きくさせる。それがプラスであってもマイナスであってもだ。

 だから今の葵さんの心は……きっと、苦しさと寂しさで溢れているのだろうと思う。

「……くそ……」

 またかよ。また俺はこんな思いをしなくちゃいけないのか。

 皆に優しくしてもらうだけしてもらって、自分では何も返す事ができない。

 またなのか? そんな無力な自分を変えたくて、変わりたくてここにきたんじゃないのか?

 まだこっちに来て少ししか経ってないかもしれない。俺だって、別にそんなすぐに変われるなんて思っていなかった。だけど……。

 友達の為に力を尽くす事。その想いは――きっと相手の支えになる。自分の弱い心に挫けていた俺を、皆が助けようとしてくれたように。

「………」

 考えよう、俺に出来る事を――


      ***


「あ、一前くん。お、おはようございます。今日は遅いんですね。いつもは私達の方が後なのに……」

 登校時間ギリギリに教室に着いた俺に、叶井さんが挨拶してくれた。

「えっ、ああ、いえ、ちょっと……。その、おはようございます」

「ふん、寝坊でもしたんじゃないの? そんな眠たそうな眼で、まだ寝てるんじゃない?」

「はは……」

 叶井さんとは違う形の挨拶をしてくれた綾瀬さんに苦笑を浮かべて俺は自分の席に着くと、カバンの中から教科書等を取り出して机に仕舞い、空になったカバンを机の横に掛ける。

「は~い、みんなぁ! 今日も元気ですかぁ? おっはようございまっす!」

 丁度その時、美子先生がいつものように溢れる元気を振る巻いて教室に入ってきた。

「「おっはようございま~す!」」

「ふふっ、みんなの元気な声を聞くと先生も元気が出てきまっす! という訳で、さっそくHRを始めちゃいますよ~」

 美子先生は教卓の前に立って出席をとると、今日の予定について話す。

「――はい。それでは、お知らせは以上でっす。みんな、今日の授業も頑張ってくださいね~。あ、でもでも、居眠りはいけませんよぅ。他の先生方に怒られちゃうので気を付けるように」

 慌てて人差指を立てて窘めるように言った後、先生は教室を出て行った。クラスメイト達が「はーい」と返事をして、各々授業の準備をし始める。

 ……えーっと、あれ? 一時間目はなんだっけ?

 クリアファイルに挟んである時間割表を机から出して目をおとす。

「………」

 ――葵さん、ちゃんと学園には来てるのだろうか……?

 昨日考えてみて特に何か良いアイデアを思いついたわけじゃない。それでも、一緒に登校できたらと思って商店街の噴水の前で待ってみたけど……結局見かけなかった。

 先に登校していたという可能性もあるけど、昨日の葵さんの表情を思い出すと、やっぱり一目でいいから朝の中に会っておきたかった。

「――あ、あのっ、一前くんっ」

「ふぇ? あ、はいっ」

 時間割をボーっと眺めていた俺は、叶井さんのどこか急かしたような声にハッとなり、顔を上げた。

 周りには、俺以外のクラスメイト達が起立していた。

「えっ、あ……」

 俺は慌てて椅子を引いて立ち上がる。

 ――っと、慌てすぎた所為で椅子の後ろ脚が引っ掛かってしまった。

「え、あっ……! ぐっぅ~~っ!」

 椅子と一緒にバランスを崩した俺は、後ろの席の机に思いっきり後頭部をぶつけて床に倒れてしまう。

「一前くんっ!」

「ちょ、ちょっと……大丈夫なのっ? 何してるのよアンタ」

「ぐ……ぅっ~~」

 叶井さんと綾瀬さんが、頭を押さえて痛みを堪えている俺の傍までやってきてくれた。

「だ……だい……っ」

「そんな……全然大丈夫じゃありませんっ! 凄い音がしたじゃないですかっ! すぐ保健室に行かないと……優希ちゃん!」

「……ふぅ、しょうがないわね――ほら、掴まりなさい」

 綾瀬さんと叶井さんが両脇から俺を支えて立たせてくれる。

「っ! へ、平気……ですから……離し……」

「いいから黙ってなさいっ。ほら行くわよ」

 ズキズキする頭をふらつかせ、俺は力無く二人に支えてもらって教室を出る事になった。


 すっかり授業が終わってしまった騒がしい教室の扉を潜る。

「一前くんっ! だ、大丈夫なんですかっ? もう痛くないですかっ?」

「えっ……ああ、もう大丈夫です。その、すみませんでした……」

「まったくよ。ビックリさせないでよね」

「はは、すみません……」

 ぶつけたところを保健室で診てもらって教室に帰ってきた俺は、どうやら気にしてくれていたらしい叶井さん達に頭を下げて、席に座る。

「いつもそんな眠たそうな眼をしてるからよ。……ま、今度からは気をつけなさいよね」

「……はい。ありがとうございます、綾瀬さん」

「な……べ、別に私は……ふ、ふんっ」

 俺がお礼を言うと、綾瀬さんが顔を背けた。もしかして、照れているのだろうか?

「あの、本当にもう大丈夫なんですか……?」

「あ、はい。さっきは、ちょっと考え事をしていただけですので……」

「そう、なんですか? でも……」

「もういいじゃない、香苗。本人が大丈夫って言ってるんだし……。それよりお昼に行きましょう」

「う、うん……でも……」

 俺の方を心配そうな眼差しで叶井さんが見てくる。

「本当にもう大丈夫ですから。俺の事は気にせず行ってきてください」

「ほら行くわよ香苗。早く行かないといい所が無くなっちゃうわよ」

 そう言ってもまだ心配そうにしてくれている叶井さんを、綾瀬さんが連れて行く。

 二人が教室を出て行った後、たんこぶができたところを保健室で貰ったアイスパックで押さえながら、俺は心の中でもう一度「ありがとうございます」と、二人に呟いた。

 ――こうして誰かに心配してもらえるだけで、痛みも辛さも少し和らいでいくような気がした。

「――それにしても……はぁ」

 保健室で少しだけ休むつもりが、半ば強引に寝かされたおかげでもうお昼か。まぁ、どうせ痛みで授業に集中できなかったかもだけど。結局何も――

「……葵さん来ないな」

 いつもならもうとっくに来てるのに……。保健室から帰ってくる間に入れ違いになったのかな。

「ん……よしっ」

 チョコ系のパンが入ったスーパーの袋と緑茶が入った水筒を手に、俺は席を立つ。

 余所のクラスに行くのにはちょっとした抵抗があったが、いつも葵さんに来てもらってるんだ、偶には俺から行かないと悪いからな。

 自分の教室を出て、1―Cの入口に立った俺は、眼鏡を掛け、教室の中から葵さんの姿を探す。

「……居ないな」

 教室の中を隅々まで見渡して見ても、葵さんの姿は見当たらなかった。

 ……もしかして休んでいるのだろうか?

 濡れていた葵さんの瞳が、俺の頭を埋め尽くす。

「………」

 俺の声を振り切り、駆けて行った葵さんの背中。

 あの後ろ姿は――自分を何かに否定されたと思い込んでしまった背中だった。

 そう、まるで少し前までの俺の姿を見ているような……。

「……ちょっと、探して見よう」


「こないだ駅の近くのケーキ屋さんが新装オープンしたみたいなんだけど、良かったら今度一緒に行かない? お互い部活が休みの日とかにでも」

「うん。優希ちゃんとお出かけ、楽しみ。どんな感じのお店なの?」

 結局葵さんは見つからず、適当な場所で一人お昼を食べた俺が教室に戻ってくると、同じく昼食を終えて教室に戻ってきたらしい、綾瀬さんと叶井さんが仲良く会話を楽しんでいた。

 そんな二人の話を聞きながら、特に行く処も無い俺は、自分の席に座る。

 話をしている二人が一度俺の方を見たが、すぐに話を再開する。

「――でね。そこ、ケーキだけじゃなくて、シュークリームやクレープなんかも美味しいらしいのよ。種類も豊富って聞くし……」

「ふふ、そうなんだ。優希ちゃんケーキ好きだもんね。毎日通ったりしちゃいそう」

「さ、さすがに毎日は無理よ。部活もあるし、一人で行ってもつまらないでしょ? それに、そんな事したら……ふ、太っちゃうじゃない」

「ふふ、そうかも」

 窓の外に広がる水色の空を見つめて、俺は考える。

 葵さん、やっぱり休みなんだろうか。どこにも居なかったし……。

 ――葵さんは、俺が久しぶりに『友達』と何気なく言えた大切な存在だ。

 まだ出会って一月も経っていないけど、いつも一緒に居るような、自分が素直な自分になれる大切な居場所のような存在。

 そんな葵さんに俺が出来る事……いや、そもそも俺なんかに何かが出来るのだろうか?

 周りに支えられている事を知らず、知ろうともせず、それに甘えてばかりいた俺に……。

「………」

「……ちょっと、人が話してる横で何溜め息吐いてるのよ?」

「え? あ……」

 考え込んでいたら知らずに溜め息が出てしまったらしい。綾瀬さんが不機嫌な顔でこちらを睨んでいた。

「どうかしたんですか……? やっぱり、まだ痛いんじゃ……?」

 叶井さんが訊いてきた。

「あ、いえ、その……すみません」

 いまいち元気が出ず、俺は気弱な答えを二人に返す。

 いきなり謝られた事に戸惑い、綾瀬さんと叶井さんは顔を見合わせる。

「……アンタねぇ、隣でそんな暗い顔されてると、こっちは気になって仕方ないんだけど」

「……すみません」

 綾瀬さんのキツイ物言いに、俺は居場所を無くしたかのように席を立つ。葵さんを通してあの時の事を思い出してしまった所為だろうか、そのちょっとした言葉に心が痛んだ。

「優希ちゃん……!」

「………」

 二人に頭を下げ、俺はそのまま教室の外へと足を向ける。

「……ちょっと、何勘違いしてるのよ? 私は話を聞いてあげるって言ってるの」

「……いえ、大丈夫ですから。気にしないでください」

「いいから座りなさいって言ってるの!」

「うわっ!」

 歩き出そうとした俺の制服を強引に掴んで、綾瀬さんが俺を無理やり席に座らせる。

「っ……」

「ったく……今出て行ったところで、戻ってきた時同じ顔してたら一緒でしょうが! そんな奴の隣で授業受ける香苗の迷惑も考えなさいよっ」

「ゆ、優希ちゃん、私は別に……」

「いいから香苗は黙ってなさい。……ほら、早く話しなさいよ。少しくらいなら聞いてあげるから」

「いや、だから大……」

「聞いてあげるって言ってるのっ!」

「………」

 身を乗り出して俺を威圧する綾瀬さんに、「なんでこんな事に……」と思いながらも、俺はさっきとは違う種類の溜め息を一つ零した後、二人に相談に乗ってもらう事にした。

「えと……」

 口を開こうとして、俺は躊躇った。

 相談に乗ってもらうとは言ったけど、本当に話してもいいのだろうか?

 これは、葵さんと天野さんの二人の問題だ。力になりたいとは思っていても、言ってしまえば、俺は部外者という事になるのだろう。

 そんな俺が勝手に他の誰かに言いふらすような真似をしていいとは、到底思えない。

 それに、もしかしたら、俺が今話す事で葵さん達が傷付く事になるのかもしれない。そんなのは絶対に嫌だった。

「……何よ、私達なんかじゃあてにならないって思ってるの?」

「い、いえ、そんな事は……その、俺の事じゃないですから……だから、やっぱり……」

 俺は躊躇いがちに二人を見上げた。

「……そう」

 俺が躊躇う理由が伝わったのだろう。

 綾瀬さんは少し考えるように眼を閉じた後、こう言葉を続けた。

「……でも、アンタはその事で悩んでるんでしょ? つまりアンタの悩みが解決すればその誰かの悩みも解決するって事よね? だったら安心しなさい。アンタから聞いた事は誰にも言わないし、ふざけて適当なアドバイスをする気も無いわ。それに……さっきも言ったけど、傍でそういう顔してる奴がいると楽しく話も出来ないの。分かったら早く話しなさい」

「悩み事って、自分の事でも打ち明けにくいものですよね。それが誰かの事なら尚更だと思います……でも、きっとその誰かは、悩みに打ち勝つ為の勇気が来てくれるのを待っているのではないでしょうか? だから、その、力になれるのかは分かりませんけど、もし良ければ……私達もその勇気の一つにならせてくれませんか?」

「……勇気になる……?」

 綾瀬さん、叶井さん……。

 なんだろう。二人の言葉が、胸の奥底に響き渡っていく。

「……ぁ、ありがとう、ございます……」

 だからだろうか、俺は自然と二人にお礼を言っていた。

 ホントになんで何だろうか? 涙が溢れてきそうなほどに、その言葉は俺の心に沁みわたった。もしかしたら俺は、感動しているのかも知れないな。

「……ったく、誰かの事じゃなかったの? なんでアンタがそんな顔してるのよ?」

「はは……自分でもよく分かんないんですけど……なんか……」

 やっぱり、あの時の自分と葵さんを重ねてしまっていたのだろうか? 葵さんの頬に伝う涙が見える気がした。

「そ、それでっ、どうしたのよ?」

「………」

 俺は、友達の素敵な、向日葵のような眩い笑顔を思い起こす。

 葵さん……俺はあなたの力に――あなたの勇気になりたいと思う。

 だって、俺は葵さんの友達だから……だから――


      ***


「えっ」

 放課後。一応葵さんのクラスを覗いてみた後、部活に向かおうと部室棟へ続く道を一人で歩いていたら、ふと数十メートル先、俺の視界にずっと探していた人の姿が入り込んできた。

「葵さんっ」

 俺はその姿に向かって駆け出す。

「え……進くん」

 眼鏡を掛けて無かったので自信はなかったが、どうやら見間違いじゃなかったみたいだ。葵さんがそこに居た。

「あ……」

「良かった。今日全然姿を見かけなかったので、休みなんじゃないかって思ってました」

「あ、うん……ごめんね」

 元気のない葵さんに、俺は首を振る。

「部活、行きませんか? 俺も今から行くところなんです」

「……ごめん。今日は、お休みする事にしたんだ……だから……またね」

「え、あの、葵さん?」

「……それじゃあ……進くん、またね」

 寂しさを宿した葵さんの瞳が、此処には居たくないと、気まずそうに俺の横を駆けて行く。

「あ、葵さんっ……!」

 呼びかけるが、葵さんに振り返る気配はない。

「ぁ……」

 ……駄目、なのかな……やっぱり俺なんかじゃ誰かの力になる事なんて……。

 だんだんと視線が下へと落ちていく。

「………」

 その間に葵さんの足音が遠ざかって行く。

「くっ……」

 きつく目を閉じると、もうすっかりと心に焼き付いてしまった葵さんの笑顔が、気持ちを照らしてくれた気がした。

「……そうだ、俺は――」

 目を開けた時、俺の足は駆け出していた。


      ***


「葵さんっ!」

「えっ、進くん……?」

 さっき別れたばかりの俺を、振り返った葵さんが驚いた表情で見つめる。

「進くん、部活はどうしたの……?」

「その、葵さんと、もっとお話ししたい、なって……」

 葵さんに追いついた俺は、乱れた息を整えながら言った。

「だ、駄目ですか?」

「……ううん。そんな事は、ないよ……」

「良かった」

 駄目だって言われたらどうしようかと思った。少し安心する。

「………」

「あ、えと……少しゆっくりできる場所ってありますか?」

「えっ、えっと……この近くだとニャンコ公園くらいかな」

「あ、じゃあそこに行きませんか。まだ行った事無いので、どんな所なんですか?」

「う~ん、えとね、普通の小さな公園だよ。遊び道具が全部ネコの形をしてるんだ」

「そうなんだ。なんだかのんびりできそうな所ですね。和めそう」

「ふふ」

 俺がそう言ったら、葵さんが小さく笑った。

「あ、ここだよ」

 葵さんに案内してもらって、俺は大きくニャンコ公園と書かれた横長のネコを通り越し、葵さんと公園の中に入って行く。

「あは、ホントにネコばかりですね」

 滑り台、ブランコ、シーソー等の遊具、ベンチやごみ箱まで、ネコでいっぱいだった。

「あ、じゃあとりあえずブランコに座りましょう」

 わざわざブランコにせず別にベンチに座っても良かったのだが、さすがにあのネコベンチには恥ずかしくて座れないと思った。

 葵さんと並んでブランコに腰掛ける。

「………」

「………」

 追いかけてきたのはいいが、何を話そう。

 天野さんと葵さんが二人で話をできるように――とは言っても、いったいどう言えばいいんだろう? 困った。

「………」

「あーっと……えーっと……」

 ……ああっもうっ! 俺は何しに来たんだ。せっかく葵さんが付き合ってくれたのに、このまま黙っていたら葵さんを困らせるだけじゃないかっ! 何か、でも何て言えば……?

「……あ、あのね」

 何て言ったらいいのかとそわそわしている俺を見かねてか、黙ったままの空気に耐えられなくなったのか、葵さんから俺に話しかけてきてくれた。

「この公園ね、小さい頃はぴあちゃんとよく遊びに来てたんだ」

「天野さんと……?」

「うん」

 その時の事を懐かしむように、葵さんはゆっくりと話しだした。

「あの砂場でお城をつくったり、ベンチに座って葉っぱとか集めて作ったお弁当でおままごとをしたり、このブランコでどっちがうまく漕げるか競争したり――」

「………」

「最初はぴあちゃんブランコ漕げなくて、でも私が教えたらすぐに漕げるようになって……それでね、神社の裏の林に二人で小さなブランコを作ったんだ」

「ブランコ……?」

「うん」

 ……そうか。きっと葵さんが言っているのは、俺が天野さんと初めて会った時に、今葵さんがしているような表情で天野さんが座っていた、あのブランコの事なんだろう。

「そのブランコで暗くなるまで遊んで、そしたら、はぴあちゃん私より高く漕げるようになったんだよ」

 葵さんが楽しそうに笑う。

 ――俺は、確信した。今の話を聞いて、この葵さんの素敵な笑顔を見て、天野さんが葵さんを嫌いになるはずがないと。だから――

「俺、一人だったんです」

「え?」

 いきなりの俺の言葉に、葵さんは驚いた表情を見せる。構わずに俺は続ける。

「正確には自分から一人になった、なんですけど」

 葵さんの静かな瞳に、俺の言葉はどう映っているのだろう?

「サッカーをしてたのは前に言った事ありましたよね。俺、中学1年の時、大会前の練習試合で怪我しちゃったんです。病院行くと疲労骨折ってやつで、しばらく学校に行けなくなったんです」

「………」

「友達はいつも心配してくれて、怪我が治ってからもずっと気に掛けてもらって……それなのに中々調子が戻らなくて、それが本当に……辛くて、苦しく、て……」

 あの時の事を思い出すと胸が締め付けられる。今すぐ泣きたくなってくる。

「嫌に、なった。そんな自分が、してもらうばかりで何も応えられない自分から逃げ出した。捨てたんです、全部。友達も、生きがいも――自分自身も」

 情けない気持ち。悔しい気持ち。あの時感じた色んな感情が心の中を渦巻き出す。

「進くん……」

 でも泣いてなんていられない。俺と同じような思いをしている人がここに居るんだ。

 知っている俺だから、俺は同じような自分を二度と見たくないと決めたから!

「少しして、後悔した。俺が本当にしなくちゃいけなかったのは友達に迷惑をかけたくないと思う事じゃなくて、友達の想いに辛くても頑張って応える事だったんじゃないかって」

 そう同じだ。葵さんが今しなくちゃいけない事は、天野さんときちんと向かい合う事。その為に俺が出来る事は、二人が話し合えるキッカケをつくる事。

「葵さんには逃げてほしくない。葵さんには捨ててほしくない! だって――」

 俺の眼に葵さんの薄い色の瞳が映る。

「自信を無くした俺が。誰に対してもちゃんと向き合う事ができなくなった俺が。葵さんと居る時、自然と本当の自分が出てくるんだ」

 葵さんの眼にも俺が映っている。

「葵さんには魅力があります。周りの人達の心を開かせる、とても素敵な力が。なにより友達を想う優しい気持ちが……だから、そんな葵さんを天野さんが嫌いになるなんて、絶対にないです」

「……進くん」

 俺はそこで言葉を閉ざす。葵さんの肩が僅かに震えている気がしたからだ。

 だけど、俺にはもう一つ伝えたい事があった。だから、もう一度閉ざした口を開く。

「それに――あの日、天野さんは待っていました」

「えっ?」

「あの時、迷子になっていた俺を葵さんは助けてくれました。でも、その前に天野さんにも助けてもらったんです」

「はぴあちゃんに……?」

 葵さんに、俺は頷く。

「林の中の小さなブランコに座っていた天野さんに、『あっちに神社があるから』って」

「……!」

「そして何か懐かしそうに、『もう少しここにいるから』って」

「ぇ……」

「体験入部の時、天野さん言ってましたよね。『どうやって会ったらいいのか、分からなかった……ずっと……』って。……天野さんはずっと葵さんの事を大切に想っていたんだと思います、今もずっと……」

「ぁ……はぴ、あちゃん……!」

 葵さんの瞳から光るモノが零れ落ちた。

「だから泣かないで……閉じ込められた心の檻を解かすような、そんな、葵さんの温かな笑顔を見せてください」

「進、くん……」

 葵さんのような笑顔じゃないかもしれない。だけど、俺にできる精一杯の笑顔で、俺は零れた葵さんの涙をすくった。

「ぁ……」

 小さく呟きを洩らす葵さんに何も言わず、俺はただ微笑み続ける。

 きっと、これが俺にできる事なんだと思うから――。

「……進くん……私、ちゃんとはぴあちゃんと話をしてみるよ」

 やがて落ち着いた葵さんの瞳は、弱弱しい光から強い意志を宿した輝きへと、確かに変わっていた。

「……はい」

 その輝きを俺は真っ直ぐに受け止める。

「だって……進くんに勇気を貰ったから……!」

 そう言った葵さんの笑顔が凄く眩しくて、その言葉が嬉しくて、俺はまるで時間が止まったみたいに、その笑顔を瞳に映し続けた。


      ***


 昨日が過ぎた放課後。

 部活が終わってから、葵さんは天野さんに呼びかけた。

「あ、あのね、はぴあちゃん。今日も……用事あるんだよね? それでね、その用事が終わってからでいいんだけど、少しお話したい事があるんだ。だから、良かったら二人で作ったあのブランコの所に来てほしいの……遅くなってもいいから、どうしても私……っ!」

 葵さんが勇気を振り絞って、懸命に想いを伝える。

「………」

「やっぱり……だめ、かな……」

 葵さんが、ぎゅっと自分の制服の裾を握った。

 天野さんは、考えるように眼を伏せる。

「……分かった」

「あ……ありがとうっ、はぴあちゃん。私待ってるから、だから……」

「……また……後で」

 そう言って、天野さんはいつものように俺達とは反対の方へ歩いて行く。

「はぴあちゃん……」

 去っていく天野さんの背中を見つめて、決意を固めたように葵さんは静かに頷いた。

 その表情を見て、もう大丈夫そうだ、と俺は安心する。

 ……俺に出来る事は、もう無いだろう。後はお互いを想う絆が、きっと二人を笑顔にしてくれる。

「あ、あのっ、進くん!」

 静かに踵を返し、一人で帰ろうとした俺を、葵さんの声が呼び止めた。

「あの……っもし良かったら、一緒に来てほしいの……!」

「? それは……もう俺には何も――」

 断ろうとする俺に、葵さんは首を振る。

「進くんに、見届けて……ほしいから……!」

 そう真っ直ぐに俺を見つめてくる葵さんの瞳は、今どんな想いを映しているのだろう?

「………」

 その真剣な表情は、決して支えを求めているようなものではない。ましてや、失敗する事を恐れているようなものでもない。ただ、自分のありったけの想いが確かに羽ばたいていく処を見ていてほしい、ただそれだけだった。

「……お願い」

 ――俺がもし、こんな強さをあの時持っていたなら……

 ……ふふ、葵さんは強いな。俺なんか必要無かったんじゃないかって思うくらい……。

 でも、だからかな。俺は見届けたいと思った。そうする事で、きっと何かが変わる気がしたから――

「……はい。俺で良かったら」

 ――俺は葵さんにそう答えた。


      ***


 夕焼けが林の木々を赤く染めてどれくらいだろうか? 小さなブランコの前で立ち尽くす、緊張した面持ちの葵さんと俺の元に、土を踏み鳴らす音が聞こえてきた。

「………」

「はぴあちゃん……」

 天野さんはゆっくりとこちらに歩いてきて、俺達と僅かに距離を開けて立ち止まった。

「来てくれて、ありがとう。はぴあちゃん」

「………」

 天野さんは小さく首を振る。

「あ、あのね、それでお話っていうのは、その……」

 言いかけて、葵さんは口を噤ぐ。

 葵さん……。

 葵さんの緊張が傍に居る俺にも伝わってくる。

「………」

 そんな葵さんの言葉を待つように、天野さんはじっと葵さんを見つめている。

 よく見れば、天野さんの指先が微かに震えていた。

 二つの視線に見守られて、葵さんは一つ大きく息を吐く。そして、意を決したように噤いだ口を開いた。

「どうして、一緒に帰ってくれないの……?」

「! ……それは……」

「用事って……嘘、なんだよね……?」

「………」

 天野さんは、答えない。

 ……今葵さんはそう言ったけど、別に調べた訳じゃないのだろう。

 ただ、天野さんの事を信じているからこそ、想っているからこその、本当の事を話して欲しいからこその、〈嘘〉を吐いたのだろう。少なくとも俺はそう思った。

「……私の事……嫌い?」

「………」

「……あの時も、はぴあちゃんは何も言ってくれなかった……私こんなだから、しつこいって思われちゃったのかなって……」

「ちがっ……」

 葵さんの問いかけにとっさに出ようとした言葉を、天野さんは葵さんから視線を逸らし、黙ってぐっと呑み込んだ。その表情からは、どこか悔しそうな、そんな気持ちが窺えるように思う。

「じゃあ、どうして……?」

「………」

 葵さんの真摯な瞳に、天野さんの大きな瞳が揺らぐ。

「はぴあちゃん、私は――」

「っ!」

 葵さんの真っ直ぐな視線に耐えきれなくなったのか、その言葉を振り切るように後ろを向いた天野さんは、葵さんから逃げるように駆け出した。

「待って! はぴあちゃん、私は――」

 葵さんが遠ざかろうとする天野さんに、精一杯の――大切な想いをぶつける。

「私は、はぴあちゃんの事が好き。離れてからも、ずっと……忘れた事なんて無かった……」

 自分の素直な気持ちを言葉にして、葵さんは想いを繋げる。

「だから、またはぴあちゃんに会えて、凄く嬉しかった。だって、はぴあちゃんは……ずっと、今も大好きな、私にとって一番の友達だからっ……!」

「……っ!」

「たとえ昔みたいになれなくても、その気持ちは変わらないから。だから……っ」

「……あお……い」

 葵さんの想いを受け止めたのか、天野さんの小さな背中が、小さく、小さく震える。

 そして、今まで抑えてきた気持ちを吐き出すように、葵さんの想いに応えようと振り返った天野さんは、真っ直ぐに葵さんを見て自分の気持ちをぶつける。

「……邪魔、したくなかったから」

「え、邪魔?」

 コクンと頷いた天野さんの瞳が、俺と葵さんを交互に映す。

「……葵、凄く楽しそうだったから」

 少し寂しそうに天野さんが言った。

 ……? どういう、事だ? どうやら俺にも原因があるらしいけど……?

「あの、それってどういう……?」

 さすがに気になった俺は、直接天野さんに訊いてみる事にした。

「……トライアングルはドロドロ地獄――そうドラマで言ってた」

 真剣な表情で天野さんが答えてくれる。

「??」

 えっと……すみません、天野さん。ますます分からないです。

 トライアングル、ドロドロ……いったい何の事なんだ?

 いくら頭を悩ませてみても、普段TVを全く観ない俺には、ドラマの事なんてさっぱり分からなかった。

「ち、違うよっ。私達はそんなんじゃないよっ」

 しかし、そんな俺には分からない難問を解いたらしい。葵さんが夕焼けに負けないくらい顔を真っ赤にしながら否定の声を上げた。

「私と進くんは友達だよっ。そんな……こ、恋……」

 火が出そうなくらいに赤くなった葵さんの声は最後の方になると、だんだん萎んだようなもじもじとした声になって、よく聞き取れなかった。

「……違うの?」

「う、うん……」

「……そう」

 赤くなって下を向いている葵さんの前で、天野さんも同じように視線を傾ける。見ると、天野さんの耳も少しずつ朱色に染まっていくのが分かった。

 ……なんだかよく分からないけど、誤解は解けたのか? 二人の様子を見る限りそうっぽい。

 ――そんな、お互い照れたように下を見つめている二人の間に、その時、緩やかな風が吹いた。

 その風は、二人が抱いた不安を取り除くように――

 二人の想いを交わし合うように――

 二人の絆が今までよりも強く結び付くように――

 二人の眩い笑顔を祝福しているみたいに――茜色の空へと舞って行った。

「……あの、はぴあちゃん。その……それじゃあ、明日は一緒に帰って、くれるかな」

 はにかんだ笑顔で葵さんが言う。

「……ん。葵と帰りたい」

「ぁ……えへへ。はぴあちゃん!」

「っ! あ、葵……!」

「えへへ、大好きだよ、はぴあちゃんっ!」

 ぎゅっと、「これからも一緒だよ」と、葵さんが照れた天野さんに抱きつく。

「ん」

 応えるように、天野さんの小さな手が葵さんの背中にまわされた。

「………」

 なんだろうな、この気持ち……。

 俺にとって、もうそれは懐かしいとも寂しいとも思う、この気持ち。

 胸に広がる、温かな気持ち。

 俺が取り戻したいと願った気持ち。

 そして、もう一つ――二人の姿が俺の心に新しい想いを刻んでくれる。

 それは多分、俺が必要としていたモノ。

 心から笑えるようになる為の、かけがえのない想い。

「……少しだけ、俺も……」

 俺は夕焼け色に輝く二人を見つめ、満たされていくものを感じた。

  


最後まで読んで頂き、ありがとうございます(#^.^#)

いかがでしたでしょうか?

おそらく納得いかない(消化不良)と感じられたと思われます。

ですが、これは「あえて」こういう展開にしてみました。

なぜそうしたのか?

それは、この作品を読んでくださった皆さんが、人生である問題を抱えた時、この作品を思い出して問題を解決する手助けになれば、そう想ったからです。

僕が未熟な所為で、伝えたい事がうまく伝わらないかもしれません。

でも、きっと伝えたい人には伝わったんじゃないかなと思っております。

少しでもあなたの力に――勇気になれれば嬉しいです(*^_^*)


それでは、こんな力不足な僕の作品を読んで頂き、感謝の嵐です。ありがとうございました(>_<)

もしよろしければ、後々アップする予定のエピローグの方ものぞいてみてくださいね(^^)

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