体験入部ラストまでのお話 バレー部〈5つ目〉&演劇部〈6つ目〉
タイトルの通りです。
ページ数の為、最後の部分が本編と変わってたりします(こっちが最初に書いたメインで、7つ目と8つ目の部活名が明らかに! なっていたはず……たしか)。
短いので、ちょっとした合間に読んでみてください(#^.^#)
次のミッションが記されているメモを見て、俺達が向かったのはバレー部だった。
バレー部の活動場所である第1体育館に着いた俺達は、またしても勝負を挑まれる事になった。
ルールは簡単。先に4ポイント先取した方の勝ち、だそうだ。
何故に4? と聞いてみたところ、「4番はエースの証。昔からそうと決まっておろう」と言われたので、「何の4番ですかっ!」と思わず突っ込みたくなる衝動に駆られたが、なんとか堪えられた。目立つ真似はしたくないからな。
勝負をするにあたって、元々のコートに小さな三角コーンを置いて小さめのコートを作り、その中で3対3のミニゲームを行う事になった。
しかしながら、俺はバレーボールを小学校の子供会でした事があるくらいで、ルールなんかはよく解らない。葵さんも天野さんも、どうやら体育の授業でした事があるだけみたいだった。
「頑張ろうね、はぴあちゃん」
「ん」
元気な葵さんに、天野さんは小さく頷く。二人共やる気満々だ。もうコートに入って軽く準備体操をしている。俺もコートに入って適当な位置につく。
そこでふと気付いた事があった。さっきは説明無しでいきなりだったし、自分の番が終わっても天野さんの心配などでそこまで気にしなかったけど、こういうのはやっぱり言っておいた方がいいだろう。両腕を大きく回している二人に声を掛ける。
「あの」
「ん? どうしたの進くん?」
「あ、いえ。その、ちょっと気になったものですから……」
「?」
俺の主語を抜かした言い方に、葵さんは首を傾げる。やっぱり言いにくいけど、気付いたからにはちゃんと言った方がいいか。決意して口を開く。
「その……大丈夫なんですか? ス、スカートで……」
なんとか言えた。
「え? ……ああ、うん。大丈夫だよ。ほら」
葵さんはそう言っていきなりスカートの裾を持ち上げた。
「ぶっ! なっ、葵さんっ!」
俺は素早く顔を逸らす。
「ふふっ、そんなに心配しなくても大丈夫だよー。ほら、見てみて」
「見……! む、無理です! できません! 何言ってるんですかっ!」
「もう、だから大丈夫だってばー。……進くんって照れ屋さんなんだねっ」
「ち、違いますっ。そんなんじゃありません!」
「あはは、進くんかわいいー」
「っ~~!」
とうとう耐えきれなくなって葵さんから完全に背中を向ける。俺、男なのに。かわいいって……まぁ、ちょっとだけ嬉しいかもだけど……。
「……スパッツ」
「へ?」
天野さんが背中を向けた俺の制服の袖をクイっと引っ張って、呟くように言った。
俺はおそるおそる振り返って視線を葵さんの方へ戻す。……うん、確かにスパッツだ。
「ねっ? これなら見えても平気だよっ」
葵さんが摘まんでいたスカートの裾を離すと、紺色のスパッツがスカートの中に隠れた。
「……まったく、驚かせないでください。まったくもう……」
「ふふっ。うん、びっくりさせてごめんね、進くん」
「ま、まったくです」
「ふふっ」
真っ赤になってそっぽを向いた俺に、葵さんは笑みを漏らす。
「………」
クイっ。もう一度天野さんが俺の制服の袖を引っ張ってきた。「あ、はい。何ですか?」と、天野さんを見る。
「……穿いてない……」
「え?」
「どうすればいい?」
制服の袖を掴んだまま、身長差で自然と見上げる形になる天野さんが上目づかいで聞いてきた。
えっと……それはつまりその、そういう事、だよな。……うーん、どうすればいいって聞かれても、俺、スパッツなんて持ってないし。誰かに借りるにしても……いや、そもそもスパッツは借りられる物なんだろうか? かと言って、このまま始めたら天野さんのが、その、見えちゃう……かもだし。うーん、どうしよう……?
「あーっと……」
「………」
うぅ、お願いですから、そんなに見つめないで。
うーん、うーーん――あ、そうだ!
天野さんの熱視線を受けながら考えていると、一つの考えが浮かんできた。
「あ、あの。ちょっとだけ離してくれますか」
俺の制服の袖を掴んでいた天野さんに手を離してもらうよう声を掛けると、俺はブレザーを脱いで天野さんに差し出す。
「?」
「あの、これ。腰に巻いてみたらどうかなって思って……その、逆に動きにくいかもですけど……」
それでも、見えてしまうよりは良いだろうと考えた結果だ。それに、運動するなら上着は脱いだ方が動きやすいし、丁度良いとも思ったからだ。
「……汚れるかも」
「それなら気にしませんよ。ここは体育館ですし、そんなには汚れないでしょうし。もし汚れたとしても、パパッと掃えば大丈夫ですよ」
「……ありがとう」
ブレザーを差し出した俺に天野さんは軽く頭を下げると、受け取ったブレザーを腰に巻こうとして、手が止まった。どう巻けばいいのか悩んでいる様子だ。
「はぴあちゃん、巻いてあげる。貸してみて」
悩んでいる天野さんに、葵さんが手を差し延べる。その様子は仲の良い姉妹みたいだ。
「これでよし! はぴあちゃん、きつくない?」
「ん、大丈夫」
腰にブレザーを巻いて、ちょっとした防壁を身に付けた天野さんが位置につく。葵さんも天野さんの右隣りに位置づく。俺は二人の後ろに位置をとった。上から見ると逆三角形の形に見えるだろう。
「ふむ、準備はできたようじゃな。では、始めるとするかの」
バレー部キャプテンの声を合図に、3対3のバレーボール対決の幕が上がった。
葵さんの手を見る。その手には、「色々と勉強になった。礼を言うぞ。ささ、これを持っていくがよい」とバレー部キャプテンから渡された封筒が握られていた。
俺は、そんな葵さんに若干の尊敬を込めて、数分前の感想を伝える事にした。
「葵さんって、運動得意なんですね。俺なんて、ほとんど見てるだけでした」
「そ、そうかな? そんな事ないと思うけど……。えへへ、なんか照れちゃうよ」
葵さんの頬っぺたがさくらんぼみたいに紅くなる。
葵さんは謙遜しているが、実際、誰が観ても葵さんは大活躍だったと言うだろう。
素早くボールの落下点に回り込む反応の良さ。腕を上手く使って勢いを吸収し、味方に繋げるボールタッチ。的確に相手の隙を衝いたスパイク。どれをとっても相手のバレー部員と同等か、それ以上だったように思う。
運動が苦手そうな天野さんも、小さい身体ながらに一生懸命頑張っていた。
それに比べて俺なんか、飛んできたボールに咄嗟に足が出て審判をしていたバレー部員に注意を受けたり、上手くトスを上げられなかったりで全然役に立てなかった。唯一俺ができた事と言えば、ボールの下を拳で思いっ切り打ち上げて、空気抵抗を利用してボールを揺らして落とすという天井サーブくらいだった。
まぁ、サッカー以外のスポーツなんて触れた程度しかした事ないからな。仕方ないと言えば仕方ないはずだ、うん。……でも、葵さんも天野さんも、俺と似たようなものなんだよな。そう考えると、やっぱり葵さんは運動神経が良いのだと思う。俺が悪いだけなのかもしれないけど……軽く凹む。
「あ、次。次はどこかなー?」
照れ隠しのつもりなのだろう。葵さんはワザとらしく言うと、封筒の封を切って、入っていたメモを取り出した。
☆☆☆
第3体育館のステージ裏。同じ体育館を使っている他の部活――新体操部やチアリーディング部――に配慮して幕が下ろされている場所で、演劇部が演技の練習していた。その他に、舞台裏で筋トレや発声練習をしている人もいる。体験入部に来ている一年生達は皆小さな台本――と言っても、薄い数ページ程度のもの――を手に持って、集まっていた。なにやら担当する役を決めているみたいだ。
「楽しかったねー」
「だねー」
その一年生達の中から、いくつかのグループが台本を手にステージを出て行った。もう既に演劇部の体験入部を終えて帰るところらしい。渡された台本は記念に貰えるようだ。
「はぁい、来てくれてありがとうぉだぞー。これ君達の分だよぉ。体験が終わったら、それぇ、今日の思い出として家に持って帰って、大事にしてくれると嬉しいなぁ」
演劇部のポッチャリした優しそうな男の人が、新しく来た俺達を見つけて台本を渡してくれる。
「あ、ありがとうございます。あの、私達お助け部の体験入部でここに来たんですけど、何をしたらいいでしょうか?」
「あぁ、君達かぁ。うん、御園さんから話は聞いてるよぉ。他の部を廻ってお願いを聞いているんだよね。とても彼女達――お助け部らしい体験入部だよねぇ。ううん、きっと彼女達にしか出来ないんじゃないかなぁ。とても素晴らしいとぼくは思うよぉ。話を聞いてすぐOKしちゃったぁ」
男の人は心からそう思っている笑顔で先輩達の事を話してくれた。
他の部でも思ったけど、先輩達はいろんな人達に慕われているみたいだ。さっきのバレー部でも、「あやつらには世話になったからのぅ。これくらいの事ならおやすい御用じゃて。それに、まだまだ未熟な我らには多様な経験が必要故、これも精進よて」とキャプテンの人が言っていた。
もしかしたら先輩達は、お助け部として沢山の人達の為に学園中を奔走していたのかもしれない。自分の事で精一杯で、誰かにして貰うばかりの俺には、想像する事も出来ないくらいに……。
「――って、ごめんごめん、話が逸れちゃったねぇ。君達もぉ、他の体験入部に来た子達と同じように、その台本に書いてある役を各々決めてから、決めた自分の役になりきって台詞を喋ってもらう。それだけだよぉ」
「わぁ、なんかおもしろそう! さっそく役を決めようよっ」
葵さんが台本を開いて、天野さんに「はぴあちゃんは何やりたい?」と尋ねる。俺も台本を開いてどんな役があるのかチェックする。
赤ずきん・お婆さん・オオカミ――ふむ。どうやら『赤ずきん』のお話らしい。童話は絵本でしか読んだ事がないから、こうして文字だけで見るとちょっと新鮮な気持ちになる。
「ロッミ~~オッ!」
「ジュリエェ~~ット!」
「もう離さない!」そんなイメージが浮かんでくるような声がしたので台本から顔を上げると、男同士で――あくまで男同士で、まるで、愛し合う二人がするような熱い抱擁を交わしている光景が目に入った。
……どうやら、台本にはいくつか種類があるらしい。あれは――まぁ聞いただけで分かるな。
「凄いねー、あの二人。迫真の演技だよ」
「うんうん。是非是非、演劇部に欲しいぞぉ」
葵さんとポッチャリした優しそうな男の人が、抱き合っている二人を見て感心の声を上げた。
いや……まぁ……確かに迫力はあるよね。うん、凄く。
「………」
ん? 何だ。天野さんが葵さんに向かって両手をいっぱいに広げ出した。葵さんも不思議そうに、そんな天野さんを見つめている。
「……あっお~い……!」
両手を広げた天野さんが、おそらく――今までよりも僅かに声量が上がったような気がする――大きな声で、葵さんの名前を呼んだ。
……えっと、天野さん?
天野さんのあまりにも突拍子の無い行動に可愛さを覚えつつも、俺は首を傾げてしまう。多分あそこで抱き合っている二人の真似なんだろうけど……でも、なんていうか、そんな無表情でしなくても……。
「…………は、はっぴ~あちゃ~ん!」
数秒の間を置いて、俺と同じようにきょとんとしていた葵さんが、日本に旅行に来た外国の人のようなイントネーションで天野さんの名前を叫びながら、両手をいっぱいに広げて自分を迎えてくれる愛しい人? に抱きついた。
「――この時、二人の愛は永遠のものになったのだった……。うぅ~、泣けるぞぉ~」
抱き合う二人を見て、なんか勝手にナレーションを入れて泣き始めた観客が一人、俺の目の前にいた。多分、これも役になりきってるんだよな、きっと。ナレーションと観客の一人二役とは、さすがは演劇部といったところか。
……さて、俺はどうしようか。とりあえず台本を見て適当に目についた台詞でいいか。
そう思って、俺は手にある台本に目を下とす。オオカミと書かれた文が目に映った。
俺は普段小説を読むような軽やかさで、そのオオカミの台詞を口ずさむ。
「――美味しそうだねぇ。食べちゃうぞ~~! がぉ……ぅ………………っ!」
言ってから気付いた。俺は今何を言ったんだ、と。
「………」
ゆっくりと、ゆぅーーっくぅーーーーりと、台本を見ていた顔を上げる。
「「「………」」」
葵さんも、天野さんも、ポッチャリした演劇部の男の人も、皆がこちらを見ていた。
「~~っ!」
穴があったら入りたい気分だと思った。いや、むしろ逆に、今すぐミサイルになって宇宙の彼方まで飛んで行きたい。それでそのまま宇宙に輝く一粒の星になりたい。さらにできれば赤い彗星と呼ばれてみたいぃぃぃーー!
恥ずかしさが衝動となって、俺は駈け出した。そして――
シャーーッ。
ステージの赤いカーテンを引っ張り出して、姿を隠すべく、くるくるとカーテンに包まった。
「ふわぁ~ん」
カーテンに包まった姿で、俺は男らしくない情けない声を上げた。
「う、ぇぐ……」
「き、気にしないで進くん。あ、あれは……そう、演技だったんだよね……? だ、だったら気にする事ないよ。みんな分かってるから、ね。ほら、ど、どんまい!」
葵さんが、恥ずかしさのあまり泣き出してしまった俺を懸命に励ましてくれる。
「う、うぅ~……」
恥ずかしさと情けなさが混ざり合い、それらはより深い羞恥となって、体育館を飛び出して廊下の階段で体育座りになったまま顔を上げる事が出来ない俺を支配する。
「……どんまい」
天野さんの小さな手が、そっと俺の頭を撫でた。
うぅ~、天野さん……それ、追い打ちです……。
まだしばらく、俺は恥ずかしさを忘れられそうになかった。
☆☆☆
なんとか泣き止んだ俺は、半ば自棄になって次のミッション、司書部の『図書室で本の整理』、科学部の『化学実験室でカエル(体験入部で使う解剖実験の)の管理と、準備室の掃除』の二つをクリアしたところで、ようやく落ち着きを取り戻した。
このお話の後、家庭部へと続きます。
にしても、7つ目でやっとお助け部らしいミッションが出来た気が……まぁ、あまり深く気にしないでくださいw
一緒にアップしたTVゲーム愛好会編もよろしくです(^O^)/
エピローグも忘れずに読んでくれたら嬉しい。