体験入部2つ目 TVゲーム愛好会
これが噂の? 書くのに1ヵ月以上かかってしまった、体験入部2つ目 TVゲーム愛好会でのお話です。
話数にすると2.2くらい?
えと、ページ制限と「まさかこんなに長くなるとは……」、と僕の予想外の真面目さを見つけてしまった為本編からぬいたものになります。
初期に書いた為、同じ言葉が続いたりして、うまく動きがイメージできないかもですが、そこは許してください。
あ、ちなみに出てくるゲームは僕が小さい頃にハマったゲームだったりします。
何か分かる人いるかな?
ヒント・ハードはN64が2作とGCで1作、後GBAでもあったかな?(GBAはやってないから忘れたw) そういえばDSでも出てた気も……(~o~)
「今からき~みたちには、ぼ~くたちとこのゲームで対戦してもらう」
TVゲーム愛好会のメンバーの一人、ガッシリというよりよりズッシリとした体の人が、ゲーム機が接続されているTVを指さして、部屋に入ってきた俺達に言った。
「これは……!」
「きししっ、その顔、このゲームを知っているみたいだねぇ」
電源が入っているTVには、俺が小学校の頃に夢中になった、たくさんある様々なパーツの中から、基本となるボディ、メインウェポンのガン、サブウェポンのボムとポット、機動力となるレッグ、の5種類を組み合わせて自分だけのロボットを作って戦う、アクションゲームの画面が映されていた。懐かしい~。
「今ぼ~くたちはこのゲームにハマっていてね。でもぼ~くたちだけだとお互いの癖とかが判ってきてちょっと退屈してきてね。だから他の人とも戦ってみたかったとこだったんだよ」
「そしたら丁度、あの千藤 凛殿が拙者達にお願いに来たのでござる」
「お助け部の体験入部に来た一年生と遊んでやってくれってね。きししっ」
お互いの言葉を繋げるように話す、TVゲーム愛好会の人達。
さすがにTVゲーム愛好会というだけあってうまくコンボを決めたな。この人達、できる……!
「勝負のルールは簡単、勝ち抜き戦でどうでござるかな?」
「勝ち抜き戦?」
「そう。例えば、き~みたちの内二人が負けても、残った一人がぼ~くたち全員に勝利すればいい、というわけだ。もしもき~みたちが勝ったなら、この封筒をあげるよ。まあ、ぼ~くたちはそう簡単に負けてあげるつもりはないけどね。ぷくっく」
TVゲーム愛好会の人達は揃って余裕の笑みを浮かべた。
……この自信、相当やり込んでるみたいだな。
「はぴあちゃん、TVゲームってしたことある?」
「……無い」
「う~ん、だよね~。実は私もなんだ~」
俺の後ろで葵さんと天野さんがそう話している。
まぁ、二人は女の子だしな。ゲームをしたことが無くても別におかしくはない。だがそうなるとやはりここは――
「……あの、俺が最初でいいですか?」
「え? うん、別に私は構わないけど……でも進くん、TVゲームってしたことあるの?」
「はい。これでもゲームは好きなんです」
「そうなんだー。進くんってそういうのあまりしなさそうだと思ってたよー」
「そうですか?」
「うん。だって進くん真面目そうなんだもん」
そうなのか、葵さんからはそんな風に見えてたんだ俺って……。ちょっと嬉しいかも。
「きししっ、きみが相手? なら、僕ちんからいかせてもらうよ」
長い髪で目を隠した男の人がゲームのコントローラーを持ってTVの前の椅子に座る。
「さ、これに座るといいでござるよ」
「え、あ、ありがとうございます」
爽やかなちょんまげの人が俺に椅子を出してくれる。ありがたく俺はその椅子を使わせてもらうことにした。床に置いてあるコントローラーを手に取る。
「説明書、読むかい?」
「いえ、このゲーム好きだったので、多分覚えていると思います」
「きししっ、いいねぇその自信。負けて言い訳しても僕ちん知らないよ?」
「はは、まぁ、頑張ります。あ、もうちょっと前に出てもいいですか? 目が悪いので」
椅子を少し前にずらして座り直す。
その間に相手が画面を操作し、タイトル画面から対戦モードに切り替わる。
俺と相手はお互いにパーツを組み合わせて自分のスタイルに合わせたロボットをカスタマイズする。
えーと……たしか……? ん、これでよし。
「準備ができたようだねぇ。それじゃ、始めようじゃないかっ」
「ファイトだよ、進くん!」
「はい。頑張ってみます」
お互いに準備を終えたところで、さっそくゲーム開始だ。
カウントダウンが始まり、数字が0になると共に、バトルフィールド中央のカプセルからお互いにカスタマイズしたロボットが射出される。俺は着地と同時にロボットを障害物の陰に移動させる。
陰に隠れたところで、夢中になっていたあの頃を思い出しながら、一通りボタンを押してやり方を確認してみる。くぅ~、懐かしいなぁこの感じ……!
「きしっ、来ないならこっちから行くよっ」
「……!」
相手のロボットがこちらに近づいてくる。っ速いな、スピードタイプか。
近づいてきた相手がガンを撃ってくる。すぐさま空中ダッシュで距離を置く。
「ステルスダッシュ……! それはダッシュしている間、相手のガンを無効化できるからねぇ。君、そのボディの特性解ってるじゃないか。きししっ」
まぁ、これはよく使っていたからな。理由は色が青色だからってだけだったけど。
「なら、これでどうだい?」
と、今度はポットとボムを撃ってきた。
瞬間、俺はステルスダッシュで相手との距離を一気に縮め、相手の正面に躍り出た。
ボムを使って動きの止まった相手のロボットに、至近距離でのガンをおみまいする。
「きしっ……!」
ガンの直撃を食らった相手はその場にダウンした。その間に俺は再び相手から距離を置く。相手の撃ったポットとボムが何も無いところで爆発した。
よし、うまくいった。
俺の選んだガンは、威力は大きいが射程が短いタイプだ。だから相手にいかにして近づけるかがポイントになる。どのゲームでも、大抵スピードタイプは一度動きを止めてから再びスピードをだすのに少しの時間が必要だからな。たしか、このゲームもそうだったはずだし、結構覚えているものだな。
「な、中々やるじゃないかっ。でも、まだ勝負は始まったばかり……ここからは本気でいかせてもらうよ。きっしししっ」
立ち上がった相手は、障害物の間を速い足を活かしてちょこまかと駆けてくる。
俺は壁を利用して相手との距離を整えながら、一度に四つまで出せるポットを四つ、一つずつバラバラの方向にバラ撒きながら走る。
ホーミング機能が付いたポットの一つが相手に向かっていく。が、相手はそのスピードで難なく避わす。避わされたポットは意味も無く爆発した。
そこへすかさずボムを相手の予測移動ポイントへ向けて放つ。
「きししっ、僕ちんの足の前ではそんなもの……!」
それも避わした相手が、足を止めた俺の後ろに回り込む。
さっき爆発したポットの代わりを放つ。それをジャンプで避けた相手は、そのまま空中ダッシュで俺の横に並び、ガンを発射。しかし、相手のガンは俺を捉えなかった。
ガンを撃つ為に相手の空中ダッシュが途切れた一瞬、その瞬間を見計らって俺は指を動かしていた。
相手が俺に並んだと同時に短いジャンプ、すぐさま空中ダッシュに移行させる。
ステルスダッシュで相手のガンをすり透り抜け、トライアングルの軌跡を描きながら後ろに回り込んだ。
「き……!」
察知した相手は空中ダッシュで逃げようとするが、間に合わない。
俺は空中で無防備になった相手に、止めのガンを叩き込んだ。
「き、きしーーっ! そ、そんな……この僕ちんが、負け……」
相手は信じられないといった風に、勝敗のついたゲーム画面を見つめている。
「ほぅ、カゲタが敗れるとは……ぷくっ、おもしろい」
「カゲタ殿、しっかりするでござる」
長い髪を垂らしてすっかり落ち込んでしまった男の人を、ちょんまげの人が支えて立たせる。そのまま空いている場所に静かに座らせる。
うっ……そんなに落ち込まれると、胸が痛い。
「……次は、拙者がお相手するでござるよ」
気まずくなった部屋の中で、ちょんまげの人が戦で友を失った侍のような、静かな闘気を纏って、床に敷いてあった座布団に正座で座る。
真剣な表情でパーツを選んでいくちょんまげの人。俺の方はこのままで、相手を待つ。
相手の準備が終わり、対戦開始のカウントダウンが始まる。
「カゲタの仇、とらせてもらうでござるっ!」
カプセルから二つのロボットが射出されたと同時にちょんまげの人が叫んだ。
「………」
なんか、やりづらいな……。
でも、戦場で散って逝った友を想い闘うその心意気。その気持ちを踏み躙らない為にも、俺も全力で迎え撃つ……!
「……拙者の負け……完敗でござる……」
「早っ!」
つい口から飛び出した言葉を、もう遅いと知りつつ口を押さえて呑み込む。
えぇっ~、いくらなんでも早過ぎるでしょ。だってこれ、まだ始まってから1分も経ってないよね……? いいの、こんな……えぇっ~……。
予想外の弱さに言葉が見つからず、コントローラーを握っている手から力が抜けた。
「すまぬカゲタ。お主の無念、晴らす事が出来なかった……だが、拙者は力の限り、己の信念を貫いたつもりでござる。どうか許してくれ、カゲタ……げふっ……」
ちょんまげの人は、先程座らせた髪の長い男の人の隣に腰掛け、静かに語り終えると、天井を見上げてその場に崩れ落ちた。
「……ゴザロウ、よくやった。後はこのぼ~くに任せて、お前達は休んでいるといい」
ズッシリとした体の人が、敗れた二人の肩に手を置いて、優しく言葉をかけた。
「ぐすっ……良いお話だね、はぴあちゃん」
「……ん……」
葵さん達を見ると、二人は涙目だった。
えぇっ、泣くところなんですか、今の……?
なんだろうな。なんかもう、誰かに替わってほしい。
「中々やるようだね。しかし、カゲタとゴザロウの尊い犠牲のおかげで、き~みのプレイスタイルは把握させてもらった。すなわち、もうき~みに勝目は無くなったという訳だよ。ぷくっく」
俺の前に立ったズッシリとした体の人が挑発的な口調で言った。
「………」
ふふ。なんだかそんな風に言われると、無性に負けたくなくなるじゃないかっ。
俺のコントローラーを握る手に力が込もる。
「ぷくっ、いい眼だ……それじゃ、始めるよ」
俺の方は変わらずそのままで、相手の準備が終わるのを待つ。準備が終わった相手が対戦開始のボタンを押す。そしてカウントダウンの合図が終わり、カプセルから飛び出たロボットがバトルフィールドに着地する。
着地した瞬間、俺は早々に仕掛けた。
ステルスダッシュで一気に相手に近づき、先制のガンを撃つ。
「いきなり仕掛けてきたね。でも……!」
相手のロボットが紅く光り、体当たりを仕掛けてきた。
「っ!」
こちらのガンをものともしない相手のタックルを食らった俺のロボットは、勢いよく弾き飛ばされてダウンする。
「ぷくっく、やはりな」
「!」
「き~みのプレイスタイルは把握したと言っただろう。ステルスダッシュで相手に近づき、威力の高いマグナムガンでアタック。さっきのバトルを見ていると、あまりボムとポットを使っていなかったからね。つまり、き~みは射程の短いガンを当てる為に、必ずぼ~くに近づいてくるって訳だよ。それに、どうやらき~みはタックルのことを忘れていたようだったからね。思い出させてあげたんだよ。ぷくっく」
くっ……たしかにそんなのもあったな。すっかり忘れていた。
タックルはこのゲームにおける切り札ともいうべき攻撃だ。耐久力の低いボディなら一度タックルを受けただけでも、HPの三分の一は楽に削られる。その上、機体が紅く光っている間中は一時的に無敵になり、どんな攻撃をも無効化する事が出来る。
しかし、当然デメリットもある。タックルを使った後は隙が大きく、相手に中らなければ僅かな時間操作を受け付けなくなる。その為、当時の俺はあまり使っていなかった記憶がある。
「………」
ダウンしていた俺のロボットがヨロリと起き上がって、障害物の上に立ってこちらを見下ろしている相手のロボットを睨みつけた。
数秒、両者は対峙したまま睨み合う。
「ぷくっく、どうしたんだい? もしかして、怖気づいたのかな?」
「……っ」
その言葉を合図に俺はボムを放つ。
相手は障害物の上から飛び降り、そのまま身を隠す。障害物に遮られて爆風は相手には届かない。
俺は走る。走りながら、こんな時はどうしていたかと、記憶を探って……駄目だ、思い出せない。
ならば、と考える。
今の俺の装備でできる事は――ボムは一発ずつで続けては撃てない。ポットは一度に四個まで出せるけど、ガンは連射が利かない。ステルスダッシュは着地するまでに三回。タックルは……今の俺じゃうまく使えるか不安があるな。
となると、やはりガンを決め手にするしかない訳だが。さっきみたいに単純に突っ込むだけじゃ通用しないだろうし。まずは相手の動きを止めて、そのうえでタックルをどうするかを考えないといけない。
「やって……みるか」
このまま考えていても、制限時間がきてしまったら、判定で残ったHPが多い方の勝ちになる。相手はまだ無傷、とにかく攻撃あるのみだ。
ポットを二つ、右と左に逆方向へ放つ。少し間を空けてポットが相手に近づいた頃を狙い、ボムを相手の僅か左に撃つ。
相手は右に短くジャンプして避わす。そこに向かって走り、残りのポットを正面に放つ。
相手はもう一度短くジャンプし、ポットを一つ出して、空中ダッシュで斜め後ろへ下がった。
相手の出したポットはすぐに爆発するタイプらしく、その爆風で前が遮られる。俺は仕方なく左へ走る方向を変えてボムを撃つ。そしてすぐにジャンプして、ステルスダッシュで相手に近づく。さっき俺が放ったポットが全て爆発した。
「あまいっ!」
近づいた俺に対して、着地ばかりの相手はすぐさまジャンプ、ダッシュで向かってきた。
「っ」
すれ違いざまにガンを撃たれる。
俺はとっさに三回目のステルスダッシュを別方向へ変え、相手から距離をとった。俺を透り抜けた相手のガンからは鋭い電流が迸っていた。
「ふん、よく避わしたね」
ズッシリとした体の人が鼻を鳴らして言った。
はぁっ、危なかった……。あれはたしか、スタンガンだったか? 掠っただけで動きを封じられる嫌な武器だったはず。なるほど、タックルと組み合わせれば、食らったが最後起き上がることはできないだろう、凶悪なコンボだ。
……厳しいな……。どうやら本当に、前の二人との対戦でこちらの動きを研究されてしまったみたいだ。
下唇を噛み締める。
「もう降参かい? 動きが止まったようだけど?」
もう勝ち目はない、諦めろ。と言っているかのように相手が言葉を投げかけてきた。
「………」
俺は何も答えず、がむしゃらに自分のロボットを動かした。
フィールドをステルスダッシュで飛び回る。
「ぷくっ、ヤケクソだね」
鼻で笑って、相手が次々とポット――一つ爆発してはまた放つ――を繰り出してきた。
俺は相手のポットに中たらないよう注意しながら、時折ボムを撃つ。相手は少し横に移動するだけでそれを避した。
これを何度か繰り返すと、今度はポットを一つ織り交ぜてボムを撃つ。
「無駄だよ」
相手が壁と障害物で囲まれた場所に移動する。
……ここだ!
この瞬間、俺は勝負をかけた。
ポットを二つ右方向へ放つと同時にステルスダッシュを一回。相手との距離を少し縮めてボムを撃つ。撃ったらすぐにL字にステルスダッシュ、着地したところで四個目のポットを放つ。最初にボムと一緒に放った一つ目のポットが相手に迫る。
相手は後ろに軽くジャンプし、迫ってきたポットを右にダッシュして避わす。ポットが爆発する。
そこへ二つ同時に放ったポットが相手の進路を塞ぐように回り込んでいた。
「むっ」
相手がに向かってダッシュで切り返した。相手に届かずに二つの爆風がフィールドに空しく漂う。
フィールド中央の着地する前の相手に、ステルスダッシュで迫る。相手がガンを構え、撃つ。だけど、それは俺には中らない。相手のガンは俺を透り抜ける。
着地した相手は間を置かずに振り返り、後ろに回り込んだ俺に素早くタックルの体勢をとろうとする。――でも、遅かった。
そこへ、俺が放った最後の四個目のポットが、相手の左斜め後ろ、障害物の陰から姿を現した。
ポットがターゲット目掛けて突進。吹き荒ぶ爆風が相手に襲い掛った。
「ぬなぁっ!」
相手が吹き飛ぶ。
その先、爆風で吹き飛ばされた相手が向かう先には、紅い光りを纏った青色の機体。
「しまっ」
「お返し、です」
紅い閃光が向かってくる相手を二度貫いた。
「ぬぷっぁぁ!」
弾き飛ばされた相手が壁に激突し、ダウンする。
よしっ! 心の中でガッツポーズ。
ふぅ……なんとかうまくいったな。作戦っていう程のものじゃないけど、大成功だ。
まだ起き上がらない相手に向かって俺は思う。ヤケクソなんかじゃないよ、と。
別に俺は何も考えずにコントローラーを動かしていたわけじゃない。フィールドをあちこち落ち着きなく動き回る事で、相手を油断させると同時に混乱させる。そして、ポットやボムを使って相手を壁際に誘導し、相手の行き場を減らし逃げ道を限定させる事。これが俺の狙いだった。
さっき「降参かい?」と聞かれた時、昔このゲームを始めてした時の事が頭に浮かんできた。
よく一緒に遊んでいたアイツに、よくこれをやられて悔しがっていた思い出がある。その時の自分の姿を思い浮かべると、自然と頬が緩んできた。
「ぷ、ぅ……ふん、たしかに今のは中々だったね。でもまだぼ~くの方がき~みのHPを上回っている。うまくいったからって、笑っている余裕があるのかな? ぷくっく」
確かにな。相手のロボットは防御力が高いのか、まだ四分の三くらいはHPが残っている。
起き上がった相手がボムとポットを連発しながらこちらに向かってきた。
俺は障害物を盾にして相手の攻撃を避わし、そのまま身を隠したままポットを左右に一つずつ放つ。
相手が直線的なダッシュで俺が隠れている障害物の上を飛び越そうとする。
俺はポットを置いて後ろにジャンプし、ボムを今隠れていた場所に撃つ。
ボムとポット、二つの爆風に進路を遮られた相手は後ろにIターン。その隙に俺はボムを相手のさらに後ろに向かって撃つ。
後ろに下がった相手に左右からポットが迫る。
「ちっ」
小さく舌打ちした相手は、もう一つダッシュで後退する。
「……焦り過ぎですよ」
下がった相手に空中で、さっき撃ったボムがドンピシャのタイミングで衝突した。
「あ……」
落下する相手の下にステルスダッシュで潜り込み、ガンを撃つ。僅かに浮き上がった間に一歩移動し、落ちてくる相手に今度はタックル。
「あぁ……」
画面で倒れ込むロボットと同調するように、相手が力無い声を漏らした。
これだけやってやっと、という気持ちがあるが、ともかく、この時点で相手のHPは俺を下回った。画面上隅に表示されている時間は、残り40秒を切っている。
となれば、後は無理に攻める必要もない。タイムアップまでひたすら逃げ回る事にしよう。
相手と真逆の位置、最も相手から離れたポイントに移動して、相手の出方を待つ。だけど――
…………あれ、仕掛けてこない?
相手は起き上がったまま、その場から動こうとしない。
どうしたんだ? もう30秒も時間は残っていない。勝ちにくるのならもう攻めてくるしかないだろうに……?
画面から目を逸らして横を見る。
「……!」
横を見たことで、何故相手が動かないのか? その疑問が消えた。だが、それと同時にまた、新たな疑問も生まれることになった。
相手は目を閉じていた。
作戦でも立てているのか、気の知れた人でも声をかける事を躊躇われるほどの空気が、彼から醸し出されていた。
俺は乾いてきた喉を、唾を呑んで潤した。
駄目だ、まだ気は抜けない……!
視線を画面に戻す。タイムアップまで、残り18秒を切っていた。
緊迫した空気が瞬きを許さない。一秒一秒が長く感じる。
まだか? いつ動く? 何をしてくる? 早く、早くしてくれ……!
コントローラーを持つ手が汗ばむ。
「……まだだ……」
「………っ!」
横から聞こえた声に、体が震える。
「まだ勝負は終わっちゃいない!」
相手のロボットがダッシュで突進――いや、猛進してきた。
「くっ……」
その迫力に圧されて、俺はステルスダッシュで右に逃げる。
それを読んでいたかのように、相手が進路上にボムを撃ってきた。避わす為に方向転換する。
後ろに切り返してボムを避わした俺に、近づいてきた相手がポットを放ってきた。
爆風の波を、左斜め前方にステルスダッシュで避わす。
着地してすぐ、ここからステルスダッシュで離れようとジャンプするが、そこにも相手がポットを放ってきて進路を塞がれる。相手がすぐ側まで迫ってくる。
(だったら……!)
ジャンプしたまま空中で漂っていた俺は、着地せずに、迫ってきた相手にステルスダッシュで向かっていく。
すれ違いざまにガンを撃とうと、コントローラーのボタンを押す。
だが、それも読まれていたのか、俺のガンが撃たれる前に、相手がボムを撃っていた。
「な!」
相手の撃ったボムが、相手ごと巻き込んで、俺のロボットを上へ向かって吹き飛ばした。
まさか、自分ごと……くっ……。
コントローラーを操作するが、気絶しているかの様に俺のロボットはただゆっくりと落下してくるだけだった。
一緒に爆発を食らったはずなのに、相手はダメージは受けたものの、僅かに仰け反っただけで、その場に立っていた。
「もらったぁ!」
相手のロボットが紅く光りだす。
駄目だ、やられる……!
落ちてくる俺のロボットが相手に突き飛ばされる映像が頭に浮かんだ。
そう思った瞬間、体が硬直し、しかし目だけは吸い込まれる様に画面を映していた。視界には俺のロボットがフィールドに横たわった姿と、それに迫る紅く光った相手のロボットの姿。それと、画面上隅に並ぶ0の文字が――
相手のタックルが決まるか決まらないか、寸前のところで、相手がその動きを止めた。
――タイムアップ。
「ぬあぁぁっ!」
相手が勢いよく椅子から飛び上がり、コントローラーを放り出して叫んだ。
放り出されたコントローラーが床に落ちる。
勝っ……た?
画面では俺のロボットが勝利ポーズを決めていた。
「はは……やったぁ……ふぁ」
体から入っていた力が抜ける。
なんとか、ギリギリだけど……俺の勝ちだ。ふふ、結構忘れてないものだな、昔の事って……まぁ、昔っていっても、4,5年前くらいだけど。
俺も持っているコントローラーを床に置いて、椅子から立ち上がる。
「二人共いいバトルでござった。拙者、見ていて胸が熱くなってきたでござるよ」
「きししっ、僕ちんなんか体が震えて止まらないよ」
「それは武者震いというやつでござるな。二人の戦いを見て、カゲタの中の熱き心に火が点いたのでござるよ」
「きしっ」
いつの間にか立ち直っていたちょんまげの人と長い髪で目を隠した男の人が、少し離れた後ろに立っていた。
「……ズッシー……負けて悔しい気持ちは察するが、約束は約束でござるよ」
「……ああ、分かっているとも」
ズッシリとした人が、沢山のソフトや攻略本で乱雑している机の上から、一冊の攻略本を手に取り、その本に挟んであった1枚の封筒を抜き取った。
「受け取るといい。約束の勝者の証だ」
まるで、長い間争ってきたライバルと決着を付けるべく、力の限り戦った末に敗れ、ついにその力を認めた戦士の様に、封筒を渡してくれた。
「……ありがとうございます」
封筒を俺に渡したズッシリとした人は、そのまま封筒を渡した手で、握手を求めてきた。
「「………!」」
俺と相手は互いの健闘を言葉ではなく心で称えあって、ガッシリと握手を交わす。
「くうぅっ! これぞ男同士の友情! 拙者、感動でござるぅ~!」
ちょんまげの人は拳を握って熱い涙を流していた。
「僕ちんとも……してくれる、かな?」
長い髪で目を隠した男の人が少し照れながら、すっ、と控えめに手を差し出してきた。
「はい」
差し出された手に手を差し出して、握って応える。
「……ぅぅ……私のハンカチ……すん……もう、涙でビショビショになっちゃったよぉ……ぐすん」
「……ぐすっ……ん……」
葵さんと天野さんの二人は、目から涙を零していた……涙もろいんだな、二人共。なんで泣いてるのかは……まぁ、ちょっとだけなら解らなくもない……かも。
「あの……これ……」
俺は二人に近づいて、泣きやんでくれるかな、と思い、封筒を差し出した。
「えっと……つ、次に行きましょうか」
「あ……うん!」
「………」
二人の顔を見ずにちょっと下の方を向いて言った俺に、葵さんが封筒を受け取り、天野さんは頷いてくれた。
「もう行くのでござるか? 最後に拙者ともう一勝負どうでござろうか?」
「せっかくですけど、今は……また今度機会があったら、その時にでも、また勝負してくれますか?」
「機会があったらなどと言わず、いつでも来るといい。いや、いっそここに入部すればいい。そうすれば毎日好きな時に好きなだけ対戦できるぞ?」
「あ、それいいかもね。そしたら、今度は僕ちんの得意なゲームを教えてあげるよ」
「はは……」
それも楽しいかもしれないな。と思いつつ、俺がゲームをしている間退屈だっただろう二人をこれ以上待たせるのも悪いからな。今はやっぱり、お助け部の体験入部を楽しむ事に専念しよう。
「あの、それじゃ、楽しかったです。また、よかったら対戦してください」
「もちろんでござる。拙者達、お主と再び相まみえるのを心待ちにしているでござるよ」
そう言って見送ってくれたTVゲーム愛好会の人達にお辞儀をして、俺は葵さんと天野さんと一緒にTVゲーム愛好会の部室を出た。
自分で言うのもなんですが、キャラが好きですw